ブラウン惑星人の日々 September 2017
惑星探査に係る人々 - September 28, 2017. Latest
ブラウン大学廣井塾.September 28, 2017
あっという間にもう9月も末で、ハリケーンが去った後はかなり暑くなり、この数日は特に蒸し暑く、涼しめだった夏よりもいっそう不快な日々でした。昨日はそんな暑い中、MIT で Tagish Lake 隕石の残留磁化から母天体が 10 天文単位(AU)以上離れたところにあったに違いないという講演があったので、東北大から私のところに9月だけ来ている松岡さんと一緒に参加してきました。最初の写真にあるように、まず昼食が出て、それからセミナーが始まりました。
更には、RELAB の双方向反射分光器の近赤外用の検出器も今修理中で、測定がないので、最近は炭素質コンドライトチップの反射スペクトルの解析をしながら、論文に早くまとめようと尽力しています。特に含水鉱物の 3 ミクロン吸収帯のガウス関数分解です。なお、既に論文を出版した、火星隕石と月隕石の写真とスペクトルデータは私の Web サイト以外に、RELAB のデータベースに加えました。炭素質コンドライトも加えましたが、まだ非公開で、論文が出た後に公開されます。
EAPS Planetary Lunch Colloquium Series (PICS) MIT 54-517
12:30 pm on Tuesday, September 26
Dr. James Bryson, Junior Research Fellow, University of Cambridge
“Paleomagnetic evidence for an outer solar system meteorite”
下画像:ダントツで細長い MIT の 54 号ビルと、そこで行われた EAPS(地球大気惑星科学)昼食セミナーで出されたインド料理。
このジェームズ・ブライソン氏は若い研究者ですが、隕石とその母天体を結びつける中心的研究をしています。私も出演した NHK コズミックフロント NEXT「奇跡の隕石」でのテーマであった、タギシュレイク隕石がもとは彗星であったという考えを裏付ける証拠の一つです。
基本的には、太陽から離れるにつれて地場は弱くなるので、母天体で固化した時の地場の強さを測定すれば、太陽からの距離が大体見積れるということです。タギシュレイク隕石の場合、主ベルト帯に移動した後とか地球に落ちた後にできた不安定な二次的磁場を除くと、測定できないような弱いものしか残らないので、少なくとも太陽から 10‐20 AU 離れたところで形成されたということらしいです。もちろん、当時の磁場の強度分布はモデルや仮定に依存しますが。
セミナーの後は、講演者に自己紹介をして、はやぶさ2の MASCOT チームの共同研究者でもある Ben Weiss に挨拶と松岡さんの紹介をして、そのあとは、約束していた Richard (Rick) Binzel 教授との面談に行きました。その様子は次の写真にある通りです。前回行ったときには箱に入ったままだった、はやぶさのレゴがちゃんと完成されていました。
下画像:セミナーの後で、Rick Binzel 教授と楽しく過ごす松岡萌さん。もちろん研究の話をしたのですよ。
Rickは私が日本の女子学生を連れて行くといつも喜んでもてなしてくれて、今回も、いろんなミッションに自分がかかわってきたことと、Asteroids IVの編集での逸話や、いろんな話に花が咲きました。何と最後には、萌ちゃんは、ある重たい贈り物をサイン入りでもらってしまっていましたね。Rickは写真にも写っているアリゾナ大出版のシリーズを全部持っているそうですね。Asteroids IIなどはとっくの昔に絶版になっていて、何と$4000を超える値段がオークションでついているとか。。。
それと、2029年に地球に大接近する小惑星(99942) Apophisに飛ばすミッションを計画していることも話してくれて、BrownのRalphへのお土産だと言って1枚の要旨をくれました。地球から月までの距離の10分の1くらいの近いところを通過するということで、Binzelらの主張の近地球小惑星がまだ新鮮な表面を維持できるのは惑星との近接遭遇による表面攪乱によるという仮説を証明できるのではと考えているようです。
松岡さんのブラウン大廣井塾留学もあと残すところ二日で、これで、主成分解析・修正ガウス関数分解・混合モデル計算の3種の神器(?)を使えるようになったので、もう鬼(姫)に金棒でしょう:)まあとにかく、はやぶさ2の小惑星リュウグウへのランデヴーでは頑張ってもらいたいです。私ももちろん負けていませんが。
アメリカンアイドル.September 09, 2017
皆様、日本も秋の過ごしやすく美しい季節に突入したと思いますが、ボストンは朝は寒いくらいの温度になりました。何と一昨日、私のアパートの冷蔵庫が故障してしまい、十分に冷えないので、取り換えるまでの数日間、冷凍庫で氷を作ったりや冷却材を冷やしてそれを入れてしのいでいます。涼しくなったので幸いですが。娘たちは大学のキャンパスに戻り、長女は何と今年はブラウン大学の4年生です。ついこの前入学したばかりと思ったのに、時のたつのは早いものです。
さて、9月1日から東北大の中村研の松岡さんが今月いっぱい私のところに来て、可視から赤外までの分光スペクトルの解析法を学んでいます。主成分解析・関数分解・混合計算などが主になると思いますが、まずはRを使ってマーチソン隕石をレーザーで宇宙風化させたスペクトルの主成分解析に取り組んでもらっています。ちょうど昨日、MITのリック・ビンゼル教授のところに1年間訪問していたフランス人のカトリーヌ・ランツさんがここの惑星グループの昼食セミナーで講演しました。博士号を取ったばかりの若いポスドクのようです。
PLANETARY LUNCH SEMINAR
Thursday, September 7, 12:00 (noon), LF 209
Catline Lantz, MIT
Clues on space weathering of primitive Near-Earth Asteroids
based on laboratory experiments"
我々もレーザー照射で行っている炭素質コンドライトの宇宙風化模擬実験をHeイオンとかの粒子線で太陽風を模擬して行った結果の発表です。小惑星のスペクトルとも比較していました。大体我々も知っていることでしたが、やや新しいことは、Bus-DeMeoによる小惑星スペクトルの分類と同様に、C型Complexにおける細分類はスペクトルの曲率が関係していることが再現できているようであるということでしょうか。タギシュレイク隕石がD型スペクトルからC型スペクトル的に宇宙風化で変化することは私がだいぶん前に示してありましたが。
今朝もいつものように8時のバスに乗るために7時ちょっと過ぎにアパートを出たのですが、いつも歩いて通過するボストンコモンに何と長蛇の列。写真の上半分に示したように、正面の入り口のバスが止まっていて警備の人々もいて、私が通る中心部あたりまで列になっています。下半分に示したのが先頭部分で、立っている青年に尋ねたら、アメリカンアイドルのオーディションのために並んでいる参加者たちであるということでした。スターになるのを夢見る人々のようです。いつか自分も有名になりたいなあ、などという気持ちになりました。アメリカらしい雰囲気です。
下画像:アメリカンアイドルオーディションのためにボストンコモンに集まった長蛇の列(上)とその先頭で待つ人々(下)。
松岡さんも来ているし、緊急の試料の測定は終えたので、研究指導をしつつ、自分も遅れている論文の執筆にとりかかろうかと決意しているこの頃です。夏休みに書こうと思っていた本も、書き始めたら、まだまだ自分に内容が足りないことを実感し、再考しているところです。11月の帰国では、晶さんが授業をさせてくれるそうなので、KASIでやった集中講義の一部を調整してやろうと思っています。宇宙風化実験も新たな方式に挑戦すべく準備しているところです。はやぶさ2ミッションを隕石分光・測光の科学で支えられるのは自分しかいないと思って頑張りたいです。