The Planetary Society of Japan

次世代太陽探査

地球近傍小惑星の観測~小惑星衝突から地球を護る~

Updated : October 31, 2016 - スペースガード

札幌学院大学情報科学研究所研究誌「情報科学」28号, 1-10, 2008 掲載.

高橋典嗣(Noritsugu TAKAHASHI):JSGA 日本スペースガード協会理事長(当時)

本ページは,発行元・札幌大学情報科学研究所および著者・JSGA高橋典嗣理事長より許可を頂き掲載しております.
 

要旨

最近の太陽系科学の進歩によって,地球の誕生や現在の地球を取り巻く宇宙環境,小惑星衝突について,非常に多くのことがわかってきた.その結果,小惑星などの天体衝突現象は珍しいことではなく,地球を含む太陽系の発達進化において,むしろ主要な役割を果たしていた.小惑星衝突から地球を護るために,地球に接近する地球近傍小惑星を早期に発見するための天体探索,研究,そして科学的情報の啓発活動を行っている.

キーワード:地球近傍小惑星(NEA),潜在的に危険な小惑星(PHA),スペースガード
 

1. はじめに

太陽系はその誕生から現在に至る生成過程において,微惑星衝突を繰り返しながら成長し,地球をはじめとする 8 つの惑星が形成された.月の表面に無数に存在するクレーターは,形成過程における小惑星衝突の痕跡である.地球の形成過程でも同様の衝突が繰り返されたはずであるが地表における侵食や地殻の構造運動などにより,そのほとんどは消失された.現在確認されているのはアリゾナのバリンジャー隕石孔など約 100 程度である.幸いなことに,人類史に大きな小惑星衝突の記録は見つかっていない.しかし,太陽系形成過程から考えて,小惑星や彗星のような小天体の衝突は,衝突頻度は少なくなっているものの,将来において起こり得る現象である.しかもそれは地球上の生物に深刻な影響を及ぼす最大級の自然災害となり,多くの種の生存を危険にさらす可能性を秘めている.

こうした小惑星衝突から地球を護るため,地球規模の被害をもたらす地球近傍の小惑星を早期に発見し,軌道を決定するための国際的な観測が行われている.
 

2. 地球近傍小惑星

小惑星が最初に発見されたのは,1801年01月01日のことで,セレスと命名された.その後,火星軌道と木星軌道の間の小惑星帯に次々発見され,現在その数は約 40 万個に膨れ上がっている.発見された小惑星の中には特異小惑星と呼ばれ,小惑星帯をはずれて木星軌道の外側や海王星軌道の外側,また火星軌道の内側にも多数存在することがわかった.火星軌道より内側の小惑星は,地球に接近する可能性があることから,地球近傍小惑星(Near-Earth Asteroid=NEA)と呼ばれている.また,地球近傍をかすめる彗星(Near-Earth Comet=NEC)などの天体を含めて地球近傍天体(Near-Earth Object=NEO)と呼んでいる.
 

図 1. 地球近傍小惑星の軌道.2008年03月13日15時(日本時間)の位置と軌道を示している.
 

これらの天体の軌道要素は,近日点距離(q)が 1.3 天文単位(AU)未満であり,NEC は短周期彗星(周期が 200 年間未満のもの)であるとしている.さらに,NEA は,近日点距離(q),遠日点距離(Q),およびそれらの軌道長半径(a)に応じて,表 1 のようにアポロ群,アモール群,アテン群に分けられる.これらの群の典型例として,その名の由来となった小惑星アポロ,アモール,アテンの軌道を図 1 に示した.

 

地球近傍小惑星は,現在 5143 個発見(2008年2月12日現在)されていて,その内訳はアポロ群が 2525,アモール群が 2174,アテン群が 444 となっている.このうち,地球に衝突すると地球規模の大きな自然災害となる直径 1 km 以上のものは約 700 個含まれている.また,地球に 0.05 天文単位(およそ 748 万 km)より接近し,絶対等級が 22.0 等より明るい地球近傍小惑星を「潜在的に危険な小惑星」(Potentially Hazardous Asteroid=PHA)と呼んでいる.これが地球に衝突する候補となる脅威の小惑星で,現在 916 個確認されている.PHA の定義に絶対等級をもちいているのは,地球に衝突した場合の被害状況を決める小惑星の大きさを絶対等級で規定することができるからである.小惑星や彗星の絶対等級は,太陽と地球の両方から 1 天文単位(1AU=約 15000 万 km)の距離にあり,位相角を 0 と仮定した場合の視等級と定義している.従って,絶対等級の違いは小惑星の大きさと表面の反射率の違いに依存する.惑星,小惑星,彗星といった天体に太陽からの入射光に対する反射光の割合を反射率といい,もし完全に太陽光が吸収されてしまうような天体を 0 とし,逆に全反射する天体を 1 として表した数値をアルベド(albedo)と呼んでいる.絶対等級が 22 等の小惑星のアルベドが 0.5 であれば,大きさは 75 m と推定される.一般的に小惑星のアルベドは 0.25~0.05 の間にあるので,絶対等級が 22 等の小惑星の大きさは 110 m~250 m となる.(表 1)
 

