コロンビア号事故に際して


この度のスペースシャトルオービター・コロンビア号の事故に際し、犠牲となられた STS-107 ミッションクルーとご家族・ご友人の皆様、並びにスペースシャトル計画に携わる全ての関係者各位に、心から哀悼の意を捧げます。

私たちは、今回の悲劇を乗り越えて、事故原因を徹底解明して再発防止策を講じ、一日も早く人類が宇宙のフロンティアへの前進を再開することが、7人のパイオニアの遺志を継ぐことであると考えます。

またこういう困難な時こそ、宇宙研究開発への草の根の支援が一層必要であると自覚します。同じ宇宙探査を志す市民の集まりとして、安易な宇宙開発批判を慎み、不確定な情報に惑わされることなく、メンバー一人一人が今自分ができることは何かを考え、各々の立場においてそれらを日々実行していくことを、ここに確認致します。

2003年2月2日 小天体探査フォーラム(MEF)メンバー一同
 

STS-107事故関連リンク
「コロンビア」号事故関連の発表一覧(アストロアーツ社提供)
スペースシャトル コロンビア号事故に関して(宇宙作家クラブ有志声明)
 

 

ヒューストンの青い空

以下、個人的な話をお許し下さい。

今回のイスラエルによる高層大気発光現象の観測実験には私も少しだけ関わっており、STS-107 ミッション中にはオービターから送られてきたデータの一部をメイルにて受け取っていました。与圧部内実験には、NASDA が公募した日本の学生さんも数多く関わっていたと伺っています。ミッション中に地球にダウンリンクされた一部の科学データが、STS-107 クルーの形見となりました。地上に残された私達研究者がまずすべきことは、彼らが残してくれたデータから科学的成果を最大限に引き出すことでしょう。

また1997年に土井さんと一緒に初飛行をされたチャウラさんは、私がジョンソン宇宙センター(JSC)に勤務していた頃、食堂でしばしばお会いしていた、とても印象の強いチャーミングな方でした。毎日食堂で見かけていた JSC の飛行士の方たちが、今どんな気持ちで職場にいるのかを想像すると、悲劇の打上げ生中継を日本の自宅のTVで見ていた一高校生に過ぎなかったチャレンジャー事故よりも、自分自身の問題としてはるかに強く心が痛みます。同時に、NASDA ヒューストン駐在所にお邪魔するといつも温かく迎えてくださったローナ・オニヅカ夫人のお顔が、脳裏をよぎりました。

同じ職場にいた人がミッションに出たきり、二度と帰ってこない。現代日本ではそうした日常を過ごす人々は決して多くないですが、今まさに戦争勃発の緊張が高まっている地域では、それこそが日常です。有人宇宙活動も同じように高いリスクを伴う職業なのだということを、今回改めて実感しました。

有人宇宙活動を行うということは、技術開発途上で起こる悲劇を受け入れて、なおそれらを乗り越えてプログラムを推進する覚悟が、政府にも国民一人一人にも求められるということです。従来の日本では、宇宙飛行士は希少価値・高競争率という側面から羨望の対象になりがちでした。一方、米国の飛行士は現役だけでも100人以上もいる物珍しい存在ではありません。それにも係わらず、今なお彼らが国民からの尊敬を集めているのは、人類全体のフロンティア拡大のために自らの命をリスクに晒しながらも、笑顔を絶やさずにそのミッションを遂行させるからなのだと、私はヒューストン生活で悟りました。

事故の数日後に JSC キャンパスの中庭で催された追悼式は、NASA TV のインターネット中継で拝見しました。中庭を埋め尽くしたセンター職員の頭上には、17年前のチャレンジャー打上げ時のケープカナベラルや、先日のコロンビア帰還時のテキサス州上空と同じ、真っ青な空が広がっていました。私が住んでいたアパートから一番近い酒場だった The Outpost には、宇宙飛行士達のポートレイトが壁中にくまなく貼ってあります。その一角には、チャレンジャー事故の追悼式の写真もありました。ネットで見た追悼式ではそれと全く同じ光景が繰り返されていて、言葉が出ませんでした。

STS-107 もやがて、The Outpost の一角にコーナーが設けられるのでしょう。

実は、今週末に JSC の裏手にある月惑星研究所で開かれるワークショップの招待講演を引き受ける予定だったのですが、MUSES-C 総合試験のスケジュールが変更されて週末に担当作業が入ったために直前にキャンセルしていました。もしこんな時期にヒューストンに戻ったとしても、あの青い空を見てしまったら、心穏やかに学会発表などできなかったかも知れません。この偶然は天の采配だったのでしょうか。

犠牲者のご冥福と残されたご家族・ご友人に心より哀悼の意を捧げます。しかしそれらを乗り越えて、なお強力に宇宙研究開発を進めるために、私自身が今できることは何か。事故以来、ずっと考えています。

ISAS/JAXA 矢野創

 

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Modified : March 23, 2017

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