The Planetary Society of Japan

次世代太陽探査

特集:チェリャビンスクイベントと天体衝突リスク 「スペースガード」とは何か

Updated : October 31, 2016 - スペースガード

日本惑星科学会誌「遊星人」 Vol. 22, No.4, 2013 掲載

吉川 真(JAXA),山口智宏 (GMV, ESA-ESOC)

この原稿元ファイル:[ 日本惑星科学会誌「遊・星・人」第22巻(2013)4号 - PDF ]
 

要旨

天体の地球衝突を扱う活動が「スペースガード」であるが,この活動が本格化してから20 年以上が経過した.地球接近天体(NEO : Near Earth Object)の発見数も1万を超え,この数は今後もさらに増加していくことが予想される.国連でのスペースガードの議論も10年以上となり,今後の対処方針も固まりつつある.そのような状況下で,ロシアに隕石が落ち大きな被害が生じた.ここでは,スペースガードとはどのような活動なのかについてまとめ,その問題点や今後について議論する.
 

1. スペースガードとは
 

図 1. 地球接近小惑星の月別発見個数.1981年から2000年初頭までのデータを示す.(マイナー・プラネット・センター[1] が公開しているデータより作図).
 

天体の地球衝突を扱う活動を「スペースガード」と呼ぶ.スペースガード(Spaceguard)という言葉は,アーサー・C・クラークの Rendezvous with Rama(1973年刊,邦訳「宇宙のランデブー」,早川書房)という SF 小説で,初めて使われた言葉である.直訳すれば,「宇宙監視」とか「宇宙保護」あるいは「宇宙防衛」とでもなるであろうが,日本語でもそのまま「スペースガード」と呼んでいる.実際に意味するところは,“宇宙から衝突してくる天体から地球を守る”ことである.

天から星が降ってくるということは,天文学がどんどん進展していく中,長い間まじめに取り上げられることはなかった.まさに,“杷憂”であった.もちろん,天体が衝突するという事実は認識されていたわけであるが,防ぐべき自然災害としては認識されなかったのである.その理由は,地球に接近するような天体があまり発見されなかったためである.しかし,観測技術が進んで地球近傍にも多数の天体が行き交っていることが分かってきた.それで,比較的最近になってからスペースガードが真剣に取り組まれるようになったのである.その様子を,図 1 に示す.図 1 は次の章で述べる地球接近小惑星の月別の発見個数である.1980年代は一月あたり数個発見されれば多い方であったが,1990年代になると毎月のように発見されるようになり多い月には 5 個を超えるようになった.この頃からスペースガードというものに意識的に取り組まれるようになったのである.そして,1997年の終わりからは観測が本格化したため,発見の個数が一気に増えた.

 

さて,2013年02月15日,久々に天体衝突による大きな被害が発生した.ロシアのチェリャビンスクに落ちた隕石である.「久々に」と書いたのは1908年にシベリアで起こったツングースカ大爆発というものがあるからである.ツングースカの方は大きさが 60 m 程度の天体の衝突によると考えられており,2,000 平方キロメートルもの森林が被害を受けた.チェリャビンスクに落ちた隕石の方は,NASAの推定によると 17 m くらいの大きさの天体であるということである[2].この隕石では多くの建物が被害を受け,負傷した人は 1,500 人にものぼったという.

大きさが 17 m とか 60 m の天体でも地球に衝突すると大きな被害を生じるわけであるから,さらに大きな天体がぶつかってきたら大変なことになる.最も極端な例は,約 6,500 万年前に起こったとされる天体衝突であろう.約 6,500 万年前に恐竜を含む多くの生物が絶滅し,地質年代が中生代から新生代に大きく転換した.その原因として,直径 10 km くらいの天体の衝突が有力視されているのである.また1994年には,大きさが数 km の多数の核に分裂したシューメイカー・レビー第 9 彗星が木星に衝突し,地球規模の大きさの変色域をその表面につくったことがある.木星への衝突は地球への衝突とは異なるであろうが,衝突エネルギーの大きさをまざまざと見せつけてくれた.

