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小惑星エロスに接近中の NEAR 探査機
1999年1月、探査機NEARは地球近傍小惑星433エロスに到着し、1年以上にわたりエロスの観測を行なう。NEARミッション・チームのメンバーである筆者が、NEARが挙げるであろう成果を予測する。スコット L.マーチーとジェームズ V.マックアダムスはジョン・ホップキンズ大学応用物理学研究所に勤務、マーク S.ロビンソンとジョナサン・ジョセフはノースウエスタン大学とコーネル大学にそれぞれ勤務している。[ 1998年11月/12月 ]
Scott L. Marty, James V. McDamas, Mark S. Robinson, Jonathan Joseph
スペースアーティストのマイケル・キャロルが描いた、探査機NEARがクローズアップするであろう小惑星エロスの想像画。
宇宙科学が今ほど面白い時はない。火星やエウロパに生命が存在する可能性とか、その他の恒星周辺の惑星に関する情報が次々と入ってくる。そして今、NEARミッション(地球近傍小惑星遭遇計画)が、地球の原材料ともいうべき小惑星を理解する上で決定的な貢献をしようとしている。 1999年1月にNEARは、小惑星エロス433の表面地形の測量、その組成の測定および地表下の調査など1年に及ぶ探査を開始する。小惑星を探査する初めての試みから、何か得ることができるのか。その答えは岩石にある。
地球上の岩石は、恐竜、 消えた海洋、大陸などを語る地球の歴史の記録である。但し、地球は非常に活動的な惑星であるため、誕生直後の最初の十億年間の記録は、 侵食や地質構造の変化なのでほとんど残っていない。 空気のない月面の岩石も初期の記録を残しているが、その月といえども活動を繰返しており、太古の惑星進化の記録はその岩石から抹殺されている。 しかし、小惑星は太陽系の最初の1億年以降ほとんど変化していない。
小惑星に関する我々の知識の大部分は、小惑星の破片である隕石の研究から得られている。その化学組成や含有鉱物から見ても、 ある種の隕石は、初めて太陽系星雲(塵とガスでできた回転する円板、これが凝縮して太陽系となった)からできた時からほとんど変化していない。また他の隕石の中には、短い期間ながら激しい活動の痕跡を残しているものもある。 このような活動は、 密度の高い鉱物の融解、凝固および溶岩流として小惑星の表面に噴き出した密度の低い鉱物の増加などを含み、大きな小惑星の内部で起っていた。 ただ残念なことに、隕石は古い台本の切れ端のようなもので、どの隕石がどの惑星から来たのか判別できず、太陽系初期の進化の「大絵図」は依然として謎に包まれており、また論争の種となっている。
Sタイプ小惑星
宇宙望遠鏡の観測では、小惑星は種類によって太陽系に占める位置が異なるようである。Cタイプの小惑星は炭素に富んでいると考えられているが、このタイプは小惑星帯の外側に多く位置している。1997年6月、NEARの小惑星マチルド253のフライバイにより、初めてCタイプの小惑星を見ることができた。
ケイ酸塩の岩石が豊富なSタイプの小惑星は、小惑星帯の内側に位置しており、 地球近傍小惑星に共通したタイプである。 探査機ガリレオは、二つのSタイプの小惑星の近くを通過した。ガスプラ951とアイダ243(小惑星の番号は発見順につけられる)である。 両方とも不規則な形状で、クレーターが多く、様々な岩石の種類を思わせる微妙に異なった色彩で斑状を呈している。アイダには、ダクティルと名づけられて小惑星さえある。
フライバイだけでは、Sタイプ小惑星の大いなる疑問に答えるには不十分だった。即ち、Sタイプの小惑星は、原始の岩石かそれとも進化した岩石のいずれでできているのか、どこから来たのか、内部はどうなっているのか、宇宙空間に何億年もの間晒されていた地表はどのようにして形成されたのか、隕石と小惑星の関連は。そして我々の太陽系の進化を理解する上で、どのような関わりがあるのか等々である。小惑星は固い塊なのか、それとも岩石の破片が互いの重力でただ単に積み上がっているだけなのか、それすら定かではない。
