The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1997

 

惑星協会の将来

[ 1997年05月/06月 セーガン追悼号 ]

Louis D.Friedman(惑星協会専務理事. 執筆当時. 前惑星協会会長)

 

「夢は惑星探査にあり」。このカール・セーガンの言葉は、惑星協会設立理念の裏付けとなっている。惑星協会の理念は、新しい天体と地球外生命の探査を積極的に且つ継続的に鼓吹し、支援することである。過去17年間、惑星協会はこの使命を忍耐強く追求してきた。会員が増え、探査計画、普及イベント、刊行物の増加と共に政治力も増し、惑星協会は1980年の設立時に定めた目標を凌駕する実績を積み重ね、引き続き成功の道を歩むよう努力を傾注してきた。それでも尚、昨年12月20日にカールがこの世を去って以来、宇宙探査に関わる人達から、「カール亡き後の惑星協会の将来はどうなるのか」と、惑星協会の将来を懸念する声が寄せられている。

カールの死は、惑星協会の有様の変革とその目標と目的を再検討するきっかけとなった。「太陽系および地球外生命探査の促進」、これが惑星協会の創設のミッション・ステートメント(趣旨)であった。1980年代半ばに様々な検討を重ねた後、惑星協会の使命の枠を拡大して、「宇宙探査の国際協力の促進」がつけ加えられた。惑星協会の成功と強力な力は、ほとんどがその使命の遂行に努力を傾注した賜物である。また今後使命を遂行することも可能であると、私は思う。惑星協会は極めて活力に溢れた組織に成長を遂げ、惑星協会の理念は、近年の惑星探査計画に於いて、少なくともアメリカの探査計画の実施面に於いては、受け入れられてきた。

現在の惑星探査の状況は、惑星協会の設立時と比較すると途方もなく変化している。当時のアメリカ政府は、惑星探査計画の廃止を考えていた。地球外生命探査という発想は、科学者や世間受けのするテーマに血眼になっている政界の両方から冷笑を浴びせられていた。しかし、世の中は変った。

今やNASAは、科学と探査の主軸機関として再び称賛を受けている。また、わくわくするような探査計画が進行中である。こうした中で、カールと惑星協会は惑星探査の優先順位の決定に関与してきた。NASAの政策に於いて、クリントン大統領の年頭教書および国家宇宙政策に於いて、惑星協会の使命と目的は肯定されたのである。

それでも尚、カールの逝去は惑星協会がその使命を果たす面において、大きな損失となってしまった。彼は多くのことに関与していたが、政策面や実施面においても惑星協会の関わりは非常に大きかった。彼を措いて余人なし。彼の任を果たすためには、大勢の人達の目的意識と努力を結集しなければならない。このため、惑星協会の更なる成長を図るために理事会の委員の増加を決議した。惑星協会の使命遂行に力添えをお願いできる方々を理事会に迎えた。

新しい委員は、天文学者のキャシー・サリバン、アカデミー会員のロルド・ザグディーフ、ダン・クテューナ将軍とカールの妻にして共同執筆者のアン・ドルーヤンの4氏である。惑星協会の共同設立者の一人である、ブルース・マレー氏が惑星協会の会長に就き、ローレル・ウイルケニング氏が副会長を引き受けてくれた。また、設立者からバトンを引き継ぎ、惑星協会の変革に助力して頂くために、アドバイザリー・ボードに新しい方々をお招きした。アドバイザリー・ボードはアドバイザリー・カウンシル(評議会)と名前を変更し、現ジョージ・ワシントン大学の宇宙政策研究所所長のジョン.M.ログスドソン氏に委員長を引き受けて頂いた。新しい委員には、著名な進化論者にして古生物学者であるハーバード大学のスティーブン.J.グッド氏にも就任して頂いた。

惑星協会では、役員、評議委員、職員間の対話を密にし、同時に世界の科学者や宇宙計画の指導者、そして最も重要である、会員の参画をお願いすることにした。この変革の時期に当たり、惑星協会の目的や計画の検討が必要であると考えている。惑星協会が当面する新たな主要テーマを会員の皆様に分ち合って頂きたい。
 

火星への途

宇宙探査の意義を最も理解されている方々の間でさえ、太陽系の探査に人間を送るべきか、或いはロボットで十分事足りるのかどうかについて、依然として意見の食い違いがある。ほとんどの惑星や衛星は有人探査には余りにも遠くて困難で危険すぎる。しかし、火星は人間の探査を受け入れる運命にある天体であると、私は信じている。火星探査の目標は、太陽系で最も地球に似た惑星に対する科学的関心と、ロボットの遠隔操作による探査との両立を可能にする事である。事実、NASA の「より小さく、より安く、より良く」の打ち上げ政策により、2年2ヵ月毎の火星打ち上げ計画が実現した。

