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ガリレオが初めて見たガニメデとエウロパの表情
[ 1996年11月/12月 ]
Charlene M. Anderson(本誌編集主幹)
衛星のことはよく分かっていると思う時があります。しかし少し分かるようになると、実際は、ほとんど分かっていないことに気がつきます。ガニメデ探査プロジェクト・チームの科学者達にも同じことが起こりました。17年前、探査機ボイジャーの画像データに基づくガニメデに対する見解を大幅に変えなければならないことになったのです。
最大の驚きは、ガニメデに磁場が存在することとでした。ガニメデはほとんどが水の氷と岩石でできているために、おそらくその内部には地球の磁場を起こす溶解した金属の中心核は存在しないだろうと考えられていました。従って、多くの科学者は探査機ガリレオがガニメデを接近飛行する時でも、その磁力計やプラズマ波計測器には何も反応が現れないだろうと思っていました。
しかし、両方の計器は反応しました。地球の磁場の約1/4の大きさに相当する、直径 5260km の天体にしては非常に強い磁場を捉えたのでした。いったい何が、ガニメデのような天体にこのような強力な磁場を起こすのでしょうか。おそらく地表下の海洋の対流により発生するのだと推測する科学者もいます。海洋が存在するという見解には非常に興味をそそられますが、更なる観測により検証する必要があります。
ガニメデには皺くちゃの表情(地表)があります。暗い部分は泥まじりの氷でできた古い地表で、明るい部分は澄んだ氷でできた滑らかな新しい地表であると、科学者達はボイジャーの画像を見て推定しましたた。しかし、ガリレオがボイジャーの70~140倍の分解能で撮った画像により、この衛星はもっと複雑な表面をしていることが分りました。2枚の画像でお分かりのように、ガニメデは非常に奇妙な表情を持つ天体です。
これ等の画像は、1996年6月27日、ガリレオが初めてガニメデに接近して撮ったものです。1996年9月、ガリレオは2回目の観測を開始し、私がこの原稿を書いている現時点でもデーターを送り続けています。遠からず、この太陽系最大の衛星についてもっと詳しくお話することが出来るでしょう。
画像 : 大きな暗い地域はガリレオ・レジオと呼ばれるガニメデで最も目立つ地形で、探査機ガリレオがガニメデと初めて遭遇した時に撮ったものです。ボイジャーが撮った(1979年7月9日)画像を見て、科学者達は、ガニメデの暗い部分はおそらく数十億年前に小惑星や彗星の衝突で形成されたクレーターの多い地域だろうと推定しました。これは正解でした。この地域は衝突であばた状になっていました。
しかし、何かおかしい。科学者達は一目見て、この画像は上下逆ではないかと思いました。太陽光は画像の左下から水平線に対して約58度角で注いでいますが、太陽から最も遠ざかった地形が、あたかも太陽が逆方向(右上)から照らしているかのように、最も明るく見えます。この暗い地域と明るい地域はガニメデの固有の表面地形のように見えますが、明暗は、おそらく隕石の衝突で残った暗い物質が凍った地殻を覆ったためのようです。
画像の左端は、直径 19km のクレーターの半分です。画像の左上から右下に走る溝は大衝突衝孔を囲む同心円リングの一部分です。画像の中央まで走っているほぼ垂直な溝は、衝突孔から延びる亀裂かもしれません。画像は 46x64km の地域を 80m の詳細な分解能で撮影したものです。1996年6月27日、ガリレオがガニメデから 7563km 先を飛行していた時に撮影した画像です。
画像は、ガリレオ・レジオと境を接する明るい地域、ウルク・スルキ(尾根と溝が平行に並ぶ地形)の画像です。このタイプの地形は、ガニメデの約半分を占めています。クレーターの数から判断すると、左上から右下に走る境界線を境に、右上の地域は左下の地域より古い。左上には、新しい地層に浸食されて半分になったクレーターが見えます。新しい地層の中央に見える大きな円形は衝突クレーターです。その右に見える黒い部分は、衝突によって放出された噴出物かもしれません。
この画像は、太陽がほぼ真上にあった時に撮られました。亀裂の明るい部分と暗い部分は日向と日陰ではなく、 地表に露出した物質の種類の違いによるものです。探査機ガリレオがガニメデの 7448 km 先から、55x35 km の地域を 74 m の分解能で撮ったものです。
エウロパ
