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天体の衝突物理の解明(VIII)「小天体の衝突・軌道進化」
Updated : October 31, 2016 - 天体衝突物理
日本惑星科学会誌「遊星人」 Vol. 22, No.1, 2013 掲載
保井みなみ(神戸大学自然科学系先端融合研究環)
この原稿元ファイル:[ 日本惑星科学会誌「遊・星・人」第22巻(2013)1号 - PDF ]
衝突研究会ウェブサイト:[ 天体の衝突物理の解明 (VIII) 「小天体の衝突・軌道進化」発表要旨等 ]
1. はじめに
2012年11月18日から20日にかけて,” 北海道大学低温科学研究所 ” にて第 8 回「天体の衝突物理の解明」研究会が行われた.8 回目となった今回は「小天体の衝突・軌道進化」と題し,小惑星や彗星などの小天体の衝突やその結果生じる軌道進化等の様々な物理現象を,数値的手法及び観測的手法を用いて研究されている石黒正晃さん(ソウル大学),伊藤孝士さん(国立天文台),樋口有理可さん(東京工業大学),そして吉田二美さん(国立天文台)の 4 名を招待講演者としてお招きし,それぞれの研究について語って頂いた.また,参加者は 51 名にのぼり(図 1),招待講演以外に 29 件の一般口頭発表と 10 件のポスター発表があった.招待講演時間は1講演当たり1時間,一般口頭発表は1講演当たり 30 分と時間配分がなされ,講演途中の質問は自由となっている.そのため,今年も各日終了時間が 30 分以上オーバーする程の活発な議論が行われ(図 2),研究会は大盛況の内に幕を閉じた.本稿では,研究会での講演内容や研究会の様子について紹介する.なお,あくまで筆者の講演に対する理解や,筆者から見た研究会の雰囲気について報告するため,詳細な各講演の内容は衝突研究会の HP ” http://www.impact-res.org/impact12/index.html ” にアップされている要旨などをご覧頂きたい.
左(上)図 1. 衝突研究会参加者の集合写真.右(下)図 2. 講演会の様子.
2. 講演概要
表 1 に研究会のプログラムを示す.まずは,招待講演の話題について紹介する.
表 1 : 天体の衝突物理の解明(VIII)のプログラム.*は招待講演を示す.
11月18日(日) | |
13:00-13:30 | 河本泰成(神戸大)「同サイズ微惑星の衝突破壊における破片速度分布」 |
13:30-14:00 | 藤田智明(東大)「天体スケールにおける衝突破壊モデルの再検討」 |
14:00-14:30 | 小林浩(名大)「衝突・破壊のどのような物理量が惑星形成に重要か」 |
14:45-15:15 | 平田成(会津大)「小惑星イトカワ上のBlack Boulderの特徴とその成因」 |
15:15-15:45 | 青木隆修(神戸大)「小惑星表面における岩塊の安定姿勢についての研究」 |
15:45-16:15 | 道上達広(近畿大)「脆性モルタル球の衝突破壊に関する実験的研究」 |
16:30-17:30 | *石黒正晃(ソウル大)「小惑星体における衝突現象の観測的研究」 |
17:30-18:00 | 荒川政彦(神戸大)「はやぶさ 2 SCI によるサイエンスと衝突実験」 |
18:00-18:30 | 杉田精司(東大)「Spectroscopic observation of 1999JU3 and implications for collisional evolution」 |
18:30 ~ | ポスターセッション |
11月19日(月) | |
09:00-09:30 | 桂木洋光(名大)「固体弾の流体への低速衝突によるクラウンパターン形成」 |
09:30-10:00 | 和田浩二(千葉工大PERC)「数値シミュレーションで見る粉体層への衝突貫入過程」 |
10:00-10:30 | 岡本尚也(神戸大)「無重力下でレゴリス層を貫入する低速度弾丸の減速過程」 |
10:45-11:15 | 中村昭子(神戸大)「低速度再集積による regolith mixing」 |
11:15-11:45 | 木内真人(神戸大)「レゴリス層への再集積過程を模擬した低速度斜め衝突実験」 |
