次世代太陽系探査
You are here: Home / Future, Solar System Exploration / Planetary Science / Recommended, Planetary Science
東大新報 - 惑星科学のすすめ
Modified : January 09, 2017 - 太陽系惑星科学の勧め
『東大新報』1998 掲載
廣井孝弘
ブラウン大学 地球・環境・惑星科学科上席研究員
5 章. 地球のおかれた環境からみた人類の起源と未来
5 - 1. 生命は地球外から来たのか?
近年、火星から来た隕石である ALH84001 の中に存在する炭酸塩が火星上で存在したバクテリアが鉱物化したものである可能性があるという説が出て、未だにその真偽ははっきりしていないものの、生命が地球の外でも発生し得ることと、地球の生命も地球外から来たのではないかという可能性にも多大な関心が注がれた。しかしながら、太陽系生成論の章で述べたように、火星も地球も太陽系星雲の塵とガスが固まってできたものであり、微生物が火星から来ようと彗星から来ようとそれは生物発生と進化の速さの違いに過ぎない。
それよりも重大な問題は、現在地球以外の惑星に生命が存在するかということである。火星隕石のバクテリア説が証明されれば、火星はもとよりユーロパなどの氷・水惑星や彗星にも原始的な生命がいる可能性はある。しかし、知的生命体が我々と同様な組成をしているとすれば、現在の地球環境以外では知的生命体の発生と存続は難しいと思われる。そのことを以下の節でより詳しく述べてみよう。
5 - 2. 地球環境の特殊性
生命の存在に液体の水が重要なことは良く知られている。太陽系内の惑星は主たる熱源を太陽から得ているので、太陽から受けるエネルギーとそれを宇宙空間に放出してしまう分との差し引きでその惑星の温度が決まる。それが 0~100 ℃ の間ぐらいで安定して存在していないと生命の維持は難しい。金星は地球とほぼ同じ大きさだが、太陽に近く濃い大気による温室効果で熱を逃がす効率が悪く、その表面は灼熱の世界である。一方、火星は地球よりずっと小さい上に太陽から遠く、低温の世界である。それでも金星よりは生命にとってやさしい環境である。月は太陽からの距離において地球と同じだが、その小ささのゆえに大気を持たず、液体の水は存在できない。エウロパを含め、大気がなく低温の惑星で液体の水が存在し得るのはその地下においてのみである。しかしそのような地下の海洋では太陽光が届かず、太陽光によってエントロピーを放出する機構をもてないので、生命が高度に進化することは難しいはずである。
生命の存在に重要なことは、液体の水が存在することのみではない。太陽は生命に必要な太陽光を供給する反面、有害な太陽風という荷電粒子の集合も出している。地球の場合は非常に強力な磁場によって太陽風がうまく避けられているが、磁場を作る金属核を持たないような小天体ではそうは行かない。また、適度な濃さの大気の存在は上記のように液体の水を保つ環境を作るのみでなく、宇宙空間から降り注ぐ隕石や塵を大気の摩擦熱で破壊したり溶かしたりすることで地上が直接攻撃されることを防いでいる。しかしながら、大きくかつ強度の強い隕石はやはり地上に落ちてくるわけだが、入射が斜めなものほど大気によって跳ね返されたり減速される。さらには、大気中のオゾンによって入射してくる紫外線が吸収されたりと、大気の持つ役割は大きい。言うまでもなく、大気は水とともに地球のあらゆる場所を循環して温度を含む環境の平均化をもたらしているが、地球の自転軸が公転面に対してやや傾いていることも、各地に四季をもたらして一年を通して太陽光の入射量を平均化するのに役立っている。
5 - 3. 彗星・小惑星が地球に及ぼす影響
前章で述べたように、小惑星から多くの隕石が今も降り注いでいて、彗星からは主にダスト(塵)が降ってくる。したがって、それらよりも大きなものが降ってきて地球に危機を与えるかもしれないと考えるのは自然である。ただし、最後にそれが起こったのが恐竜たちが滅びた時代であるとすれば、それが起こる確率は非常に小さいと言えるだろう。
