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不意の訪問者、ヒャクタケ彗星
[ 1996年07月/08月 ]
Charlene M. Anderson(本誌編集主幹)
彗星は、太陽系を経巡る旅行者です。76年周期で太陽系に現れるハレー彗星など2、3の短周期彗星はよく知られています。このような彗星の予測は可能でなので、天文学者は彗星の出現に備えて準備ができます。しかし、予測が困難な彗星もあります。観測者がその訪れを察知した時には、さっと地球を通り過ぎてしまっていてどうにもならないとか、子々孫々何代にわたって追跡しても軌道の予測ができない彗星です。
「ヒャクタケ彗星」は、1万7500年ほど前、地球上の最も初期の天文学者が生きていた時代よりはるか前に地球を通り過ぎていった彗星です。1996年1月31日、大型望遠鏡で天体観測を行なっていたアマチュア天文家の百武有紀氏がこの彗星を発見しました。わずか2ヵ月で20世紀の最も壮観な彗星の一つに成長したこの彗星は、不意の訪問者のように内部太陽系を足早に通り過ぎて行きました。太陽系に戻ってくるのは、約2万9500年後のことです。 この彗星の通過軌道にある惑星、特に巨大な木星はその軌道に摂動が生じたため、通常よりも長い公転軌道をとることになりました。
数百万人の人達が、夜空を通り過ぎてゆくヒャクタケ彗星を観測しました。プロ・アマチュアを合わせて数千人の天文家が観測し、その姿を写真に収めています。次にヒャクタケ彗星が内部太陽系に戻ってくる時には、どのような地球文明がこれを迎えるのかそれは分かりませんが、地球文明の記録がそれまで保存され、再来のヒャクタケ彗星の観測の手助けとなることでしょう。
重ねあわせた8枚の画像を貫いて流れてゆくヒャクタケ彗星は、フロリダ州立大学の天文家が高分解能で撮影したものである。この見事なまでに精巧な彗星のポートレートに、彗星の流れていく様子、彗星の尾に見られる典型的なよじれや節を容易にみることができる。右から3番目の画像に、核からちぎれた尾の一部と思われる分離現象が見られる。
天文学者は最初、これは太陽風の突風が原因だと考えたが、ハッブル宇宙望遠鏡の画像によると、3月24日に起こった核の破壊で生じた破片が飛びだし、このため分離現象が起こったようである。(渦巻銀河M101もまたこの画像に見える)彗星には通常二つの尾がある。イオン化したガスまたはプラズマの尾と塵の尾である。この彗星の場合は、見えるのはすべてプラズマの尾で、塵の尾は見えない。この合成画像は地球の月の60個分の幅に相当し、ヒャクタケ彗星がいかに大きい天体であるかを示している。
これは、チリにあるヨーロッピアン・サザン天文台のニュー・テクノロジー望遠鏡が撮影した、ヒャクタケ彗星が非常に変わって見える画像である。この画像は、彗星の内部コマと、画像中央の比較的小さい核から噴出する塵のジェットに焦点を合わせたものである。
核の回転運動に呼応するジェットの曲線で、核の回転がはっきり見える。彗星が太陽に接近するにつれて塵は熱せられ、凍った核から解き放たれる。太陽風と呼ばれる太陽から吹き出してくるイオン粒子の流は、塵を太陽の反対側に吹き流し、地球からも容易に見られる明るい尾を作り出す。
新しい技術により、彗星や他の天体の観測の方法が変りつつある。この画像は、2~3世紀の間使われている反射望遠鏡により撮影されたものであるが、撮影は人間の目の替りに電荷結合素子(CCD)を内蔵したカメラで行われ、この(鮮明な)画像が出来上がった。画像は、60秒露出を3回、その後コンピュータで処理され、塵のジェットが彗星から流れ出る様子を写し出した。肉眼による撮影では、彗星がこのように見えたことは皆無であったが、今では、新しい技術により様々な天体の様子を見ることができる。
画像は、ヒャクタケ彗星がカンザス・シティー(アメリカミズリー州)の光芒の中に沈み、静かな池の水面に、明るく輝く星星と金星が映し出された。オリオン座が左に、金星が中央左に、そしてヒャクタケ彗星が中央右に見える。この素晴らしい写真は、ビック・スタンプが零下 30℃ あたりまで冷え込んだ時に、泥に膝まで浸かって撮影してものである。
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