The Planetary Society of Japan

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ハッブル宇宙望遠鏡が見た宇宙

Modified: December 03, 2016

Hubble Telescope 2002

 

2002年12月の画像

左右対称の惑星状星雲 IC 4406

画面は、瀕死の星が造る左右対称の惑星状星雲 IC 4406 である。中心部の複雑な筋模様は、ほかの領域より 1,000倍も密度の濃いガスとダストの集合体である。ガスの筋模様の幅は約 160 AU(約 1.5億キロメートル)もある。特徴的な筋模様が人間の網膜に似ていることから、網膜星雲とも呼ばれている。

ガスの原子は、中心星から放たれる光でイオン化され、酸素は青く、水素は緑そして窒素は赤く輝いて見える。この画面では見えないが、この星雲のには中性ガス(非電離原子のガス)が広範囲に広がっている。

これ等の高密度のガスとダストの集合体は消失してしまうのか、あるいは膨張しながらも宇宙空間に留まれるのか、その命運の行き着く先は分からない。IC 4406 は、地球から約 1,900光年離れた領域にある。画面は、2001年06月と2002年01月に撮影された画像は合成したもの。
 

 

2002年11月の画像

見せかけの銀河のペア

天体の見かけの位置にはとかく騙されやすい。画面の構図は、まるで大きな銀河とそのお供の銀河(伴銀河)のように見える。二つの天体はそれぞれ、時空を隔てた全く別の天体である。前に見えるのは渦巻銀河 NGC 4319、後ろに見える小さな天体はマルカリアン(Markarian )205 と呼ばれるクエーサーである。

NGC 4319 は地球から 8,000万光年先にあるが、マルカリアン 205 は地球から実に 11億光年も離れている。

NGC 4319 の左側に見える歪んだ暗い部分は、この銀河が画面には見えない別の渦巻銀河 NGS 4219 とずっと以前に衝突した後遺症である。NGC 4319 は、銀河どうしの衝突による銀河の進化に関する貴重な情報源となる。

マルカリアン 205 は地球に近いクエーサーの一つである。クエサーは、現在観測し得る最も遠い天体で、最も遠いものは地球から 100億光年以上離れている。以前は、神秘的な点としか認識されていなかったが、現在は最も明るい活動銀河の中心核と考えられている。こうした明るい光源は、おそらく巨大ブラックホールから供給されるエネエルギーのためであろうと考えられている。

マルカリアン 205 周囲の輝きは、この天体が放つ光のハロー(光輪)である(拡大画像を参照ください)。この画像は、1997年03月10日と2002年02月26日に撮影された画像を合成したもの。 注: クエーサー(quasar)は、準恒星状電波源(quasi-stellar-radio-source)と呼ばれ、見かけの割には極めて光度が大きく、赤色偏移(地球から遠ざかる天体が示す光のスペクトル現象)の大きく、1960年代に発見されたすべてが強い電波源であったことからこの名前が付けられた。
 

 

2002年10月の画像

珍しいリング状銀河

地球から6億光年離れたへび座にあるホウグの天体(Hoag's Object)と呼ばれる珍しい二重のリング状銀河。この銀河の直径は約 12万光年で、我々の天の川銀河よりやや大きい。外側の青いリングのほとんどは若い巨星からなる星団で占められていて、古い星で構成された内側の黄色いリング(銀河の中心)と鮮やかなコントラストを示している。

二つのリングの間にある暗いすきまのような領域には、非常に微かな星たちの群が存在していると考えられている。この暗い領域の時計で1時の位置にある赤い斑点は、このホウグ天体によく似た背景銀河のようである。

リング状銀河が形成される原因の一つとして、二つの銀河の衝突が考えられる。 しかし、このホウグの天体には衝突の証拠である銀河がひきちぎられて生じた残骸は何も見当たらない。おそらく、衝突が 20~30億年前に起ったためと考えられている。

ホウグの天体は、1950年に天文学者のアート・ホウグ(Art Hoag)により発見された。発見当初ホウグは、死を迎えた太陽型の星が形成する惑星状星雲と考えたが、後に銀河である事を示唆した。彼の予測は1970年代の観測で証明された。この画像は2001年07月09日に撮影された。
 

 

