ブラウン惑星人の日々 October 2015
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同じ米国生まれでも違う日本人とは
秋も深まった今日この頃ですが、日本は先月のシルバーウィーク5連休に続いてまた3連休があったようですね。私が帰国する来月後半も3連休がありますね。そうそう、ついでに現在の出張予定を書いておきます。
11月15日(日)羽田着
16-17日(月-火)極地研で南極隕石シンポジウム
18-20日(水-金)宇宙研ではやぶさシンポジウム
21日(土)各務原に帰省
22日(日)午後に名市大で講演会
23日(月)午後に宝塚で講演会
24‐26日(火-木)阪大で実験
27日(金)極地研に移動
28日(土)羽田発
今回の帰国では、一般講演は2つと少ないのですが、名市大では過去に2度も講演した同じ地球子ども村の小学生たちに3度目になるので、新しい内容で基本を教えてあげないといけないので、今回は、大学時代から非常に関心を持ってきた、天文学の歴史と基礎から始めて、はやぶさ2計画の現状と未来に触れたいと思っています。学生時代、科学史・科学哲学に憧れていて、今でもいずれはそういう分野の研究発表をしたいと考えています。ID理論もその1つです。今回は、私の前に、三浦均君も講演されます。祝日に行う宝塚市での講演には、教育関係とかのVIPが参加されるという話になっています。
今日は実は、私の誕生日で、何と55歳になってしまいました。四捨五入したら、昔は定年退職していた年齢ですね:)まだまだ、あと15年は前線で頑張れると思っていますが、若い人たちから早く引っ込めと言われるようになるかもしれませんね。私の特技である、固体惑星物質分光において私の右に出る若者たちが多く日本で出てこれば、私も安心して引退できるというものですから、それはうれしいことですが。ただ、やはり経験は若い時にはなかなか積めないので、年配の先輩の存在はいつも貴重なはずです。
上画像:Yamato IIで食べた寿司の一例
私自身よりも家族が誕生日何かしようよということで、先週、長女が帰省した時に、この前も行ったばかりの日本料理店、Yamato IIに家族で行きました。前回は料理の写真を撮らなかったので、今回は最初の写真のように、カリフォルニア・ロールと、トロと鮭の握りを披露します。玄米でなくて白米なのは玉に瑕ですが、アボカドが入ってるのは健康的です。寿司やアペタイザーなどで食べ放題で、お昼は一人当たりチップも入れると23ドルくらいですね。今回はブラウン大に通う長女がすべて払ってくれました。親孝行の娘です:)
上画像:Boston Commonを歩く私の家族
ボストンはもう紅葉がかなり広がり、Yamato IIから帰る途中も秋の心地よい気温を楽しむ家族ずれがPublic Gardenではあふれていましたし、その後で、下町へ買い物に行く途中のBoston Commonにも写真のように半分くらい紅葉した並木が見えて、色とりどりの背景になっていました。でも、よく見ればわかりますが、葉っぱの色が変わるのもまちまちだし、枯れてしまうものもあり、形も今一で、日本の真っ赤なモミジと比べれば、その美的レベルはまだまだです。
上画像:ボストン下町に出店したPrimark
この時は、娘たち、とくに次女がとても気に入ったPrimarkというデパートに家族で出かけたのです。Primarkというのは、ヨーロッパで有名な服の割引商店でアメリカで始めて本格的に店舗を出したのがここボストンらしいです。上の写真がその入り口と店内の風景です。この日は土曜日の午後ということもあり、店内どこも人だかりで、右の写真にあるように、一階のレジは長蛇の列ができていました。4階とか上の方に行くとそうでもなかったですが、トイレは小さいのか、そこも列ができていて、あきらめて帰宅するまで我慢しておきました。服は買いませんでしたが、RELABから廊下を挟んだトイレまで行くためのSlip-inできるちょっとした上履きのような靴を10ドルで買いました。
今回は、久しぶりにブラウン大にいる人のインタビューを再開しました。以前はLeahやDanといったCarleの大学院生、そして私の若いボスなどをご紹介しましたが、今回は、ブラウン大で働く日本人の青年です。しばらく前に、次女が来年ブラウン大も受けたいというので、Brown Bearingsというオリエンテーションプログラムに参加したことをご紹介しましたが、その人文科学系の特別講義の時に案内役をされていた若い男性が何と日本人で、日本語を話したら流暢な日本語で返されてきたので、名前を教えてもらって私の名刺も渡してありました。それで、このブログのためにインタビューして良いですかとメールしたら、先日私の実験室とオフィスに来てくださったのです。
上画像:私のオフィスに来られた高尾百百穂さん
上の写真にあるように、私のオフィスで微笑んでいるこの方は、高尾百百穂(ももほ)さんといい、34歳の日系アメリカ人です。ブラウン大のWebサイトを見たらMomoho Takaoとあるので、珍しい名前だなあと思っていたのですが、まあ山口百恵という名前もあるし、男性でそういう名前でも自然かもしれないと思いますね。百百穂さんは、以下のブラウン大の名簿で分かるように、Admission(入学)の担当部の副部長のような立場です。
http://directory.brown.edu/uuid/ede10e0b-29e9-939b-47f5-cfb6edc45b2a
