The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1998

 

氷と水と火と。探査機ガリレオの衛星エウロパの探査

ガリレオ探査機は、本来の木星系探査を今終えた。このミッションでは多くの発見に恵まれたが、中でも最も興味を引くのは、エウロパの地殻の下に存在すると思われる海洋であり、おそらくそこには生命が生息しているかもしれないということである。引き続き、ガリレオはエウロパの氷、木星の水そしてイオの火(火山)を探査する次のミッションに向かう。筆者はジェット推進研究所(JPL)の技術者で、ガリレオ・ミッションの対外広報を担当している。[ 1998年01月/02月 ]

Leslie L. Lowes

 

想像を絶する宇宙の寒さで水が凍り、ちょっと手で触れただけで脆くも崩れてしまいそうな氷の天体、そのすぐ近くの高温の硫黄が噴き出す間欠泉の下でドロドロに溶けた岩石が流れているという全く様相を異にする天体、そして宇宙空間を背に数時間で姿を変えながら立ち昇る雷雲を起こし、何世紀もの間暴風に晒されてきた色とりどりの巨大な雲を作り出して明るく輝く天体に遭遇することを想像してみてください。
 

エウロパ(氷の探査)
1997年12月16日~1999年2月エウロパを8回周回する
最接近:エウロパ上空 200km
 

 

木星(水の探査)
1999年5月5日~9月16日木星を4回周回する
最接近:木星上空 46万5000km
 

 

イオ(火の探査)
1999年10月10日~12月31日
イオを2回周回する最接近:イオ上空 300km
 

 

探査機ガリレオ(以下ガリレオ)は、2年間に及ぶ木星系の氷、水そして火、即ち、衛星エウロパの氷殻、木星の雷雨混じりの嵐、そして衛星イオの激しい火山活動を探査するガリレオ・エウロパ・ミッションを開始した。

1995年12月7日、地球から6年の旅の後、ガリレオは初めて木星に到着した。イオのスウィングバイを終えた後、ガリレオは主エンジンに点火し、減速しながら周回軌道に入った。ガリレオは木星大気に放ったプローブ(大気探査機)から酔疚なデータを採集し、太陽系最大の木星の軌道を11周して2年間にわたるミッションで木星とその衛星の驚くほど詳細なデータを明らかにし、その主要な使命を果たした。

このデータにより、例えば、新たに水の存在が確認された(木星の組成は、主に原始水素とヘリウムの混合物であるとされていた)。また、 木星の雲の上層では水が循環しており、そのためにある領域では雷暴風に似た現象が生ずる反面、他の領域では信じがたいほどの乾燥していることも明らかになった。ガリレオは、ガニメデが固有の磁場を持つ太陽系初の衛星としての新しい側面を明らかにした。また、びっしりとクレーターに覆われたカリストでは、地域によっては非常に細かいダストの層で覆われていることも教えてくれた。1979年にボイジャーが初めてイオを観測して以来、その表面は絶え間なく変化を続けていることを明らかになった。ガリレオの送ってきたデータから、科学者達はエウロパの氷殻の下に比較的新しい地質過程の時期存在した海洋(今もなお存在しているかもしれない)証拠を発見した。

1997年12月7日で終了する予定であったガリレオ・ミッションは、NASAと下院の承認により1999年いっぱい続けられることになった。ガリレオ延長ミッション(GEM)の活動は3段階に分かれ、それぞれ厳密に特化された目的が与えられた。即ち、1)氷の探査のエウロパ・キャンペーン、2)軌道修正による木星への最接近と木星の水を探査、及び 3)イオ・トーラス環(ドーナツのような3次元の環)通過を含む水の探査、そして火山の探査を行なうイオ・キャンペーンである。
 

