The Planetary Society of Japan

ブラウン惑星人の日々 June 2015

何故に愛は時空を超越するのか

POSTED BY: Takahiro Hiroi | DATE: June 22, 2015

日本は梅雨の真っ最中だと思いますが、皆様お元気でしょうか。アメリカにも雨季があると思います。少なくとも東海岸では6月前後は乾燥した冬が終わり、暖かめで湿気が多く、雨や雷の日が散らばっている季節です。木製の戸や窓が膨張して開閉しにくくなることからもわかります。早く乾燥した季節に戻ってほしいものですが、夏が暑すぎると冷房費が増したり熱中症で倒れる人も出るので困ったものです。昨年のように、クーラーがほとんど必要ないような8月がまた来ると助かりますが。

先日、アメリカではまた悲惨なテロ事件がありました。とある黒人教会での聖書研究会の後、白人の若者が銃で9人の参加者たちを射殺した事件です。
http://www.nytimes.com/2015/06/19/us/...
この若者は南アフリカでアパルトヘイトが行われていた時の国々の国旗を胸に着けていたこともあるような白人至上主義者の様で、そのあと、オバマ大統領は、だからこそ銃の規制を強化しないといけないというスピーチをしていました。しかしながら、この21歳の若者は、知り合いたちの間では麻薬常習犯として知られていたのです。性犯罪や殺人はアルコールや麻薬で良心作用がマヒしているときに起こることは周知の事実です。オバマが根本原因である麻薬の問題を解決せず、かえってマリファナの合法化を進めるような政党にいて、他方で銃の規制をうたっているのは全くの矛盾です。根本問題を悪化させながらその道具となったものだけを取り去ろうとしても効果なしです。私は、早く大統領選が来て、Jeb Bush 氏になってほしいと思っています。

さて、研究の方はぼちぼちですが、最近は査読の依頼が多く、先週も4本の論文を審査しました。査読者になると、どうしてもその論文をしっかり読まないといけないので、結構勉強になってよいです。締め切りがないと勉強も科学も進まないのは本当かと思います。

また、昨日は久しぶりにボストン日本人研究者交流会(BJRF)の本年度最後のセミナーに行ってきました。Web サイトはこちらです。
http://www.boston-researchers.jp/wp/

内容は、JAXA から MBA を取りに来られている岡本太陽さんの「宇宙はビジネスになるのか」という講演と、MIT の博士課程の磯貝友希さんの「宇宙の神秘を解き明かせ!重力波が拓く新たな天文物理学」という講演でした。

JAXA の文系の職員の人の話は面白いと思いましたが、NASDA と ISAS が JAXA になってからのいろんな問題は知らないのではと思いました。質問する人も多いので私は黙っていましたが、そのような日本の組織的問題などに関する質問をされた方がいたので、後で個人的に私の経験を話しに行きました。財政難の緊縮状態を打開するには、現在の素晴らしい安倍政権とともに日本の若者たちを活性化するためにすべてを投入すべきでしょう。それもわからず天下りとかをしている人々は罪深いと思います。

重力波の話は純粋に古典物理学の範疇でしたが、非常に面白く勉強にはなりました。MIT のメディアラボの石井所長からは、映画 Interstellar の時間旅行の話とかを説明できないかというような質問が出ていたのに困っていたので、やはり私はあとで個人的に、一般相対論の範囲の重力場の議論を量子化によって現代物理学の統一された理論の枠に入れないと、Worm Hole で旅をするとか、過去に戻れるのかとかいう議論はできないのではと申しあげました。確か、Interstellar の中では、愛というものだけは時空を超越できるというような話だったのではと思います。

ほとんど私より若い連中の集まりですが、どうせ歩いて20分くらいで行けますし、私がボストンに引っ越してきた2000年に始まったというのも意義深いですし、過去に一度講演したように、また次回何かのテーマで話すときもあると思うので、たまに顔を出したい会です。日本支部もできるような話もあります。

東大同窓会ボストン支部とともに、このボストン日本人研究者の集まりは、日本のエリートの集団に違いないと思います。きっといつかこのような人々が日本の過去の悪習に染まってしまうのでなく、世界の高いレベルに追い付き追い越すような発展をさせていってほしいものです。
 

何故火星衛星なのか

POSTED BY: Takahiro Hiroi | DATE: June 15, 2015

先週はこの MEF ブログをお休みさせてもらったので、もうすでに6月も中旬、初夏の日々が始まっています。最高気温が 80度F の日々もあり、基礎体温が高いアメリカの若者たちはすでに夏の服装ですね。この夏は今までたまった宿題のようなものを消化していかないといけない期間ですが、少しはリラックスして過去を振り返り未来を見据えながら方向性を正していきたい時です。

最近、日本から将来の惑星探査計画のニュースがいくつか私にとっては寝耳に水のようにきました。小型月着陸実験機構想(SLIM)とフォボス・デイモス試料回収計画です。SLIM については JAXA の専用ページが以下にありますね。
http://www.isas.jaxa.jp/home/slim/...