11:45-12:15 | 玄田英典(東大)「地球型惑星形成とデブリ円盤」 |
13:15-14:15 | *伊藤孝士(国立天文台)「月の非対称クレーター分布と近地球小惑星」 |
14:15-15:15 | *樋口有理可(東工大)「太陽系初期における彗星と惑星の衝突 + α」 |
15:30-16:30 | *吉田二美(国立天文台)「太陽系小天体の物理特性」 |
16:30-17:00 | 栗山祐太朗(東大/ISAS)「衝突溶融物の形状観察による月面クレータ中央丘形成時間の推定」 |
17:00-17:30 | 本田親寿(会津大)「月面に形成された光条を持つクレーターの光条消失時間の地質依存性」 |
17:45-18:15 | 桑原秀治(東大)「衝突蒸気雲中の化学組成のエントロピー依存性に関する研究 -惑星質量と衝突起源大気組成の関係-」 |
18:15-18:45 | 黒澤耕介(ISAS)「極限状態における珪酸塩のHugoniot曲線 -隕石重爆撃期の大気進化への応用-」 |
19:00 ~ | ポスターセッション&懇親会 |
11月20日(火) | |
09:00-09:30 | 保井みなみ(神戸大)「強度支配域におけるクレーター形成過程のフラッシュX線を用いた可視化実験」 |
09:30-10:00 | 門野敏彦(産業医科大)「衝突実験でのクレーターレイの成因」 |
10:00-10:30 | 高木靖彦(愛知東邦大)「玄武岩を用いたクレーター形成実験」 |
10:45-11:15 | 柳澤正久(電通大)「ナイロン-ナイロン衝突の超高速度撮影」 |
11:15-11:45 | 海老名良祐(電通大)「ナイロン-ナイロン衝突におけるジェッティング」 |
11:45-12:15 | 高橋悠太(電通大)「ナイロン-ナイロン衝突における蒸気雲の発光」 |
13:15-13:45 | 田中今日子(北大)「微惑星衝撃波による氷微惑星の蒸発」 |
13:45-14:15 | 嶌生有理(名大)「氷ダスト天体の衝突進化に関する実験的研究」 |
14:15-14:45 | 羽山遼(神戸大)「同一面への事前衝突を受けた氷試料の衝突破壊強度」 |
15:00-15:30 | 鈴木絢子(神戸大/CPS)「強度を変えた焼結雪標的への衝突におけるエジェクタ速度」 |
15:30-16:00 | 長岡宏樹(神戸大)「角礫岩隕石ができるまで」 |
ポスター発表 | |
諸田智克(名大) | 「過去 30 億年における太陽系内側の衝突率の長期変化」 |
上本季更(東大/ISAS) | 「月サウスポール・エイトケン盆地の地質解析から推定する巨大衝突」 |
千秋博紀(千葉工大PERC) | 「小天体周りのダストの運動」 |
今井啓輔(電通大) | 「電通大における木星火球の観測」 |
常昱(東大) | 「チクシュルーブ・クレーター内部のイジェクタとその堆積過程」 |
片桐陽輔(電通大) | 「木星火球シミュレーション:メタンバンド観測の有効性」 |
黒澤耕介(ISAS) | 「衝突生成細粒放出物による初期金星大気からの水蒸気除去」 |
巽瑛理(東大) | 「警察における衝突科学 -弾丸を用いた衝突実験-」 |
森山正和(電通大) | 「電通大における木星火球のメタンバンド観測」 |
谷川享行(北大) | 「原始惑星系円盤中における固体原始惑星へのダスト降着流」 |
2 - 1. 招待講演
招待講演のトップバッターであった石黒正晃氏は「小惑星帯における衝突現象の観測的研究」と題し,メインベルト彗星のダスト放出について近年の観測結果を報告して頂いた.これまで発見されたメインベルト彗星は,多くが氷の昇華によってダストを放出している.しかし,2009年に発見された 596 Scheila のダスト放出は氷の昇華では説明できず,観測から小天体の衝突によってダスト放出が起こっていると報告された.そして,596 Scheila のダストの尾を最もよく再現できる衝突条件を数値計算と室内実験結果から推定した結果,小天体が 596 Scheila の進行方向後方から衝突したことが示された.小惑星の衝突放出物の観測は始まったばかりであり,今後も自然衝突現象のその場観察の進捗に注目したい.