エウロパ・キャンペーン

第一段階のエウロパ・キャンペーンで、ガリレオは1年以上の探査で初めてエウロパを8回周回して、その凍った表面の下に海洋が存在するかどうか更にその証拠を探し、海洋が(あるとすれば)現在も波打っているかどうかを見極める探査を続ける。科学者は氷の火山を生み出している表面を隈なく走査し、その下に奔流する水があるかどうか直接の手がかりを求める。また、クレーターの数を調べて、大変滑らかなこの衛星の表面の年齢を特定する手立てにしようとする。つまり、クレーターの数が少なければ少ないほど、表面の年齢は若いことになる。ガリレオは、氷殻の厚みのばらつきや表面下に存在するすると思われる海洋の深さを知る手がかりを探すために、エウロパの重力の作用を測定して幾層もの氷殻の内側を覗き見ることになっている。流動する塩分を含んだ海洋は磁場を生む可能性があるので、科学者はエウロパの最も近くで探知される磁気がその内部から生じているものかどうかも調べることにしている。

200~3600km の距離でエウロパに接近することにより、ガリレオは南・北極地帯を含むこの衛星周囲の詳細な画像と大気のデーターを得るであろう。この時にはメイン・ミッションの3倍もの分解能が得られるので、幅 6m(トラック大)の分解能で地表の詳細な画像も撮影できる。また、3Dカメラで、エウロパの比較的平坦な地形の高さの測定も行なう。更に、10km の分解能で氷の分布や組成を測定し、おそらく隕石か流星の衝突、或いはエウロパの内部から生じたかもしれないと考えられている氷の不純物の測定も行なう。
 

この写真は、エウロパの表面に見られる筏に似た氷の集合体の領域で、大きさは地球上の都市に匹敵する。集合体はばらばらに破壊されて、浮いているように見える。左側のサン・フランシスコ湾の写真と比べると、このエウロパの領域の規模と分解能の程度が分かる。
 

上空から覗いた木星の近木点を低くすることは、一時的に行われる予算切りつめの常套手段でもなければ、国の債務を縮小する類のものでもない。つまり、ガリレオがイオのフライバイを行なうために十分近い木星周回軌道に乗せるためになさねばならないのである。1999年年末から半年間、連続4回の軌道周回の間に、ガリレオは推進エンジン点火による微調整航行をしながら、カリストの重力を利用して木星への最短距離を更に半分に縮める予定である。

木星に到着して以来、初めて最短距離から木星を覗き込むことで、ガリレオは、地球の雷雲の数倍の高さで咆哮する木星の雷雲をはじめ、風や暴風のメカニズムを詳細に観測する。
 

 

大赤斑
木星の大赤斑はほとんど4世紀もの間、共通の研究課題であった。このガリレオの画像では、太古の嵐のメカニズムを連想させ巨大な雲(切り取り線)がたった数時間で発生しているのが見られる。
 

木星の最上層では、水は垂直に循環しており、そのためにサハラ砂漠より以上に乾燥した広い領域が存在するかとおもうと、地球の熱帯地方のように水浸しになっている領域も存在する。木星の水の分布図を作り、水が木星の気象に果たす役割を知ることは、地球の気象が益々早いスピードで変化している原因を突きとめる上で参考になる。
 

 

木星の暗黒の「ホット・スポット」周辺を撮った画像で、上は自然色で、下はフォールス・カラーで撮ったものである。ホット・スポットの中へ大気は下降して完全に乾燥した後上昇に転じ、周辺で激しい強烈な雷雲に似た雲を作る。
 

 

「氷」から「火」へと軌道を通過する毎に一度、ガリレオはイオのトールス環、つまりイオの軌道を取り巻くドーナツ状の荷電粒子の雲の中を、猛烈なスピードで突き進む。ガリレオは、噴火でイオの地表から流出する硫黄の密度を測定し、回転する木星の磁場の中を動き回る粒子により地表から砂塵のように吹き飛ばされるナトリウムやカリウムも測定する。
 

イオ・キャンペーン

ガリレオ衛星の中で木星に最も近いイオは、太陽系で最も火山活動が激しい天体で、ジュウジュウ音を立てて絶えず硫黄や珪素を噴出している。イオの火山は、地質活動がなければ硬いはずの地表が 100m にも及ぶ収縮により引き起こされる潮汐により磔曲して形成される。しかし、その禁断の環境なるが故にそのほとんどが今なお謎に包まれているイオの地表の観測は、最初は 50km、2回目は 300km 上空から行われるこのミッションの最後の2回の軌道周回まで待たねばならない。
 

 

左から:イオの地表、火山性プルームによる赤味がかった影、ピラン・パテラからガスと塵が噴出.
 