2002年09月の画像

死を迎えた星が造る惑星状星雲

地球から 2000光年かなたのいっかくじゅう座に位置する NGC 2346 は、我々の太陽と同じ質量の星がその一生を終える際にガスを放出して惑星状星雲を作る。太陽型の星は、その熱と輝きを支える核融合の原料となる水素を燃やし尽くすと、膨張して赤色巨星に進化する。宇宙に存在する星の多くは、我々の太陽のように単独である場合は少なく、多くは二つの星から成る連星またはそれ以上の多重星である。

惑星状星雲 NGC 2346 の中心星は距離が非常に近い連星である。赤色巨星に進化した一方の星がもう一つの星(伴星)を呑み込んでしまう。呑み込まれた星は、渦を巻きながら赤色巨星の内部へ降下して行く過程で、連星系の周囲に出来たリングの中へガスを放出する。

赤色巨星の外層が消滅して高温の中心核が露出すると、生じたより高速の恒星風がガスをリングに向かって垂直に吹き飛ばすため、ガスは二つの大きな泡に膨張する。こうして、蝶が羽根を広げたような双極性の惑星状星雲が形成される。この画像は、1997年03月06日に撮影された。
 

 

2002年07月の画像

宇宙花火のような星の最後

超新星爆発は、太陽より十数倍も大きい巨大な星がその一生の最後を迎えた状態である。

この大爆発の残りのガスが、赤、青、黄色などさまざまな色に輝いて、まるで花火のように漆黒の宇宙空間を飾る。画面は、約 1万年前、地球から約 11,000光年先のカシオペア座の中で超新星爆発を起こし、進化の最終段階を迎えた「超新星残骸」と呼ばれるカシオペアA(英語の文字を略して CasA とも呼ばれる)の姿である。 この超新星爆発の光が地球に届いたのは、今から約 300年前である。

カシオペア A は、太陽の 15~20倍の質量を持つ巨星で、我々の銀河系の中で確認された最も新しい超新星爆発である。こうした質量を持つ巨星は、燃料となる水素の消費が速いため寿命は約 3,000万年と短い。我々の太陽の寿命は約 100億年である。

美しい領域の幅は約 13光年、膨張していく CasA の上端を撮影した画像である。画面最上部で輝く小さいかたまりの一つ一つは、我々の太陽系の直径の数十倍の大きさがある。画面のダークブルーは、この領域で最も豊富な酸素、赤は硫黄が作り出す色模様である。

この超新星爆発で飛び散った物質の残骸は、長い間宇宙空間を漂い、やがてまた新しい星として甦る。2000年01月および2002年01月に撮影された画像を合成である。
 

 

2002年06月の画像

紫外線で見た渦巻銀河

ハッブル宇宙望遠鏡が紫外線で捉えた渦巻銀河 NGC 6782 で、通常我々が目にする回転花火に似た形の銀河とは異なり、明るいバルジを中心に全体がほぼ円いリングに見える。バルジを囲む内側のリングには、帯状に連なるたくさんの新しい高温の星のほかに、ガスやダストが存在している。NGC6782 は、地球の約 1億8,300万年光先にある。

銀河の中心部から伸びる微かな二本のアーム(渦巻の腕)が、背後の古い星が放つ金色の光の海にシルエットを落としている。アームの外縁に見える青い領域では、今まさに新しい星が誕生しようとしている。

紫外線の観測の優位性は、可視光線では不可能な長い赤色波長を発するはるか後方の巨大銀河と至近銀河の比較が容易に出来ることである。画像は、200006月22日と2001年06月09日に撮影された画像を合成したものである。
 

 

2002年05月の画像

天界のそよ風にゆらめく N 44C のフィラメント

しなやかに棚引く絹糸のようなフィラメント(糸状の筋)。N 44C として知られている若い星の集団を取り巻く電離水素の領域から吹き出すガスの流れである。地球から約 16万光年先の大マゼラン雲の中にある。この銀河は不規則銀河に属し、南半球の空にぼんやりとした斑点として見える。小マゼラン雲とともに、我々の銀河系の伴銀河である。

N 44C は、高温の若い星、星雲、超新星爆発で生じたガスの泡などで形成された巨大な電離水素の領域である N 44 の一部を成している。N 44C の明るさは、異常な高温の星たちの輝きのためである。若い星たちの質量は、我々の太陽の 10~50倍ある。こうした若い巨星の温度は通常、30,000~50,000 ℃ ケルビンであるが、N 44C を輝かせている星たちの温度は、高温で 75,000 ℃ ケルビンにも達している。

星たちのこうした異常な高温は、断続的に強力な X 線を放出する中性子星やブラックホールのためではないかと考えられている。この画像は、1996年11月13日に撮影された。
 

