The Planetary Society of Japan

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ハッブル宇宙望遠鏡が見た宇宙

Modified: December 03, 2016

Hubble Telescope 2001

 

2001年12月の画像

近傍銀河 NGC 6822 の中の巨星の誕生領域

燃えさかるキャンプファイアの炎のように見えるのは、ハッブル V と呼ばれる近傍銀河 NGC 6822 の中で輝くガスの雲である。初期の宇宙では、ごく普通に見られたと考えられている現象である。ハッブル V の直径は約 200光年、この中では新しい星がはげしい勢いで生まれている。画面の白い領域には、数十個の超高温の星が集まっている。天文学者にとっては、星の誕生に関わる新たな資料を提供する領域になるようである。この領域の星は、我々の太陽の 10万倍も明るく、年令は 4万年前後である。

NGC 6822 は、地球から 160万光年離れた射手座の中にある小さな不規則銀河で、天の川銀河に最も近い銀河の一つである。また、宇宙の初期に存在した銀河の原型であるといわれている。この画像は、ハッブル宇宙望遠鏡が持つ高分解能力と紫外線に対する高感度により、はじめて撮影が可能になったとのことである。1996年06月16日に撮影された。
 

 

2001年11月の画像

ひょうたん星雲

ひょうたん星雲は、地球から 5,000光年先の南天に位置する大きなとも(船尾)座にある。長さが 1.4光年、別名腐った卵星雲と呼ばれている。理由は、大量の硫黄を含んでいるため、卵が腐った猛烈な匂いを宇宙空間に放っているからである。

超高ワットの電球のように明るく輝く中央の星が、左右に高速(時速 150キロ)のガスが噴出するため、ガスと塵で出来た星間物質は押し広げられて星の周囲に外殻を形成する。これは、イオン化した高温の水素と窒素原子が放つ光りのために生ずる衝撃波である。つまり、死の断末魔を叫ぶ太陽型の星の様子をこくめいにとらえた貴重な画像である。明るい黄橙色の領域は、中央の星から噴出している高密度の高速ガスである。高速ガスの放出が始ったのは、わずか 800年前と考えられている。そして今から 1,000年後には、さなぎからかえった蝶のような姿に変身した惑星状星雲に進化するであろうと考えられている。2000年12月に撮影された。
 

 

2001年10月の画像

南天を飾る華やかなオメガ星団の中心領域

オメガ星団(NGC 5139)は、紀元140年頃、アレキサンドリアの天文学者プトレマイオスが明るい星座の一つに数えたケンタウルス座を代表する星団で、天の川銀河の中で最も大きく、最も明るい球状星団である。地球から約 1万7,000光年の距離に位置し、直径が 620光年にも達する非常に大きい星団である。

オメガ星団の中心領域には、数百万個もの星がひしめいており、地上の望遠鏡では個々の星を見分けることはできない。画面は、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている超高感度の WFPC2 カメラが撮影した直径 13億光年の中心領域である。この広角カメラの能力を以ってしても、これの広さの観測が限度であるとのことである。約 6万個の星が詰め込まれているが、年令が約 120億年位の古い星が多い。ちなみに、我々の太陽の年令は 46億年である。

画面で黄白色に輝いて見えるのは、この中心領域の大多数の星をしめる我々の太陽と同じ大きさの黄色矮星である。オレンジがかった黄色に輝く大きな星は、エネルギーのほとんどを使い果たして膨張し始めた赤色巨星である。直径は、我々の太陽の数百倍に膨れ上がっている。微かに青く輝くのは、矮星の段階から赤色巨星に進化しつつある星である。

オメガ星団は、その巨大さ故肉眼でも見ることができる数少ない球状星団の一つで、地上からは南天の明るく小さい雲のように見えるため、よく彗星と間違えられるそうである。この画像は、1997年06月11日に撮影された。
 

 

2001年09月の画像

次々に誕生する新しい星の光で明るく輝くスターバースト銀河 NGC 3310

一般的に、銀河における星の形成の割合は比較的低いが、スターバースト銀河では、非常に高い割合で星の形成が進行していると考えられている。次々に生まれる新しい星たちが星団を形成するため、スターバースト銀河は一際明るい青色に輝いている。

