次世代太陽系探査
You are here: Home / Future, Solar System Exploration / Post MUSES-C / Bepi Colombo
ベピコロンボ国際共同水星探査計画 ~ 人類御無沙汰な水星へ ~
Updated : July 07, 2017 - Post MUSES-C
日本惑星科学会誌「遊星人」 Vol. 12, No.1, 2003 掲載
お話:山川宏(ISAS).聞き手:樋口有理可(神戸大学大学院博士課程)総て当時.
この原稿元ファイル:[ 日本惑星科学会誌「遊・星・人」第12巻(2003)1号 - PDF ]
要旨
今回は前回と同様、理学委員会にて承認され、現在計画が進められておりますESAと宇宙研の共同ミッション、水星探査計画を取り上げます。スタデイマネジャーを勤める宇宙科学研究所の山川宏先生にお話を伺いました。インタビューワーは神戸大の樋口さんにお願いいたしました。
水星は、1973年から1974年にかけて、マリナー10号が3回訪れて全表面の45%の写真が撮られましたが、その後一度も探査機が訪問したことがない天体です。このとき撮られた写真によると、水星の表面は月と非常によく似ていますが、しかしその内部には非常に大きなコアが存在していると思われ、固体惑星の形成や進化を考えるに当たっては非常に興味深い天体であると考えられています。今回のインタビューでは、久々の訪問となる水星探査計画の概要と、ISASとESAの共同ミッションがどのように始まり進められているかなど、探査計画の組み立てに関して非常に興味深いお話を聞くことができると思います。本稿がこれから惑星探査の門に進まれるすべての方の参考になれば幸いです。
以下、当時の想定上での情報です。本ページの ” Bepi Colombo ” を参照してください。
Giuseppe(Bepi)Colombo(1920-1984)はイタリアの応用数学者です(1920-1984)。NASAに金星及び水星スイングバイを利用した水星接近法を提案した人です。マリナー10号はその方策で初めて水星に近付き、科学者の好奇心をかきたてる水星情報-例えば、異様に大きな平均密度、固有磁場と磁気圏の発見など-をもたらしました。それからちょうど40年後、彼の名を冠した国際共同水星探査計画「BepiColombo」の下に、私たちは再び水星に近付きます。
今回の計画はヨーロッパ宇宙機関(ESA)と宇宙科学研究所(ISAS)の初めての本格的な国際共同ミッションです。ロシアのソユーズ・フレガートロケット2台を使って、2つの衛星と1台のランダーが、2011年の1月にバイコヌール基地より打ち上げられ、2014年に水星到着を予定しています。2つの衛星の主な役割と特徴は次のようになります。
*MPO(Mercury Planetary Oerbiter):水星表面の地形、化学組成や相対論効果の検証。軌道傾斜角90度で近水点は赤道上空400km、遠水点は1500kmの周期が2.3時間の軌道をとる。
*MMO(Mercury Magnetrospheric Orbiter):水星の未知の磁気圏探査や大気に関するデータの収集。軌道傾斜角90度で近水点は赤道上空400km、遠水点は12000kmの周期が9.2時間の軌道をとる。
このふたつの衛星の周期には1:4の関係を持たせ、同期させようとする計画です。MMOの開発と運用をISASが担当しています。MMOには電子分析器、イオン分析器、太陽風分析器、高エネルギー粒子検出器、高速中性粒子検出器、磁力計、プラズマ波動観測装置、カメラ、ダストカウンタなどの搭載が予定されています。そしてMSE(Mercury Surface Element)というランダーですが、これはMMOと一緒に打ち上げ、MMOを切り離した後に水星の高緯度地点に着陸させる予定です。
マリナー10号が垣間見たことで更に深まる結果となった謎を解きに「BepiColombo」は灼熱の水星に向かいます。搭載される3機の探査機はそれらの謎の答え、新たな謎、そして惑星科学全体への新たな光をもたらしてくれることでしょう。