フォボス・デイモス試料回収計画はテラキンこと寺園さんのブログに詳しいので、ここにリンクを引用しておきます。
http://moonstation.jp/ja/blog/...

SLIM については技術立証衛星ですし、イプシロンロケットで打ち上げられかつ将来計画に生かすことのできる精密着陸技術は意味があるとは思います。でも、どうせ月に行くのですから、科学をしない手はないと思うので、どのような科学ができるのかを考えるのが今後の課題でしょうね。月基地建設と月利用は人類の運命のようなものなので、国際協力もしながら日本が追及していくのは良いことだと思います。

では、フォボス・デイモス試料回収計画はどうでしょうか?(この部分はあまりに広範にわたると思うので、私の個人的な経験と意見に絞らせてもらうことをご了承ください。)フォボス・デイモスでまず思い浮かぶのは、ソ連邦が1988年の同じ月に2基送った Phobos 1 と 2 という探査機です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Phobos_program

両方とも最終的に音信不通になってしまいましたが、Phobos 2 はかなりいいところまで行ったので画像などのデータは取られました。着陸機を降ろす前だったので、そのデータで特に注目されたのは Infrared Spectrometer(ISM)という赤外分光計でした。ブラウン大で昔研究していた Scott Murchie などもよくそれで研究成果を発表していました。しかし、二つの波長範囲がちゃんとつながっていなかったり、スペクトル自体が解釈しにくいものであったりして、データの信頼度を疑わざるを得ないと感じました。

確か、その後、最終的には望遠鏡による火星の反射スペクトルと合わせるとかして、より信頼できるデータへと校正されたのだと思います。例えば、やはりブラウン大の Jack Mustard とコーネル大の Jim Bell による以下の論文があります。
http://www.planetary.brown.edu/pdfs/... - PDF

この件を見ても、やはり探査機によるデータにはいろんな問題があり、近赤外スペクトルに関して言えば、はやぶさの NIRS や、かぐやの SP のような高精度のスペクトルデータが割と初期に出せたのは、機器自体が標準光源を持っていたり、探査機の温度管理や軌道運用がうまく行ったおかげではないかと思います。

もう一つのブラウン大で話題になったミッションとしては、安く早くで有名になった Dicovery Mission の一つとして提案された Aladdin というのがあります。
http://www.planetary.brown.edu/...
http://www.lpi.usra.edu/meetings/LPSC99/pdf/... - PDF

これは私の以前のボスである Carle Pieters 教授が主研究者として提案したもので、フォボスとデイモスに近づいて行って、球を打って表層のレゴリスをはじき出し、絨毯のような布でそれを集めて持って帰るというものです。空飛ぶ絨毯ということでアラジンと名付けられました。

これは採択されなかったのですが、もし採択されて成功していたら、フォボスやデイモスが小惑星の捕獲されたものなのか、そして宇宙風化がどのように起こっているかわかったかもしれません。しかし、火星からの塵も混入しているかもという考えもありますし、宇宙風化度があまりに大きく、レゴリスも深そうなので、その下の母岩を同定するまではできなかった可能性も大きいと思います。

同じことが JAXA が計画しているミッションにも言えるわけです。いったいどこまで深く掘れば宇宙風化していない層や母岩を採取できるのか、火星からの混入はどう見分けられるのか、等々が課題だと思います。それと、それがわかったとして、太陽系生成過程を紐解くのにどう役立つのかです。小惑星が捕獲されたものであれば、ある程度隕石との対応、特に D 型小惑星から来ている隕石があるのかどうかなどわかるかもしれませんが、はじめから単独に存在している D 型小惑星に行くよりリスクが高いです。特に、トロヤ群の D 型小惑星に行って試料回収する計画と比べれば科学的価値はずっと小さい可能性を否めません。

しかしながら、そのような長大な探査ミッションを実現できない段階では、フォボス・デイモスの試料回収は、過去の惑星探査ミッションでできなかったことですし、科学的な発見内容も多くあると予想されます。なので、将来の「はやぶさ3」ともいえる小惑星試料回収計画に支障をきたさない限り、やってもよいと思いますが、そういううまい話にはならないでしょうね。というか、フォボス・デイモスも小天体ですから、小天体試料回収計画として、「はやぶさ3」と呼んでしまっていいのかもしれませんね。ただ、一番の問題は、日本がやる前に他の国がやってしまえるようなミッションではないのかということです。NASA や ESA なら技術的に軽くやってしまうことができると思いますから。

いつもながら私の独断と切り口で書かせてもらていますが、祖国を愛する日本人として、また小惑星と隕石を愛し、それらの探査や解析に人類が太陽系生成の秘密を解くカギがあると思っている人間として、日本の宇宙探査・開発の物的および人的資源は有効に用いてもらいたいと願っています。
 

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POSTED BY: Takahiro Hiroi | DATE: June 03, 2015