このような災害が起こりうるということを知ってしまったからにはその対応策を検討しなければならない.それでスペースガードという活動が約 20 年前から始まった[3][4].スペースガードは,最初は小惑星の研究者(観測や軌道計算)が中心で地球に衝突するような天体を把握しようという活動であった.この活動は現在でも続いているが,最近ではさらに衝突回避や自然災害対策という立場からも検討が行われるようになってきた.米国と欧州で活動が盛んであるが,日本でも1996年に日本スペースガード協会(現在は NPO 法人)が設立され,小惑星の観測・研究や天体の地球衝突という問題を正しく知ってもらうためのアウトリーチ活動を行っている.また,後述するように国連の場でもスペースガードは 10 年間以上に渡って議論されている.

スペースガードとして重要なことは,まずは地球に衝突しうる天体をすべて把握することである.そのためには,望遠鏡による観測を行う必要がある.次に重要なことは,地球に衝突してくる天体をいかにして回避するかである.以下では地球に接近する天体やスペースガードについての現状をまとめてみることにする.
 

2. 地球接近天体・NEO

太陽系には,8 つの惑星,5 つの準惑星(2013年現在),惑星の周りをまわる衛星,多数の小惑星・彗星,そして地球大気に飛び込むと流星となる惑星間塵のような様々な天体があるが,近年,太陽系小天体と呼ばれる小惑星や彗星が注目を浴びるようになった.その理由は,太陽系や生命の起源や進化を調べたいという科学目的が主であるが,スペースガードも重要な理由である.スペースガードとしては,太陽系小天体の中でも地球接近天体(以下では英語の Near Earth Object の頭文字を取って NEO と記す)と呼ばれている天体に注目している.

NEO とは,彗星や小惑星で太陽に 1.3 天文単位以内に接近する天体のことである.NEO は,軌道の特徴によって表 1 のように分類されている.近い将来について地球衝突を気にすべきものは PHA(Potentially Hazardous Asteroid)であるが,PHA でない NEO も太陽系の歴史のタイムスケールで見れば,地球に衝突する可能性がある天体ということになる.NEO には小惑星と彗星があるわけだが,ここでは小惑星の方に着目する.もちろん,地球衝突を考える上では彗星も小惑星同様に重要であるが,その衝突頻度は遥かに小さい.以下では特に混乱の恐れはないので,小惑星の NEO(つまり NEA)を単にNEO と書くことにする.
 

表 1 : 地球接近天体(NEO)の分類

分類名 定義 説明
NEC q<1.3 AU
P<200 years
NEA=Near Earth Comet
近日点距離が 1.3 AU 以下.
周期が 200 年以下.
NEA q<1.3 AU NEA=Near Earth Asteroid
近日点距離が 1.3 AU 以下.
NEA アティラ(Atira)型 a<1.0A U
Q<0.983 AU
小惑星の軌道全体が地球軌道の内側にある.
(163693)Atira にちなんで,命名.
NEA アテン(Aten)型 a<1.0 AU
Q<0.983 AU
地球軌道と交差する小惑星で,主に地球軌道の内側に存在する.
(2062)Aten にちなんで命名.
NEA アポロ(Apollo)型 a<1.0 AU
Q<1.017 AU
地球軌道と交差する小惑星で,主に地球軌道の外側に存在する.
(1862)Apollo にちなんで命名.
NEA アモール(Amor)型 a>1.0 AU 軌道は地球軌道の外側にある.ただし,近日点距離は 1.3 AU より小さい.
(1221)Amor にちなんで命名.
NEA - PHA MOID<=0.05
AU, H<=22.0
PHA=Potentially Hazardous Asteroid
NEA のうち,地球軌道との最小距離(MOID*)が 0.05 AU 以下で,絶対等級(H)が 22 等より明るい天体.

 

図 2. 小惑星と NEO の分布.2013年初めまで,に軌道が算出された全小惑星を(a)に,その中のNEOを(b)示す.中心が太陽,軌道は水星~木星,黄道面(地球の軌道面)に天体の位置・軌道を投影した.天体の位置は, 2013年8月1日現在の位置である.(ローエル天文台[5]が公開している軌道データより作図)
 

図 2 に最近の小惑星の分布を示す.2013年7月には,発見されて軌道が算出された小惑星が 62 万個を超えた.このうち,NEO は約 l 万個にのぼる.図 2(a)にプロットした小惑星の中で NEO だけ抜き出したものが図 2(b)である.この図を見れば分かるように,地球に接近してくる小惑星は木星軌道近辺まで分布しているのである.