NEAR計画は、こうした事を背景に登場した。 NEARは軌道からでなければできない、詳細にして系統立った地形の観測と測定で、これ等の疑問の解決に応えようというものである。 この目標にエロスが選ばれた。その理由の一つとして、エロスはSタイプの小惑星の本流であり、またその全体像がよく分かっているので、軌道からの探査には適しているからである。 1975年にエロスが地球から 1300万マイル以内の地点を通過した時には、宇宙望遠鏡やレーダーによる観測作戦が展開された。
エロスは約長さ 35km、幅 14km の細長い船体のような形をしており、一方の側は平坦で、別の一方はまるみを帯びている。 エロスは太陽を643日で回り、 太陽からの平均距離は 1.46AU(天文単位のことで、約 1.5億km)である。 しかし、その軌道は変則的で、太陽には 1.13AU まで接近する。
エロスは5時間17分強を周期(1日)として自転している。 天王星のように、 エロスも自転軸が一方に偏っているために、 季節の変化は極端である。NEARがエロスに接近する時は、南極はほぼ太陽方向を向いており、北極は完全な暗闇の中にある。地球の1年にわたる観測期間の間に、太陽はエロスの赤道を横切り、最北の緯度には1999年12月19日に達し、その後再び赤道上の緯度に戻る。
NEARミッション
NEARミッションは、NASAの委嘱によりメリーランド州ローレンスにあるジョン・ホップキンズ大学の応用物理学研究室が設計、製作、管理を担当する。このNEARミッションでは、惑星探査における数々の初めての試みがなされる。「より速く、より良く、 より安く」をモットーとするNASAのディスカバリー計画における最初のミッションであるばかりではなく、小惑星の軌道に投入される最初の探査機であり、しかも到着するまでは目標の正確な大きさも質量も分からない天体の軌道を初めて周回する探査機でもある。そのために、ミッションの設計は弾力的でなければならない。
探査機が行なう六つの科学実験は、様々な方法でエロスの地表や内部に関する我々の疑問の解明に応えてくれるはずである。その中の二つの実験は、探査機の科学探査と宇宙航行の二つの任務を果たす使命が課せられる。
エロスとの遭遇過程のほとんどは、マルチスペクトルカメラ(mSI)による撮影(一日4回またはそれ以上)に割り当てられる予定である。光学航行という技術を駆使して、画像のスペシャリストが画像に写し出される目印となる地形を追跡してエロスと探査機の位置関係を割り出し、探査機が正しい軌道を保つための操作を行なう。科学探査の面では、mSIがエロスの形状、地形および色の特性を順次観測する。これは、それぞれ異なる岩石の形態や表面を形成した過程を解明するためである。
電波科学機器は、探査機がエロスの引力の影響を受ける時に、その速度(ドップラー効果)の変化で生ずる電波周波数のわずかな変化を追跡に使用される。引力の強さが分かれば、小惑星の質量を計算できる。これは、探査機の接近飛行の計画には必要である。画像から認識されるエロスの形状や質量の測定は、 エロスの密度の決定に利用される。密度は、エロスの内部構造や岩石の種類の分布を知る上で非常に重要な糸口となる。
その外の科学機器は、エロスの表面とその内部を詳細に測定する。エロスから反射する太陽光のスペクトルを測定する赤外線分光計(NIS)は、地表の組成の測定に役立つ。X線・ガンマ線分光計(XGRS)は、天然の放射性元素の放射や高エネルギーの太陽光線や宇宙線の放射によって引き起こされる薄幸に非常に敏感なので、シリコン、マグネシウム、トリウム、ナトリウムのような微量元素を測定する。NISとXGRSを並列使用すれば、どちらか一方の単独使用よりも、エロスの岩石のタイプをずっとはっきり知ることができる。
NEARのレーザー・レーダー(距離測定器)は、エロスの形状を数メートルの誤差以内で正確に読み取ることができる。この極めて正確な距離の測定とエロスの異なった地点での重力のの電波による科学計測で、エロスの内部の質量が均等に分布しているのか、あるいはふきんと不均等なのか解明できるであろう。この鍵となる結果が分かれば、エロスが凝集性の塊なのか、ただ単に破片の積み重なりなのかが分かる。
磁力計はエロスに磁場があるかどうかを探査する。 磁場があるとすれば、その強度、形状が分かるであろうし、ニッケル鉄隕石のように、豊富な金属鉄の存在の強力な証拠となるであろう。
軌道の工夫
