ブラウン惑星人の日々 February 2016
惑星探査に係る人々 - February 29, 2016. Latest
ボストンにおける二十年 - February 29, 2016
とうとう2月も終わりですね。この冬のボストンは異常な暖冬で、寒かった日はいくつかありましたが、雪が圧倒的に少なく、その代わりに雨が多いです。これからの 10 日予報も、氷点下に下がらず、雨が時折降る程度です。昨年は記録的大雪だったので、極端な対照を呈しています。
さて、既に2年生の後期を迎えた長女ですが、生物学の専攻(集中)とは言え、リベラルアートのメッカのブラウン大ですから、いろんな教科を取れて、今回は何と、私の若いボスであるRalphが教えている惑星リモセンの授業を取ったようです。先週、長女から電話があり、「今日の授業で隕石と小惑星のテーマが出てね、はやぶさミッションとか Tagish Lake 隕石の研究のことで、パパの名前が出たよ」と言っていました。
やっと娘も父親の仕事の内容がわかる歳になったかと思って、やや感慨極まりましたが、この機会に、Tagish Lake 隕石の試料が2000年初頭に落ち、試料が NASA ジョンソン宇宙センターの Mike Zolensky から送られてきて、それを測定してすぐに D 型小惑星との関連を思いつき、Science 誌に論文を出した経緯を説明しました。あの子がまだ 5 歳とかの時の話ですから、その子がもう 20 歳とは時間が経ったものです。それで、この前お話ししたブラウン大に勤続 20 年賞をもらったので、そのバッジを、はやぶさ2ブルゾンを膝にかけてバスで通勤している途中に写したのが次の写真です。
下画像:ブラウン大からもらった 20 年間勤続賞のバッジを、はやぶさ2ブルゾンを背景に写したもの。
そういえば、はやぶさ2の帰還も2020年、私のブラウン勤続も 20 年、長女も 20 歳で、今は私にとって 20 という数がキーのようですね。はやぶさと言えば、次の写真にあるように、前回読み始めたことをご報告した Asteroids IV の DeMeo による第一章の最後の付録に、いろんな課題とその解決案などを提示してあるのですが、長年にわたる S 型小惑星と普通コンドライトが両方とも豊富な物質でありながら反射スペクトルが一致しないという問題に関しての項では、「宇宙風化が原因であることが、はやぶさによる試料回収で決定的に解決した」とあります。
下画像:Asteroids IV の第一章の付録でいろんな課題を並べたページの S 型小惑星と普通コンドライトの問題の項で、「はやぶさの試料回収が決定的になって解決済み」とある。
いやあ時代も変わったものです。私が1988年に博士論文を書いたときには、私を含め宇宙風化否定派が大多数で、大問題で解決される見通しもなかったようなことが、見事に日本人の力が多大に貢献して解決したのですから。それも自分が将来小惑星の宇宙風化説を推進するようになるとは思いもしませんでした。その否定派から肯定派に移り始めたのが1991-1994年に NASA ジョンソン宇宙センターに行っていたころで、1995年にブラウン大学に戻ったころには確信を持っていました。やはり妻が長女を妊娠してからの時代と重なります。はやぶさミッションが始まったのもその頃です。
この Asteroids IV を前号の Asteroids III から決定的に進化させたのに日本の小惑星ミッションは多大に貢献しましたが、次号の Asteroids V は、おそらく、はやぶさ2と OSIRIS-REx による C 型小惑星などの試料回収がされた後になるので、また大きな進歩が予想されます。月の探査を日本の SELENE(かぐや)ミッションが牽引したように、小惑星試料回収ミッションは、はやぶさ・はやぶさ2が NASA をも刺激しました。もっと多くの日本の国民がその素晴らしさを知るべきですし、私も帰国の度に一般講演とかでそれを強調しています。次回は4月に帰国しますが、大学のセミナー以外に、大阪や札幌の高校でも特別授業をする予定があります。若い子供たちに投資するのが一番希望があることだと思います。
Asteroids IV を読もう! - February 18, 2016