 

図 3. 発見されたNEOの累積数.各年までに軌道が算出された NEO の累積数を示す.等級は絶対等級※であり,小惑星の大きさに対応する.小惑星の大きさは小惑星表面のアルベド(反射率)によるが,アルベドを小さく 0.05 と仮定した合,絶対等級 18 等は直径 1,500 m,23 等は 150 m に相当する.(マイナー・プラネット・センターが公開しているデータより作図)
※太陽系天体の絶対等級とは,太陽および地球から1天文単位の距離にあり,位相角(太陽-天体-観測者がなす角)が 0 度と仮定したときの視等級のことである.
 

NEO の発見第 1 号は,1898年に発見された小惑星エロスにまで遡る.しかし,スペースガードとして NEO が注目されるようになったのは,すでに図 1 で,見たように1990年代になってからである.そして,NEO の観測が本格化するのは1997年末くらいからとなる.図 3 に NEO の発見の累積個数の推移を示す.1998年くらいから NEO の発見が急に増えた理由は,米国で LINEAR(リニア)という NEO 発見のプロジェクトが始まったためである[6].その後も米国を中心としていくつかの観測プログラムが動き出しており,発見数は増大の一途をたどっている.

図 3 には小惑星の明るさ(絶対等級)別の内訳も示されている.特徴的なことは 18 等よりも明るい小惑星,つまりより大きな小惑星の発見数の伸びが鈍っていることである.これは,大きな小惑星についてはだんだんと発見し尽くされてきたということを意味している.それに対してより小さな小惑星の発見数は直線的に増大している.このことは,我々が知らない小さな NEO がまだまだ沢山あることを示唆している.
 

3. スペースガードの活動

スペースガードとしては,まずは地球に衝突しうる天体をすべて把握するということが重要である.これは,主に地上の望遠鏡での観測による.事前に地球に衝突してくる天体を発見し軌道を正確に決めることができれば,いつどこに天体が衝突するかは正確に予測できる.実際,2008年10月にスーダンに落下した隕石については,落下の1日弱前ではあるが,発見された小惑星 2008 TC3 [7]が地球に衝突することが計算され,衝突場所や時刻が判明していた.また,小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還するときに,「はやぶさ」を地球に衝突してくる小惑星と見立てて光学望遠鏡により観測を行い,衝突場所を特定できることを筆者らが実証している[8].
 

図 4. 小惑星探査機「はやぶさ」を隙石と見立てて観測したときの地球衝突予測位置.光学観測データより「はやぶさ」の軌道を決定し,その誤差範囲についてモンテカルロシミュレーションで落下位置を予測した.右下の図で小さな■は実際に「はやぶさ」のカプセルが着地した位置を示す.
 

この「はやぶさ」のケースについて簡単に説明する.もちろん,「はやぶさ」は電波航法でその軌道が決定されているのであるが,「はやぶさ」が地球帰還するときに光学望遠鏡で観測キャンペーンを行った.その結果,「はやぶさ」のカプセルのリエントリ(=「はやぶさ」本体の大気圏突入)の約 10 時間前から 7 時間前にかけて,合計 23 個の観測データ(天球上の赤経・赤緯)を得ることができた.これを地球に衝突してくる小惑星のデータだと思って電波航法の情報は何も使用せずに「はやぶさ」の軌道を決めて,地球への衝突位置を予測してみたのである.その結果を図 4 に示す.カプセルの着地位置とかなり近いところに「はやぶさ」の落下位置が推定できていることがわかる.つまり,地球衝突直前でも観測データさえ取得できれば,衝突位置(および時刻)の推定は十分可能なのである.図 4 におけるカプセルの着地位置と推定位置のずれは,カプセルの方はパラシュートを開いて着地したのに対して推定位置の方は大気抵抗は考慮せずに軌道計算したためだと思われる.また,より長い期間についての観測データが取得できれば,誤差範囲はより小さくなる.

このように,観測さえきちんとできれば,天体の地球衝突は,衝突場所と時刻が予測可能である.スペースガードの観測は米国を中心として発見・追跡観測が盛んに行われているが,チェリャビンスク隕石をきっかけにさらに進んだ観測を行おうと言う機運が高まってきた.日本では,日本スペースガード協会が 10 m 程度の大きさの天体を地球衝突 2 日前くらいまでに発見できるような観測施設の整備を呼びかけている.