NEARを目標に到達させるためには、ミッション計画にちょっとした工夫が必要とされた。地球からエロスに直行するためには、 ディスカバリー計画の予算を上回る大型ロケットが必要だったからである。従って、直行ルートの代りに、打ち上げ後、探査機は長い環状ルートをとって小惑星帯に達し、それから地球の軌道に戻り、地球スウィングバイを利用して機体を傾けてエロスの軌道に合わせるように調整された。小惑星の軌道は、黄道(地球の軌道面)に対して11度傾いている。
1998年12月20日を皮切りに、探査機は、主力エンジンを4回点火して減速して、3週間後にはエロスを周回する高高度の楕円軌道に乗る予定である。 ミッション管制官は、1999年1月末には、探査機を高度 200km の円形の探査軌道に誘導するために必要な情報を十分得ているはずである。
NEARが安定した軌道を保つためには、不規則な形状に起因するエロスの引力を探査機の軌道からほぼ取り除かなければならない。この安定を保持するためには、探査機は軌道を逆行して、エロスの自転方向とは逆方向に移動することになる。南極を向いているミッションの初期段階では、探査機の軌道はエロスの昼と夜の面を別ける明暗境界線を飛行する。探査機に固定式の太陽電池パネルや観測機器が搭載されているのは、この軌道方向を計算してのことである。NEARの設計はコストを節約するために簡略化されているが、ミッションの後半には、ちょっと変わった飛行をする予定である。
1999年8月になると、エロスにはそれまで暗闇だった北半球を明るく照らし始める春分がエロスを訪れる。逆行軌道を保ちながら太陽電池パネルを太陽に、観測機器をエロスに合わせておくためには、探査機は飛行方向を逆向きにしなければならない。この方向転換は、赤道上空の軌道周回を南北両極を結ぶ軌道周回に移すことで可能になる。探査機は一気に高度を上げ、方向を逆転して高度を下げる。極軌道に移ることにより、今までは真横に見えていたエロスの北極と南極の上から観測ができるようになる。
2000年2月末までには、NEARは陽の当たる地域も日陰の地域も含めて、エロスの全域を正確に観測し終えているだろう。ミッションの終了に備えて、NEARは高度をエロスの上空 5km まで下げて、非常に高い分解能の観測を行なう予定である。
NEARの映像を見よう
NEARは、現在エロスに接近中である。エロスの科学探査に興味を持つ人であれば誰でも、NEARによる素晴らしいエロスのフライバイをインターネットでご覧頂ける。大いなる期待のもとに、エロスの科学探査はこの12月27日から始まる。そしてこの科学探査の過程で、エロスの衛星を探査するために、周囲の宇宙空間モザイク画像を作成するための4回のうち、最初の撮影が行なわれる。その後の数週間の科学探査で得られる一つの成果は、エロスの自転の模様を収めた一連の画像である。
この回転の連続画像には、太陽光の当っているエロスの全ての地表の形、色彩および地勢が調べられる。カメラのフレームにきっちり収められる最後の連続画像の撮影は、1999年1月9日に、1300km の高度で行われる予定である。自転するエロスの全体像は、その他の画像や科学探査のデータと併せて、インターネット上の最も話題を呼ぶサイトになるはずである。
NEARが円形のマッピング軌道した後は、1999年の大半を、NEARから送られてくる前例のない素晴らしい画像を次々にお楽しみ頂けます。3月末までには、エロスの南半球と赤道付近を直径 12m の分解能の立体カラーで撮影しているであろう。1999年の半ばまでには、マルチスペクトルカメラと赤外線分光計で、エロスの全地表の画像とスペクトル画像を 2.5m の分解能で撮影するであろう。最終的には、NEARはエロスの上空 5km まで降下し、直径 1m 以内の分解能で地形を撮影するであろう。
来るべき年は、小惑星の詳細が科学フィクションから科学的事実になる時になることは間違いないであろう。何が起こるか、NEARのウエブサイトにご注目頂きたい。
左側
アイダ(ガリレオ)、エロス(NEAR)、ガスプラ(ガリレオ)、ダクティル(ガリレオ)
右側
マチルド(NEAR)
傍線 = 10km.
小惑星はそれぞれ、実物のサイズ比で表示されている。エロスの線画図は、レーダーと望遠鏡の観測のデータからの推定したものである。
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