The Planetary Society of Japan

ブラウン惑星人の日々 August 2015

ボストンにポケモン上陸

POSTED BY: Takahiro Hiroi | DATE: August 24, 2015

上画像:ボストンで国際ポケモン競技会を開くという数日前の記事

日本もお盆を過ぎて最近は暑さも鈍ってきたとかで、こちらもそれと似た感じです。今日まで、ボストンのハインズ・コンベンションセンターというところでは、何と日本のポケモンの祭典が行われていたようです。最初の写真はMetro新聞の記事ですが、このピカチューの着ぐるみが踊っている写真はきっと昨年とかのものでしょうが、今年はボストンがポケモンの国際競技会を開催したということのようですね。

娘たちにも勧められて、この数日で「進撃の巨人」のアニメと映画を見ましたが、この話って、70年前に終わった大東亜戦争で日本が体験したこととか、中共の周りの脅威にさらされている日本・台湾・フィリピン・香港といった場所に住む人々にも共通して感じられる脅威に共通するのではないでしょうか?

この話の最初のポイントは、壁の内側にこもって防衛しているだけでなく、積極的に打って出て、襲っている敵を討伐するしか生きる道はないということではないかと思いますが、そこまでいかなくても、相手が攻めてこないようにするように敵を知って、強くなることは、きっと安倍首相の「積極的平和主義」に通じるのでは?

上画像:麻薬に関する最近のニュース記事

まあとにかく、毎朝通勤でバスに乗る前の待ち時間には、こうして新聞記事を読んでいることが多く、次の2つの記事も、このあたりでコケインを摘発したとか、マリファナ入りのスナックの販売を禁止したとかの内容です。家族も含め、我々が普通に住んでいる場所の周りでこのようなことが起こっているのが恐ろしいことです。アメリカは、そして世界はどうなっているのでしょう。

あと、前回お話ししたように、11月の学会のアブストラクトを書くために、はやぶさ2の目標天体1999 JU3に組成が似ていると思われる炭素質コンドライト隕石の反射スペクトルを解析しているのですが、今見返すと、測定データに不十分なところもあり、私の昔の実験手帳を引っ張り出して確認しています。

上画像:私の実験ノートの1993年02月の記録

次の写真は、1993年の2月に、加熱脱水した炭素質コンドライト試料の、可視・近赤外光の反射スペクトルを測定した時の記録ですが、やっぱり鉛筆で細かく描いた記録は22年たっても鮮明に残っていますね。測定の生データはもちろんフロッピーディスクでしたが、何をどのように測定したかのメモは、今も同じやり方で記録しています。

この時は、私はまだヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターにいて、飛行機でブラウン大まで戻ってきて測定していました。この測定の結果をもとに、同じ年の1993年に米国の科学専門誌Scienceに初めて論文を書くことができたことを覚えています。それが私は自覚していませんでしたが、はやぶさ計画さえ存在しなかったときに、はやぶさ2計画のための基礎研究の始まりでした。詳しい話は、日経サイエンスの「世界の研究室から」というコラムに投稿した、「新大陸で待っていた隕石」という私の随筆に書かれていて、ここMEFサイトにも転載されているはずです。

先週、ブラウン大を訪問していた東大の杉田君の試料の測定も無事に終えたので、居間からまたたまっている試料の測定と、11月の学会のためのアブストラクト書きに取り掛かります。22年前に先行きに不安を大きく抱えていたがゆえに全力投入していた時代の意気込みを思い出して、既に走り出したミッションのために頑張らねば。
 

今週もお仕事の話

POSTED BY: Takahiro Hiroi | DATE: August 11, 2015

日本は暑い日々が続いているのかもしれませんが、こちら米国北東部は昨年同様に涼しめの8月を迎えています。昼でも80度F台、夜は60度F台という涼しさです。半袖では寒いと感じるときもあります。もちろん、たまには日本のように暑い日もあります。

さて、先週も書いたように、この終戦記念日の週にちなんで、「Emperor」に続いて、1967年の白黒映画「日本の一番長い日」を見ました。確か小学校の時に見た覚えがあり、天皇陛下のご聖断と玉音放送なくしては、日本は平和裏に終戦を迎えられなかっただろうことがよくわかる史実です。48年経った今、再映画化されたことを聞きました。

先週ご紹介した主成分解析に基づく研究の内容は、11月のはやぶさシンポに要旨として提出しました。ただ、隕石の組成分類をうまく認識できるためには、小惑星表面でそれらがどのように変化するか、特に粒度の違いや宇宙風化によって可視・近赤外光領域における見え方がどう変わるかを知らないといけないです。

上画像:宇宙風化実験用に普通コンドライト隕石の粉末をペレットにした試料群

なので、はやぶさ初号機が飛ぶ以前から、私は宇宙風化の研究をしていますが、最初の写真は、いろんな隕石の粉末をプレスしてペレットにした試料のいくつかです。RELABのクリーンルームの戸棚にしまってあったのをちょっと出してみました。

上画像:普通コンドライトの1つであるL6型のChateau Renard隕石のペレットをレーザー照射して模擬的に宇宙風化させたものの反射スペクトル

これらの1つで、小惑星イトカワとは厳密には組成が違いますが同じく普通コンドライトの1つであるChateau Renard隕石のペレットのレーザー照射の結果を次の図に示しました。レーザー照射の合計エネルギーが増えていくと、暗くなりながらスペクトルが右上がりになっていくという、イトカワのようなS型小惑星の宇宙風化の非常にきれいな傾向が見えます。

