ディスカバリー計画解説

Psyche History of Discovery Program
 

 

以下は、某惑星探査検討グループ内で解説されたものを再編集し、まとめたものです。十数年前に書かれたものということで、かつてのリアルな環境が垣間見えます。

「幕の内弁当」式になんでも詰めこんだカッシーニ・ホイヘンス以降に計画された、NASA「宇宙科学局」の惑星探査計画は現在、三つの柱に分かれており(最近四つ目が提案されましたが)、それぞれがよくテーマを絞り込んでいます。その柱は「火星探査(マーズグローバルサーベイヤーなど)」、「外惑星探査(エウロパオービターや冥王星・カイパーベルトエクスプレスなど)」、そして現在エロスを周回している NEAR シューメイカー探査機や彗星塵を捕集するスターダスト探査機などの「ディスカバリーシリーズ」です。

ディスカバリーシリーズは、約二年毎に開かれる公募に対して、全米の「官・民・学」の合同チームがミッションを提案し(毎回 20 - 30 出る)、最終候補に残るとフェーズ A 研究(ミッションの実現可能性を評価するための研究)の予算をもらい、最終的に 1 - 2 個が選ばれる、という開かれた競争システムになっています。(日本の惑星探査も将来、この 1 - 2 割の応募数でもいいから、「宇宙研や NASDA 以外から」惑星探査のミッション提案が出せるくらいに成熟することが好ましい)当然そのためには、開発年数、予算を劇的に絞り込み(といっても宇宙研のミッションのお値段と同じ位ですが)、科学目的も「一点豪華主義」にしなくてはなりません。

そうすると、新しい計測機器の技術開発の費用までは手が回らないですね。しかし米国と日本の違いは、かの地にはすでに、1960年代からの惑星探査や軍事技術のお下がりの、いわゆる"Off-the-shelf"(できあい品)技術が様々な科学分野にわたってあることです。そのため、文字通り JPL の倉庫あたりから予備品を持ってきたり、過去の設計図を引っ張り出して開発費ゼロでコピー品を作ることで、予算を抑えながらもバラエティに富んだ科学計測の組み合わせが可能になるのです。つまりディスカバリーでは、過去の投資と実績を有効利用して値段と開発年数を節約するために、日本のアイディアが先に米国で実現する、なんて逆転現象を可能にしているのです。
宇宙開発では「新規開発」は必要ですが、それが常に「最先端技術」だとは限りません。むしろ実際は、色んな地上分野(特に軍事)のお下がりを宇宙用に改造したものが多いのです。それから有名な業界ネタである「宇宙でペン」に象徴されるように(*)、宇宙では「実績のないリスキーなハイテク」よりも「飛行実績のある確実なローテク」の方が好まれる場面が多いのです。

(*)=有人飛行が始まった頃、米国では微小重力・低気圧の船内で使えるインクペンの開発に大金を投資して、有名なフィッシャーペンを作って得意がっていたけど、ソ連の宇宙飛行士は単に鉛筆やクレヨンを使っていた(しかもカラフルな絵まで描いて!)、という実話。

しかし、そんなことを言ってディスカバリーだけを続けていると、いずれ米国の探査技術も古ぼけたものばかりになるのでは?と思う方もいるかもしれませんね。その通りです。そこで NASA「宇宙飛行技術局」などは、将来の宇宙飛行や探査に必要な新しい技術の開発を行うためのニューミレニアムシリーズというプログラムを持っています。いわば宇宙研の MUSES シリーズに当るもので、その一番手が電気推進を使って小惑星と彗星のフライバイを行う Deep Space-1 です。こうやって NASA は、短期間による科学成果の獲得と新規技術の開発をバランスを保ちながら両立させているのです。