The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1998

 

木星の衛星エウロパの謎

木星の衛星エウロパには、その謎に迫れば迫るほど我々の心をとらえて離さない不思議な魅力があります。探査機ガリレオの赤外線カメラで、撮ったこの衛星の表面に水和塩ミネラルが豊富に存在することが発見され、ますますエウロパに対する興味が高まりました。何故かといえば、この物質の存在はエウロパに液体の水があるはずだからです。液体の水があれば、有機分子があり、エネルギーが発生し、そして生命が存在するかもしれないからです。筆者は、本誌の編集長です。[ 1998年09月/10月 ]

Charlene M. Anderson(本誌編集主幹)

 

エウロパの凍った表面の下に、何が横たわっているのでしょうか。この問題について、関係者の間では様々なアイディアが出ています。水の海洋が存在する根拠は、次第に出揃ってきています。今では、エウロパの表面の色は何のせいか、海洋はどんな匂いなのか、というような更に難しい問題の探求がなされています。エウロパ・ミッション画像チームのリーダーであるロン・グリーリー氏は、エウロパの謎として、「全域ではないが、表面の直下に見られる広範囲の暗い物質の層」を指摘しています。この層は、衝突により氷った地殻の下から噴出した噴出物の層の中に見られます。この層はまた、地殻を縦横に横切る奇妙な三重の帯のような地形に沿っても見られます。あるいは、乾燥した水溜まりかもしれない窪んだ地域にも見られます。

ところで、ガリレオ・ミッションの近赤外線マッピング分光計(NIMS)チームが、この謎について解決の糸口となる論文を科学誌サイエンスに発表しました。論文によれば、近赤外線マッピング分光計により、エウロパの表面に水和した物質のスペクトル特性が検出された、ということです。「水和」とは、ミネラルの形成時に水が入ることで、この過程は液体の段階で起ったはずです。従って、これ等のミネラルの水和物は、液体の水の中で形成されたことになります。「だからこそ、エウロパでミネラルの水和物が見つかったことに、我々は興奮しているのだ」と、チームの一員で惑星協会の審議会の委員でもあるアドリアン・オカンポ氏は述べています。
 

NIMSの高分解能データ。塩の混合物は、可視光で暗く見える領域(リネアと呼ばれる細長い模様を含む)で支配的であるとの結論が、科学者によりなされました。この画像では、赤い領域は水和塩が最も集中していることを、ダーク・ブルーの領域は比較的純粋な水の氷であることを示しています。
 

 

NIMSは、人間の目に近い感度を持つソリッド・ステート(半導体)カメラを通して様々な波長で観測します。NIMSは、惑星の表面を覆う化合物を識別するように設計されています。強力な機器ですが、物は人間の目に写るようにはいきませんので、NIMSのデータで作られた画像は少し異様に見えます。これは、NIMSのパスバンドで見たエウロパの画像です。紫色は比較的純粋な水の領域で、黄緑色はより暗い物質で汚染された領域です。NIMSの科学チームによれば、暗い領域は、溶解した塩分が豊富な表面下の水が、氷を通り抜けて噴出し、蒸発し、そして塩分を含んだ残留物を残した際に形成された蒸発性堆積物であるとのことです。この解釈は、エウロパの地殻の下に海洋が存在するという仮説と一致しています。
 

では、どんな種類のミネラル水和物なのでしょうか。スペクトル的に最も合う(確実ではないが)のは水和塩で、地球上では、アメリカのデス・バレーでよく見られる硫化マグネシウムに似ています。この極端に乾燥した環境下では、地表に溜まる水はミネラルと反応して塩を作り、そして蒸発します。これに似た凍結乾燥の過程が、氷で覆われているにもかかわらず、大気が薄すぎて水蒸気を保持できないエウロパでも起こっているかもしれません。

ガリレオ・ミッションの科学者の多くは、この水和塩説を受け入れていますが、未解決の点が残っています。エウロパの水和塩の領域は、固体撮像素子画像カメラ(SSI)の可視スペクトルによると、赤と黄色に写っていまますが、本来は白く見えるはずです。何かで着色されていますが、それは何なのでしょうか。

