The Planetary Society of Japan

ブラウン惑星人の日々 February 2015

私たちが言えなかったこと

POSTED BY: Takahiro Hiroi | DATE: February 17, 2015

ボストンはまたもや大雪で、今日日曜日は地下鉄も列車もバスも全て一日中止まっています。もちろん私のピーターパンバスも全面休業です。今日は週末だから仕事に行く必要がないですが、明日は Presidents' Day で普通は休日なのに何とブラウン大学はそれを守らずに営業しているのです。なので、バスが止まると困ります。いつも私は、8月の日本に勝った日(Victory Day)などという旧態然のロードアイランド州だけがいまだに祝っている日に休むのをやめて、Presidents' Day を休みにすべきと苦情を申しているのですが、一向に変化がありません。

毎日雪と格闘しながら職場へと往復するだけで代わり映えのしない毎日なので、この機会に、はやぶさミッションのピークの時の体験談を1つしたいと思います。

2005年の秋に、はやぶさは小惑星イトカワにランデブーしました。その間、私はボスのカーリーの理解を得て、何度もブラウン大からはるばる宇宙研まで来て、数週間ずつ滞在しました。リアルタイムで出てくる AMICA と NIRS のデータを見ながら、まずは何故 MUSES-C と呼ばれた平坦なレゴリス平原が強い宇宙風化を示さないのかとても疑問で、何度も NIRS データの信頼度を北里君らと確認しました。それで結局、MUSES-C はイトカワ上から集まったいろんなかけらの集まりなので、平均的な宇宙風化を示し、また極度に細かい粒子は常に失われつつあると言う考えが浮上し、かえって、Little Woomera(後に Arcoona と改名)などの岩肌の古い表面の方に高い宇宙風化度を示すものがあることがわかってきました。

この宇宙風化の研究には、当然のことながら、近赤外の反射スペクトルを取る NIRS とともに AMICA という多色カメラの威力が効いてくるので、AMICA チームの石黒君(当時はまだ若いポスドクでした)からいろんな多色画像を見せてもらいながら、どのように宇宙風化をマップしたらよいかを考えました。石黒君の観察でわかったとても重要なことは、イトカワが自転している間、どの地点の多色画像を見ても、色がずっと変化せずに見えていて、時期が変わって太陽光の位相角が変わったときだけ全体に色合いが変わると言うことでした。これを聴いて、私は、月のように平坦な細かいレゴリスの場所が多い地形と違って、イトカワ表面にはあまりに多くのボルダーや砂利と言った立体形状のものが多いので、異なる入射および出射角の光が多く存在して平均化しあっていて、位相角だけが共通なので、その関数として色合いが変わっているのだと思いました。

しかしながら、科学者たちを納得させるためには、反射スペクトルの傾きと言う、粒子サイズや光の角度に大きく依存するのものだと説得力がないと思い、当時すでに佐々木晶さんや上田君と一緒にやっていた普通コンドライトをパルスレーザー光線で宇宙風化させた試料などを用いて、いろんな入射・出射角での反射スペクトルを、安部正真さんの島津の分光器で可視領域だけ測定し、AMICA の多色バンドに対応する反射率がどう変化するかを速攻で確かめました。その結果、単純な傾きでなく、傾きの変化、つまり二次微分に当たる量を使えば、粒子サイズや角度に大きく依存しない宇宙風化度の指標が作れるとわかりました。

その指標を近紫外と可視領域で作成して、石黒君にマップを書いてもらいました。どちらも宇宙風化度を良く示してしたのですが、やはり紫外域の3バンドを使ったほうは S/N 比が良くないので、可視光領域の3バンドを使った指標が一番有用そうだとわかりました。それで、そのマップを書いてみると、単純に2バンドの比を取ってスペクトルの傾きのマップを出しても同じように見えることがわかりました。ですから、表面の凹凸があまりに多いイトカワ上の反射スペクトルにおける宇宙風化の効果は、入射および出射の角度の影響は消されて、ある特定の時期だけ見れば、イトカワ表面全体を2バンドの比だけでもかなり宇宙風化を相対的に見積もれるのだと理解しました。

そういう大きな発見をしたので、サイエンス誌から出す予定になっていた特集号には宇宙風化の論文を入れてほしいと思っていました。ところが、そのような議論をする科学会議が、私がいったんアメリカに戻る予定の日の1日後に予定されてしまいました。私はもちろん一番安い航空券で来ていましたから、アメリカン航空に電話して、何とか帰りの飛行機の日をずらしてほしいと頼みました。ところが、その手の格安チケットは変更は一切出来ず、帰りの分を別に買ってもらうしかないといわれました。私は、はやぶさ科学チームにおいて私の存在が如何に重要で、その会議に出ることが日本の惑星探査にとって如何に大切かを電話で力説したのですが、やはりアメリカの会社は日本のことなどどうでも良いのでしょうか、取り付く島もありませんでした。それでしょうがなく、幸いそれまでにたまっていたマイルを使って、帰りの便を取り直しました。

ところがところが、会議で如何に訴えても、サイエンス特集号の7本程度の論文は、プロマネと、各機器やプロジェクトの PI の論文などで占められて、科学成果として重要かつ AMICA の多色データを使った唯一の論文となる石黒君の論文は出せないと言うことになってしまいました。今でもあれは大きな間違いだと思っています。

上画像:はやぶさチームが寄せ書きをしたサイエンスの2006年の特集号(JAXA/ISAS:吉川真氏提供)

