LPSC を振り返って April 17, 2017


3月の後半は、ヒューストンでの一週間の月惑星科学会議(LPSC)があり、その内容は速報でご紹介した通りです。
LPSC 48th 速報

振り返ってみると、私の小天体や鉱物分光の分野だけの話ですが、確かにいろんな新しい発見や研究成果の発表がありましたが、口頭発表を見た限り、何故貴重な 15 分のスロットを取れたのだろうか、と疑問に思う内容の発表も目立ちました。惑星探査ミッションのタイミングの問題もあったと思いますが、NASA 研究費をもらっている研究者たちは多くの新規で重要な成果を出すことが求められます。

一方で、ポスターに回された方の発表には地道に良い研究をしているものが割と目立ちました。上記の、口頭発表で質的に今一つのものが目についた事実と合わせ、LPSC 発表要旨の審査過程にもっと高いレベルの科学性と透明性が求められるべきと思いました。金曜日の午後はセッションがないことも事前に発表しておくべきでしょう。

あとは、私が懇意にしている学生さんや若い研究者達に毎回多く会えてうれしいことですが、年々、学生が LPSC に来れるような資金的な援助が増えているような気がします。それともそのような資金を取れるような優秀な学生が惑星科学に来るようになったのかもしれません。ただ、その分だけ、LPSC の価値を軽く考えずに、将来の日本の惑星科学と探査、そして本人を含む科学者の人材養成に最大限に活用してほしいものです。特に、実際にこの場に来ることによる、欧米のトップレベルの科学者たちとのコネは重要です。

いつもながら、LPSC はハードで、その1週間の刺激と肉体的な疲労から回復するのに数日かかりました。小さなことも言及すれば、いつも泊まっている Super 8 ホテルは、比較的安く、日本からの知り合いも多く泊まっていますし、スーパーマーケットも近いですが、今回、シャワーのお湯が熱くなくて何度苦情を言っても治らないので、来年からは Extended Stay America にしようと画策しています。来年の LPSC の日程が早く出るとよいのですが。とにかく、LPSC が終わってから既に三週間が経ち、最近は忙しくなった試料測定に明け暮れています。

下画像:博士号取得のための最終発表で質問に答える Vivian Sun。


 

この4月は、ブラウン大の地球環境惑星科学科では、5月の卒業を控えて博士号を取るための最終発表・審査会が次々と行われています。最初の写真は、Ralph Milliken の学生の Vivian Sun が博士論文発表会をしているところです。Vivian は、火星の含水鉱物の Opal の形態を火星衛星に積まれた近赤外分光計である CRISM のデータと実験室のデータとの比較で研究し、火星上での水にまつわる環境変化を調べたものです。この後で、審査員だけの場で質疑応答があり、晴れて博士号を取得しました。Vivian を含め、我々の学科だけでも先週と今週だけで 5 人以上の博士が誕生することになります。

私自身も三十年近く前に東大で博士号を取るときに、1時間の発表の後で別室に移り、教授たちに絞られ、夜の10時までかかってやっと博士号をもらえたことを思い出します。その当時は、隕石がどの小惑星から来たかを反射分光で探るというテーマの価値も認めない人々が多く、研究でも就職でも困難の連続でした。パソコンも遅く、インターネットもなく、はやぶさのような小惑星探査ミッションもなく、論文でさえ、英文フォントできれいに出せるワープロがなかったので、大型コンピューターに繋いで、Troff という書式言語を使って書きました。Roff については、以下に説明があります。
https://ja.wikipedia.org/...

前回ご紹介した、NHK BS のコズミックフロント NEXT ですが、以下のリンクで宣伝されているように、最近上映されてヒットしたアニメ映画「君の名は」で湖に衝突した彗星の話をネタにして「奇跡の隕石」として Tagish Lake 隕石を解説されていますね。放送は4月20日の木曜日の夜10時なので、あと数日ですが、私はアメリカにいるので、このページの宣伝ビデオでさえもブロックされて見れない状態で、一体どういう作品になっているのか見当が付きません。
http://www4.nhk.or.jp/cosmic...

確かに、あのようにもろい隕石が低い角度で地球に突入してきて、それも凍った湖の上だったので、氷の中や上にうまく保存されて、それが今まで知られていなかったとても特殊な隕石だっという事は素晴らしいことです。NHK がこれに注目したのは、やはりこのドキュメンタリーを手掛けた三宅ディレクターが地球物理の博士号を持たれた研究者だったからかもしれませんね。はやぶさ2がリュウグウにランデヴーするのはまだ1年ちょっと先ですから、これを機に、隕石母天体に行く科学的意義を宣伝できたらいいですね。
 

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