表 1 : 地球近傍天体(NEO)の数と定義(発見数は,2008年02月12日現在のデータ)

発見数 定義 備考
NEC 65 q<1.3AU,P<200years 地球軌道をかすめる彗星
NEA 5143 q<1.3AU 地球近傍小惑星
アテン群 444 a<1.0AU,Q>0.983AU 小惑星2062アテンにちなんで命名
アモール群 2174 a>1.0AU,1.017<q<1.3AU 小惑星1221アモールにちなんで命名
アポロ群 2525 a>1.0AU,q<1.017AU 小惑星1862アポロにちなんで命名
PHA 916 距離0.05AU,大きさ150m 以上 潜在的に危険な小惑星

 

3. 小惑星衝突

地球大気圏に突入する物質の多くは,地上から 120 km 上空から燃え始め,40 km 上空に達する間に四散してしまう.数 μm 程度の球粒の小さな粒子,宇宙塵となって成層圏を漂った後に地上に降下してくる.その量は,毎日 100 トンとの推計もある.

大気圏突入前のサイズが 10 m 以上ある石質の小惑星の場合,すべてが四散せずに一部が地上に落下する.地上に落下した直径 1 mm 以上の宇宙起源の物質を隕石といい,毎日世界のどこかに落下している.隕石は,鉄隕石,石鉄隕石,石質隕石に区分され,石質隕石は,球粒組織の特徴を持つコンドライトと持たないエコンドライトがある.コンドライトは,46 億年前の太陽系生成時に形成されたものである.一方,エコンドライトは惑星形成のある段階で粉砕された断片に由来する.前者は太陽系起源,後者は惑星の内部構造を示す貴重な資料となっている.北海道では,1925年09月05日に美唄市光珠内町に重さ 363 g の隕石(沼貝隕石)が落下した.この隕石は,普通コンドライトライの H4 タイプに分類され,鉄の含有量が高く,同量の橄欖石と輝石で構成されている.日本各地でも隕石の落下とともに拾われていて,56 箇所で確認されている.また,南極隕石の保有数で日本は世界一となっている.
 

図 2. シレンテクレーター:イタリア,ローマから東へ 100 km 程行ったアペニン山脈の山中,ヴェリーノ州立公園内のシレンテ平原(海抜 1100 m)にある.
 

地上に落下時の隕石のサイズが 10 m ある場合,大気圏突入前の速度が 20 km/s と仮定すると落下地点で放出されるエネルギーは,0.02 Mt(TNT 化薬換算)となる.そして,落下地点には 100 m~200 m(落下物質の 10~20 倍)の直径のクレーターが形成される.その例として,2000 年前にイタリアのアペニン山脈のシレンテ平原に形成されたシレンテクレーターがある(図 2).

 

図 3. アリゾナクレーター:アメリカ,コロラド高原の南に位置し,アリゾナ州フラッグスタッフの東 85 km 地点にあるクレーター.南の崖に見られるココニノ石灰岩の Pkγ 層を追いかけると,いくつもの断層でずれていることがわかる.
 

さらに,1 km の小惑星衝突の場合には,落下地点に 10 km~20 km のクレーターが形成され,吹き飛ばされた土砂などが数百 km に飛び散り,周囲に壊滅的な被害をもたらすことになる.そして粉砕された塵が地球全体を覆い,数年間太陽光が遮断されてしまうため,地球規模の気候変動が起こり,生物種によっては,絶滅に追いやられることになる.

 

4. 小惑星衝突による恐竜絶滅

6500 万年前に直径 10 km の小惑星がメキシコのユカタン半島の先端部に衝突した.半島先端部から海中深くには,このことを示す直径 180~280 km の巨大なチクシュルブクレーターの存在が重力異常図等により明らかになっている.

