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謎を秘めた不思議な衛星エウロパ
[ 1997年03月/04月 ]
Charlene M. Anderson(本誌編集主幹)
地球は、広大な海洋を持つ唯一の惑星と信じられてきました。しかし、探査機ガリレオの探査により、木星の衛星エウロパの凍った表面の下に隠された液体の水の大きな塊の存在を暗示するデータが現われた。残念ながら、それが海洋であると断言できる方法は、今までのところ見当たらないのです。
エウロパの不可思議な表情の下には、海洋が隠されているのかいないのか―惑星科学者、海洋学者、そして生物学者が、木星の二番目に大きい衛星エウロパに抱いている疑問です。ガリレオがエウロパを覗いて見た結果、その表面の近くに液体の水の存在を思わせる地形があることが分りました。それは液体というよりはドロドロした物質かもしれません。エウロパの地表の下に何が存在するのか、それは未だはっきりとしたことは言えませんが、エウロパには海洋が存在するのではないか。液体の水が存在するならば、有機物質やエネルギー源がある。ということは、生命が存在するかもしれないという科学的探求という脈絡の中では普通は使われない「希望」という言葉がわいいてくるのです。
この小文の中で、ガリレオの四度目の木星周回で得られたエウロパの最新画像をご覧に入れます。ガリレオは、ガニメデと最も外側の衛星カリストへの接近通過の最中にエウロパの画像を撮りました。当時は、最高の画像でも地表のディテールは幅 1.6km の範囲に過ぎませんでしたが、現在では、ディテールを36mの狭い範囲で撮った画像があります。そのディテールを詳細に見ると、エウロパはますます不可思議な天体であることがわかります。
18年前のボイジャーの画像では、エウロパには不思議な線条地形が張り巡らされていることがわかりました。これ等の地形は隆起した地形や溝で、南北の半球を横切っているものもあることをガリレオは明らかにしました。これ等の地形がエウロパの支配的な表面形状であることもわかりました。おそらく凍った表面の割れ目から噴火で噴出した粘性物質が、隆起地形を形成したものと思われます。エウロパでは噴火が繰返し起こった結果、重なり合って平行的に伸びる多重隆起地形や溝が形成されたとする考えもあります。これに最もよく似た地球上の過程で形成された地形は、地殻の下から何度も噴出するマグマできた中央海嶺だと思われます。この地形は、地球の地殻を形成する岩盤に厚みを加えます。しかし、これだけでは、エウロパの地形形成の的確な説明にはなりません。なぜならばエウロパの表面は岩石ではなく、主に水の氷でできているからです。
エウロパの地殻変動を起こすエネルギーは、おそらく木星と木星の他の大衛星による潮汐力によるものであると思われます。同じメカニズムが、イオでは火山を起こします。仮に潮汐力がエウロパの表面を再生しているとしても、この潮汐力が表面下の海洋やある種の生命の維持に十分なエネルギーが供給できるのかどうか、疑問が残ります。
科学者達はガリレオの詳細な画像の中で、潮汐力のエネルギーでエウロパの表面が最近再生された痕跡を発見しました。隆起地形は、地震で寸断された高速網のようでした。場所によっては、噴出した厚くて粘り気のある氷のために、線条地形は消し去られていました。衝突クレーターがほんの僅かしか見当たらないか、あるいは全く見当たらない地域が多かったことは、再生された地表は若いことを示唆しています。ここ数千年あるいは数百万年以内で、新しい地質変動が起こった時に水が流れ込んだに相違ありません。これは、エウロパの地表下の海洋を探していた科学者にとっては吉報です。
更にガリレオの画像には、衝突地形に非常によく似た大きな円形地形が発見されました。もしエウロパの薄い地殻の下に液体の海洋が存在するとすれば、なぜこのように大きな衝突クレーターのような傷跡が表面に残っていることができるのか分りません。この地形が衝突クレーターのかどうかは定かではありません。というのは、この地形はマゼランが撮った金星の画像に見られるコロナ(卵形の地形像)にも似ているからです。おそらくコロナは、マグマが軟らかい表面を押し上げたが、噴出できないためにできた同心円状の亀裂から成る円形状の地形です。この地形が何か、それは未だ決まっていません。
エウロパの表面について納得のいく説明をするためには、更に観察を重ねる必要があります。国立地質調査研究所のマイケル・カール氏が語ったように、「エウロパの表面はほんの僅か見ただけなので、全体の地形について云々するのは下すのは難しい」です。更にデータ送られてきています。ガリレオは2月後半に、再びエウロパを接近通過したので、間もなく新しい画像が送られてくるでしょう。情報が増えれば、科学者達はエウロパの表面の謎について更に解明を進めることができるでしょう。
11頁画像
氷の火山か:エウロパには氷の火山が存在するのでしょうか。この画像には、地球の火山地形に著しく似た地形が見られます。しかし、地球上の地形は水ではなく溶解した岩石でできているのは言うまでもありません。画像の左上の中央に見える暗い地形は、地球の火山の噴火口に非常によく似ています。画像の左下にも平行する一組の孔が見えます。地球ではしばしば、厚くてゆっくり移動する裂片状の溶岩流でできたこの種の孔が見られます。画像の中央のすぐ下には、隆起地形を消滅させたこの溶岩流が見えます。ガリレオは、エウロパから 6万200km 離れた距離から直径 1.6km の分解能でこの画像を撮りました。この画像には、129km x 393km の地域が納められています。