インタビュー
Q. 水星探査計画はどのような経緯で実現したのですか?
それにはふたつの理由が独立にあったんです。まず、1996年に宇宙研の中で、火星の次に目指す惑星としてサイエンスの側から水星が候補としてあがりました。水星は軌道修正のために大きなエネルギーが必要です。宇宙研の M-V ロケットでは本当に小さな探査機しか積めなくて難しいのですが、NASDA の H-IIA ロケットが使える機運が高まってきました。
それなら実現できるかもという工学側の都合と、サイエンス側からとの両方のアプローチがあって、1997年にワーキンググループが立ち上がりました。ですが、予算的な理由から水星探査の計画は一旦なくなりました。
98年頃、NASA で水星探査計画(メッセンジャー計画)が承認されました。ヨーロッパでも計画がありましたが、ひとつの機関では大きすぎる計画でした。そして、我々日本も水星探査をやりたいということをあちこちでしゃべっていました。そこで99年、ESA の中から「日本と一緒にできないか」という話が起こり日本側に呼びかけがありました。宇宙研としてもヨーロッパと一緒ならできるかもしれないということで、一旦はなくなった計画が復活したのです。ヨーロッパがロケットを提供してくれるということで、日本としては探査機を造ることに集中することができるようになりました。こうして99年の ESA からの呼びかけにより、2000年にワーキンググループが再びスタディを開始しました。1年間の検討の後、2001年秋に理学委員会に提案、そして2002年の1月に理学委員会の評価委員会があり Go がでました。
Q. 評価委員会で Go がでたとはどういうことですか?
理学委員会、宇宙研としてはこれを認めるということです。つまりこれは学術的観点の話で、その次に宇宙研が文部科学省に2003年度の予算申請(概算要求)をしました。その結果はまだわかっていませんが(2002年12月当時)、おそらく希望通りにはならないでしょう。普通、衛星開発は PM、FM というフェーズに分かれています。PM とはプロトタイプモデルフェーズのことで2年間くらいあります。この間に衛星や観測機器の設計を済ませます。FM とはフライトモデルフェーズのことで、一般的に3年間です。実際にフライトするものを作ります。これらの予算を要求するのが概算要求です。2003年度から PM をスタートさせるための予算を要求しました。ですが文部科学省は予算状況が厳しいので2003年から水星探査計画の PM に入るのはきっと無理で、研究開発フェーズ(PM の一段階前)となるのだろうと予想していました。ここで、幸いというかなんと言うか、当初は2009年度に予定されていたロシアのロケットの打ち上げがいろんな理由、おもにヨーロッパ側の予算の問題で、2011年の1月、つまり2010年度にずれ込みました。この偶然で PM 開始が2004年度でもなんとか間に合うことになったのです。つまり、PM に04、05年、FM に06、07、08年ということになります。そして2009年に衛星を組み上げた状態でヨーロッパにて総合試験を行い、2010年度打ち上げとなります。
Q. お金が下りてから打ち上げまで7年要ることになるんですね。
そうですね。長いですので、ベテランの知恵を借りつつもチーム(工学側)には最初から若手も採用しました。2011年の1月に打ち上げて、2014年の9月に水星に着きます。そこから1年間観測ですから10年、というか15年仕事になるんですね。それまでできるだけ継続できるチームにするため必ず若手を入れるようにしています。もちろん若手だけでは限界があって、経験という意味で過去にいろんな計画に携わった人にはまったくかなわないので、そういう方々にも最初から参加していただく、ただし若い人も必ず参加できる、そういうふうにやっています。
Q. 今回の計画で搭載される3機の探査機の特徴と得られるデータについて教えてください。
ベピコロンボ計画ではふたつのソユーズロケットを使って三機の探査機、MPO、MMO、そして MSE を上げようとしています。
MPO とは Mercury Planetary Orbiter のことなんですけど、水星周回衛星で ESA が作ります。固体サイエンス、つまり表面の化学組成や相対論効果の検証などを目的としています。MPO の責任者はESAなのですが、日本も PI(Principal Investigator:機器の責任者)としていくつかの機器に参加します。搭載機器にはそれぞれ PI がいるのですが、MPO 搭載機器の 1/3 程度は日本がPIとなる予定です。