1998年に公開された映画のうちで、「ディープインパクト」と「アルマゲドン」は彗星や小惑星が地球に衝突してくるという状況を想定している。確かに、地球の軌道と交わったり接するような軌道を持つ小惑星や彗星は存在するので、タイミングが悪ければ地球に衝突することもありうる。しかし、アルマゲドンで想定されているような、何百 km もある小惑星が地球に衝突する数週間前までわからないというのはありそうもない。なぜなら、地球軌道に近い小惑星は最大でも数十 km だし、アステロイドベルトにある大きな小惑星が突然軌道を変えて地球に衝突する軌道に乗るというのはかなり大きな変化であって、1 年ぐらい前からその危機が観測からわかると考えられる。
その点において、ディープインパクトは非常にありうる状況を想定している。そこでは 10 km ぐらいの大きさの彗星が地球に衝突する 1 年以上前に発見され、それを破壊する二段階の計画が立てられ、一部の人類が 2 年間生き延びるための地下都市が作られている。彗星は氷を主とする揮発性物質を多く含んでいると考えられるので、内部に核爆弾などを仕掛ければ粉々になる可能性が高い上に、十分に小さくなった後に大気圏に突入すれば、その熱で内部の氷が溶けて空隙ができ、大気の圧力で粉々になってしまう。ただし、彗星に着陸するというのが映画で見られるように運良くうまく行くかどうかは大きな疑問である。
5 - 4. 惑星科学と人類の生存との合目的性
一般に、惑星科学は人間の実生活に直接関係ない学問のように思われがちだが、前節に述べたように,惑星科学的立場から太陽系の小天体の起源と未来の挙動を知ることは地球に対するそれらの脅威を正しく評価し、対策を立てるのに役立つ。それをさらに推し進めて、小天体の脅威を人類の活動に役立てることも考えられる。
まず、地球上に何年間も核の冬をもたらして生命を絶滅させるような巨大衝突がいずれ来るとすれば、人類はどこかに一時的にでも退避する必要がある。地下都市も良いが、太陽のエネルギーを利用できる退避場所としては宇宙コロニーが考えられる。ひところのアニメ「機動戦士ガンダム」で描かれていたように、地球と月の系のラグランジュ点に宇宙コロニーを建設し、また小惑星を捕獲して基地や資源の供給源とすることは非常に合理的なアイディアである。彗星や原始的小惑星ならば水を確保できるし、M 型小惑星ならば鉄・ニッケル合金が手に入る可能性が高い。そのように小天体の鉱物・化学組成を推定するのは惑星科学の仕事である。
更には、地球も惑星のひとつであり惑星科学の対象のひとつであることと、小天体が地球に衝突するというような従来の地球科学では扱わなかった現象を考えるという点で、地球環境の保全を考えるのも惑星科学の仕事である。巨大衝突によって舞い上がった水蒸気と塵の雲を以下に取り除いて太陽光が一刻も早く地上に届くようにするかということや、地下や宇宙コロニーという閉じた環境下で如何に生命を維持するかというような問題である。さらに、第一章でも触れたように、火星をテラフォーミングして人類が移住可能にするというのも惑星科学の課題である。
以上のように、惑星科学の知識から地球人類の生存を助けることができるが、その過程において惑星科学自体が受ける恩恵もある。例えば、宇宙ステーションや宇宙コロニーの建設をして、宇宙から天体望遠鏡などで太陽系の小天体を観測することで、地球上からの場合と違って空気による吸収・太陽光の散乱・電波障害といったノイズのないデータをとることができる。また、小惑星などを捕獲することにより、地球外で資源を採掘して人工衛星やロケットを建造することで、より大きな物体を遠くへ探査機として飛ばすことができる。近地球小惑星には幸いあらゆる型のものが含まれているので、研究対象としても資源としても非常に有用なものである。
Next >> 6 章. 日本の惑星科学の将来
” HTML 編集 - ウェブ編集室 ”
You are here: Home / Future, Solar System Exploration / Planetary Science / Recommended, Planetary Science
CATEGORY: 次世代太陽系探査
... ...
Creating a better future by exploring other worlds and understanding our own.