ブラウン惑星人の日々 March 2017
惑星探査に係る人々 - March 12, 2017. Latest
BS コズミックフロントがやって来た! March 12, 2017
今日は3月11日で、昨晩はインターネットで私も安倍首相も出られた追悼式典に参加させてもらいました。6年前に忘れもしない東日本大震災があった日でした。私を含む、はやぶさ科学チーム員の多くがヒューストンで LPSC の特別セッションを終えてホテルで眠っていた時に起こりました。翌朝会場に着くと、ロビーのテレビで CNN が津波の映像を流していたのが脳裏から離れません。我々日本人研究者たちが帰れるのかどうかを各国からの科学者たちが心配してくれていました。
さて、2月の最初に1週間、韓国に行ったことを前回ご報告しましたが、その直後の2月9日に NHK BS で放送するコズミックフロントという番組の三宅ディレクターがスタッフを連れてブラウン大まで私を取材に来られる予定でした。ところが、その日は大雪が降り、通勤のためのバスも走らず、大学も休みになってしまいました。なので、取材陣は到着したボストンから近場の MIT に行って、Francesca DeMeo に話を伺いに行ったそうです。Rick Binzel のところの学生だった子ですが、小惑星のスペクトル分類に、伝統的な Tholen や Bus の可視領域だけを用いたものを拡張して、近赤外光反射スペクトルまで含めた分類をした研究者ですね。
そして、その晩は、翌日の打ち合わせも兼ねて、夕食でもご一緒にという事で、ボストンの P. F. Chang を予約しました。電話した時は、今日は雪で遅くまでやっていないからねと言われたのですが、夕方5時だと言ったら、そんな早い時間なら大丈夫という事でした。5時に着いたら我々しか居なくてガランとしていたのですが、どんどん人が来て、早く閉まるどころか大繁盛してしまったようです。私が来てあげたから運が舞い降りたのかもしれませんね:)
取材陣は、三宅ディレクターの他に、NHK と契約してる会社から AV 担当の上原さんと川路さん、そしてニューヨークの契約会社からコーディネーター的な女性の清武さんの合計4人が来られていました。三宅さんは、博士号を持っておられる東大地球物理の出身で、私が働くブラウン大学で博士号を取った杉田君と同窓だったそうです。いろんなところで人はつながっているものです。皆で夕食をいただきながら、楽しく話が弾みましたが、翌日は何と私がボストンの南駅からピーターパンバスに乗って通勤するところから撮影したいということで、明日はどんな一日になるのだろうかとちょっと不安でした。
翌朝は、いつもの様に朝8時のバスに乗るために、目や脚の運動をしながら待っていると、4人が来られて、バスに乗るときは、太陽の向きを考えながら、右側にお願いしますとか言われましたが、まあいつもの様な席でした。それで、通勤途中に翻訳のバイトをやってるところとかを撮影されていました。とても緊張しましたが、短い時間で済み、終わったら居眠りしても何でもいいという事でリラックスできました。プロビデンスの下町の Kennedy Plaza で降りる時も撮影したいという事で、最後から2番目に降りてください、と言われてまた緊張しながらもカメラを意識しないよう気を付けて降りました。
更に、大学まで歩く途中も撮りましょうという事で、4か所で止まりながら合図を待ってカメラに向かって歩いて通り過ぎていくという、何かちょっと映画俳優になったような気分で大学へ向かいました。今回の番組のテーマは、タギシュレーク隕石で、私が NASA ジョンソン宇宙センター(JSC)の Mike Zolensky から試料を送ってもらって、それを調整して、測定し、Science 誌に発表するまでの再現や逸話を取材したいという事でした。それで予定としては、朝、その再現をして、午後にインタビューという事でした。
実験室に入って、いろんな炭素質コンドライト隕石を調べているシーンや、タギシュレーク隕石試料をつぶして測定更に入れるところ、RELAB の双方向反射分光装置に試料をセットするところとかを測定し、何とか無事に測定を開始して紫外領域から可視領域に切り替えた後で、私のオフィスや午後のインタビューに使う NASA 北東地方データセンターの下見とかをしました。そして、実験室に戻り、ちゃんと D 型小惑星に似た右上がりのタギシュレーク隕石の反射スペクトルが画面に出てきたところでそれを説明する私を撮影するという事になりました。写真は、RELAB の私の狭い操作ブースで、その撮影のために皆が詰めかけているところをスナップショットを撮らせてもらったものです。
下画像:ブラウン大の RELAB の私の操作ブースに詰めかけた NHK BS 番組コズミックフロントの三宅ディレクター(左端)と取材陣の皆さん。
さて、一番心配だった測定の再現が終わり、皆で、大学の Ivy Room という食堂に行ってお昼を食べました。杉田君や学生さんが訪問して来たときによく来る食堂ですが、昔は安くてサラダバーとかがあったのに、大きく変わってしまいました。でも、近くてこじんまりしていて静かで落ち着いて食べれるところなのでまあ好きです。
食後は NASA データセンターに移り、三宅ディレクターの質問に私が答えていくという形で撮影されました。これらすべての映像のうちどれだけ編集の後残るか知りませんが、RELAB での試料の測定の様子などは、本邦初公開どころか、アメリカでもどこでも紹介したことはないので、貴重な映像になる可能性もあります。現在、インターンの高校生に手伝ってもらって RELAB 双方向分光器のマニュアル作りをしていますが、万が一私に何かあった時でもこの機械が役に立つように準備を怠ってはなりません。
無事にすべての撮影を終えた後、レンタカーと雇った運転手と共にボストンに帰るという事で、一緒に乗せて行ってもらいました。途中の美しいプロビデンスの州会議事堂を見ながら、27年前に日本からたった一人ここにたどり着いた私自身を回想し、とうとう日本の国営放送がブラウン大の私のところまで取材に来たのだなあと、ちょっと感慨にふけりました。その後皆はカナダとヨーロッパに取材旅行を続け、日本に帰って編集作業に入り、4月20日の夜10時から放送予定だそうです(その日は何と父の誕生日です)。ハワイや西海岸、そして NASA JSC や MIT を含む、多くの場所で研究者たちにインタビューしてできるドキュメンタリーなので、私の出番がどれだけあるかわかりませんが、とにかく NHK が来たというだけで私としては隔世の感です。
というわけで、1か月前の回想はここまでで、再来週からはまた月惑星科学会議(LPSC)がヒューストンであり、次回はそのご報告になるのではないかと思います。体感気温が明日はマイナス 6度F にもなろうという極寒のボストンから、最高気温が 80度F を超すと予想されるヒューストン(実際はウッドランド)に行ける1週間です。