次に、MMO というのがあります。これは Mercury Magnetospheric Orbiter 水星磁気圏探査衛星です。これはスピン衛星、水星のスピン軸周りを回っている衛星で宇宙研が全体の責任を持っています。1974~5年に NASA のマリナー10の一瞬のフライバイによって存在がわかった水星固有磁場の詳細のデータを取ります。水星の磁場を測り、太陽風と水星磁場の相互作用でできる水星の磁気圏を調べます。後、できれば水星表面にあるといわれている薄いナトリウムの大気についても調べる予定です。そして、どうして水星には磁場があるのか、また大気が薄いから地球とは違うだろう、どういう構造になっているのかということなどを知りたいと思っています。直接わかるかはわかりませんが、どうして水星の密度はほかの地球型惑星に比べて大きいのかということもあります。まあ、これはベピコロンボ計画全体にいえることかもしれません。さらに、水星に着くまでの惑星間空間と水星周りのダスト検出もしたいと思っていますが、これがどこまで実現できるかはまだ今検討中です。
最後は MSE です。これは Mercury Surface Element と言うランダーで水星に着陸させるものです。ですが、水星に着陸するとは“止まる”ということなので非常に大きな減速が必要です。例えば地球で考えると、ロケットを打ち上げるのにあれだけ加速して、秒速 8km 弱加速して初めて地球の周りを回りますよね。それと逆のことで、それだけ減速をして、速度を殺して、初めて表面にたつことができる。水星でいうと大体 5km 毎秒くらいですが、すごい多くの燃料使う大変なことであるとわかっています。現状では厳しい重量制限及び予算枠を満足するよう MSE の検討が急がれています。
Q. MMO は日本が責任者ということですが、苦労されている点を教えてください。
地球付近での太陽輻射量を 1 ソーラーという単位としますが、水星では 11 ソーラーぐらいの太陽輻射を受けます。水星に近づくということでその厳しい環境に耐えられる衛星を作らねばなりません。さっき重量が効いてくるといいましたが、重量というのは熱と関係していて、たとえば11ソーラーの熱を遮断する材料とか、そういう基礎的なところから検討するんです。カメラを 150 度くらいに熱したら動かなくなる、それと一緒で外は何百度という世界でも内側は20度付近に制御しなければならない、そういう熱制御が大変。後、どうしても一番外側はむき出しになってますよね。そういう中でも耐えられるような材料とか構造とか、そういうところが一番難しい点なんですよ。そういうことに詳しい人をチームの中に入れています。
Q. 水星ならではの問題ですね。
そうです。金星では 2 倍くらいですが、水星では 10 倍と桁が違うんです。そこらへんはとにかく苦労しています。もっとも苦労してるのは僕ではなく各サブシステムの人たちですが、これからも苦労していくでしょう。ですが、例えば観測機器は水星を見てるわけですよね。太陽輻射だけでなく、アルベドといって水星から跳ね返ってくる光もあるし、赤外輻射の熱もあります。しかしそういったいろんな光や熱を全部遮断したら何やってるかわからない。観測するわけですから窓が要ります。窓を開けつつ、入れたくはない。最悪のときは水星も太陽も同時に見えてしまいます。
Q. それは見ないようにするんですか?
見ないようにするべきなのか、見ても大丈夫なシステムを作るのか、の判断が必要ですね。サイエンスの人たちはいつでもデータが欲しいと当然言うのですが、システム側は、いや、だけどそうすると衛星が動かなくなってしまいますからどこどこは我慢してください…といったような調整がとても必要なんですよ。難しいところですね。ただ、11 ソーラーに耐えるものを作るというのは工学的に非常にチャレンジングで、逆に面白いところでもあります。
Q. どうやって耐えられるか確かめるんですか?
いい質問ですね。理想的なのは太陽光と同じスペクトルのランプで太陽光を照射することです。その機械をソーラーシミュレーターといいますが、それを使って地球周回軌道の衛星は試験します。NASDA には 2 ソーラーまで試験できる装置があります。ですが、11 ソーラーはありません。衛星全体の規模で作るのは非常に難しいので、できれば直径 25cm くらいの照射面積を持つ、小さいけれど 11 ソーラーのシミュレーターを作ってここでいろんな材料のテストを行ないます。またカメラ、観測装置に隙間からどんな光が入ってくるかやってみないとわかりませんのでそんな実験もします。11 ソーラーの試験が可能な小さいシミュレーターによるサブシステムごとの実験と、衛星全体の 2 ソーラーで実験との両方で対応します。問題は、小さい 11 ソーラーシミュレーターでさえ作るのが難しいということです。まだ予算がついていない状況です。