地球から約 5,900万光年先の大熊座の方向にある NGC 3310 は、けた外れの割合で星が誕生しているスターバースト銀河で、新しい星は渦巻く銀河の腕に沿って数百の星団を形成している。これ等の星団では、10万年以下の割合で 100万個の若い星が誕生している。銀河全域には数百個の極めて明るい星が存在する。

星団が形成されると、その中の巨大な若い星が燃料(水素)をどんどん燃やしていく。この過程で巨星は、時間の経過とともに老いて次第に赤味を増し、最後には色鮮やかな赤色巨星に変わっていく。NGC 3310 の星達は色から見て、年令は 100万年から 1億年以上に達していることが分かる。つまり、NGC 3310 は 1億年以上前に誕生した銀河で、別の小さい銀河と衝突して形成されてできた銀河であると考えられている。画面は、1997年03月と2000年09月に撮影された画像を合成したものである。

注:スターバスト銀河は、別名赤外線銀河ともいわれ、その全放射量の 90 % 以上が赤外線である。スターバースト銀河は、1983年に打上げられた赤外線天文衛星アイラス(IRAS)により発見された。
 

 

2001年08月の画像

真横から見た銀河 ESO 510 - G13

地球から約 1億5,000万後年離れた長大なうみへび座にある銀河 ESO 510 - G13 を真横から見た画像である。 ESO 510 - G13 がよじれて見えるのは、近くの別の銀河と衝突したためである。数百万年もすると二つの銀河は完全に融合して、我々の天の川銀河のようなうずまき銀河の姿に変わる。

銀河のへりがはっきり見えるのは、ディスクの周囲を取り巻く暗いダストが、銀河の中央のふくらみ(バルジ)から発せられる明るい光に照らされて浮かび上がって見えるためである。ESO 510 - G13 の周囲(特に画面の右側)には、ダストの他に青い領域が見える。これは、この銀河の中で形成されている若く熱い星が放つ光のためである。 こうした新しい星の誕生は、銀河どうしの衝突により星間ダストの雲がぶつかり合い、圧縮された時に引き起こされるようである。

この画像は、1993年12月に修理を終えたハッブル宇宙望遠鏡が撮影を始めて以来、10万枚目の画像である。2001年04月06~07日に撮影された画像を合成したものである。
 

 

2001年07月の画像

今までで最もダイナミックな火星の画像

13年ぶりに、火星が約 6,800万キロメートルの距離まで接近した先月26日、ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたダイナミックな火星の画像である。NASA によれば、火星表面の幅 16キロメートルのものまで捉えた史上最も鮮明な画像であるとのことである。

特に目を引くのは、砂嵐(ダスト・ストーム)である。北極冠の上空(画面上)では大きな砂嵐が荒れ狂い、そばには小さな砂嵐が見える。目を画面の下に移すと、もう一つの大きな砂嵐が見える。これは、南半球にある富士山もすっぽりのみ込んでしまうほど深い衝突孔のヘラス盆地周辺で発生した。この砂嵐は、ここ数ヵ月のうちに惑星規模に発達する可能性があると考えられている。

火星は 26ヵ月毎に地球に接近するが、その著しい楕円軌道のために地球に接近する距離は、5,600万キロメートルから 1億80万キロメートルまで差が生ずる。

NASA が2003年に打上げるマーズ・ローバー・ミッションが火星の地表に到着する2004年には、11924年以来初めて地球に 5,600万キロまで大接近する。次の大接近は2287年になる。
 

 

2001年06月の画像

さまざまな土星のリング系の傾斜

美しい9つのリングを纏ってゆっくりと太陽を回る土星は、外部太陽系に浮かぶ巨大な空飛ぶ円盤のようである。画面は、ハッブル宇宙望遠鏡が、 1996年10月、1997年10月、1998年10月、1999年11月及び2000年11月の5回にわたり、土星の自転軸の傾きによる北半球の季節の推移に伴うリング系の傾斜の変化を撮影した画像である。

