The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1998

 

マーズ・グローバル・サベイヤーの科学探査に関する最新報告

1997年9月12日に火星軌道に到着以来、マーズ・グローバル・サーベイヤーは火星の地形について大きな発見を成遂げ、我々に貴重な科学データを送ってきている。本文は担当の科学者である、オールビー氏が現在までのグローバル・サーベイヤーの観測簡単にまとめたものである。筆者は、マーズ・グローバル・サベイヤー・ミッションの専任科学者である。[ 1998年03月/04月 ]

Arden L. Albee(MGS ミッションサイエンティスト)

 

その火星地形の観測軌道が定まると、マーズ・グローバル・サーベイヤー(MGS)はデータの収集を開始した。MGSから送られてくるデータで、火星に関する我々の古い知識は削り取られ、そしてやがては、新しい知識に置き換えられることになるだろう。これまでの探査で最もマスコミの注目を集めているは、火星全域に広がるありきたりの磁場ではなく、その地殻の中に点在する幾つかの小規模で独特の特性を持つ磁場の発見である。しかし、MGSは砂嵐の発生や太古のロッキー山脈を彷彿とさせる眺望など、この他もっと多くの火星の情報をもたらしてくれている。

大気の観測

観測史上初めて、MGSは火星の大規模な砂嵐の発生を捉え、その発達から消滅に至るまでの全てを観測した。1997年の感謝祭の日に、南極の極冠の縁沿いに小さな塵嵐が発生し、やがては南大西洋を覆うくらいの大きさに発達した。MGSは、熱線赤外放射分光器(TES)で大気の温度やその不透明度を測定して気象のメカニズムを詳細に観測し、マーズ・オービタル・カメラ(MOC)でその状況を記録した。

砂嵐の影響は、探査機(MGS)が空気制動で周回する上空 130km の高度まで及んだ。この砂嵐が12月中旬頃迄に静まるにつれて、再び小規模の局地的砂嵐が南極の極冠の縁沿いに発生し、気圧の低下と共に氷の雲も再び発生した。この砂嵐の影響で、浮遊塵が大気中を漂い、空気制動で軌道周回する探査機はその度に、気圧の大変動の影響を蒙った。この砂嵐の季節の最中に、本当に火星全体を覆砂嵐が起きるのか待ちどうしい。
 

地表の観測

MOCは塵嵐の映像を広角で撮影しただけでなく、高分解能で多くのクローズアップ画像も記録してくれた。お陰で、砂丘や他の風によって作られた地形が見られた。その中には、冬に飛行機から見るコロラドのロッキー山脈に不思議とよく似た光景、つまり、ドライな粉末状の雪(火星では埃)から突出した岩の尾根、耳たぶ状の岩塊の多い尾根の斜面そして雪崩が斜面を滑り落ちてできた筋の跡などの画像があった。地表は未だ冷たすぎて観測の条件はベストではなかったが、TESによる赤外線分光器で地表を数回測定した。今迄に得られた最高のスペクトル測定結果で、明らかに、輝石、斜長石、マグネシウム硫酸塩(エプソム塩)が混ざった珪酸塩鉱物が存在する兆候が認められた。
 

地形の観測

火星周回レーザー高度計(MOLA)は、北半球のほとんど全域を、18 の地域にほぼ等分して、非常に高い分解能で撮影した。北半球の殆ど全域は極端に平坦である。それでも、火山、峡谷、尾根、クレーターそして北極の極冠の縁などの複雑な地形の詳細な地形図を作成できた。これらの地形を形態的に分析することにより、火星の地表過程の新しい理解につながっていくのである。最終的には、地表下に隠された火星の内部過程を分析してみたい。
 

磁気の観測

磁力計(MAG)や電子反射計(ER)を使って調べると、火星には、ほとんどの惑星で見られる惑星規模の磁場とは異なり、その地殻内に存在する小規模で強い磁気を持つ磁場が存在することが特徴である。この小規模(50km クラス)且つ強力な磁力は地球上の同じ規模の磁場に比べて遥かに強力であり、この磁場は、かつて火星に惑星規模の磁場が存在していた頃に形成された地殻の特徴であることを示唆している。この仮説の裏付けは、このような特徴は殆どが、新しい火山地帯ではなく太古の火山地帯で発見されることである。
 

マーズ・グローバル・サーベイヤーが撮影した、巨大なスキアパレリ・クレーターの真南の狭い地域の素晴らしい画像。Aは、バイキング・オービターが撮影した最も鮮明な画像である。Bは、MOCが1997年10月18日に撮影したもので、Cは、これを拡大したものである。
 

第一の発見は、峡谷の底に沿って左から右(北から南)へ走る小さな砂丘で、スキアパレリ・クレーターの明るい色の堆積物で形成されたものと思われる。形や相互の関連性から、これらの砂丘は最近まで活動していたことを強力に示唆している。第二の発見は、比較的明るい峡谷の底を横切る微かな線の見える窪みである。(一番はっきり見えるのは画像Cの中央)

これらの窪みと線状の模様は、アメリカ大陸の南西部に見られる渇水湖床と類似している。明るく見える物質は湖水が蒸発した時に堆積した塩か他の鉱物であり、黒く見える線は、物質が乾燥しきって出来た割れ目かもしれない。
 

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