Q. それができないと計画ストップですか?
最悪 2 ソーラーだけとか、もっと直径を小さくするとかして最低限の試験をして、大きなものは 2 ソーラーでの試験だけで全体的な OK を出すという解析的な手法を構築して、理詰めでなんとかなるかもしれません。でも信頼性を向上させるためにはぜひ必要です。
Q. 今回の計画の強みと、(あれば)弱みを教えてください。
NASA のメッセンジャー計画との比較がわかりやすいかもしれません。メッセンジャーは2004年に打ち上げ、2009年に水星に到達します。つまりベピコロンボを打ち上げる前に到着します。探査機器の観点からいうと、ベピコロンボと比べてある意味狭くなっています。ベピコロンボは二つの探査機を上げるし本当にいろんなことを調べようとしています。メッセンジャーはどちらかというと MPO に似た衛星で、得られるサイエンスは固体系に集中しています。確かにメッセンジャーのほうが先に着くんですが、得られるサイエンスとしては、ベピコロンボと比べてデータ量は 10 倍ほど違うと言われています。軌道の観点から言うと、メッセンジャーは水星の北半球側にしか近づけません。MPO は全体的に満遍なく近づきます。このような点は強みといえるでしょう。不利な点は、今言いましたが後に着くということですね。また、今までアメリカとは本格的に国際協力でやってきた例がありますが、ESA とは初めての本格的な国際協力で意味合いとしては大きいです。
Q. 今回、ESAと初めての国際協力ということですが、ESAとの関係を教えてください。
ESA は13、4カ国が協力してやっています。規模(人数)としては NASDA と同じくらいです。今回のベピコロンボに関しては全体のマネジメントは ESA にあります。探査機の責任はそれぞれをお互いが持つということで、そこは対等です。サイエンスに関して言うと、さっきもいいましたが MPO の観測機器のうち 2/3 の PI はヨーロッパ側で、逆に MMO に関しては全体の 2/3 は日本側が PI になっています。
Q. 国産CPUは日本の宇宙開発における戦略的部品になるという記事を読んだのですが。
戦略的、というのはちょっとあれですが、広瀬先生と斉藤先生達によって、初めて民生品をベースに耐放射線性の高いものができました。日本製であるということは強みです。お金の節約にもなります。なにより、お金があってもすぐ手に入るとは限りませんし、お金があれば買えるという考えでは将来すぐに破綻します。衛星に限ったことではないですが。他にもいろいろありますが、CPU はそのうちのひとつです。自分たちの技術があってこそいろんなことがやっていけるので、日本製ということには非常に意味があります。
Q. 山川先生個人について質問させてください。先生は今回の計画のミッションリーダーでいらっしゃるんですよね。
予算がはっきり付いていない今のフェーズではスタディマネージャーということになります。工学系の代表ということになります。サイエンス側の代表は早川先生で、全体の代表として向井 利典先生がいらっしゃいます。
Q. ひとつのミッションを実行するのに何人ぐらいの人が関わっておられるんですか?
それは難しい質問ですね。数え切れない…。まあ、工学側では今の段階で実質的に参加しているのは 30 人くらいですか。サイエンス側では宇宙研の中だけでもいっぱいいますし、複数のグループでできていますので、200 人ぐらいでしょうかね。全体では 200 人以上、中心的なメンバーは 30 人ぐらいでしょうか。
Q. 個人的にはどのような点で水星に興味を持っておられ、計画に参加されたのですか?
個人的には軌道工学が専門ですが、水星は軌道修正のために大きなエネルギーが必要なので非常に難しい対象です。軌道工学をやっている立場から、いつ打ち上げていつごろ水星に行くかというような全体の最適化に非常に興味がありました。水星に行く軌道計画を作ることがチャレンジングで研究していたんですね。そういうことをしていると、「いつごろ打ち上げられるの」ということを聞かれて、最初、計画にはそういうところから参加していきました。「こういうふうにしたら水星に行けるしやったらおもしろいんじゃないの」という話をしましたし、そしてサイエンス側の人の興味、その両方から計画につながりました。