上画像:炭素質コンドライトの1つであるMurchison隕石のペレットを模擬宇宙風化させた反射スペクトル

一方、はやぶさ2の目標天体である1999 JU3の組成に似ていると考えられている炭素質コンドライトの宇宙風化の実験はまだ歴史が浅いです。次の図は、炭素質コンドライトの1種であるCM2のなかでは最も有名なMurchison隕石のペレットをレーザーで模擬宇宙風化させた結果です。全体的に右上がりだったスペクトルが平らに暗くなり(青化)、0.7ミクロンあたりの吸収帯が弱くなり、3ミクロンの含水鉱物中の水や水酸基の吸収も浅くなります。

しかし救いなのは、加熱脱水した隕石の場合と違って、3ミクロン吸収帯の形が変化していないように見えることです。そして、紫外域では反射率が逆に上がっていることがわかります。このあたりのことは、この前の夏にブラウン大を訪問してきた東北大の松岡萌さんが今年、Icarusに論文を出したので、そちらをご参照ください。

気が付くと、今回も仕事関係の話が占めてしまいました。聞けば、日本では戦後70年記念でありながら、安倍首相が進められた安保法整備に反対している人がいるそうで、国際的にみると不思議で滑稽に感じられますね。当たり前のことに反対して、日本を乗っ取ろうとしている悪党たちが喜ぶようなことを国民がしてはいけないでしょう。とは言え、大学や研究者の世界でもそういうことはあるかもしれないので、他人ごとではありません。とにかく、戦後70年にしてやって正直に当たり前のことを発言できる機運ができたことは喜ばしいことで、ネット空間の進歩に感謝すべきかと思います。そういえば、いつも私はネット空間はまるで霊界のようなものだと感じています、その話はまたいずれということで。
 

今日はお仕事の話

POSTED BY: Takahiro Hiroi | DATE: August 03, 2015

とうとう8月に入りましたね。今週から2週間ほどは、広島・長崎の原爆投下と終戦記念日に続く、70年前の大東亜戦争を思い出す期間です。前回の5月の帰国では広島を訪問したので、一層今回は強くかの戦争までの日本の立場と、70年たった今の我が母国のあり方に思いをはせます。昨日は、久しぶりに Peter Webber 監督による「Emperor」という映画を見ました。終戦時における天皇陛下の戦争責任に関する調査を任されたマッカーサーの部下の話ですね。「日本で一番長い日」や「プライド」、そして「永遠の零」をもまた見たい気分です。

上画像:RELAB から選んだ炭素質コンドライト粉末の反射スペクトル

さて、先週もお話ししましたように、11月の極地研での南極隕石シンポジウムと宇宙研でのはやぶさ2015シンポジウムに備えて、はやぶさ2の目標天体 1999 JU3 と似ていると考えられている炭素質コンドライト隕石の反射スペクトルの統計解析をぼちぼち初歩から学びなおしながらしています。最初の図は、RELAB データベースから私が選んだ、新鮮で良質な炭素質コンドライトの粉末試料の反射スペクトルデータです。

図では、はやぶさ2の母船に搭載された2つの日本側機器である ONC-T と NIRS3 に関係する波長帯を含む 0.3 から 3.6 ミクロンの範囲だけを示してあります。また隕石の種類ごとに色分けしてあります。ここでは、図中の縦の破線で示したように、ONC-T の六色のフィルターのうち、390, 550, 700, 860 nm の4つに注目し、NIRS3 の 1800 から 3200 nm の約 70 個のバンドのうち、2650, 2800, 2950, 3100 nm の4つに注目して解析します。

図で分かるように、破線の部分では各隕石試料のグループごとの特徴が出ていて、スペクトルの形が特に違い、反射率(明るさ)の違いはそれほど重要ではないかもしれません。それと、小惑星上では表面の 凸凹 や粒度の違いによって反射率は大きく変わりますので、スペクトル形状だけで判断できるアルゴリズムの方が便利です。なので、ONC-T の4つのバンドの反射率を 550 nm での反射率で割り算し、NIRS3 は 2650 nm での反射率で割り算した、各々3つの変量だけで統計処理することにします。

上画像:無料統計ソフト「R」でONC-T と NIRS3 の規格化3バンド反射率の主成分解析を行ったところ

統計処理の世界は幅広く深いと思うのですが、小惑星のスペクトル型の分類では最もよく使われている主成分解析を、無料ソフトである「R」を用いて行ったのが、次のスクリーンショットです。左のようにコマンドラインで関数を使ってやるのですが、基本的に Excel で作ったスペクトルデータを CSV 形式に書いたものを読み込んで、主成分解析関数で計算し、図に書くだけです。

図中の右側は ONC-T の第1と第2主成分のグラフで、データ点 I1 と I2 の CI コンドライト、M で始まる CM コンドライト、T1 のタギシュレーク隕石は分けられて、残りの CR、CV、CO、CK、そして加熱脱水した CI/CM/CR といった隕石は近くて分けにくいことがわかります。ここには示していませんが、NIRS3 のデータだと CR をも分けることができます。

まだ粗削りですが、伝統的な主観的方法、例えば、紫外吸収、0.7 ミクロン吸収、スペクトル傾きといったわかりやすい量を用いるよりは応用の幅が広いと思います。結果の解釈はもちろんより考えないといけないですが。はやぶさシンポのアブストラクトの締め切りはもう2週間以内にあるので、この程度で早目に書くことにします。
 

PreviousNext

 

 

Creating a better future by exploring other worlds and understanding our own.