The Planetary Report
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Archive 1996
惑星探査の新たな目、CCD 内蔵カメラのテスト
地球を取り巻く宇宙についてより多くの情報を得る際に、最も強力な感覚は視覚である。動物は目に入ってくる情報を光子として受入、その情報が何かを判断するという驚くべき能力を進化させた。地球上の全種族の中で最も鋭敏かつ敏感ではないが、人間の感覚は一つの点において最も優れている。それは言語という天与の才能である。言語と感覚を組み合わすことにより、人間は目に映るものが何かを判断するだけでなく、その美しさやおそらくそこに含まれる科学的な意味を理解して相手に伝えることができるのである。
近年に至り、技術のおかげで「見る」という感覚に全く新しい領域が開かれた。旧来の天体望遠鏡の有用性が突如として、情報の新しい領域や宇宙探査機の領域で復活した。当初それは、写真撮影やテレビカメラの範囲に限定されていたが、現在ではそれに「電子の目」が組み込まれて、能力が数千倍に高まった。この革命的な性能を作り上げた技術は、電荷結合素子(CCD)と呼ばれる小さな電子ディスクで、入射光を小さな電子パイル(束)に変換してカメラの焦点面に散乱させる。このパイルは、CCDの集積回路のエッジへ運ばれ、データの流れとしてテレメトリー(測距器)に送り込まれる。CCDセンサーのおかげで、カメラはサイズが小型になり、堅固でしかも性能は非常に優れている。以下、火星探査に搭載される小さな撮影機器開発の模様を紹介する。[ 1996年05月/06月 ]
Richard P. Binzel
1996年11月に、ロシアが打ち上げる予定のマーズ96・ミッションに搭載される科学観測機器類には、高分解能立体カメラ(HRSC)と広角光学電子立体スキャナ(WAOSS)の2台のドイツ製立体カメラが含まれる。これ等のカメラはCCDライン・スキャン機器で、3つのパンクロ立体画像を搬送する。更に、HRSCには4つのマルチカラー・センサーと2つの測光データ用センサーが内蔵されている。
HRSC と WAOSS
マーズ96のオービターの ARGUS(ロシアの宇宙産業施設メーカー)プラットホームに装着される2台のカメラは、火星の表面と大気を走査する。マーズ96が火星の表面上を移動すると、ラインスキャン・カメラは個々のラインセンサーに二次元の画像を搬送する。これにより、いろいろなセンサーの画像をオーバーラップさせ、火星表面や雲の構造の三次元(立体)画像が合成される。2台のカメラは同じ焦点面を使い、画像データを圧縮してテレメーターの出力範囲内で深宇宙データで送信する。これ等のカメラは、惑星探査研究所と DLR(ドイツ連邦航空宇宙調査機関)のベルリン調査センターに属するスペース・センサー・テクノロジー研究所が主体で開発された。
HRSC により、火星表面の高分解能の立体画像とマルチカラーの測光データが得られる。一方、WAOSS により、火星表面を大縮尺で記録し、大気現象を立体的に記録することができる。探査機の周回機軌道の最下点(250km)で撮られる画像の基本分解能は、HRSC の場合は1画素当たり 10m、WAOSS の場合は1画素当たり 80m である。バイキング・ミッションのデータ場合は、画像の高分解能には限界があり立体合成画像はワンカットに限られた。マーズ96のカメラは、広範囲稼働パラメータとの組み合わせでマルチセンサー・データを同時に記録できるので、テーマに合わせて撮影する方法の途を開くことになる。
カメラのテスト
我々は、カメラの機能と測定能力のパラメータを見極めるためのテストを集中的に行った。標準的な形状測定(geometry)と放射測定(radiometry)に加えて、スイス・アルプス近くのコンスタンス湖にある主契約者のドルニール社の屋上にHRSCを据え付けて周辺の景色を撮影した。この目的は、2台のカメラの同時作動の実験と(ミッションでにおける)データ処理システムの作動を確認するためのテストデータを記録することである。
このテストでは、カメラはゆっくりと回転する台の上に取り付けられた。カメラの台座の回転角度は、45~90度にスパンして景色のパノラマ画像を収めた。この回転角度は、火星ミッションの間にカメラが遭遇する(撮影)条件と同一になっている。これから数ヶ月の間に、このテストで得られた画像はすべて、形状・放射面および立体画像処理の修正を含め、完璧な処理を施される。この再処理ソフトウエアはアメリカのジェット推進研究所が開発した。これ等のカメラの設計コンセプトは、画像の仕上がりは素晴らしく、マーズ96ミッションが火星探査で更に多くの新しい発見を成遂げる望を与えてくれた。
筆者はマーズ96ミッションにおける HRSC・WAOSS カメラ実験班の主任であり、DLR の惑星探査研究所の所長でもある。
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