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ディープ・スペース1、21世紀の探査技術
より速く、より良く、より安く」は、NASAが宇宙探査の新世紀計画で掲げる新しいモットーである。小惑星探査機Deep Space 1 の打ち上げは、新世紀誘計画における導技術の開発にうまく生かされるかどうか、そのテスト・ケースとなる。筆者のロバート.M.ネルソン氏は、ジェット推進研究所(JPL)のDS1ミッションの担当科学者である。マーク.D.レイマン氏はDS1ミッションの主任技術者であり、このプロジェクトの次席主幹である。[ 1998年05月/06月 ]
Robert. M. Nelson, Mark. D. Reiman
今年の夏、NASAは小惑星探査機、ディープ・スペース1(DS1)の打ち上げで宇宙探査の革命的な第一歩を踏み出す。飛翔の間、探査機は小惑星3352マコーリフ、火星そしてウエスト・コホーテク・イケムラ彗星と遭遇する。しかし、その主たる目的はこれらの天体の探査ではなく、新千年紀計画の一環として、もっとエキサイティングな未来の宇宙科学探査への地ならしをすることである。
既に、NASAは小惑星、彗星、そして火星へのミッションは経験がある。にもかかわらず、何故DS1が特別なのか。それは今回のDS1ミッションで、次世代の深宇宙探査の土台を築く基礎技術として役立つ10余りの革新的な技術が披露されるからである。これらの新技術で最も重要なのは、太陽熱発電による推進方式(SEP)で、現在使用されている標準的な化学推薬による推進方式では実現性に乏しく、経済的にも見合わないあらゆる種類の野心的なミッションが可能になる。
1999年1月、DS1は小惑星マコーリフを通過して、2000年4月火星をさっと通り過ぎ、同年6月ウエスト-コホーテク-イケムラ彗星に接近する。途上、太陽熱発電推進の性能をテストする。新しい技術の精査がこのミッションの焦点である。余裕が出れば、DS1は太陽系の幾つかの余り知られていない小天体のデータを収集する予定である。
試運転
DS1は、低コストのデルタII型系列の最初のロケット、デルタ7326でケープ・カナベラルから打ち上げられる。DS1は非常に小さく、この経費節約型ロケットでさえ、探査機をもう一機 -- 地球周回衛星SEDSAT -- を同時に搭載できる。このSEDSATは、アラバマ州ハンツビルにあるアラバマ大学の学生が製作したものである。
打ち上げられると、DS1はミッション推進チームによる点検と運行確認後、いよいよSEP方式による推進を開始する。強力な瞬間着火型の推薬を燃焼させて長い惑星間航行をする代わりに、SEPは、希薄ではあるがイオン化されたキセノンの非常な高速流により推力を持続させる。この高速流は静かで且つ安定した推力をもたらすので、惑星間航行の間、探査機をほとんど継続的に加速してくれる。
SEPの推進力は小さいが、イオン・ロケット・エンジンの排気速度は従来型の化学推薬の速度よりも数倍速いという長所がある。結論としては、同じ重量の搭載物を同じ目的地に運ぶには、SEPは化学推薬のロケットに比べて遥かに少ない推薬で済む。静かな推進では、探査機の航行速度を上げるには時間が掛かる。従って、SEPが向いているのは高エネルギーか長期間のミッションだけである。
打ち上げの1ヵ月以内には、DS1は殆どの主要任務を終え、我々も搭載された最新技術の機器類の評価を終えているであろう。仮にこの最新技術が探査機の航行中に機能不全となり、そのために探査機を失うような事態に陥るにしても、それが将来の科学ミッションを果たす上でのリスクを減らすという計画の目的を達成するものであれば、今回のミッションは成功であると考えてよいかもしれない。本当のDS1の価値が見直されるのは、このような将来の宇宙探査においてである。しかし、今回の高度の危険を伴うDS1のテスト飛行で、その科学的成果を得るための試みがなされる。
正確な打ち上げ日程と新技術の作動如何によるが、順調に行けば、DS1は1999年1月20日頃小惑星3352マコーリフを、2000年4月20日頃ウエスト・コホーテク・イケムラ彗星を2000年6月2日頃接近通過(フライバイ)する予定である。2000年4月20日頃の火星との遭遇では、火星のスイングバイにより、科学観測を行なうための新技術を試す絶好の機会が訪れる。