人間を地球軌道の外に送ることは、余り起こりそうにもない。しかし、「なぜ宇宙ステーションを建設するのか」や「無人探査は何処に向かうのか」を考えてみると、行き着く先は火星への有人探査になる。この宇宙探査の国際協力という目的を達成しようとするのであれば、NASAを含めた世界の宇宙機関は火星の有人探査の重要性を大いに認識すべきである。

しかし、このような野心的な試みには、政界の支持という更に大事が付きまとう。従って、火星に人間を送ることに対する、社会的に受け入れられる理由付けを明確にするという知的パワーを持つ必要がある。これは政治の流れの変化が激しい今日の状況下では、絶対に必要なことである。惑星協会はこの挑戦を受けて立つことができると思われる。私としては、惑星協会が宇宙機関の矢面に立って、国際協力による火星の有人探査を推進する立場に立つことを願っている。
 

真の国際機関の設立

真の国際機関となるために、惑星協会が積み重ねた努力に対して大きな支持が寄せられていることは承知している。しかしこのためには、アメリカ以外の会員にもっと接し、奉仕する必要がある。アメリカ以外の国々で、惑星協会の認知を更に高める必要がある。これは経済的にも、政策的にも、また広報面に於いても大きな挑戦であろう。また、ロシアやヨーロッパ諸国の政府が宇宙科学や惑星探査に対する支援を減らしつつあることが、更に実現の難しさを増している。おそらく惑星協会の試みが世界の人々の支持をえている事をこれ等の国の政府に証明して見せることで、事態の好転を図ることに貢献できると思われる。
 

小規模の宇宙機関か

惑星協会自身は小規模宇宙機関になるべきだとする考えを、しばしば会員諸氏からうかがう事がある。個人からの寄金が、将来公的資金に取って代る事を望む方々も大勢おられる。このような方々は、火星気球やマーズ・ローバー(火星探査車)実験計画、小惑星発見計画、太陽系以外の惑星探査の支援、間もなく打ち上げられるマーズ・マイクロフォン(火星の音の収録)および過去に惑星探査を推し進めた実験などを、「惑星協会が実現に尽力し、多くの実績が挙がった」と、心から評価して下さる。

それでも尚、数十年とは言わないまでも、長い間、惑星協会は惑星探査の資金支援に手を拱いていたと私は思う。政府の援助が無くては、惑星探査は中止せざるを得ない。全ての方々の賛同を得られるとは思いませんが、惑星協会のような組織が積極的に仲介の役割を果たすことで、惑星探査の高度な探査と技術開発を実現し、惑星探査に対する新しい発想の種蒔きをすることは可能だと私は考える。新しい発想を督励し、新しい役割を探求する事が惑星協会の使命であると考える。
 

地球以外の天体の生命探査

惑星協会が支援しているSETI(セチ:地球外知的生命探査)計画は、個々人から寄せられる寄金で科学探査が実現した最たる例である。セチに対する惑星協会の支援は、継続的に拡大していくであろう。今や惑星協会は、地球外の知的文明から発せられる信号を電波探知で捉える三大セチ計画―ハーバード大学のBETA、プエルトリコのアレシボ天文台が行なっているSERENDIPおよびアルゼンチンのブエノスアイレスで行われているMETA2―の献身的支援者となっている。これ等の計画の実施で、ほぼ全天空に広がる範囲で、常にセチが実施されている。惑星協会はこれ等のセチ計画を継続的に支援し、セチに関する新しい技術全てを受入れ、他の太陽系に於ける生命の生息が可能な惑星探査ヘの支援を増やすべきである。惑星協会は、大いなる可能性を秘めたこの分野に於ける第一人者であり続けるであろう。

役員の増員、評議会の設置、より多くの同僚の参画、他のグループとの緊密な連携による効果的な国際化を図るにしても、惑星協会にとって、カール・セーガンは余人を以って代え難い人材であることは間違いなく我々の誰もが認めるところである。しかし、惑星協会には頼りになる才能豊かで創造的人達が多数いる。そして惑星協会はこうした人達との共存共栄を図らなければならない。惑星協会の規模と関係領域が広がっていくのは、こういった人達の存在故である。

多くの友人そして会員から寄せられる支援のおかげで、惑星協会の将来は明るい。深く謝意を表わしたい。カール・セーガンが望んだように、惑星協会は宇宙探査に携わる国々にとって次の世紀への明るい道標となることができる。21世紀は人類が火星に行き、火星以遠の天体を探査する世紀になる。21世紀は幸運と忍耐をもって、人類が地球の銀河社会に於ける役割を認識し、その上で地球の存在意義と真の意味での可能性を学ぶ新世紀となる。おそらくその時に初めて、カールが望んだように、「人類は宇宙というコミュニティーに参加している己を祝福できる」のである。
 

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