Q. 水星に行くのが難しいのは内惑星だからですか?
火星、金星はまだ楽です。水星は、行くのにまず大きな速度変化が必要ですし、着いても相対速度が大きいのでまた大きな減速が必要になります。遠いということでは木星のほうが時間もかかりますが、速度差が大きいために水星は木星と同じくらいエネルギーがかかり大変です。少なくとも宇宙研の M-V ロケットではかなり小さな探査機しか積めなかったんです。
もともと水星への軌道計画を立てることがチャレンジングなので興味がありましたが、今はサイエンスの人たちともよく話をするので水星自体にもすごく興味が出てきました。ほんとはね、できるだけ遠くに行きたいと思っています。木星や土星にも行きたいと思っています。
Q. ひとつの惑星に行くのに 10 年以上の時間がかかるとすると、人生で行ける惑星の数は限られてきますね。
そうですね。ですが実はほとんどの惑星ミッションに携わっています。度合いは違いますが、全部最初から関わっています。火星探査機ののぞみ(PLANET-B)も関わっていますし、金星探査機の PLANET-C は軌道計画のサブシステムから関わっています。ジオテイルはドクターの頃に。修士の頃は「ひてん」の軌道計画を一緒やっていました。今ほかにも将来計画がいろいろありますが、将来を考える時点でいつも参加させてもらっています。それが仕事なんですね。ですからベピコロンボに 10 年というのは大して気にならないです。
Q. ベピコロンボ以外に現在個人的にされていることを教えてください。
今、磁気プラズマセイルというものをやっています。磁気プラズマセイルというのは、探査機の周りに磁場を作るんです。太陽風とその磁場の相互作用によって、探査機の周りに探査機磁気圏ができます。そうするとそれが帆のようになり探査機は力を受けるんです。その力で一気に加速しましょう、というアイデアを今 8 人ぐらいのグループで考えています。MUSES-C で使われるイオンエンジン、あと宇宙研で他のグループが提案しているソーラーセイルこれは太陽光圧を利用するものですね、それと今言った磁気プラズマセイルがあります。で、まあ、磁気プラズマセイルを今進めようとしていて、実現すると木星でも土星でも天王星でも短時間でいけます。
Q. それは速度が上がるということですか?
一気に速度制御能力が上がります。こういう研究が本業です。このようにして、前からの「遠くに行きたい」という思いの元で開発を今、ISAS、筑波大、静岡大の8人ぐらいで一緒にやっています。私はもちろん専門を生かして軌道を計画したり、解析したりしています。他に、来年(2003年)打ち上げの MUSES-C は M-V というロケットを使いますが、その軌道計画、そしてベピコロンボ。この三本柱です。