2月の半ばになり、やっと本格的な雪が降ったこちらニューイングランド地方です。最初の写真は、ブラウン大学のキャンパスの木々が、湿った雪で覆われた景色です。実際はあまり積もらず、そのあと乾いた寒い日々がやってきて、昨日までの週末のボストンは、最低気温が-7 度F(-22 度C)とかになりました。南極の夏よりずっと寒いのではと思います。それもあって、昨日の月曜日は President’s Day という祝日だったのですが、朝があまりに寒くてボストンの下町を安全に歩くことはできず、ブラウン大は休みでなかったのですが、有給休暇を取ってしまいました。もちろん公立高校などは休みなので、娘や妻は休みでした。
下画像:やっと本格的な雪が降ったブラウン大のキャンパス。
さて、次の写真にあるように、先週の火曜日には、朝09時から、私の元ボスである Carle Pieters の最後の学生となるであろう Dan Moriarty の博士号学位審査会がありました。私は Peter Pan バスでは9時までに到着できないので、朝06時20分の州営の列車に乗って07時45分頃に実験室に着き、実験をスタートさせておいてから、審査会場である LF105 に行きました。LF というのは Lincoln Field ビルの略で、この 105 号室では歴代の博士号取得者がこのように発表会及び審査会を通過して、ポスドクなどの新たなキャリアに出発していきました。ブラウン大には全米のいろんな研究施設で働いている卒業生が多く、ここで学位をとることは、そのようなコネも獲得することであり、単なる博士号ではないのです。
下画像:7 年かけてやっと博士号の学位審査に臨んでいる Dan Moriarty 氏。
Dan はこのブログでも以前紹介しましたが、Carle が主研究者として月に飛ばしたセンサーである Moon Mineralogy Mapper (M3) のデータを解析して、特に輝石の 2 ミクロン帯の中心波長と強度から、South Pole‐Aitken 盆地のマグネシウムに富む岩石の起源を調べていました。単純な計算と論理ですが、論文も三つ出る過程であり、よくまとめられていると思いました。もちろん、私が審査員の一人であったならば、厳しくついたところも多かっただろうと予想しますが。ミッションの期間にちょうど出くわした Dan の博士課程は、幸運であったと同時に 5 年でなく 7 年もかかった、苦労の期間だったと思います。私の時も、発表会が始まってから審査会が終わるまで、7 時間もかかって絞られましたし。簡単なことではないです。
写真の左側に後ろ姿で座っているのが Carle ですが、Dan は Carle と同じくアイルランド系のようです。Moriarty という名前を聞くと、英国ドラマに出てきた Sherlock Holmes の宿敵を思い出します。性格は全然違いますが、もちろん。
ところで、私は 20 年ちょっと前に NASA のジョンソン宇宙センターにいた頃まではよく勉強していたのですが、その後はなかなかちゃんと本を読む時間も取れていません。それで、意を決して、今回、宇宙科学シリーズで有名なアリゾナ大学出版から出た、Asteroids IV を購入して読み始めました。写真にあるように、査読者の一論を見ると、真ん中の上の方に私の名前もありますね。著述はやめたのですが、その代わりに査読を頼まれました。前回の Asteroids III は購入はしたのですが、ほとんど積読で、選択的にかいつまんで眺めていただけですが、今回は毎日 4 ページずつ読んで1年で読破するつもりです。私を含む日本人研究者の貢献も多く入っているので、皆様もぜひ挑戦してみてください。Asteroids V が次に出るころには、きっと、はやぶさ2はリュウグウからの試料を持ち帰っていて、いろんな発見をしていることでしょう。その時、NASA の OSIRIS-REx との競争・協力はどう決着しているか、楽しみですね。
下画像:最近購入した Asteroids IV の表紙と、査読者一覧のページ。
サンアンドレアス、、、映画も見なきゃ! - February 02, 2016
とうとう2月に入りましたね。こちら米国ニューイングランド地方は記録的暖冬で、先日の大雪もこちらまでは十分には届かず、今日は何と日中の最高気温が 50 度F 台の半ばです。ここに二十年以上住んでいますが、このような冬は初めてだと思います。まだまだ来週以降に雪が多く降る可能性はありますが、この時点で、ボストンコモンで冬眠していないリスがいたり、枯れていない木々の葉を見たり、大自然も尋常な冬でないことを告げています。