 

黄緑の輝きは、イオを覆うナトリウム原子の雲の光が散乱したためである。左の画像は、プロメテウスの火山性プルームが、赤味がかった影をイオの地表に落としている様子を示している。右の画像では、ピラン・パテラからガスと塵が噴出し、暗黒の宇宙を背景に青味がかって見える。

ひょっとして科学者たちは、火を噴くまさに息を呑むようなイオの地形の細部を 6m の分解能で垣間見るチャンスを、ミッションの最後の最後まで引き伸ばして、我々をハラハラ、ドキドキさせるつもりなのだろうか。ガリレオがピラン・パテラが噴き出す凍った硫黄のプルームの真上を飛行する時には、緊張感はまさに最高潮に達することだろう。しかし、本当のところは、イオの探査をミッションの最後まで待つことで、いわゆる「木星最接近」への切り換えに要する操作を簡略化でき、科学探査のための時間と資料を得ることができる。もう一つのメリットは、こうすることで、ガス状巨星に接近するにつれて強さが増す放射線に探査機を晒す度合いが減ることである。この放射線は、イオの近辺では人を殺傷するほど強力である。

ガリレオは、木星周回中にいろいろなレベルの放射線に晒されてきたし、イオ・キャンペーンの間は、放射線に晒されながらも活動を続けることになると思われる。問題は、放射線がカメラの感光器に絶えず降りかかって画像ピクセルにダメージを与え、更に悪いことには、コンピューターの誤作動の原因にもなることである。この場合、ガリレオは自動的に安全モードに切り替わり地球からの指示を待つことになる。(まさか人間も誤作動をおこすとは考えられないが。)

ガリレオは本体と搭載計器類用に十分なパワーを供給するRTG(原子力発電機)が装備されており、また航行のための十分な推薬も蓄えているはずである。ただ一つ気がかりなのは、テープレコーダーの停止と再生(回数)が設計の限界を超えていることである。テープレコーダーが修復不能の場合は、リアルタイムでデータの収集と転送が可能になるプログラムを、地球から搭載のコンピュータにアップロードすることになる。しかしこの場合は、扱えるデーター量が極端に少なくなり、探査の範囲が著しく狭められることになる。そんな事態にならないよう、後は神に祈るしかない。
 

小から大を生む

NASA の掲げる低コストの宇宙探査を実現する意味で、ガリレオ・エウロパ・ミッションの基本計画は、既に軌道周回中の探査機を利用して、目標を厳密に絞り込み、低コストでリスクの高いミッションを行なうことである。年間予算を 1500万ドル以下に押さえ込むために、探査機のコストから無駄を省き、同時に地上経費も最小限に切り詰めてきた。技術と科学部門は可能な限り作業の自動化と合理化を図り、その結果、メイン・ミッションの僅か 20% のスタッフで遂行できる。

木星または目標の衛星に最接近する際のデータ収集には、メイン・ミッションでは7日間を要したが、現在は2日間に短縮されている。周回毎の余った時間も木星の磁場環境について最小限のデータ収集に留め、その時間を利用して既に集められたデータの再生に使っている。以前は多くの専門家を抱えていたが、ほとんどの人は職場を変え現在はこれらの人達なしで進められている。とはいうものの、何人かは万が一重大な問題が生じた時にはトラブル・シューターとして呼び戻されるかもしれない。GEMミッションが終わると、ガリレオがデーターを送ってくることは最早ないが、それでもイオの軌道周辺の強烈な放射線帯に切り込み、遂に放射線の被害に屈服するまで自らの状況を地球に報告し続けるだろう。

氷と水と火を探査するガリレオ・エウロパ・ミッションで、ガリレオは木星系周辺の極端な環境状況を探査する新しい道標を示し、恐らくエウロパに海洋が存在していることを確認し、氷が最も薄い地域を探し当てることだろう。この重要な探査で将来のエウロパ・ミッションの指針、つまりエウロパの周回に加えておそらくエウロパの氷のボーリングを行い、「エウロパに果たして生命は存在するか」という21世紀の大いなる課題解決の糸口を見つけ出してくれるであろう。

ガリレオについては、インターネットでも詳しく紹介されている。
” Solar System Exploration : Galileo Legacy Site ”
 

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