アメリカに戻ってきて1週間たち、もう5月も終わりです。今回の日本の帰国を再び振り返ってみて、私の中にいろんな意識の変化があったことを気づきます。高校の授業や一般の講演会で話したり、質問に答えたりする中で、科学者として地道にやってきて、たまたま小惑星探査ミッションに加わることができたと思っていましたが、ある意味で、日本は「はやぶさ」の成功なくしては固体惑星探査は消滅していたかもしれませんし、私がそのミッションが始まるよりも十四年も前に惑星科学の世界に足を踏み入れたのも、その八年後に日本から追い出されるようにして米国に来たのも、NASA で宇宙風化や炭素質コンドライトの研究を始めたのも、全ては今の時を迎えるためにあったと思われるくらいうまく出来過ぎています。

はやぶさの Science 特集号の NIRS 論文で NASA 側の研究者たちと戦った結果、Nature に論文を出せたのも私という存在があったからでしょうし、出る杭として打たれ続けても、打たれる度により強く大きくなることによって生き延びてきたように思います。人生は一度きりなので、他人がどう思うかだけを気にしていてはだめで、自分が信じて好きな道を行くことが大切です。もちろん、自分にとって大切な人々のために犠牲になったり、自分の良心に従って公のために生きることは重要です。

今日も、私の科研費が来年度末でなくなって、それ故に日本に帰国する旅費もなくなった時点で、いったいどのように「はやぶさ2」に貢献できるのだろうかという議論を関係者とメールでしていました。特に2018年に小惑星 1999 JU3 とランデブーしている間、はやぶさの時のように宇宙研に出入りせずに私として有効な貢献ができるのだろうか。今回は当時の三ヵ月でなく一年半だから半端な期間ではありません。NASA から公布された Hayabusa 2 Participating Scientist(はやぶさ2参加科学者)の選考に受かれば旅費くらいは出るでしょうが。もし落ちたら、これは JAXA または文科省から何かの形で出してもらうか、自分で稼いで自腹を切るしかありません。金持ちになるには三年後というのは急すぎる気がしますが。

上画像:広島の街を走る「被爆電車」?

そうそう、前回、阪大の寺田研の機会を SIMS とだけ書きましたが、Spam メールに入っていて気付かなかった寺田さんのメールにちゃんとした機械の名前がありました。ポストイオン化二次中性粒子質量分析装置(Post Ionization Secondary Neutral Mass Spectrometer、PI-SNMS)ということです。なかなか長い名前ですね。あと、前回紹介するのを忘れていましたが、広島の路面電車には、写真にあるような古めかしい車両も走っていて、「被爆電車」と呼ばれているそうですね。本当に被爆した電車なのか興味あるところですが。

上画像:ブラウン大の惑星地質のビルの入り口に貼られた NASA SSERVI のサイト訪問の標識。

さて、先週は私の給料を 50% 支えている NASA SSERVI の科研費の HQ と他のグループの代表たちが、ブラウン大の研究グループ SEEED を訪問して二日間にわたって科学や事務的な議論をしました。写真は、惑星地質の Lincoln Field ビルに貼られた標識です。SSERVI というのは、Solar System Exploration Research Virtual Institute(太陽系探査研究仮想研究所)の略で、SEEED というのは、SSERVI Evolution and Environment of Exploration Destinations(探査目的地の進化と環境)の略です。

上画像:Jim Head 教授が SSERVI の研究者たちに WALL と呼ばれる大型高解像度スクリーンのデモをしているところ。

この会合の詳細は公開できませんが、次の写真は、Jim Head 教授がブラウン大のロックフェラー図書館に作られた WALL と呼ばれる大型高解像度スクリーンの実演をしているところです。月も火星も高解像のデータまで巨大な量になっており、それを全体を見失わずに詳細を調べるためにこのような大きな画面を構成したということです。もちろん、これを駆動するための特別なコンピューターシステムにデータを入れてあります。

私も炭素質コンドライトの可視・近赤外スペクトルサーベイの結果と、それを如何に C 型などの暗い始原的小惑星の探査、特に「はやぶさ2」に適用するかという発表をしました。割と反応は良かったと思います。このグループでもそういう焦点を当てている研究者は少ないですし。SSERVI は月・火星の衛星・近地球小惑星という有人探査の目的地となる天体を対象にしているので、日本の小惑星試料回収計画もその範囲に入っているので私としては幸いです。SSERVI の前身の NLSI(NASA Lunar Science Institute)では小惑星は入っていないので、宇宙風化とかクレーター形成とかで間接的に小惑星の研究をする必要がありましたが、今は堂々とやれるわけです。

さて明日からは長い三ヵ月の夏の期間が始まります。長女もブラウン大の寮から帰ってきて毎日います。6月中旬から州の公園でバイトをするようですが。私はこの夏こそ滞っている論文を書かないといけないです。と、確か去年も言っていた気がしますが。。。
 

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