リングは土星の赤道面上にあり、黄道面に対して27度(地球は23度)傾いている。土星が軌道を移動するにつれて、先ず一方の半球が、次いでもう一方の半球が太陽の方向に傾いていく。 こうした周期的な変化により、地球と土星の相対的な位置が変るため、リング系は地球に対して様々な側面を向け、縁の部分のみ見せる時(地球から真横に見える)や全面を見せる時もある。

画面は、秋分を過ぎた直後(一番下の画像)から、冬至(一番上の画像)に近づきつつある北半球とリング系の傾斜の様子を捉えたものである。土星のリングは薄く、厚さは 10メートル~1キロメートルに過ぎない。 リングは、直径数百メートルから米粒ほどの岩石や氷の粒子で構成されている。 リングがやや赤味を帯びているのは、水の氷に混じった有機物質のためである。リングの構成物質は、強力な土星の重力場の作用により絶えず破壊され、分散された状態に保たれている。
 

 

2001年05月の画像

人気の高い馬頭星雲

ダストとガスの雲海からぐっと頭を突き出した巨大な天馬のような馬頭星雲。馬頭星雲は、地球から 1,600光年離れたオリオン座の中の明るい輝線星雲 IC434 に影を落とす暗黒星雲(NGC2024)である。狩人オリオンのベルトを構成する三つ星の一つ、ゼータ星(左側の星)のすぐ南に位置している。オリオン座大星雲 M42 とともに、我々に近い星座の特徴的な天体である。

頭部はバーナード 33 とも呼ばれ、冷たいダストとガスでできた黒い雲で、うみへび座のわし星雲とともに無数の若い星が誕生する領域の双璧である。画面左上の明るい領域は、まさに星が誕生しようとしているところである。ダストとガスの雲は、この若い星と近くの巨星からの強烈な放射により徐々に消滅して行き、後に成長した星が残る。

画像は、2013年04月の観測による馬頭星雲の頭部。
 

馬頭星雲が発見されたのは1800年代末のことで、以来、観測技術を競うためにアマチュア天文家が好んで挑戦してきた。しかし、アマチュアサイズの望遠鏡では観測が非常に難しい天体であると考えられている。

馬頭星雲は、昨年行なわれたインターネット上の人気投票で圧倒的な支持を得た。 こうした経緯から、1990年に観測活動 11周年を迎えたハッブル宇宙望遠鏡の記念天体画像として公開されることになった。冒頭の上の画像は、2001年01月から02月に掛けて撮影された画像を合成したものを掲載していたが、ハッブルのものと取り替えている。
 

 

2001年04月の画像

渦巻銀河 M 51 は、若くてエネルギッシュな星の宝庫

北斗七星(大熊座)の柄の先には、親子が手をつないだように見えることから、子持ち銀河と呼ばれる大小二つの銀河がある。地球からの距離は 2,100万年光年。画面はその親にあたる渦巻銀河 M 51 で、プロ・アマを問わず天文学の好事家に最も興味を起させる銀河の一つである。M 51 のアーム(腕)の中では、成長した星が放つ光と若い星が放つ最も明るい光が交錯している。

NGC 5194 とも呼ばれるこの渦巻銀河は、画面上の枠外にある子供の銀河(伴銀河 5195)に接近している(5195 が入っている画像に差し替えた)。この伴銀河の重力は、M 51 の中に若くてエネルギッシュな星を誕生させる誘因となっている。これ等の若い星は群(星団)を形成し、放出する水素ガスの輝きで赤色に染まった帯となって見える。また、熱い水素ガスと冷たいダストで構成された渦のアームが、円盤状の中央の領域に結び付いている構造もはっきりと写し出されている。

M 51 の二本のアームに沿って垂直に且つ規則的に突き出ている拍車に似た構造体は、最新の画像で初めて発見されたものであるが、その実態の解明には更なる観測が必要との事である。また、円盤の中心核を形成するダストのディスクは、核内にあるブラックホールのエネルギーの供給源と考えられている。この画像は、1995年01月15日と24日、さらに1999年07月21日に撮影された画像を合成したものである。
 

 