ガリレオ・ミッションのエウロパ探査チームの主任であるアリゾナ州立大学のロナルド・グリーリー氏は、エウロパの表面下の海洋について、1)エウロパの表面下に液体の水が本当に存在するのか、2)存在するにしても、それはエウロパのホット・スポット(マントルの溶岩がせり上がり上部の地殻の温度を上げている地域)に限定されるのではないか、3)エウロパの表面下全体に広がる海洋なのか、問題を提起しています。
海洋が存在するしないか-従って、生命が存在するかしないか-そのいずれにしても、エウロパは探査すべき最も魅力ある天体の一つです。この点に鑑み、NASAは1997年12月に終るガリレオ・ミッションの予定を繰り延べることを確約しました。12月迄のミッションが終ると、ガリレオはカリストを数回接近通過し木星周回軌道を下げることになります。この延長ミッション(GEM:Galelio's Extended Mission)で、ガリレオは数回エウロパのフライバイを行い、その都度、この不可思議な天体の細部を更に詳しく解き明かしてくれることでしょう。
しかし、ミッションが延長されたにしても、エウロパに海洋が存在することを確認できない可能性はあります。従って、地球の海洋学者が使う探知器をベースにした地勢探査機をエウロパに送り込む必要があるかもしれません。昨年の秋、一団の海洋科学者と惑星科学者がカリフォルニアのサン・ジュアン・カピストラーノ調査研究所に集まり、エウロパの探査方法について討論しましたが、この小さな天体が我々の太陽系の中で最も魅力ある天体の一つであることが確認されました。エウロパは探査することがいっぱいある可能性に溢れた天体です。
12頁上
謎めいた環:この画像は、ある物体がエウロパの薄い氷の地殻を貫きその下のどろとろした層に打ち当ってできた衝突の傷跡が修復された地形なのでしょうか。あるいは熱せられた物質の噴出流が押し上げられ、破壊された地表に同心円状の環が残った結果できた火山性の地形なのでしょうか。謎めいたエウロパの地表下で進行している過程の解明に不可欠です。マキュアラ(斑)と呼ばれるこの地形は、大きさが直径 100km 余りです。海洋上の薄い氷の地殻層は、月や水星に存在する衝突ベースン(孔)に似た同心円状の環状地形を維持するのは困難だと思われます。しかし、この地形は画像の左側と右下に見える隆起した地表の上にできた比較的若い地形だということは言えます。この画像は 48km x 91km の地域を撮影したものです。画像の上に見える黒い線は、画像処理でできた人工的なものです。
12頁下
新しい平滑地形:エウロパに接近するガリレオに搭乗しているものと考えて下さい。エウロパから離れること 6万2000km、表面を縦横に走る隆起地形網が目に入ると思います。地形によっては、火山の噴出流で破壊され、押し流されてしまったようです。凍ったエウロパの場合、この噴出流はおそらく水だと思われます。はっきりとした衝突クレーターの跡は見えないので、この地域は比較的若くどのような地質過程でできたにしても、最近の過去まで活動していたと言えます。この画像は、126km x 393km の地域を直径 1.6km の分解能で撮影したものです。左上の画像は、ガリレオの周回軌道を更にエウロパに接近して撮ったものです。右横の矢印の画像は、左下の囲みを拡大したものです。
12~13頁上
破壊された地表:マキュアラのすぐ右側に幾つかのクレーターが見える地域は、衝突後に落下した残骸破片でできた環状ベースン(環状ベースンが本当に衝突でできた地形であるとすれば)を示すものかもしれません。エウロパの地表の大部分を支配する隆起地形を示したのがこの画像で、地球の高速道路網に非常に似ています。画像中央のすぐ右から下に至る部分を特に念入りに見て下さい。最も目立つ地形の右に見える暗い地域は、隆起地形の一部分が最近何かによって消滅させられたところです。この下には、地震によって破壊された地球の高速道路網のような地形が横たわっています。この画像は、1万1850km の距離から 48km x 91km の地域を直径 240m の分解能で撮影したものです。
12~13頁左縦に細長い画像
隆起地形の形成:距離は僅か 3500km、エウロパの驚くほど複雑な表面が見えます。画像の左上には、表層の活動で破壊されて消滅させられた平行する隆起地形の様子が見えます。画像のずっと下には、隆起地形が破壊されでできた複雑に入り組んだ地表が見えます。その下に、破壊された隆起地形の好例が見えます。画像の一番下には、平行する隆起地形が見えます。珪素と硫黄物質を帯びたと思われる水が表面の長い直線的な亀裂から噴出して、その両側に滲み出たものと思われます。最終的にはこのために長くて広い線条地形がエウロパの広範を覆ったようです。地球上には、同じような過程でできた中央海嶺があり、そこでは溶解した岩石が表面に噴き出して新しい地殻を形成します。この画像は、17km x 49km の地域を直径 70m の分解能で撮影したもです。
13頁右下
今迄の最接近画像:この画像は、左の細長い画像の上から二番目のパネルを拡大したものです。これはエウロパを撮った今迄で最も詳細な画像で、地形はフットボールの競技場の大きさです。画像の中央には、凍った物質の流がエウロパ独特の隆起地形を消し去った跡が見えます。左には、形成理由が不明の複雑な地形が見えます。直径約 100~400m の小さいクレーターが画面に点線状に並んで見えますが、これが小惑星か彗星による衝突の傷跡か、あるいはエウロパの内部過程の名残のいずれなのかはっきりししません。エウロパは不可思議で、不可解でしかも興味深い謎の天体です。この謎めいた天体の内部活動を解明する迄には、何度の何度も探査する必要があります。この画像はガリレオが、エウロパから僅か 3340km、99.6km x 16km の分解能で撮影したものです。
画像の電子データがありません。
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