ご存知のように、私は毎朝の出勤にボストン南駅から Peter Pan バスを使っていますが、ほぼ毎朝、途中で無料新聞 Metro を買って読みながらバスを待ちます。過去二週間ほどで目についたのは、最初の写真にあるように、MIT の近くにあるケンダル・スクエア・シネマという映画館の広告と、地下鉄で二人の銃殺事件があったという記事です。
下画像:新聞 Metro に入っていた映画館のチラシの「おもひでぽろぽろ」のページと、地下鉄銃殺事件の記事。
ジブリの作品は、カンヌ映画祭で賞をとった「千と千尋の神隠し」などスペクタクルなものは上映されていましたが、この「おもひでぽろぽろ」のような意外と地味なジブリ映画をやるのは、この映画館らしいところだと思いました。ブラウン大学の近くにもそのようなユニークな映画館があり、大学生などの若者が興味を引くようなものを選んでいるのだと思います。
一方、この地下鉄の銃殺事件は、ボストン中心街から空港駅に伸びている Blue Line という地下鉄の、空港駅の1つ手前の駅で起こり、近いうえに二人も殺された、ちょっと恐ろしい事件です。やっぱりまだまだボストンは危険な街です。
なんと、その後さらにまた近所で銃撃事件が起こりました。在ボストン日本国総領事館からも警告があり、次女が通っている Boston Latin School という米国最古の公立中高校から 1 ㎞ くらいの近くの二ヶ所で、銃撃および刃傷事件がありました。領事館からの知らせを読んだときは、Boston とは違う Brookline という都市の話だったので、遠い場所かと思ったら、意外と近かったのです。次の地図にその位置関係を示しました。
下画像:次女の学校(BLS)とその近所二ヶ所で起きた事件の位置関係。
犯人がまだ捕まっておらず、近くの学校はロックダウン(閉鎖)されたと聞いたので、次女の学校も生徒たちが帰宅できずに立ち往生しているのではと思いました。帰りのバスを降りた後、自宅に電話しても誰も出ないので非常に心配しました。しかし、帰宅してみたら、何のことはない、学校も閉鎖されず、妻も次女も何も知らず平常でした。王やら、そのごく近くの三つの学校だけが閉鎖されたようで、二つの事件も無差別攻撃ではなかったようです。しかし、一時はぞっとしました。
さて、地球惑星科学の話ですが、恥ずかしながら私はこの Reader’s Digest の記事 The Big One(次の写真)を読むまで、北米西海岸に危険なプレート境界があるとは知りませんでした。これは、サンアンドレアスの横滑りではなく、カリフォルニア州の北部からバンクーバーに至る海岸線に沿った、カスカディアという沈み込み帯です。これを読んだら、西海岸に引っ越すのはやめようと思ったりします。
https://en.wikipedia.org/wiki/...
下画像:Reader’s Digest の先月号で読んだ、北米西海岸大地震の危険の記事。
日本の太平洋側のように海洋プレートが大陸プレートに沈み込み、その歪みが限界に達した時に地震を発生させるようですが、この場所の規模も周期も大きく、最後の地震は1700年にあったそうですが、それがわかったのが、口承による大体の記録とともに、Ghost forest(幽霊の森)と言われる、木々が枯れてしまっている森があり、それが津波による潮の影響と考えられて、年輪から、1699年から1700年にかけての冬に地震があったと分かったものです。
更にすごいのは、日本の天災の記録の長さと正確さで、西暦 600年くらいからあるらしく、この津波についても、大きな地震がなかったのに本州に Orphan Tsunami(みなしご津波)と呼ばれる津波が来た記録が元禄の世にあり、それが1700年の01月27日から28日にかけての深夜12時頃に起こったと分かったので、太平洋を津波が旅する時間の 10 時間前に地震は怒ったわけです。かに座星雲の超新星の爆発を目撃した貴族たちとともに、日本の記録力はすごいです!天文分野でも、渡辺潤一さんなども歴史天文学をされていますが、天文惑星地球科学と人類の文明の歴史の関係は面白い分野だと思います。
最後に、はやぶさ2チームでしばらく注文を受け付けていた、はやぶさ2ブルゾンが国際郵便でついに届きました。今日は小春日和で温かいので、いつもの真冬のジャンパーでなく、このブルゾンを着て出勤して来ました。LPSC でもこれを着て宣伝しようかなあと、ちょっと考えています。勇気があればですが。。。
下画像:はやぶさ2ブルゾンを着た私と、実験室に写真を撮りに来てくれた長女。