次に重要なことが,天体の地球衝突を回避するためにどのようなことを行うかである[9].実は,天体の衝突回避は難しい.現在の技術で可能なことは,探査機(宇宙船)を小惑星に衝突させて小惑星の軌道を変えることである.たとえば,大きさが 100 m くらいの天体が 20 年後とか 30 年後に地球に衝突するというような場合には,なるべく重い探査機を大急ぎで打ち上げてその天体に体当たりさせれば,衝突は避けることが可能である.つまり,小惑星の軌道が探査機の衝突で少しだけ変化して,その変化(ずれ)が時間が経つと増大し地球衝突が回避されるわけである.
 

図 5. 小惑星探査機「はやぶさ」を隙石と見立てて観測したときの地球衝突予測位置.光学観測データより「はやぶさ」の軌道を決定し,その誤差範囲についてモンテカルロシミュレーションで落下位置を予測した.右下の図で小さな■は実際に「はやぶさ」のカプセルが着地した位置を示す.
 

 

筆者らは,試みに「はやぶさ2」の探査天体である 1999 JU3 という小惑星の軌道を用いて,そこに 500 kg 程度の探査機を衝突させたとして小惑星の軌道がどのくらい変化するのかを計算してみた.計算では,小惑星の大きさを実際に近い 1,000 m とした場合と,ツングースカ大爆発の時の 60 m と仮定した場合の 2 ケースを行った.その結果を図 5 に示す.小惑星の大きさを実際に近い 1,000 m としてしまうと探査機を衝突させたくらいではほとんど軌道はずれないが,大きさが 60 m とすれば,ずれは 20 年近く経つと 7 万 km 程度までになる.つまり,これなら地球との衝突を回避できることになる.もちろん,衝突を回避する小惑星の軌道や探査機を衝突させるタイミングや条件によって小惑星の軌道のずれは様々に変化するが,いずれにしても 100 m 以下の小さな天体ならば,このやり方で衝突回避が可能であると考えられる.

しかし,天体がより大きかったり,地球衝突までの時聞が短かったりするとこの方法は使えない.他の衝突回避手段としては,重力による牽引(グラビティートラクター),レーザー光線や太陽光圧を利用するもの,物質を勢いよく放り出すマスドライバー,核爆発などが考えられているが,どれも決定的ではない.天体が大きい場合や衝突までの時間が短い場合には,エネルギー的には核エネルギーしか対応できないが,核爆発をうまく小惑星の軌道を変えるのに使えるかどうか詳細な検討が必要である.ちなみに,映画によくあるように衝突してくる天体を爆破して破壊してもあまり意味はない.爆破できたとしても多数の破片が地球に衝突してくるから被害を避けることはできないのである.

衝突の回避ができない場合,次に考えることは被害を最小にすることである.事前に発見できていれば,いつどこに天体が衝突するかは正確に予測できるから,被害範囲を予測して被害が最小になるような措置をとるとともに人々を避難させればよい.すでに述べた 2008 TC8 という天体の場合は,わずか衝突一日前ではあるが発見されてすぐ地球に衝突することが分かり,正確な衝突位置が割り出された.この天体は大きさが 3 m 程度と小さかったこともあり,人々の避難というようなことにはならなかったが,事前に天体衝突が予測できれば人々の避難も可能である.チェリャビンスク隕石の場合には,太陽の方向から天体が接近したために事前に発見されなかった.このようなケースについては,事前発見をどのように行うかが課題である.

この被害を最小にするという考え方は,衝突してくる天体が小さくて被害が局所的にとどまる場合に有効であるが,衝突してくる天体が大きい場合には解決策にはならない.避難することで直接的な災害から逃れることができたとしても,衝突後に生じると思われる地球環境のグローバルな変化からは逃れることはできないからである.大きな天体の衝突については,まだ具体的な解決策はない.
 