一つ考えられるのは、太陽の紫外線の放射と木星の途方もなく強力な磁場により叩き出された荷電粒子が、塩を着色する化学反応を引き起こすことです。また、SSIチームのポール・ガイスラー氏は、イオの火山で汲み上げられた硫酸塩が、「ガニメデ、カリスト、エウロパの表面を着色してしまい、そのため最も澄んだエウロパの氷でさえも黄色に染まっている。これは古い硫黄のせいでそうなる」と指摘しています。ガイスラー氏は、NIMSの測定は正しいが、「私には、これが全てだとは思われない。SSIが短い(可視)波長で撮影したものは、NIMSでは解析できない」とも述べています。SSIの画像には、塩あるいは硫酸塩では説明ができない赤い成分が見られます。これは何なのでしょうか。

コーネル大学の研究室では、カール・セーガン、ビシュン・ハーレ両博士とスタッフが、同じ赤っぽい色を帯びた炭化水素化合物を作り出すことに成功した。彼等はこの化合物をソリンと呼び、この化合物またはこれと似た化合物が生命につながる化学反応を起こす役割を果たしていたのかもしれないと考えました。ガイスラー氏によれば、「ソリンと水の氷を混ぜると、ガリレオのカメラが見たものとぴったり一致する化合物を得られる」とのことです。

NIMSのデータで、エウロパが有機化合物(有機とは、化学では炭素を含むことを意味し、必ずしも生命生成の過程を意味しません)を含んでいるのではないかとの疑問が増します。NIMSのスペクトル・データでは、エウロパに炭素と水素、および炭素と窒素の化合物が存在する可能性を示唆されています。これ等のデータを重ねあわせて、地殻の下に水の海洋が横たわっているエウロパの姿を想像できます。海洋の水は塩の味がします。塩っぽい海洋は、生命の素となる炭化水素でできているかもしれません。

エウロパは、言葉には表わせない素晴らしい可能性を秘めています。ガイスラーも躊躇なく認めているように、こうした可能性を考えると、「間違いなく、夜も眠れない」ということになります。
 

エウロパの合成画像。この画像の西側(左)に見える中央の暗い領域には、地球で起るのと同じような断層により形成されたと思われる崖と台地が見えます。東側には、なだらかな斜面が横たわっています。何か黒っぽい物質が下から噴出し、明るい地面と尾根を覆っています。暗い物質は、液体あるいはどろどろした状態で湧き出して、近辺の衝突クレーターに流れ込んだものと、科学者は考えています。これ等の衝突クレーターは、マンナナン・クレーターを形成した衝突で飛び散った屑でできた二次クレーターかもしれません。これは、1998年3月29日に撮られた画像を合成したものです。
 

 

無人探査機が訪れた天体の一つ一つには、それぞれの美しさがある。この平野に尾根が走るエウロパの画像は、筆者の目には、他の天体から送られてきた中で最も美しい画像の一つに映ります。ガリレオが撮った他の画像とはやや異なって見えますが、これは太陽がエウロパの上空の高みにあった時に撮られたからです。照明で、エウロパの表面を覆っている霜のコントラストを強くしたために、このモノクロ画像には、ほとんど銀色に近い輝きがつけられています。
 

おそらくエウロパの岩石でできた核内の潮汐熱により引き起こされたと思われる地殻変動の力が、繰返し氷の殻を押したり引いたりしたために亀裂ができ、このため交差する幾組もの長く平行に伸びる尾根が形成された。おそらく表面下の海洋から塩分の混じった黒っぽい氷が尾根の麓に押し上げられて、麓の縁や谷の中に暗い堆積物を残しているのです。画像の右上の隅には、幅約 2km のはっきりと見える暗い尾根の中に、この過程の痕跡が見られます。そしてこの尾根は、平野に続く亀裂により深く切り込まれています。この画像は、ガリレオのSSIが1997年12月16日に、左右 20km の地域を 26m もの分解能で撮ったものです。
 

 

エウロパを最接近通過した際、ガリレオ探査機のカメラがエウロパを斜め上から撮った画像で、我々が航空機の窓から見るのと同じような眺めが写っています。画像の下の地形は、上の地形よりもずっと近く見えます。明るい尾根が、暗い物質で埋められた低い谷と交差しています。画像の中央の近くでは、尾根と谷が黒っぽい乱雑な丘陵にとって替わられてられています。小さい円形の地形は、おそらく衝突クレーターでしょう。 これは、最高の分解能で撮られたエウロパの画像で、1997年12月16日に、エウロパの表面からから僅か 560km 上空で撮られたものです。撮られた地域は幅約 1.8km で、6m の細部まで見えます。
 

 