この小惑星衝突が,恐竜絶滅の原因と考えられるようになった証拠がイタリアのアペニン山脈のグッビオ近郊のボッタチオーネ峡谷にある.アペニン山脈は,海洋生物起源の堆積物である石灰岩が堆積して形成された山脈で,ボッタチオーネ峡谷には中生代・白亜紀と新生代・第三紀の境界(K - T 境界)に当たる 6500 万年前に堆積した地層の露頭がある(図 4).この境界から小惑星衝突起源の証拠を地質学者のウォルター・アルバレズと父でノーベル賞受賞者のルイス・アルバレズが発見した.
 

図 4. K - T 境界.イタリア・グッビオ近郊の露頭.石灰岩に挟まれた 1 cm 程の粘土層にイリジウムが多く含まれている.
 

露頭の白亜紀上部の石灰岩は,薄いピンク色をしているが,白亜紀の最上部では白色になっている.その上に 1 cm 程度の粘土層を挟んで第三紀の石灰岩が堆積している.粘土層は 1 万年程度の期間に風で運ばれてきた塵などが堆積したものである.この期間は大量の生物が死滅し,石灰岩が連続的に堆積されなかったことが,白亜紀最上部の石灰岩が白くなっていることからもわかる.大量に死滅した生物の死骸がたまった海底では無酸素状態が起き酸化鉄などが還元されたため白色を呈したのである.さらに,アルバレズ親子は,粘土層の中に,白金族の元素であるイリジウムが大量に含まれていることを発見した.イリジウムは,地球の表層では微量にしか存在しない元素なので,小惑星により地球の外からもたらされたと考えた.また,この境界層から小惑星衝突の衝撃により変形した石英も検出されている.

これらのことから白亜紀末の 6500 万年前に地球のどこかに大きな小惑星衝突が起きたことになる.それがユカタン半島の先端に見つかったに小惑星衝突の痕跡であり,地球全体を覆った塵による環境の変化によって恐竜等の生物大量絶滅が引き起こされたと考えられたのである.

この二人の研究によってイタリア中世の閑静な町グッビオは,世界的に知られることになった.

 

5. 差し迫った危機の可能性

6500 万年前のような 10 km サイズの小惑星衝突は,1 億年に 1 回程度しか起こらない.しかしサイズが小さくなれば,その頻度は増してくる.衝突は滅多に起こらない現象なのだが,もし直径 150 m の小惑星が都市に落下した場合,大規模な自然災害となり,人類社会全体に多大な被害が及ぶ可能性がある.

既知の小惑星で,地球衝突を起こすものは無い.しかし,衝突にはいたらないが地球とのニアミスは,よく起きている.その一例を紹介する.

2004年06月19日,アメリカのキットピーク天文台でハワイ大学のグループが発見した小惑星に,仮符号 2004 MN4 と付けられた.その後,12月18にオーストラリアのサイディングスプリング天文台でこの小惑星が再発見され,12月24日にNASA は,その軌道から2029年04月13日(金)に地球に衝突する確率は 300 分の 1 と発表した.これが世界中のメディアを通じて「地球衝突」と騒がれた.その後の軌道計算により,2029年には地球から 36000 km 上空を通過,また2036年にも地球に接近することがわかった.そして最初の発見者がこの小惑星に古代エジプト語で「破壊の神」をギリシャ語読みした「アポフィス」と名付けた.小惑星アポフィスは,332 日の周期で太陽を公転するアテン群の小惑星で,直径が 400 m ある.もし地球に衝突すると,大規模な自然災害になるが,現在の軌道で衝突する確率は,凡そ 5 万年に 1 回の確率である.

2008年01月になってから報じられたものには,2007年10月11日にカタリーナチームが発見した 2007 TU24 の仮符号が付けられた小惑星が,2008年1月29日に地球に 55 万 4209 km まで接近した.さらに01月30日には,仮符号 2007 WD5 の小惑星が火星に衝突と報じられている.実際には火星に衝突はしなかった.

どうして,メディアの予報が当たらないのでしょうか.

小惑星が発見されると,3 回以上の観測から軌道要素を決定して国際小惑星センター(MPC)により仮符号が付けられる.この時点で計算される軌道では,太陽と小惑星以外の惑星などによる摂動を考慮していないので誤差が大きい.このため,この段階であまり先まで位置を予測することは意味がないことである.メディアで報じられる情報源は,初期の軌道要素に基づくことが多いので当たらないのである.