2001年03月の画像

NGC 4013、真横から見た巨大な渦巻銀河

NGC 4013 は、地球から 5,500万光年あまり離れた大熊座の方向の領域に位置している我々の天の川銀河と同じ渦巻銀河である。 極を中心に上から眺めると、ほぼ円形の回転花火のようであるが、真横からは上の画面のような平べったい楕円形のディスクに見える。

NGC 4013 は非常に大きいために、5,500万光年先にあるハッブル宇宙望遠鏡の視野では、この銀河全体の半分をやや上回る領域を捉えるの精一杯であった。しかし、これまでになく渦巻銀河を詳細に写し出した素晴らしい画像である。 画面左上から右下にかけた銀河のディスク(黒い帯)の長さは 3万5,000光年になる。

この斜めの黒い帯は、背景にある星の光りをたっぷり吸収して浮き立つ星間ダストでできた雲である。 厚さが 500光年もあるこのダストの雲は、ちょうど銀河を二つに区分する黒い境界領域のように見える。 この領域を通過する光りは、塵の微小粒子により吸収されてより赤味を帯びる。

NGC 4013 はまた星の誕生する領域でもある。 この黒い雲が消え去ると、そこには青白く輝くたくさんの新しい星が群をなした星団が姿を見せる。画面中央付近の領域がそれにあたる。 画面左手で非常に明るい星は、たまたまハッブル宇宙望遠鏡の視野に入った我々の天の川銀河に属する星である。画面は、2001年01月25日にハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像を合成したものである。
 

 

2001年02月の画像

蟻の頭部に似たアリ星雲 Mz 3

地球から 3,000光年離れた南天のじょうぎ座にある惑星状星雲 Mz 3 は、地上の観測ではありふれた蟻の頭部のように見える。アリ星雲と呼ばれる Mz 3 は、まるで二匹の蟻が喧嘩か情報交換をしているようにも見える。しかし、ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた 10倍も詳細な画像によると、蟻の正体は最期を迎えた太陽型の星(二つの頭部の間に見える白い斑点)が左右に噴き出すガスであることが分かった。つまり、終末を迎えた我々の太陽が見せる衝撃的な姿を具現化したものであろう。

アリ星雲の特徴は、通常の星の爆発で見られる混沌としたガスの噴出ではなく、見事に左右対称形を示している事である。原因として二つの考え方がある。一つは、Mz3 の中心星の近くを回っている伴星の強力な重力で生ずる潮汐力のために、このようなガスの流れが形成されるという考え方である。

もう一つは、回転する中心性星の影響で磁場がエッグビーター(泡立て器)の中のスパゲッティのような複雑な形を形成し、そこに中心星から宇宙空間に放出される秒速 1,000キロの荷電粒子の流れ(太陽風の 100万倍も密度が高い)が絡み合うためとする考え方である。こうした密度の高い恒星風は、高温の中心星から発せられる紫外線や周囲のガスと高超音速で衝突してこれ等を激起させるため蛍光色に見える。 Mz 3 の幅は約 1.6光年(1光年=約 9.5兆キロ)。この画像は、1997年07月20日に撮影された。
 

 

2001年01月の画像

ドラマッチックな白熱の輝き、分子雲ハッブル - X

若い星がその成長過程で発する強烈な熱と光(紫外線)を受けて輝くガスの雲。ハッブル - X は、地球からわずか 163万年光先の射手座にある、銀河 NGC 6822 にある巨大な分子雲で、この銀河で星の誕生が最も盛んな領域の一つである。我々の天の川銀河で言えば、1,300光年先のオリオン星雲に非常によく似た領域である。分子雲とは、主に水素分子と一酸化炭素から成る直径が 150~250光年の高密度のガスの雲で、高温で大質量の若い星の星団がある領域でよく発見される。

このガスの雲は、1925年、エドウイン・ハッブル(1889~1953)がカリフォルニア州パサデナに近いウイルソン山天文台の口径 100インチの望遠鏡を使って初めて詳細な観測を行ったことから、ハッブルの名前がつけられた。

明るいほぼ円形の部分は、直径約 110光年のハッブル-Xの核である。この核の中心部には、何千と言う数の若い星が群を成している。ガスの雲の中心部にあるひときわ大きい白い点は、非常に明るい若い星を示している。この画像は、1997年09月07日に撮影された。
 

 

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