エウロパの衝突クレーターは、他の太陽系のどの地形とも異なっています。エウロパで最も大きい独特のピウイル・クレーターが見えます。エウロパの全体図では、このクレーターから光条が放射されていますが、これは、地質学的にエウロパが若いことを示しています。直径約 26km のピウイルは、衝突により放り出された暗い物質のハロー(円形状に広がっている状態)に囲まれています。ハローの先には、衝突時に生じた屑でできた二次クレーターがあります。拡大された小さい四角の部分は、ガリレオが2回のフライバイで撮った画像を合成したもので、ピウイルの底部は、周りの平原とほとんど同じ高さでであることを示しています。他の天体に見られるクレーターと異なる様相からすると、隕石衝突後の間もない暖かくて軟らかいエウロパの地殻では、冷たく硬い物質で形成される古典的衝突クレーターの形を維持できなかったようです。
 

 

この画像は、ドイツ航空宇宙研究所(DLR)の科学者が作成した、ピウイル・クレーターのクローズアップで、垂直方向に4倍率で拡大したカラー・パースです。中央の頂はクレーターの縁から 600m 以上の高く聳えています。
 

 

凍ったプレートが割れて、離れて漂い、ねじれ、そして再び凍って固いプレートに戻る。これは、エウロパのコナマラ・カオスという名前のちょっと混沌として見える氷殻の画像です。この画像の上半分には、末端が高さ 100m 以上の断崖になっていることを除けば、ちょっと波形のボール紙のように見える氷の台地の連なりが見えます。断崖の基線には家の大きさの、屑の塊が見えます。地球上の高速道路くらいの広さと思われる亀裂が、画像を横切っています。1997年12月16日に撮られたこの高分解画像は、直径 6m の細部を示したもので、1.5km x 4km の地域を直径 6m の細部までとらえています。
 

 

この画像は、エウロパの一部分を横切って刻み込まれた自然が引き起こした大災害の傷跡のように見えますが、作用する力は地球の岩石質の地表を引き裂く力とは全く異なっています。ここでは、全域を覆う氷の殻が液体か粘性のある層の上に浮いているのです。これは、なじみのない地質で、科学者が研究中です。この地域の主役は、はっきり見える2本の尾根です。左上から下に走っている尾根は、古くて、暗くて、比較的平らで狭い直線状の隆起線と溝が特徴です。2本の盛上がった縁と中央に谷が見える、若くて、でこぼこした、明るい尾根が古い地形(尾根)を横切っています。古い尾根の幅は約 2km、若い尾根の幅は約 3.5km あります。
 

この画像の右下には、約 30km2 の広さの暗い滑らかな地域があり、そこでは、温められた氷が下から湧き上がって、明るい高地を包み、島型の地形を形成しています。この画像は、1997年12月16日に、15km x 20km 余りの地域を撮ったものです。この画像に見える最小地形の大きさは、直径約 26m です。
 

 

エウロパでは、大きな衝突クレーターは稀です。絶えず動く氷の殻のために、このような(衝突の)傷跡は地質学的には短期間(おそらく数百万年)に修復されてしまうからです。このようにクレーターが少ないということは、我々の目に触れるエウロパの地表が若くて活動していることを示唆しています。ということは、地表の下に海洋が横たわっていることを裏付けることになります。これは、マンナナン・クレーターを横に切り取った画像で、縁(右)とクレーターの内部を示しています。画像の右端には、、周りを同心円状の割れ目で囲まれた大きな窪みがあり、その中心から暗い亀裂が放射状に伸びています。
 

 

近い過去に、エウロパの殻が割れ、その断片が引き離されると暗く汚れた氷が湧き上がって隙間を埋め、そして凍結しました。以上、科学者はエウロパのこの歪曲した地域について、このように語ります。画像の左下に、表面にそってやや曲がった織り込まれたような暗い地形があります。右には、明るく尾根が交差した古い地域があります。両方の地形を切り裂いて横切っているのは、沢山の小さい台地と暗い汚染された氷で満たされたより若く明るい尾根です。エウロパの殻は、繰返し繰返し、おそらく大惑星の木星とエウロパより大きい衛星のガニメデとカリストの潮汐力により引き起こされた火山活動により、下から放出されるエネルギーによって引き裂かれてきたのです。この画像は、約 10km 四方の地域を 26m の分解能で撮ったものです。
 

 

Creating a better future by exploring other worlds and understanding our own.