観測者は,発見から数ヶ月間の追跡観測による軌道情報を加えることにより誤差を軽減し,より詳細な軌道を決定していく.この段階での軌道予測であれば,発見した天体を見失うことはなくなる.さらに数年後,そして10 年後の軌道情報(何回かの衝を含む)を加えることにより,国際小惑星センターより確定番号が付けられる.この段階で計算される軌道予報であれば,かなり精度の高い予報となるので,100 年後の位置予報であっても信頼できる.

予報には,発見後の追跡観測が重要な役割を担っている.報道は,早いことを優先するがあまり,発見時点のデータに基づくために世論を騒がせる記事になりがちである.その後の厳密な観測結果による顛末を報じることを忘れないでいただきたい.

このように小惑星衝突は,発見後の追跡観測データを重ねることにより正確な軌道を決定できるので,地震,火山,洪水などの災害と違い,差し迫る危機を確実に地球衝突日時と場所まで早期に予報することが可能である.さらに小惑星のサイズ,構成物質,構造や運動などの特徴に関する観測データを加え,衝突した場合の被害状況を予測することもできる.

差し迫る危機を確実に予測するために必要なのは,地球近傍小惑星の早期発見と追跡観測なのである.
 

6. 地球近傍小惑星の観測技術と国際的な取り組み

地球近傍小惑星の観測は,CCD カメラを使い同一の視野を何回か時間を変えて撮影する.この画像をコンピュータにより重ね合わせてブリンクさせると,小惑星などの天体は背景の恒星の間を移動していく.同時に位置と輝度の測定を完了するような NEO 捜索プログラムの開発により,小惑星の発見が格段に進んだ.さらに,観測機材も望遠鏡の性能を十分に発揮するため,量子効率の良い CCD チップの開発,より広い視野を撮像するために画素数の多い CCD チップの開発,画像転送レートの高速化など技術の向上が目覚ましい.

このような設備を揃えた地球近傍小惑星の主な観測チームを表 2 に示した.「スペースウオッチ」は,1984年から観測を開始したアリゾナ大学のチームである.「ロネオス」は,1993年から開始したアリゾナのフラグスタッフにあるローエル天文台のチームである.「ニート(NEAT)」は,NASA のJPL(ジェット推進研究所)のチームで,晴天率とスカイコンディションが最高のハワイのハレアカラ山頂で1995年から観測を始めている.「リニア(LINEAR)」チームは,ニューメキシコ州のホワイト・サンズ・ミサイル基地にあるリンカーン研究所の地球近傍小惑星探査望遠鏡により1998年から稼働し始めた.さらに「カタリーナスカイサーベイ」は,1998年から活動を始め,現在はアリゾナ大学のスチュワード天文台とレモン山天文台,オーストラリアのサイディングスプリング天文台の共同チームとして観測に取り組み成果を上げている.
 

表 2 : 地球近傍小惑星の主な観測チーム

観測チーム 観測開始 主な設備 観測主体組織 支援協力団体
スペースワッチ(Spacewatch)
キットピーク天文台
1984年
2001年
●90cm
●1.8m モザイクCCD カメラ
(4枚4608×2048,2.9度×2.9度)
アリゾナ大学
Lunar and Planetary Laboratory
キットピーク天文台
ロネオス(LONEOS)
Lowell Observatory Near-Earth Object Search
フラッグスタッツ・アリゾナ
1993年 ●60cm のf/1.8シュミット望遠鏡
(4000×4000,2.9度×2.9度)
ローエル天文台 オハイオ Weslayan 大学
ニート(The NEAT)
ハレアカラ,マウイ(ハワイ)
南カルフォルニア(パロマー山天文台)
1995年
2001年
●1m(GEODSS 望遠鏡)
●1.2m(アモス望遠鏡)
(4096×4096画素,視野は1.2×1.6度)
NASA/ジェット推進研究所 空軍、パロマー山天文台
リニア(LINER)
Lincoln Near-Earth Asteroid Research
1996年
2002年
●1m(2台)
●50cm(追跡専用機)
MIT
リンカーン研究所
空軍
カタリーナ
Catalina Sky Surveys アリゾナ,
カタリーナ山脈オーストラリア
1998年 ●70cm のf/1.8シュミット
(4000×4000,2.9×2.9度)
●1.5m f/2.0(1.0度×1.0度)
サイディングスプリング天文台
●50cm f/3.5(2.0度×2.0度)
●1m
Catalina Sky Survey(CSS)
Mt.Lemmon Survey(MLSS)
Siding Springs Survey(SSS)
3つの機関の共同体
アリゾナ大学
Steward Observatory
NASA
バッターズ(BATTeRS)
日本,岡山県井原市美星町
(美星スペースガードセンター)
2000年
2004年
●25cm
●50cm
●1m,モザイクCCD カメラ
(10枚・4000×2000,3.0度×3.0度)
日本スペースガード協会 JAXA
JSF

