The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1997

 

エウロパの色合い

木星系で、特に注目を浴びているのは氷の衛星エウロパである。月と同じ大きさのエウロパの氷殻の下に、液体の水の海洋が隠されている可能性を示すデータを探査機ガリレオが送ってきた。このデータは、地球の科学者にこの可能性の検証を迫っている。本文は、アリゾナ州の月・惑星研究所の上級研究スタッフのポール・ガイスラー氏の検証である。[ 1997年09月/10月 ]

Paul Geissler(月・惑星研究所上席研究者)

 

木星系の衛星の中で脚光を浴びた天体を一つ挙げるとするならば、それは氷の衛星エウロパである。ガリレオ・ミッションに先立つボイジャー・ミッションでは、地球の月と同じ大きさを持つこの衛星の氷殻の下に、液体の水の海洋が隠されている可能性が示唆されたが、探査機ガリレオからはこの可能性を更に裏付けるようなデータが次々に送られてきている。もしこの事が事実とすれば、地球は太陽系唯一の液体の水を有する天体ではなくなるのである。

探査機ガリレオは、独特な青い色合の氷の表面を持つ二つの天体を観測した。その微妙な色合いは、凍った地表下で海洋の満ち干が起こっていることを連想させる。太陽系の遥か遠く隔てた二つの天体で、このような類似性が見られることは注目に値する。何故ならば、イオの火山が噴き出す黄色の噴煙からトリトンの地表から噴き出る黒い間欠泉に至る予期せぬ数々の驚き、つまり、天体は多様な表情をしていることをボイジャーの画像で知ったからである。

その木星系に至る紆余曲折の途上、ガリレオは金星、地球および月、そして小惑星ガスプラとアイダに遭遇した。ガリレオが青い氷を初めて垣間見たのは、地球を通過した時であった。1995年に木星に到着すると、再度巨大惑星の衛星と遭遇すべくその周回軌道に進入した。
 

探査機ガリレオは、三つの衛星(エウロパ、ガニメデ、カリスト)の画像を繰り返し撮影した。これ等の画像は、後に木星系解析のための貴重な資料として役立った。エウロパの氷はフォールス・カラーでその特徴的な青に人工着色が施されたため、木星の他の衛星には見られない影を浮き立たせている。
 

 

上の写真は、左からエウロパ、ガニメデとカリストの一部である。この写真は紫と緑と赤外線のフィルターを通して撮った写真を合成したものである。この写真はフォールス・カラーで撮影して、遥か遠い衛星の表面の細部がよくわかるよう色合いのコントラストを強めているので、実際に肉眼で見た場合とは異なっている。

写真の白い部分は、粒子の細かい砕けた氷のようである。これは、エウロパのピウイル(黒い矢印)、ガニメデのオスリス(黒い矢印)およびカリストのブール(黒い矢印)のように新しいクレーターに見られる。これ等の比較的若い地形を見ると、エウロパの古い地表はガニメデやカリストよりも濃い青味がかった色合いで、氷でない物質の汚染でその色合いが一層濃くなっている。このような色合いの違いは、衛星の地質上の歴史が異なっているためである。

徐々に減少している衝突を除けば、カリストの活動は比較的緩慢である。ガニメデはおそらく中心核の形成に伴う地殻変動のために、地表が割れて明るい線状に延びる溝が形成されたが、この地殻活動もずっと以前に終ってしまっている。しかし、エウロパには歴然とした相違が見られ、それを見分ける鍵となるのが色合いである。
 

南極大陸のロス海の岩棚を際立たせる(海水の)氷は、フォールス・カラーにより青味ががった緑色に写っている。この画像は、1992年に探査機ガリレオが地球フライバイを行なった時に撮影したものである。探査機ガリレオが同じフォールス・カラーで撮ったエウロパの青い色合いに酷似しており、太陽系の中で 地球だけが「水の天体」ではないという証拠を増すことになるかもしれない。
 

 

上の写真は、1992年にガリレオが二度目の地球フライバイを行った時に撮った南極の画像で、撮影条件は三つの衛星と同じである。空の雲や大陸に積もった雪の白色に比べて、ロス海の氷の岩棚を染めるシアン色は、粒子の粗い氷のためである。氷の結晶はその下の暖かい海水に接触して高温で氷結するので、 雪の結晶よりもずっと大きくなる。

これと同じ伝で、エウロパの古い地域に見られる青い色合いは、おそらく比較的粒子の粗い表面を形成する暖かい液体でできた氷の結晶により表面が再生されたのではないかと、科学者は考えている。エウロパのティルス地域の明るい青い隆起線は、この過程が進行中で、古くて暗い表面が、エウロパの非常に冷たい地殻の割れ目から押し出された透明で比較的粗い粒子の氷に置き換えられている状態を示している。

木星の磁気圏から注ぐ強烈な放射線に加え、彗星や小惑星の衝突によりエウロパの表面は繰り返し破壊されたために、氷は砕かれそして表面の青い色合いは薄れ、他の衛星に似かよっていった。これは、地質的には死であると考えられる。しかし、余り深くない表面下の海洋で生み出される内部の熱もエウロパの形成に関係したようである。その内部で生み出された熱は、放射線や衝突による破壊過程と期を同じくして、エウロパの地質活動の証である青い色合いを維持しているようで、おそらく表面下の海洋も関係しているようである。

探査機ガリレオの画像により初めてその存在が示唆されたエウロパの水の海洋は、年初のビッグ・ニュースとなった。水は生命の先駆けであり、炭素系の分子やエネルギーと結合すると化学反応を起こす。ボイジャーの探査からエウロパの多様性を学び、ガリレオの「目」を通して更にしっかりとエウロパを 観察することは、エウロパについて更に大いなる発見につながることになるであろう。
 

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