Q. その三つの中で一番興味があるのはどれですか?
やっぱり磁気プラズマセイルですか。本当に何にもないときが一番面白いです。計画がある程度軌道に乗ってくると本当に現実的なことがどんどん出てくるので、こういう夢のある段階が一番面白いですし何でも言えます(笑)。土星、天王星、太陽系脱出、何でも言えるんですよ。検討が進んでいくとまたいろいろあるでしょうけど。
Q. 読者の皆さんへのメッセージをお願いします。エッジワース・カイパーベルト天体に代表されるような遠方の天体を研究対象としている研究者・学生にとっての惑星探査の可能性を教えてください。
まさに今の話ですね。今までの化学推進では無理でしょうけど、イオンエンジンやソーラーセイル、磁気プラズマセイルのどれか、またうまく組み合わせれば、時間はかかりますが行けるでしょう。10 年以内には無理かもしれませんが、次の 10 年では十分ありうるでしょう。磁気プラズマセイルは効率の割には推力が大きく、早く加速できるというのがあるので、われわれのグループとしてはこれを押します(笑)。太陽から離れると太陽風は弱まりますが、その分探査機の作る磁気圏が大きくなれるので原理的には推力一定なんです。ですが、プラズマを作るのは今のところ太陽電池なので、遠くに行くと距離の二乗に反比例して得られる電力が減っていき、推力も落ちます。これはイオンエンジンも同じです。ソーラーセイルも太陽光圧が距離の二乗に反比例するので同じです。結局どれも距離の二乗に反比例して減っていくので、太陽に近いうちにどれだけ加速できるかということが重要になるんです。これを打ち破るには、現在は許されていませんが RTG(Radioisotope Thermoelectric Generator)でしょう。本当に遠くまでいくためには、これでしょうね。
Q. 最後に惑星科学を志す学生へのメッセージをお願いします。
私は惑星科学者ではないのですが、根っこは同じだと思うんですよ、宇宙に行きたい、宇宙を知りたい、ところからスタートしている。とにかく思ったとおりどんどん言って、提案していってください。学生だからとかいうのは関係ないです。
インタビューを終えて
古代から人類は新しい地を求め、歩いて、食べて、乗物を工夫していました。今回のインタビューを終えて、惑星探査はまさにその延長だと感じました。人は未開の地の開拓を進めます。それは、必ずしも住み心地に拘らず、知的好奇心とそしてなにより「未開」であることに惹き付けられての結果であると思います。
より良い住居を求めての地の開拓には道具の発達である程度の収束感が得られた現代でしょうが、「知」のフロンティア精神は新しい道具を得るたびにむしろ発散的になっています。将来、人類に地球を捨てなければいけない日が来て月や火星に移住するようになるのかどうかは私にはわかりません。ですが、移住が不可能と思われる天体への探査計画もますます進められることは確かでしょう。地球がまるいと知った時から頭を下にして真裏に住む人の存在を意識し、また月では決して兎が餅をついているわけではないと知ったとたんに何の絵も見えなくなるように、新しい知識は何かを与え、そして何かを奪います。ですが、風に揺れながらも考える人間の「知りたい」という思いの結果は、山肌をつたう水のように広がりながら進み、止めることは出来ません。
その裾はついに水星探査計画にまで届きました。それは、知的好奇心の求めるところ、そしてサイエンスリターンが期待されるからこその実現ではありますが、インタビュー中に山川先生が何度か使われた、「遠くに行きたい」「チャレンジング」、このふたつの言葉は、惑星探査が現代にありながら遥か昔からのただただ未開の地へ向かう開拓者と同じあることを表しているように思えてなりません。計画中止からの復活は、多くの研究者の方々の計画実現に向けた並々ならぬ熱意と多大な努力の上にあるのだと思います。この計画が成功することを心から願っています。
最後になりましたが快くインタビューを引き受けて下さった山川先生、支えて下さった将来計画委員会・惑星探査検討グループの皆様、そしてこのような機会を与えて下さった遊星人インタビュー記事編集の皆様に心から感謝します。
人物紹介
山川宏:ISAS宇宙探査工学研究系助教授(当時)
1993年4月より文部省宇宙科学研究所システム研究系助手、1999年4月より同宇宙探査工学研究系助教授。工学博士。軌道工学・宇宙探査工学専攻。ロケットの飛翔計画の策定、風補正、電波誘導、衛星・惑星探査機の飛翔計画の策定、システム検討に従事。学生に聴くところによると、先生の夢は宇宙飛行士になることだとか。中学校から社会人までずっとバレーボール一筋だったのが、5年ぐらい前から山歩きも趣味とされているそうです。(2003年当時)
樋口有理可:神戸大学大学院博士課程(当時)
研究内容は「恒星を取り囲む彗星雲の起源と進化」。彗星雲の起源を、惑星の成長と併せて研究を進めている。小柄な外見とは裏腹に連日の睡眠不足にも負けずに研究を続けるバイタリティーの持ち主。天文学の分野と惑星科学の分野を繋ぐ研究者として、今後の活躍がますます期待される。将来の夢を尋ねたところ、「生まれ変わったらテニスの選手になってグランドスラムを達成したい」との返事。来世があるならホントにスポーツ選手になりたいそうです。(2003年当時)
You are here: Home / Future, Solar System Exploration / Post MUSES-C / Bepi Colombo
CATEGORY: 次世代太陽系探査
... ...
Creating a better future by exploring other worlds and understanding our own.