なぜ日本人でブラウン大でそういう官僚的な定職についている人がいるんだろうかと私は自然に不思議に思いました。私のように科学者でポスドクとか研究員とかのようにソフトマネーで不定の職に就いている人はいると思いますが。やはり、生物学的には日本人でもアメリカ生まれのアメリカ人ですから違うのかもしれません。ご両親は、何と私が住むボストンにある有名なバークリー音楽学校への留学のために渡米され、そこで百百穂さんは生まれて、すぐにニューヨークに引っ越されて、その後で、ブラウン大に入学されて(彼女についてきたとか何とか、詳細はここでは秘密です:)、その後もここで就職され、既にブラウンで15年いることになるそうです。つまり、私たち家族がボストンへ引っ越してしまった頃に入学されたようです。すれ違いですね。
百百穂さんも、なかなか日本人の職員には会いませんね、ということで同じ体験をしていました。学生はきっと多くいると思いますが、必ずしも他のアジア人と見分けつきませんし、接点も少ないですし。やっぱり、ボストン・ニューヨークといった都会育ちで、ブラウン大のあるプロビデンスはなかなか田舎っぽく寂しくて肌に合わなかったようですが、長く住んでみると良さがわかってきたそうです。私は都会のボストンに引っ越してしまいましたが、次女もブラウン大に入れれば、また戻ってこようと思っていることをお話ししました。
私の娘たちもそうですが、百百穂さんのようにアメリカ生まれの日系人と、私のように成人してからアメリカに来た日本人とは、やはり英語力だけでなく、文化背景が違い、アメリカ人が誰でも小さいころから慣れ親しんでいるものや冗談などが共有できないことが多いです。これからは、百百穂さんにいろいろ尋ねてしまおうかなあとも思っている次第です。楽しく1時間ほど色々お話しした後、またいつかゆっくり昼食でも一緒にしましょうと言いつつ今回はお別れしました。まだ独身であられるようなので、そろそろ身を固める出会いがあるのかもしれないですね。
私は世界的に見ても、日本人はとっても優秀だと思います(私も含めて?:)。ただ、日本の教育制度や文化のためなのか、自分に自信を持つ心構えや、人に自分や自分の業績をアピールするプリゼン能力の訓練に欠けているのではと思います。きっとアメリカで生まれ育った日本人はそこが違うのではと感じる次第です。ただ、私の娘たちは、かなり日本的環境で育ててきました。百百穂さんはどうなのか、これから発見していくのが楽しみです。
ディスカバリー計画一次選定に際して
皆様、最近怠慢をしていて隔週にしかお便りできませんが、秋も深まった今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。ボストンあたりは10月1日から急に寒くなり、相変わらず上下は激しいものの、風があるときは相対的にもう日本の真冬のような格好をしないといけない寒さです。心配されたハリケーンも東海岸からはちょっと離れた大西洋沖を通過していて、学校や職場が閉鎖されずにがっかりの人もいるかと思うくらいです。週末に当たったタイミングも影響しました。
さて、NASAはディスカバリープログラムの28の応募の中から第一段階の選考で5つを選びましたね。以下の米国惑星協会のブログに詳しく説明してありますが、それら5つのミッション構想はこれから1年くらいかけてA段階の調査に進んで、もちろんそのための予算もつくのです。
http://www.planetary.org/...
ご存知の方も多くいると思いますが、ディスカバリープログラムというのはNASAがFaster, Cheaper, Betterをスローガンに掲げてNASAが1992年に当時の局長であったDan Goldenの指揮のもとに始まったものですね。Cheaper(より安い)といっても、今回はロケットや運用費用を除いた分でも5億ドル(600億円)以下というので、日本がロケットを入れて300億円とかで「はやぶさ2」を打ち上げているのを考えると、やはりアメリカは規模が大きいなあと思わされますね。まあでも人口が日本の2倍ですから、それで良いのかも知れませんね。
しかし、JAXAの「はやぶさ2」の対抗馬として出してきたようなNASAのOSIRIS-Rexはディスカバリープログラムではなく、最近冥王星をフライバイしたNew Horizonsと同様のニューフロンティアプログラムの1つで、やはりロケットを除いた予算が8億ドル(960億円)程度です。これだと、「はやぶさ2」の3倍以上になってしまいます。
https://en.wikipedia.org/...
まあ日本のようにJAXA職員も、大学の研究者も、企業の社員も酷使されて切り詰めて、「欲しがりません勝つまでは」の精神ではアメリカはやらないということを匂わせる予算で、大東亜戦争が思い起こされますが、今回は、我々日本人チーム員達は、おそらく酷使や特攻で死ぬ必要はないのは感謝ですね。私は更に、NASAから公募されたHayabusa 2 Participating Scientistに応募していて、そこから旅費や給料の支援を受けようと希望しているので、それに受かれば、状況はかなり好転します。競争は激しいので、それに落ちてもチーム員としての協力は続けると思いますが、自分や家族にどれだけの負担がかかるかと思うと、軽い気持ちではやれません。300億円を10年で割っても30億円で、その1 %だけを旅費として使ったとしても3千万円で、100人で割っても年間30万円あります。なぜその程度の旅費もJAXAは出せないのでしょうか???
