The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1996

 

冥王星について

[ 1996年09月/10月 ]

Charlene M. Anderson(本誌編集主幹)

 

冥王星は、我々にはあまり良く知られていません。太陽系で最後に発見された惑星で、1930年、ローエル天文台のクライド・トンボーは、仮定の惑星Xを求めて観測をしていた時に撮った写真の乾板上を横切るかすかな点が惑星であることに気付き、冥王星と命名しました。

しかし、それ以来冥王星はほとんどその秘密のベールを脱ぐことはなく、この惑星に関する新たな情報もまたほんの僅かしかわかっていません。

長年苦労しながらその軌道を追跡した結果、天文学者達は、冥王星の黄道面に対する傾きは非常に大きく(17.2度)、離心率はどの惑星よりも大きい超楕円形軌道であることを知りました。冥王星は通常太陽から最も遠い惑星ですが、248年毎に海王星の軌道の内側に入ります。1979年以来、冥王星は太陽から8番目の惑星となっており、1999年の春まではそのままの状態が続きます。

1978年、米国海軍天文台のジェームズ・クリスティーは、冥王星のかすかな円盤に突き刺さった膨らみのように見えるものに気がつき、同僚のロバート・ハーリントンと共に、これは冥王星を回っている衛星に違いないと直感しました。クリスティーはこの新しい天体を、死者の魂を乗せてスチュクス(三途の川)を渡り、プルート(ギリシャ神話の冥界の神)が支配する冥界に運ぶ渡し守に因んで、カロンと命名しました。

新たに発見された惑星の命名は、その発見者の特権であり、クリスティはCharonをギリシャ語のカロンではなくシャロンと発音しました。偶然の一致かどうかわませんが、クリスティーの妻の名前は「ch」を「シャ」と発音するシャーリーン(Charlene)でした。

カロンの発見により、天文学者達は二つの天体を観測と理論の両面から研究を重ね、冥王星の正確な大きさを計測する素晴らしい方法を考え出しました。冥王星は直径約 2300km、地球の月のほぼ2/3の大きさです。カロンは直径約 1200km で、冥王星の半分の大きさを占め、母惑星対比では太陽系最大の衛星です。

ところで、太陽から 60億数km 離れた二つの天体は何でできているのでしょうか。内部はおそらく岩石質の物質と水の氷で占められているものと思われます。科学者達は、冥王星の表面から凍ったメタン、一酸化炭素および窒素を検出し、カロンは、水の氷のスペクトルを表わしていることを発見しました。これ等の化合物が存在することで、冥王星の有様の説明がつくかもしれません。

地球を除くと、冥王星は明るい水の氷、暗い液体の海洋や刻々と変わる人気のない大地などが織りなす我々にお馴染みの表情を持ち、太陽系のどの惑星よりも変化に富んだ表情をしています。すっかり凍りついた外部太陽系の領域に存在するので、冥王星の気温は僅かに40~50度ケルビン(Kelvin:1度=-273.16℃)までしか上昇しません。

このため、メタンや温暖な地球上の気体のような揮発性の高い化合物でも、凍結した固体になっています。太陽から放射される紫外線に反応すると、これ等の物質はタールを形成して明るい水の氷を覆います。冥王星の表面に暗い斑点が見えるのは、このためかもしれません。

従って、探査機を送って冥王星を探査しなければ、冥王星に関する我々の知識は増えてもほんの僅かなものです。1999年には、ハッブル宇宙望遠鏡に高精度のカメラが据え付けられますので、もっとましな冥王星の映像が見られるかもしれません。仮にそうなっても、この遥か遠い彼方の天体は、ぼんやりとした「シミ」のような物体にしか見えないでしょう。冥王星の真の姿を知るためには、地球に明瞭な画像を送ることことができる電子探査機器を装備したロボットを冥王星に送り込まなければなりません。

21世紀が始まると間もなく、現在開発されつつある冥王星急行(Pluto Express)ミッションが打ち上げられる予定です。このミッションが謎の天体の秘密を解明する最大のチャンスかもしれません。1989年以降、冥王星はその近日点(太陽に最も近い軌道上の点)の領域に入り、それを通過しつつあります。このミッションは、現在ジェット推進研究所が開発中ですが、予算削減の折りでもあり、このミッションがどうなるかは未定です。

この冥王星を目指す小型探査機の打ち上げにより、人類は太陽系の探査を完結することができます。我々には冥王星を探査する能力があります。尤も、そうする意志があればの話ですが。
 

これはハッブル宇宙望遠鏡が1994年に捉えた、冥王星と衛星カロンのベスト・ショットです。冥王星と衛星カロンは、二重惑星系と呼ばれています。冥王星の軌道を仔細に検討していた米国海軍天文台のジム・クリスティーは、この惑星の片側から突出する膨らみに気付きました。同僚のボブ・ハリントンと一緒に更に観測を続けた結果、この膨らみが6.4日で冥王星を一周している衛星であることを発見しました。
 

 

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