4. スペースガードに対する小天体探査の役割

天体の地球衝突を回避する場合,事前に相手の天体の素性を調べておくことが重要である.小惑星イトカワは小惑星探査機「はやぶさ」が探査した小惑星であるが,その軌道は地球軌道にかなり接近するものになっている.つまり「はやぶさ」は,世界で初めて実際に地球に衝突してくるような天体を詳細に調べたわけで,「はやぶさ」のイトカワ探査の結果はスペースガードの立場からも注目された.特に注目されたことは,イトカワの構造がラブルパイル(がれきの寄せ集め)ではないかと推定されたことである.大きさが 500 m 程度の天体が1つの固まりからできているのではないということは,このような天体が地球に衝突してくる場合の回避方法を考える上で重要である.

ただし,地球に衝突する可能性がある NEO を詳細に調べたのはまだイトカワの一例のみである[10].アメリカのニア・シューメイカー探査機が NEO 第 1 号である小惑星エロスを詳細に調べているが,エロスはその大きさが 38 km もある天体で,このように大きな天体が近い未来に地球に衝突する可能性は無い.イトカワはその反射スペクトルからタイプが S 型と呼ばれる小惑星であるが,この他にも C 型と呼ばれるものがある.地球に接近してくるC型の微小 NEO もラブルパイル構造をしているのかどうかは,まだ分かっていない.それを調べるのが,日本が計画している「はやぶさ2」である(2014年打ち上げ予定)[11].さらに,米国の OSIRIS-REx は B 型の微小 NEO の探査をする計画であり(2016年打ち上げ予定),これらの探査の結果が出ると,NEO の素性がかなり理解できることになると思われる.

探査機によって小惑星の軌道の変更を試みる構想もある.例えば,欧州で議論がされていたドン・キホーテ(Don Quijote)というミッションは,小惑星に探査機を衝突させて小惑星の軌道を変えることができるかどうかを検証するミッションである.1 つの探査機が先に小惑星に到着しており,そこに 2 機目が来て高速で小惑星に衝突する.その後,引き続き最初の探査機が小惑星の周りに滞在し,軌道や自転運動が衝突によってどのように変化したのかを調べるのである.このミッションは,検討されたが実行に移されていない.一方,最近では AIDA(Asteroid Impact & Deflection Assessment)ミッションの検討が欧米協同で行われている.この検討では,バイナリー小惑星(衛星がある小惑星)の衛星の方に探査機を衝突させ,別の探査機でその衝突の様子や軌道変化を調べようというものである.

さらに米国では,小惑星そのものを捕獲してしまおうというミッションも提案されている.ARM という Asteroid Retrieval Mission (後に Asteroid Redirect Mission)と呼ばれるもので,小惑星を丸ごと捕獲して地球近傍まで運んでこようというミッンョンである.ただし想定している小惑星のサイズは 7 m 程度までなので,スペースガードとしてはすぐには役に立たない.このくらいのサイズの天体なら,仮に地球に衝突しても大きな被害をもたらすことにはならないからである.

小惑星の軌道を変えることまではできなくても地球に衝突する可能性がある小惑星に探査機を送って,その探査機の軌道を正確に決定することで,小惑星の軌道をより正確に把握し,衝突をより正確に予測しようというアイディアもある.通常,小惑星の観測は光学望遠鏡を用いて行われており,その軌道決定精度は探査機の軌道決定精度に比べると低い.レーダーによる小惑星観測が行われれば軌道決定精度は上がるが,小惑星が地球に接近しないとレーダー観測が成立しない.そのために,探査機を小惑星に送って小惑星の軌道決定を行うことは,非常に有効である.また,何らかの手段でその小惑星の軌道変更を試みたときに,実際にどのくらい軌道が変化したのかを知るためにも有効である.

この他,宇宙を利用するケースとしては,宇宙からの小惑星の観測(発見と追跡)が考えられる.最近では,人工衛星からの小惑星の観測も行われるようになってきた.特に,赤外線観測衛星の lRAS(Infrared Astronomical Satellite),「あかり」,WISE(Wide-field Infrared Survey Explorer)などが小惑星の観測を行っている.他には,MSX(Midcourse Space Experiment),ISO(Infrared Space Observatory),Spitzer Space Telescope,Herschel Space Observatory などの宇宙赤外線望遠鏡が小惑星観測を行っている.これらは主に科学目的の物理的な観測であるが,最近カナダが打ち上げた NEOSSat (Near-Earth Object Surveillance Satellite)では,宇宙から NEO を探そうという試みがなされている.