最近、日本の将来ミッションとしては、月にピンポイント着陸をするSLIMと、フォボスかデイモスから試料を持ち帰るミッションが浮上していますが、今回の5つの中にはそのようなものは入りませんでしたが、以下のSpace Reviewのサイトによると、今回の28の応募の中には、火星の衛星に関するミッション提案が3つあったようです。
http://www.thespacereview.com/...
日本がやろうとしているフォボスかデイモスからの試料回収は、私の元ボスのCarle Pietersが以前提案してぎりぎりで落ちたAladdinというミッション提案がありました。
http://www.lpi.usra.edu/... - PDF
今回もCarleはPANDRAというミッション提案に名を連ねていたようですが、残念ながら落ちてしまいました。やっぱり、試料回収にこだわった方がよかったのではという気がしますが、米国ではそれは5億ドル以下ではできないのかもしれませんね。
http://www.hou.usra.edu/... - PDF
一方、PADMEというミッション提案には宇宙研の矢野さんをはじめとする、私には見覚えがあるような名前が見えます。隕石や惑星間塵などの物質科学と衝突とかの地球物理学の関連の専門家たちの集団かもしれません。以下のLPSCアブストラクトを見ると、PADMEには表面近くの元素組成を測定するための2つの独立した機器が搭載されるようです。それで物質が本当に同定できれば良いですが。
http://www.hou.usra.edu/... - PDF
また、このMERLINというミッション提案にも、ブラウン大出身者やRELABユーザーが入っていますね。より火星の研究者が多いように思います。
http://www.hou.usra.edu/... - PDF
どれも試料回収はしないので、安価かつ安全でありながらも、NASAの強みのリモセンやその場測定の実力を発揮するようなミッション提案だったのでしょう。反対に、JAXAはそのあたりがそれほど強いとは言えないので、試料回収にこだわるのは大正解だと思います。
さて、A段階まで進めた5つのミッション提案ですが、その3つは小惑星関連で、残りは金星です。それらは、Psyche、NEOCam、Lucyと呼ばれるミッションです。
Psycheは、その名の通りのM型小惑星16 Psycheに行って、原始惑星の金属中心核(コア)とも考えられるその天体から分化した惑星の内部の過程を直接探るスリルがあると言えます。確かにそうなんですが、もしそれがコアの生き残りでなかったらどうなるのだろう、という危惧もしてしまいます。
http://www.planetary.org/...
次のNEOCamは非常に単純なミッションで、NEO(近地球天体)つまり地球軌道に接近するような小惑星や彗星をWISEミッションのように2つの熱赤外バンドで測定して、それらの大きさや軌道を求めて、地球に衝突する可能性や有人またはロボットによる探検ミッションの可能性を探るというものです。素人にもわかりやすくて面白いとは言えますね。
http://neocam.ipac.caltech.edu/...
3つ目のLucyミッションは、太陽―木星系の2つの安定ラングランジュ点(L4とL5)にあるトロヤ群小惑星に行くものです。これが一番、太陽系生成論にとって有用な情報を与えてくれるミッションだろうと思います。
https://planetary.s3.amazonaws.com/.. - PDF
このミッションは非常に野心的で、2021年の10月に打ち上げて、2024年の12月に地球スイングバイをして、L4に行く途中2025年4月に主ベルトのC型小惑星1981EQ5にフライバイし、2027年8月から2028年10月にかけてL4トロヤ群の3つのC型やD型の小惑星と遭遇し、何と2031年1月に地球に戻ってきてまたスイングバイし、2032年3月にL5トロヤ群のP型の二重(バイナリ―)小惑星に遭遇するというものです。
これを知った時に、そこまでやれるならば、小さいD型のトロヤ群小惑星から試料を持って帰れないのか、と思ってしまいました。実際、日本の将来ミッション、特に、はやぶさ2後継機とも考えられるミッション構想にトロヤ群小惑星の探査と試料回収がありますが、ミッションが30年とか長くかかるということです。それはJAXAだからなのか、NASAならできるのか、などはわかりません。とにかく、いきなりは無理だろうということで、フォボス・デイモス試料回収計画が出たのではないかと憶測していますが、それが「はやぶさ3」になるのであれば、「はやぶさ4」でトロヤ群を目指してもらいたいものです。
結論を申し上げれば、私はLucyミッションが一番好きですね。悔しい気持ちもしますが、その場観測ではやはり不十分な部分が残る限り、やはり試料回収したものが最終的な組成情報を得ると思います。それにしても11年にわたる壮大なミッションを現実的な形でNASAに提案する科学者たちがいる米国はすごいところです。でも、日本もきっと将来負けていないですよ。おそらくきっと。。。