幸いにも、安部さん主著の NIRS チームの論文の際に私とアメリカ研究者の一部とのいざこざがあり、私が別個に Nature に主著論文を出したことと、石黒君が後に MAPS に論文を出すことが出来て、イトカワとのランデブーの結果として、この小惑星上で「現在進行中」の宇宙風化の存在が大きく証明されることになったと確信しています。

そんな教訓もあり、はやぶさ2ではプロジェクトサイエンティストである渡邊誠一郎さんには、機器の PI 毎とかでなくて、科学のテーマごとに重要な論文を出すことが非常に重要だと申し上げておきました。
 

5月帰国日程など

POSTED BY: Takahiro Hiroi | DATE: February 10, 2015

上画像:一層雪を積もらせたボストンコモン

ボストンを含むニューイングランド地方では先週からまた大雪が2日ほど降り、月・火と学校は休みになり、マサチューセッツ州営の列車およびバスは前面休業になり、私のブラウン大は明日は開くのと、私のピーターパンバスも走るので、明日は出勤です。雪に弱い都市は本当に問題です。雪をどける先がなくて、道が塞がれてしまうのです。地下に雪を下ろす空間とかあれば、水の貯蓄も出来てよいかもです。最初の写真は、金曜日の時点での雪の積もり方で、今は一層多くなっているはずです。

上画像:プロビデンスの下町の Au Bon Pain での半額セール

金曜日の夕方には、たまに行く下町の Au Bon Pain(フランス語で、オボンパン、おいしいパンという意味)というベーカリーにまた寄りました。私のバスが5時30分発なので、時間つぶしに寄る事も多いです。写真に写っているのは、夕方5時を過ぎると6時の閉店までに売れ残らないように半額セールになっているときのものです。幾つか買っていくと家族が喜びます。私の一番の好物は、写真で右上にポツンとある黒っぽい Carrot nut muffin です。ニンジンとナッツ以外にも玉ねぎとかも入っているような重厚なマフィンです。普通は $1.99 ですが、$0.99 になります。でも、使っている小麦粉がおそらく全粒粉ではないでしょうから、そこが玉に瑕ですね。血糖値のこともあり、あんまり食べないようにしないと。。。

なお、まだ3ヶ月先ですが、5月の帰国の日程を大まかに決めました。今回も12月と同じ、エア・カナダのトロント経由の羽田便で、今回は燃料費が下がったせいか $1211 で購入できました。


5月9日(土)ボストン発
10日(日)羽田着
11日(月)極地研で隕石受け取り、写真撮影など
12-15日(火-金)東北大で隕石試料の測定・分析、研究打ち合わせ、セミナーなど
16-17日(土-日)各務原に帰省
18-21日(月-木)大阪大学で分光測定と研究打ち合わせ
22日(金)極地研でカメラ返却、データ整理、次回試料請求、研究打ち合わせ
23日(土)羽田発
 

私の行ける範囲で、話を聞いてみたいという方がいらっしゃいましたら、早めに声をおかけください。タイミングしだいで、首都圏、仙台、東海、近畿地方なら日帰りでいけると思います。一泊旅行になる場合も、ちゃんとした招待状があれば、事務に交渉して出張できると思います。
 

氷点下でも半ズボン

POSTED BY: Takahiro Hiroi | DATE: February 03, 2015

皆様の多くが住まわれる日本はどうなのか知りませんが、このニューイングランド地方は先週も今週も大雪に見舞われています。前回も書きましたが、先週の月・火と雪で連休になった(した)おかげで、はやぶさ2科学会議にネットで参加できてよかったですが、今日は全くの意外な2度目の大雪で、子供の学校は今日も明日も休みになりましたが、私の働くブラウン大学は休みにならなかったのです。でも、通勤に使っているピーターパンバスが走っていないので、自然休日になってしまいました。

上画像:ボストンコモンに積もった雪

明日はバスも動くと思いますが、何と家を出る朝7時頃の体感気温は-10度Fとかになるそうで、それって-23度Cですよ。風がよそより強いボストンの下町のビルの合間を歩く途中で凍え死んでしまうのではと心配です。最初の写真はボストンコモンを抜けてビルの谷間に入る直前の数日前の状況です。今日はもっと雪が積もっているかもしれません。

上画像:プロビデンスの下町のケネディープラザでバスを待つ人々

こんな寒いときでも、アメリカ人って異常に薄着をしている大きな男性とかいるのですよね。次の写真は、プロビデンスの下町のケネディープラザで私と同じようにバスを待っている人たちですが、左のほうにいる男性は何と半ズボンをはいています。気温は完全に氷点下ですよ。子供ならわかりますが、いい歳のように見えますよね。

上画像:ブラウン大学のそばのサンタンデール銀行

ところで、今年の3月のLPSC(Lunar and Planetary Science Conference)のプログラムが発表されました。
” LPSC(Lunar and Planetary Science Conference)プログラム ”
今年の私のアブストラクトは共著も含めて4つだけですが、主著の炭素質隕石の異常な3ミクロン吸収帯の発表は、幸いにも口頭講演にしてもらえました。コンドライト構成要素というような、リモセン手法とはあまり関係ないセッションにポツンと入れられていまが、まあそのような変わった趣向も良いでしょう。せっかく口頭講演になったので、これから張り切っていろんな楽しいスライドを作らないと:)
 

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