以上をまとめてみると,表 2 のようになる.スペースガードのためには,地上からの観測だけではなく,スペースを積極的に活用していく必要がある.
 

表 2 : 小天体探査とスペースガード
*印は,まだ打ち上げられていない探査機を示す

探査の種類 スペースガードとしての目的 具体例
科学探査 小惑星の形状,質量,密度,表面,内部構造などを詳細に把握することで,
衝突回避のための情報とする.
ニア・シューメイカー,はやぶさ,はやぶさ2*,OSIRIS-REx*
軌道変更 探査機を衝突させることで,小天体の軌道を変更する. スター・ダスト,ドン・キホーテ*,AIDA*,ARM*
軌道の詳細決定 探査機を小惑星近傍に滞在させることで,その小惑星の軌道を正確に把握する. はやぶさ2*
観測(発見) スペースから小天体を発見する.
(地上観測における制約を軽減できる:太陽方向からの接近する天体の観測など)
NEOSSat
観測(物理) 小惑星の大きさや組成について,小惑星まで行かずに推定できる. IRAS,あかり,WISE,MSX,ISO,Spitzer,Herschel

 

5. 国際的協力

スペースガードについては,国際的な協力が重要である.観測についてはすでに国際天文学連合のマイナー・プラネット・センターを中心とした国際的な協力がある.一方,衝突回避の方はいろいろな問題がある.そもそも上述したように技術的に難しいと言うことに加えて,衝突回避に失敗したらどうするか,衝突回避をしたために別の地域に天体が衝突してしまったらどうするかなど,国際関係にも議論は及ぶ.

したがって,スペースガードについては1999年頃から国連でも議論が始まっているのである.国連での議論は,COPUOS(国連宇宙空間平和利用委員会)の中に設定されたアクションチームで行われてきたが,2013年の2月・6月の議論で,スペースガードに対応する国際的な対応案がほぼ固まり,実行に移していく段階に入りつつある.具体的には,NEO の観測や軌道解析などのネットワークを充実・強化し各国の防災関係者とのつながりも築くこと,および,衝突回避に向けては各国の宇宙機関に参加を求めて衝突回避の方策を議論するグループを作るということである.2013年の COPUOS での議論では, 前者は IAWN(International Asteroid Warning Network),後者は SMPAG(Space Mission Planning Advisory Group)と言う名称で検討を進めていくことになった.
 

6. まとめ

小さな天体でもチェリャビンスク隕石のように地域的には大きな災害になりうるし,より大きな天体が衝突すれば人類の存亡にも関わることになる.頻度は少ないが起こると大変なことになるこの天体衝突という問題に対して,我々の子孫のためにもきちんとした行動を起こす時が来たと言える.これは「人類としての危機管理」であり,その基礎となるのが太陽系天体・隕石・地震・津波・環境・防災など幅広い地球惑星科学の知識なのである.そして,天体の衝突回避のためには探査やスペースでの活動が重要になる.

日本は,ミッションの主目的ではなかったにしろ「はやぶさ」というミッションを通して,スペースガードに大きく貢献した.そして,今後,「はやぶさ2」の副産物としてスペースガードに貢献することになろう.その上で,人類共通の課題として国際的な協力体制を構築して,スペースガードの活動を進めていく必要があろう.
 

参考文献

[1] http://www.minorplanetcenter.net
[2] Yeomans, D. and Chodas, P., 2013, http://neo.jpl.nasa.gov/news/fireball_130301.html.
[3] Bekey, I., 2009, Dealing with the Threat to Earth from Asteroids and Comets, IAA Publications.
[4] 日本スペースガード協会, 2013, 大隕石衝突の現実, ニュートンプレス.
[5] http://www.lowell.edu
[6] Stokes, G. et al., 2000, Icarus 148, 21.
[7] Jenniskens, P. et al., 2009, Nature 458, 485.
[8] Yamaguchi, T. et al., 2011, Publication of Astronomical Society of Japan 63, 979.
[9] Belton, M. J. S., Morgan, et al., 2004, Mitigation of Hazardous Comets and Asteroids, Cambridge University Press.
[10] Scienceはやぶさ特集号 : Science, 312 (2006), 1327-1353, Science, 333 (2011), 1113-1131.
[11] 吉川真, 2012, 日本航空宇宙学会誌 60, 455.

 

 

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