 

これらアメリカの 5 つのチームに若干遅れて2000年から観測を開始したのが日本スペースガード協会の「バッターズ(BATTeRS)」チームである.小惑星観測プロジェクトの愛称「バッターズ」は,Bisei Asteroid Tracking Telescope for Rapid Survey の略である.同一口径の望遠鏡であれば,観測できる日数と空のコンディションが発見数に影響することになる.日本の気象条件は,残念ながら晴天率,スカイコンディション共にアメリカチームの観測サイトの足下に及ばない.
 

7. 日本の取り組み

国際的に地球近傍小惑星の観測体制が整備される中で,日本スペースガード協会は,1996年10月20日に発足し,すでに 10 年が経過した.発足前は,小惑星の観測・軌道進化等を研究する天文学者グループと,小惑星を将来の資源と位置づけて研究する宇宙工学者グループが,合同で研究会を開催していた.しかし,学問的にも,また社会的にも関心の高まってきた小惑星の衝突問題に関して,研究者のコミュニティを越えた議論を踏まえながら,観測や研究をするべきであるとの認識に立ち,一般の人にも呼びかけて発足したのが当協会である.その後,1999年11月26日に東京都において特定非営利活動法人(NPO)の登記が完了した.こうして,現在 400 人を超える会員に支えられて活動を行っている.発足当初から小惑星地球衝突問題について,少しでも多くの方々に正しい認識を持って頂くために,講演会や ASTEROID(機関誌)の発行,書籍の出版などを通して啓発活動に力を入れてきた.また,イタリアに本部を置く国際的機関であるスペースガード財団,同様の機関や観測施設と国際的連携を取りつつ,地球近傍天体の探索,研究,そして科学的情報の啓発活動を行っている.

こうした地球を護るための活動の成果が実を結び,2000年から地球近傍小惑星などを探索する観測施設「美星スペースガードセンター」での観測が始まった.施設は,岡山県井原市美星町にあり,文部科学省(当時の科学技術庁)の補助金により建設,JSF(財団法人宇宙フォーラム)が施設を所有し,JAXA(宇宙航空研究開発機構)が観測運営経費を負担し,日本スペースガード協会が観測業務を行っている(図 5).当初は,25 cm の望遠鏡であったが,その後 50 cm の望遠鏡,次いで2004年04月に 1 m の望遠鏡(図 6)が完成し,現在 6 名の観測員が毎夜観測を行っている.
 

 

左図 5.美星スペースガードセンター.左のドーム内に 1 m 望遠鏡,右のスライディングルーフ内に 50 cm と 25 cm の望遠鏡がそれぞれ収められている. 右図 6.1 m 望遠鏡と CCD カメラ.
 

8. 発見と追跡観測の成果

「バッターズ」チームの観測目的は,地球近傍小惑星の発見と追跡観測である.美星スペースガードセンターの 1 m 望遠鏡は,4000×2000 のチップ 10 枚をモザイク配置することにより 3 度×3 度の広視野での撮像が可能なCCD カメラにより,21 等の天体を検出することにより,小惑星帯において直径 500 m 程度の小惑星までを効率良く発見することをねらいとした設計になっている.しかし,当初の目標値になかなか到達できなかったが,何度かの赤道儀改修作業を経て2006年11月に駆動系の改修が完了した.また,2007年05月に鏡面の洗浄作業を実施することにより,積分時間 4 分で 21.5 等の小惑星が検出可能となり,当初の目標値に到達した.

観測を開始した2000年から2007年に行った地球近傍小惑星と彗星の追跡観測により位置決定の実績を表 3 に示した.
 

