MEF 四周年に寄せて
~ワーキンググループ発足、はやぶさ一周年、そして変革のとき~


この度は、小天体探査フォーラム(MEF)の一般公開ページにお越し頂き、ありがとうございます。

MEFは、工学実験探査機MUSES-C「はやぶさ」に続く我が国の小天体探査案を市民の力で創り出す会員制eグループとして2000年春に発足し、本日で創立4周年を迎えました。これも一重にMEFメンバー諸氏の長きにわたるご参加・ご指導・ご支援、そして、本ページを訪問して下さった方々の応援のおかげです。改めて心より感謝申し上げます。

私は今、75cm主鏡シュミット望遠鏡を使った三大彗星の広視野観測のために、昨年5月9日に「はやぶさ」を打上げた旧宇宙科学研究所・鹿児島宇宙空間観測所(JKSC)、現在のJAXA内之浦宇宙空間観測所(USC)へ、一年ぶりに滞在しています。敷地内は去年の打上げが夢幻かのように人影もまばらで、小鳥や虫の声、風が森を駆け抜ける音、そして遠くの断崖で波が砕ける音だけが耳に届きます。M-Vロケット用ランチャーが設置された整備塔も、管制室のある丘から見下ろすと、まるで森に呑まれた前時代の遺跡のようです。夜半には漁火が南の空を照らし、山頂では闇夜に浮かび上がった真っ白な20mアンテナが、地球周回の科学衛星を追跡しています。

ロケットの打上げは年に数回しかない特別行事で、打上げ期間を外れた現在の静かな風景こそ、宇宙科学の支援と漁業、農業が共存する内之浦町の30年以上続いた日常です。都会で暮らすとGPSや衛星放送・通信など宇宙技術の恩恵を受けない日はない代わりに、宇宙で働いている衛星や惑星間空間を飛翔し続ける探査機に想いを馳せる機会は余りありません。ところが、豊かな自然と射場と地上通信局が一体になった内之浦では、宇宙と地上がこの場所で結ばれていると日々実感できるのです。MEF創設時の大きな目標は、一般市民が惑星探査計画の原案作りから現地で成果を挙げるまでのプロセスに参加するだけではなく、そのことを通じて、「誰もが自分も宇宙の一部であると自覚し、宇宙を身近に実感できる社会の創造」に貢献したい、というものでした。

今振り返るとその願いは、内之浦の日常を日本全国そして世界中に広げていくことだ、と言い換えられるのかも知れません。

そんな内之浦から飛び立ったはやぶさは、つい先週、USCの34mアンテナも駆使して地球スイングバイを成功させ、目標の小惑星「イトカワ」へ向かう軌道に乗りました。今週後半には再び電気推進エンジンを再点火する予定です。その二ヶ月ほど前には、MEFレポート最終版を土台にした提案書をISAS宇宙理学委員会に提出して、はやぶさに続く「小天体探査ワーキンググループ」設立の申請が行われました。審議の結果、無事認可されてワーキンググループは発足致しました。今週末にはいよいよ、第一回の全体会議が相模原にて開催されます。これによって、市民の力で作ったミッション案を日本の探査計画に直接反映させるというMEF設立当初の課題は達成されました。今後のミッション検討は、舞台をMEF会員ページからISASの公式組織であるワーキンググループへと移します。そしてはやぶさの製作・試験・運用で培った経験をフィードバックしながら、2-3年以内に日本が世界に誇れる次期小天体探査のミッション提案を作り上げ、数々の審査・選抜を勝ち抜いていかなくてはいけません。こうした新しい舞台への移行を受けて、MEF自身も変革が必要になります。

MEFは現在も200名余りの登録メンバーを維持し、通算1,600通もの通信を交わす活発なグループです。MEF一般公開ページでは、はやぶさ運用の最新情報、MEFレポート最終版のダウンロードページ、MEFメンバーの著作の紹介、近年増えている宇宙関連市民・学生団体・ベンチャー企業の紹介など、小惑星にとどまらない「惑星探査の日本語ポータルサイト」としての新コンテンツ掲載に力を入れた結果、開設3年目の今春に十万ヒットの大台を超えました。日本惑星科学会と提携した日本の惑星探査に関する学生インタビューも、好評のうちに最終回を迎えました。

来年はペンシルロケット初実験50周年。はやぶさ探査機もイトカワに到着して科学観測とサンプル採集を行います。今以上に日本の惑星探査への期待が大きくなるでしょう。そんな中でMEFは社会に何を提供できるのか? 特に小天体探査ワーキンググループの活動が本格化する今年、MEFはこれまで実績を礎にしながらも、新しい目標と実施体制、活動内容を再定義して、宇宙科学・開発のアウトリーチ分野でさらに大きく進化することが期待されています。メンバーの皆様とよく相談して、具体的な方針を遠からず打ち出したいと考えております。本ホームページにお越しの皆様からも、率直なご意見をぜひ頂きたく存じます。5年目のMEFにも今まで以上のご支援・ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2004年05月25日 ISAS/JAXA 矢野創
2004年,JAXA/ISAS内之浦宇宙空間観測所・シュミット望遠鏡運用室にて

 

お気軽に参加登録ください。
” 小天体探査フォーラム参加登録 by FreeML ”
 

Modified : March 23, 2017

Page Top