The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1997

 

異星人に詠う

[ 1997年05月/06月 セーガン追悼号 ]

作者不詳

 

けものよ

わたしは君を知っている

愛に満ち満ちた全ての国々に

胡桃の実のような赤子の顔に

小児麻痺に苦しむ友の病んだ声音に

有袋類のたるんだ袋のような父のまなこに

冬の日没の灰色がかった輝きに

ブルー・リッジ山の脈状のような恋人の腕に

わたしにとって君は美しい

その醜さがあらわれるまでは

 

いずれにしろ、わたしは宇宙の王族ではない

数限りない略奪と侵略で細胞から細胞そして又細胞へと

受け継がれた人でなしにしか過ぎない

わたしは泥土から這い出る

わたしはマダガスカルのジャングルを飛び交う

わたしはラスコー洞窟に野獣を描く

わたしは神も見捨てたアフリカ草原の泥穴に身をひそめて

猪を狩りとうもろこしを刈って

陰鬱な生を営む

 

わたしはスズメバチの恐怖にかなぎり声で叫ぶかもしれない

燃え盛る熱風のような言葉から逃げ惑うかも知れない

それでも、君の姿、歩み、癒しがどんなものであれ

わたしにとって君はけものではない

獣の心のおののきにも劣るわたし

長きにわたってかくも獣性であったわたし

わたしに似て君は霧の中の水銀溜まりのようだ

流れてきらきら輝いてそして消えて行く

命そのもののように

 

しくじりととりつくろいで一杯の人生

ある朝、霜の雫が有刺鉄線を星々の紐に変える人生

たわ言、節目、たわみ、傷心、痙攣、戦争、花盛り

などなどを通して太鼓を打ち鳴らし

熱く赤いピザの芳香に包まれた人生

ペリカンや雷鳴のようにはならざる人生

遥かなる惑星、檻、苦悩、夢想に飛び立つ

その旅立ちこそが人生の努めなのだ

 

君には芸術があるか?

潮が岩肌の海岸を洗うように波は君の頭脳を叩いているか?

欠け始めが満月で、全ての喜びはその場かぎり

君の月は夜なる内ポケットに滑り込んでいるか?

原子の奥深く全ての星にさざなみとなる

あの水車池に君は戸惑っているか?

もし君の血が切り出されたとしても

わたしは君の無事を祈り

わたしの祈りが君を元気付けるよう望みたい

 

あらゆる細胞に潜む家内工務店の親方のように

わたしは机を前に座っている

わたしのミドル・ネームは多様性だ

わたしの血は体内を駆け巡る

わたしは君の血もそうなのか知りたい

それでも我々は思想と言う曖昧な情熱を分かち合う

そして共有する太陽のうだるような暑さを

だから、けものよ、ちょっと一息入れよう

君は歓迎されているのだ

わたしは命だ、そして命は命を愛するのだ
 

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