表 3 : 美星スペースガードセンターにおける観測実績

観測日数 地球近傍小惑星 彗星
観測数 位置測定数 位置測定合計 観測数 位置測定合計
2000 233 23 205 4240 20 133
2001 243 29 560 5907 16 275
2002 233 24 243 2018 133 339
2003 198 54 567 4938 18 165
2004 177 23 233 2908 4 20
2005 198 8 42 2431 0 0
2006 156 25 297 3224 5 66
2007 244 34 408 7204 15 108
Total 1672 220 2555 32870 91 1086

 

図 7. 地球近傍小惑星 2007 YZ の発見画像.2007年12月18日00時58分38秒(日本時間),露出時間 3 分.双子座付近で 19 等のアポロ群の地球近傍小惑星を発見した.
 

新発見天体では,6500 万年前に地球に衝突して恐竜絶滅を引き起こしたと考えられる小惑星と同じ大きさの地球近傍小惑星 2000 NV3(2000年10月21日),2007 YZ(2007年12月18日,図 7)や2007 UO1 の特異小惑星,BATTERS 彗星(2001年11月21日)などの発見が挙げられる.2007年度の月別の発見数を図 8 に示した.2007年度は,総数 777 個の新天体を検出し,この内 300 個の仮符号を取得(2008年01月01日現在)した.秋から冬に発見が急増しているのは,晴天率が良い観測シーズンに入ったことと同時に黄道帯が上がることによる.発見等級の分布を示した図 9 から,発見等級のピークは 18.5~19.0 等で,21.5 等の検出にも成功している.

 

 

左(上)図 8.2007年1月~12月の発見小惑星数.左(下段)図 9.2007年に仮符号を取得した小惑星の等級分布
 

発見と追跡観測の他に,「はやぶさ2」ミッションのターゲット候補天体となっている小惑星 1999 JU3 の自転周期の決定などの物理観測も実施している.
 

9. スペースガードの将来

アメリカのリニアチーム,カタリーナチームの精力的な活躍により,地球に衝突すると地球規模の被害となる直径 1 km より大きな小惑星の検出数は現在 700 個を越えた.この数は全体の約 9 割に相当すると考えられている.

今後は,まだ未発見の大きな地球近傍小惑星の発見とともに,150 m サイズの比較的小さいが地球に衝突すれば局地的な自然災害となる「潜在的に危険な小惑星(PHA)」の発見に注意が向けられることになるであろう.そのため,アメリカでは大型の望遠鏡の準備を進めている.

美星スペースガードセンターでは,日本宇宙フォーラム,国立天文台と共同で新型の CCD カメラの開発に取り組んでいる.量子効率のよいチップの採用により,さらに 1 m 望遠鏡の限界等級に近づき,より小さな地球近傍小惑星や PHA の検出の準備を始めている.さらに,多色測光のためのフィルターを用意し,小惑星のスペクトルから物理状態についてのデータを取得することを考えている.小惑星や彗星には,46 億年前に太陽系が形成された初期の原始的な状態を示す手がかりが隠されているので,物理情報を得ることにより太陽系の謎を解くことができると期待される.

現在発見されている PHA の数は,推定される総数の僅かに過ぎない.直径が 150 m 程度の小惑星は,ほとんどが未発見の状況にあるので,早期に発見し,厳密な軌道を決定し,地球衝突の脅威を予測する必要がある.このためには,日本も 3 m クラスの専用の望遠鏡を準備する必要がある.このクラスの望遠鏡による国際的な共同観測網を整備し,直径 150 m より大きな地球近傍小惑星の 99 % を検出することが次世代の地球を取り巻く宇宙環境を知り,地球を護るための一つの目標となるであろう.

地球環境を取り巻く宇宙から忍び寄る最大級の自然災害は,地球に接近する天体の詳細なサーベイによる早期発見と追跡観測によって正確な予測が可能となる.そして,小惑星衝突が起きた場合の被害状況等を防災の視点で捉え,科学的に正しく理解し,備えを怠らないようにしておくことが大切である.地球近傍小惑星の観測は,人類が地球環境を護り,この地球で永く生存していくために,人類のリスクマネージメントに加えなくてはいけない課題の一つなのである.
 

参考文献

1. 高橋典嗣(2004).「日本のスペースガードセンターにおける JSGA の取り組み(ペスカーラ研究会)」.『ASTEROID』,13(4),128-129.
2. 高橋典嗣(2007).「スペースデブリ等の光学観測成果報告」.『ASTEROID』,16(2),54-55
3. 高橋典嗣(2007).「小惑星衝突の痕跡・アリゾナクレーター」.『ASTEROID』,16(4),111-116
4. 高橋典嗣(2007).「小惑星の地球衝突」.『青淵』(渋沢栄一記念財団),Vol.701(8),32-35

 

 

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