The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1999

 

マーズ・グローバル・サベイヤー:火星のクローズアップ

[ 1999年05月/06月 ]

Jennifer Bohn

 

マーズ・グローバル・サベイヤー(MGS)による、待望の火星のマッピング・ミッション(地形図製作のためのミッション)が始まった。火星から次々と新しいデータが地球に送られてきている。この中に、高利得アンテナが作動した1999年3月28日以降撮られた高分解能の画像が含まれている。このアンテナの制御装置に問題が生じたため、MGSは最初の3週間、高利得アンテナを展開しないまま作業を続けた。この状態にも拘わらず、ミッションの最小限の科学探査の目的は達成された。

メインアンテナを安全に保護しながら、探査機は火星の軌道を9周(約18時間)する間、全ての観測機器を火星に向けデータを収集し、次に3周(約6時間)する間は、データの収集を中止し、機体を回転させながら地球にデータを送った。高利得アンテナが使用可能になると、データの送信効率は飛躍的に増大した。MGS操作の責任者であるNASAジェット推進研究所のジョセフ・ビーラーは、「高利得アンテナの展開は、まるで家庭用のホースから消防ホースに切り換えたようなものだ」と語っている。

おかげで、情報は搭載されたソリッド・ステート・レコーダーに1日24時間記録され、1日に1回地球に送信される。3日毎に第2チャンネルを使って「生データ」が直接地球に送られる。これらのデータは火星表面の高分解能画像を含み、1秒間に4万から8万ビットの送信スピードで送られる。2年間にわたる軌道の微調整の結果、グローバル・サーベイヤーの軌道は、ほぼ正円となる太陽同期軌道に移っている。この軌道では、MGSは火星のある一定の場所でも同じ時間に通過するよう設定されている。探査機は火星時間午後2時頃、赤道を横切って昼間の面を北に向かい、午前2時頃には赤道横切って夜の面を南に向かう。これから2年間、MGSは火星全域のマッピングを行なう。
 

観測第一日目に、搭載されたマーズ・オービター・カメラ(MOC)はアージャイル平原の東側で微笑みかける「幸せな顔のクレーター」に迎えられた。正式にガレと命名されたこのクレーターは、直径約215キロである。この写真は赤と青のフィルターを使用して撮影された。画面で青味がかって見えるのは冬季の降霜によるものである。「幸せな顔」は、探査機バイキング1号によって発見された。
 

 

隕石が惑星表面に激突した時の衝撃は、爆弾の爆発と同じである。このテラ・メリディアニ地域の二つのクレーターには、衝突により吹き飛ばされた跡が黒く写っている。噴出物の方が黒く見えるのは、地表を貫いた衝突の力により、地表下の黒い物質層が掘り返され、画面に見られるように放射状に撒き散らされたからである。こうした衝突で地表下の物質が露出していることは、科学者にとっては、火星の地表下の物質の性質や組成を知る上で大変貴重である。大きいクレーターの直径は約89メートル、小さい方は約36メートルである。
 

 

MOCは最近火星の西半球にある三大火山の一つ、パボニス山東側の低斜面にある一連の楕円形の窪地を捉えた。この写真は幅3キロ、長さ3.4キロの範囲を撮影したものである。窪地は、幅約485メートルの浅い溝の中央に沿って連なっている。溝の両側は崖で、断層が線状に見える。この種の溝は地質学者の間ではグラーベン(地溝)溝と呼ばれ、プレートの運動で地殻が割れるか、または溶解した岩石が深部から地表に吹き出し地面が持ち上げられた時に出来る典型的な地形である。
 

 

MGSが火星の大気の抵抗力を利用して減速して撮影した、火星赤道近くに位置するスキャパレリ盆地の南側の縁の画像である。大きな白い矢印は、黒味がかった急峻の断崖を指し示している。小さな白い矢印が指しているのは、明らかに断崖の急斜面を谷底まで転がり落ちた巨礫(直径約18メートル)の一つである。比較的柔らかな埃っぽい斜面に巨礫が残した筋が何本も見える。初めて火星で見られた礫岩の筋跡である。
 

 

1993年3月、MOCが撮影したマリナー峡谷系にあるメラス・カズマとカンドール・カズマの目を奪う広角画像である。画面に写っているのは地域は、横80キロメートルで縦220キロである。下に見えるのがメラス・カズマ、上に見えるのがカンドール・カズマである。この写真は峡谷の側壁の地質層が何であるかを示している。カズマの谷底のアルベド(反射係数または明るさを示す数値)と色彩で黒い砂と明るい堆積物及び岩石の分布状況が分かる。写真の色調は人間の目に実際に写るものではなく、コントラストをはっきりさせるために色調を調整したものである。
 

 

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