「太古の火星生命と思われる証拠の発見」に関する記者発表の翌日に当たりましたので、NASAは探査機ガリレオが撮影したエウロパの新しい画像の発表を延期することにしました。NASAとジェット推進研究所は、エウロパの件は間違いなく、この発見騒ぎの渦に呑み込まれてしまう考えたからです。この決定は賢明でした。というのは、「地球以外の天体で生命の痕跡を探すには、エウロパは最適なのだ」というような話をしてみても、(火星の隕石から発見された)バクテリアの化石の写真には太刀打ちできないだろうと考えたからです。
惑星探査に携わる人達には、エウロパの生命存在説はそれなりに説得力があります。1979年、探査機ボイジャーが気味が悪いほど滑らかな地表刻まれた亀裂が見えるエウロパの画像を送ってきました。衝突クレーターが少ないのは、エウロパの地表が極めて若く、地質活動によりその表面が絶え間なく再生されていることを示唆していました。
この活動の原因は、エウロパの薄い地殻の下に衛星規模の液体の水からなる海洋が存在しているためであろうと考えられました。つまり、木星と他の衛星によって引き起こされる潮汐力のために水が凍らず、時々エウロパの凍った地殻を破って表面に滲み出して衝突の痕跡を覆ってしまうためであろうということです。
液体の水があれば、生命が存在する可能性があります。この海洋存在説が正しければ、エウロパには火星より大量の水が存在するかもしれません。エウロパが興味深いのはこのためです。しかし、今のところこの滑らかで亀裂のある地殻の下に何が存在するのか、決め手になる十分な証拠はありません。
「我々は、この件で早まった結論を出すつもりはない。この画像で、エウロパに液体の水が存在することが証明された訳でもないし、これから得られる更に高分解能の画像でも、証明はできないかもしれない。数日前、根拠のない楽観的な思い付きで、火星に太古の微生物の生命が存在するかもしれないとの憶測から、様々な論争が起こった。エウロパについては、無用な論議は避けたい。」と、NASAはダン・ゴールディン長官の慎重な声明を記者会見で発表せざるを得ませんでした。
これからご紹介するのは、探査機ガリレオがガニメデの接近飛行をした時に撮ったエウロパの画像です。ガリレオはエウロパから 15万6000km 離れていました。1996年12月19日、ガリレオはエウロパと初めて遭遇することになるでしょう。このように限りなく魅力を秘めたエウロパについて、更に多くのことをがわかる日もそう遠くないでしょう。
これは、エウロパの表面を走る亀裂の合成画像で、1996年6月27日、探査機ガリレオが撮ったものです。 地表の亀裂は、エウロパの内部から氷地殻を通って染み出たガスや岩の混じったスラッシュ(軟泥)で出来たのかもしれません。この亀裂から、エウロパの氷地殻の下には液体の水か、暖められた氷があるのかもしれないと想像する科学者もいます。
暗い割れ目は長さが 1000 km を超えるものが多く、有名なカルフォルニアのサン・アンドレアス断層よりも長い。画像の下側は亀裂の多い地域で、地殻が破壊されてスラブ(石版)になっており、直径が 300 km のものもあります。
画像右上の明暗境界線(昼と夜の境目)をじっくり見てください。数十個の浅いクレーターが見えると思います。クレーターの無いように見える地表もありますが、これは新しく再生されためであることを示唆しています。画像の中央に近い暗い点は、時々凍った表面を破って暗いどろどろの物質を噴出した間欠泉が作った跡かもしれません。
この画像に見える地域はミッシッピー川以西のアメリカとほぼ同じ広さです。北極は画像の上側近辺で、太陽は左側からエウロパを照らしています。
これは、上の画像の下側に見える亀裂の多い地域を拡大したものです。エウロパの表面を特徴づける直線や曲線、そして楔型の線が混ざった複雑な地形がおわかりになると思います。間に見えるのは氷のプレートです。プレートの中には形成後捻じれたり、「滑らかな地表」を滑って通過して新しい場所に定着したものもあります。この地表は、地球の北極地帯の何処でも見られる浮氷群に似ています。
ガリレオ・ミッションの科学者達は、特にエウロパを数百kmも横切って伸びている「暗3本の帯に注目しました。この帯は、エウロパの氷地殻の下から噴き出す氷で、黒い珪酸塩が巻き上げられて地表に堆積し、続いて噴き出した純粋の水が堆積して明るい表面が出来たのです。この画像の地域の幅は、約 360x770 km です。
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