The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1997

 

火星漫歩

[ 1997年11月/12月 ]

Charlene M. Anderson(本誌編集主幹)

 

1997年7月4日、20年振りに地球から赤い惑星に送り込まれた密使マーズ・パスファインダーは、現在NASAが進めている「より速く、より安く、より良く」をモットーとしたミッションの先駆けとなりました。

探査機の着陸で生ずる衝撃を和らげる斬新なエアーバッグや小型で利口な機器類を装備したマーズ・パスファインダーは、その性能の優秀性を十分発揮しました。中でもソジャーナー(JPLと惑星協会共催の学生のネーミング・コンテストで優勝したバレリー・ボワスさんが提案した:Sojourner)という名前のミニローバーは、このミッションの人気を一人占めにしてしまいました。

勿論、マーズ・パスファインダーには惑星協会会員の心が込められていました。この探査機には1993年10月現在の全会員の名前をプリントしたマイクロチップが積み込まれたのです。マーズ・パスファインダーのランダーは、今は亡きカール・セーガン初代惑星協会会長で共同創設者の名前をとって、カール・セーガン記念基地と名付けられました。誰もが参加できるプラネットフェスト'97では、マーズ・パスファインダーの火星着陸が目玉となって、毎日7000人以上の人達が会場に訪れ、火星探査の素晴らしさをじかに満喫しました。

マーズ・パスファインダーが生んだ数々の興奮は、世界を駆け巡り、参画した科学者や技術者もミッションの成功により高い称賛を受けたわけです。最初は探査機の工学テストのミッションとして設計されたマーズ・パスファインダーでしたが、得られた科学データは膨大な量に達したのです。このデータの分析には時間が掛かりますが、マーズ・パスファインダーは、既に皆さんに火星の話を語りかけているのです。太古の破壊的な洪水により運ばれて堆積した火星の様々な場所のサンプルが簡単に採取できる平坦な地表であることを想定して、アレス谷が着陸地点に選ばれました。

これからご紹介する360度のパノラマ画像を初めとして、今後も小誌の中でマーズ・パスファインダーの成果をご披露する予定です。先ずセーガン基地の周囲を周遊しようと思います。2枚の画像を円形のスクリーンに投射すると、画像の1枚目の左端と2枚目の画像の右端がぴったり合うことを頭に入れておいて下さい。それでは火星漫歩をお楽しみ下さい。
 

 

パート1

火星漫歩は、先ず左に見えるマーメイド(Mermaid)と名付けられた砂丘から始まります。ここは黒っぽい土の区域で、その形からマーズ・パスファインダーの科学者は、船乗りの唄に出てくる人魚を連想しました。色の濃淡があるので、異なった組成成分か分子が存在するのかもしれません。ソジャーナーはその車輪で溝を掘って土を採取して、マーメイドの土壌の組成を調べました。

太陽電池で覆われた花びら形のランダーの下に見えるのは、ランダーが着陸時の衝撃を和らげるクッションの役目をしたエアバッグの一部分です。直立している円筒形の物体は、地球との交信用の低利得アンテナです。アンテナの右側には、ローバーが地上に降りるための前方ランプ(傾斜路)です。しかし、ローバーのためには後方ランプ周囲の地面の方が走行に安全だと判断されたため、このランプは使われませんでした。

前方ランプのすぐ前方に見えるのがハッサク(Hassock)と呼ばれる玄武岩でできた円柱形の石のようです。ハッサクの右側はウエッジ(Wedge:くさび)で、まさに名は体を表わすといったところです。ローバーはウエッジに乗り上げて数日立ち往生しましたが、最終的にはうまく逃れて探査を継続しました。
 

パート2

さて、これからロック・ガーデン(Rock Garden)地区に入ります。ここでは、色々な興味深い地形が見られます。この地区にはフラット・トップ(Flat-Top)や、右側のリトル・フラット・トップ(Little Flat-Top)と呼ばれる住人がいます。ロック・ガーデンの頭上にはツイン・ピークス(Twin Peaks)が聳えています。

北の頂きはランダーの着陸地点から 800m、南の頂きは 1200m 遠方にあります。縮んだエアバッグの上に見えるのがグロミット(Gromit)です。エアーバッグの右は、ソジャーナーが地上に降りる時に使ったランプです。このランプの上は、バーナクル・ビル(Barnacke Bill)と呼ばれる有名な巨石です。

ソジャーナーに搭載されたアルファ・プロトンX線分光器(APXS:Alpha Proton X-ray Spectrometer)はこの巨石を測定し、科学者達が火星の石に含まれているものと予測していた以上の珪酸塩を含んでいることを示唆しました。これはアンデス山脈によく見られる火山活動で生成される種類の安山岩に似ています。バーナクル・ビルの真上の地平線に見えるのは、カウチ(Couch)と名付けられた黒っぽい岩石です。
 

 

パート3

ここで、ソジャーナーに追いつきました。ソジャーナーは車体が 63cm です。この写真では、ヨギ(Yogi)と呼ばれる巨石を測定しています。ヨギは地球上(海底の盆地状地形)では最もよく見られる岩石の種類で、火星でもよく見られるようです。APXSのデータによると、ヨギに含まれるシリカ(石英)の量は、バーナクル・ビルより少ない。ヨギの下側には、ローバーの車輪でできた轍が見えます。バーナクル・ビルを調べるために回転した時にできた円い轍(左隅)も見えます。

ソジャーナーは当初の探査では、エアバッグの前方の平坦な区域の7ヵ所の土壌を測定しました。土壌の組成は、21年前のバイキングの着陸地と非常に似ています。エアバッグのすぐ前方の白い塊は、スクービー・ドウー(Scooby Doo)で、テレビ漫画の海賊バイキングから名前をとったものです。この白い塊はおそらく岩石ではなく、地球上で見られるカリーチ(膠結沖積土)または硬盤層に似た土が固まってできたものでしょう。

地平線上でやや盛上がった部分は、リトル・クレーター(Little Crater)と呼ばれる地形で、オービターから撮られたバイキングの着陸地点の画像でも見ることができます。
 

パート4

これでセーガン基地の漫歩が終りました。この基地の左側に見えるのは、レン(Ren)とスティンピー(Stimpy)です。この二つは、比較的最近の漫画のキャラクターです。エアバッグの右上に見えるのは、リトル・マッターホルン(Little Matterhorn)で、有名なスイス・アルプスの頂上に似ています。マッターホルンは、ディズニーランドの「漫画の世界」でも見られます。

ソジャーナーは、この区画で一日に 4m という最大の走行距離をこなしました。ソジャーナーのバッテリーは、名目上のミッションのために設定された時間以上に長持ちしましたので、更なる冒険をすることになります。ソジャーナーが未知の世界を走行している間に、地球の科学者達は、ソジャーナーの機器類を較正し、得られたデータでこのごちゃごちゃした火星の区域の歴史をきちんと整理します。

プラネタリー・レポートでは、今後マーズ・パスファインダーから送られて来るデータについてフォローしていていきます。
 

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