 

2002年04月の画像

レンズ型の棒状渦巻銀河 NGC 2787

明るい銀河中心に強く巻き付いた同心円状のダストのアーム(渦状腕)。NGC 2787 は、エドウィン・ハッブル(1889-11953)の銀河分類でいう、中心に棒状の構造体がある棒状渦巻銀河に属している。銀河全体の形状から、棒状レンズ型渦巻銀河とも呼ばれる。

このタイプの渦巻銀河は、巨大でダイナミックなアームがあって中心に棒状の構造体がない通常の渦巻銀河ほど派手ではない。しかし、この棒状渦巻銀河の中心は、銀河衝突と銀河の中心に存在するブラックホールの役割を含めて、銀河形成の過程を解き明かす貴重な手掛かりが秘められていると考えられている。

画面に見える 10個あまりの明るい斑点は、個々の星ではなく、お互いの重力で引き付け合う 10万個もの古い星で構成された星団である。NGC 2787 は、地球から約 2,400万光年先に位置する大熊座の中にある。この画像は、1999年01月29日に撮影された。
 

 

2002年03月の画像

オリオン座の LL Ori 星のボーショック

地球から 1,500光年離れたオリオン座には、次々に新しい星が誕生するオリオン大星雲(M 42)がある。ハッブル宇宙望遠鏡が、この星雲で誕生した若い星、LL Ori(オライ)によるボーショックを捉えた。ボーショック(bow shock)は、前進する船のへさきに生ずる波形が三日月に似ていることから由来している。地球圏についていえば、太陽風が地球の磁気圏にぶつかって偏向し、速度が急激に減少して生ずる磁気圏周囲の境界領域のことである。

LL Ori(画面の明るい点)のボーショックは、この若い星が吹き出すはげしい恒星風(太陽風と同じ高速の荷電粒子の流)が、画面右下に位置するオリオン星雲の中心から吹き上げるガスの流とぶつかり合ったため生じた。三日月形のボーショックが、画面にくっきり浮かび上がっている。この画像は199502月に撮影された。
 

 

2002年02月の画像

奇妙なうずまき銀河 NGC 4622

地球から 1億1,000万光年先のケンタウルス座(半人半馬のケンタウロスの化身として知られている)に位置するうずまき銀河 NGC 4622 は、時計回りと逆時計回りのアームを持つ珍しい銀河である。外側にある二本の大きなアームは時計回り、銀河中心の回転に引きずられた内側のアームは逆時計回りである。

こうしたアームの異なる運動はなぜ起こるのだろうか。天文学者は、別の銀河との相互作用でこうした動きが起こっていると説明している。つまり、NGC 4622 の中心部が伴銀河を呑み込んだことを示唆しており、異常なアームの運動を解明する手掛かりとなると考えられている。

また、通常のうずまき銀河は、アームの回転に引きずられて星やガスやダストの領域が拡散しているが、NGC4622 の場合は、細長いアームの中におさまっているのが特徴である。この画像は、2001年05月に撮影された。
 

 

2002年01月の画像

はっきり捉えられた暗黒星雲

至近の星が放つ明るい光りを背景に、逆さ吊りの蝙蝠のようにも見える黒い模様は、地球から約 5,900光年離れたケンタウルス座の散光星雲 IC 2944 の中のグロビュール(胞子)と呼ばれる比較的小さい暗黒星雲である。暗黒星雲の詳細な構造を観測した最初の画像である。

グロビュール(globule)とは、輝く星雲のような明るい背景に浮かび上がる、ガスやダストから成る暗く不透明な球形の小さい雲のことである(星の密集している領域を意味することもある)。画面の暗黒星雲は、1950年に天文学者の A.D.サッカレーにより発見された。この暗黒星雲は、別々の二つの雲で構成されていて、もっとも広い部分の差し渡しはそれぞれ 1.5光年ある。画面中央の裂け目のように見える部分が雲の境目である。これは、近くの高温の若い星が放つ強力な紫外線のためであると考えられている。この暗黒星雲は、星が誕生する領域で、全体の質量は我々の太陽の 15倍以上に相当する。

暗黒星雲は、1947年オランダ系アメリカ人の天文学者バート・ボークにより発見された水素ガスを放出している巨大な星形成領域である。暗黒星雲は、高密度のガスやダストで出来ているため、背景にある星の光りを吸収、散乱させて隠してしまう。1999年02月07日および2001年02月11日に撮影された画像を合成したものである。
 

 

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