DS1の飛行では、新技術の自律性、太陽熱吸収パドル及び各種の通信機器および電子工学機器のテストが行われる。この場合の自律性とは、探査機が自分自身で判断を下せることを意味するが、それが出来ればNASAの深宇宙通信網(DSN:惑星間飛行をしている探査機の制御・司令のたに用いられる通信用ネットワーク)に掛かる重い負担を軽減することができる。今後益々多くの探査機が打ち上げられるにつれて、DSNが今迄のような頻度で全ての探査機と連絡を取ることはますます困難になる。この自律制御技術で探査機が地球からの指示なしに独自に長時間航行ができれば、DSNの貴重なリソース(交信能力)は他に振り向けることが可能になる。これに加えて、探査機に更に責任を持たせることで、通信時間差によるロスを防ぎ通信効率を上げることができる。
こうした潜在的な利点があるにしても、搭載される自律制御装置をはじめて使う場合には、リスクが付きまとうことは誰でも容易に分かることである。もしDS1の自律制御装置が思惑通りに行くならば、DS1ミッション・チームは更に自信を以って探査機により多くの決定権を与えることができるであろう。
DS1の強力な自律制御技術の一つに、ナビゲーション・システム(航行装置)がある。この装置は、宇宙の星々を背景にして見えるメイン・ベルトの小惑星を利用して探査機の現在位置を割り出すものである。探査機が移動するにつれて、前面にある目標(小惑星)は、背景の星とは別に動くように見える。この見かけのズレ(または視差)が、航行装置に位置の情報を与え、探査機はこれに基づいてその位置を三角測量で測定する。航行装置は事前に計算して決定した軌道上の位置を利用して、SEPの推進力、太陽や惑星の引力及びその他探査機に及ぼす力への対応を行なう。航路を外れていることが分かると、推進装置はSEPの方向ないしは時間を調節して航路の修正を行なうことができる。
新たな焦点: 多機能の計測機器
上記の技術装置以外にも、DS1には宇宙では初めてその性能をテストされる2台の科学計測器が搭載されている。集積回路を内蔵した小型分光カメラ(MICAS)と惑星探査プラズマ実験器(PEPE)である。MICASは感光チャンネルを二つ持っている。一つは紫外線感知分光器で、もう一つは赤外線分光器である。MICASは地球や月と同時に様々の観測対象の恒星や惑星の画像やスペクトル・データを送ってくる。これらの天体から得られるデータは、多岐にわたるる計器の機能を一つにパッケージ化するという技術上の再構築の一助となる。MICASは、DS1の飛行行程で遭遇する太陽系の他の天体も探査し続けることになっている。
PEPEは宇宙環境の重要な部分を占めるプラズマ、つまりイオン化したガスを測定する。PEPEの測定で、目標となる天体近辺のプラズマの流れが分かるだけでなく、SEP自身の推進効率も分かる。SEPは正荷のキセノン・イオンを放出し、機体を電気的に中性に保つために、負荷の中性子を放出する。放出されたこれらのイオン分子は、太陽風の作用で探査機の周りに複雑なプラズマを作り出す。実際のところ、DS1の評価の最大の課題は、SEPを実行しながら実質的に太陽風の測定ができるかどうかである。
MICASとPEPEは、惑星間を飛行する探査機に搭載される科学機器の発達の新しい方向付けとなる。これ等二つの機器で、深宇宙を探査した探査機の五つ分を賄う能力がある。MICASは、可視光撮影装置、紫外線分光器及び赤外線分光器としての役割を果たす。PEPEは、イオン分析器と中性子分光器の両方の役割を果たす。MICASとPEPEを合わせても、機能は従来の機器の機能すべてを代替することはできないが、物理的に場所を取らないこととエネルギー節約型であるので、「より速く、より良く、より安く」というミッションには最も相応しい技術である。
DS1と後発の新千年紀ミッションは、NASAの太陽系探査の新しい試みに直接大きく貢献する。SEPにより、遠隔の目的地により速く接近できる。自立制御性により、ミッションの経費削減の効果がある。高度のマイクロ電子機器や通信装置のお陰で、新世代のコンパクトな計器類を搭載した小型の探査機でこれ等のミッションが可能になる。新千年紀ミッションの計画により、NASAは技術的にも予算的にも、従来の十年に数回から1年に数十回の打ち上げができる。地球の空を彩ったかのへール・ボップのような彗星のように予期せぬ素晴らしい訪問者がまた現れれば、探査機を打ち上げてこれを出迎える準備におさおさ怠ることはないだろう。
DS1のようなミッションのリスクを負うことで、NASAは将来、ロボット(そして究極的には人間)による宇宙の探訪者が、太陽系及びさらにはそれ以遠から定期的にエキサイティングな新発見のニュースを地球送ってくる時の到来の準備を着々と備えつつある。
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