伊藤孝士氏は「月の非対称クレーター分布と近地球小惑星」と題し,月の apex(進行方向)とantiapex(進行逆方向)のクレーター頻度分布の非対称性(apex 側の方がクレーターが多い)が,近地球小惑星の軌道進化で説明可能かどうかを検証するための数値実験結果を紹介して頂いた.衛星上のクレーター非対称分布はその公転速度と衝突天体の衝突速度に依存するため,非対称分布から衝突天体の力学的特性について制約することが出来る.近地球小惑星の各軌道を数値積分して月面への衝突頻度の非対称性を求めた結果,観測されているクレーター分布よりも非対称性が小さくなった.観測事実と整合させるため,既知の近地球小惑星よりも衝突速度が遅い小惑星が必要とのことであった.
樋口有理可氏は「太陽系初期における彗星と惑星の衝突」と題し,オールト雲形成の裏側で起こる微惑星の軌道進化に関する理論的研究について紹介して頂いた.原始惑星が成長すると,残った微惑星はその後惑星に衝突したり,太陽系外に散乱する他,オールト雲候補になるものが考えられる.この 3 つの運命の確率のパラメータ依存性を数値計算で求めた結果,微惑星は惑星へ衝突するまたはオールト雲候補となるより10倍高い確率で,太陽系外に放出されることがわかった.また,この数値計算結果をアニメーション化して見せて頂き,どのように微惑星がオールト雲候補となり,円盤分布から球殻分布へ進化するのかを目で見て分かりやすく紹介して下さった.
最後に,吉田二美氏からは「太陽系小天体の物理特性」と題し,近地球小惑星,メインベルト小惑星,木星トロヤ群,太陽系外縁天体の軌道分布,サイズ分布,自転速度分布の最新情報を紹介して頂いた.近年の観測技術の飛躍的な向上により,より小さな天体や遠い天体の詳細な軌道,サイズ,自転速度が分かりつつある.このような分布が明らかになると,小天体の軌道進化に関して知見が得られる.吉田氏の講演では,近地球小惑星がメインベルトから軌道進化して現在の形になる過程で,何らかの物理メカニズムによってサイズ分布が変化したことが報告された.小惑星のカタログもデータ数が増え,これまで観測バイアスによって制約されていた情報も明らかになり,今後より小天体の軌道進化や起源に関する知見が得られるようになるだろう.
2 - 2. 一般口頭発表
今年も,招待講演の話題以外にも天体の衝突現象に関する様々な研究成果が発表された.以下では,7 つのカテゴリーに分けて,それぞれ簡単に紹介する.
(1)衝突破壊現象の物理素過程に関する実験的研究
惑星形成過程においては,天体の衝突破壊現象は必ず起こる.微惑星同士または微惑星と原始惑星の衝突時,小天体や隕石の惑星表面への衝突時に生じると考えられる.今回,その衝突破壊現象における様々な物理素過程を室内実験で調べた報告が 5 件あった.そのうち 4 件は,標的の破壊に着目したものであった.標的には様々なものが用いられ,氷または岩石の高空隙標的(嶌生,道上),弾丸と同じサイズの球状氷標的(河本),複数回の衝突を経験した氷標的(羽山)であった.同じ衝突エネルギーでも,標的の物性が異なるとその衝突破壊強度や破片の飛翔速度は大きく異なる.これは,破壊に寄与する衝撃波の減衰や標的の物質強度(圧縮強度や引張強度)が異なるためである.様々な標的物質の衝突破壊強度や破片飛翔速度が明らかになりつつあるが,これら全ての結果を少数のパラメータ依存性で説明できる様なスケーリング則を確立することが,実際の惑星衝突を議論する上で今後の課題となるだろう.また,弾丸の破壊に着目した研究も紹介され,複数の母天体由来の破片からなる隕石の成因を探るため,岩石弾丸の衝突破壊強度と,隕石衝突の際に起こると考えられる衝突圧密程度を調べた結果が報告された(長岡).
(2)衝突破壊を考慮したデブリ円盤,惑星形成モデル
模擬物質を用いて行った室内実験の結果を実際の天体衝突現象に応用するにあたっては,数値計算からも多くの有益な示唆が得られる.今回は,衝突破壊を考慮した惑星成長モデルについての発表があり,実際に衝突破壊を受けた天体がどの程度破壊され,進化過程にどう影響するのかが議論された(藤田,小林).両研究において,惑星の成長に効果的な衝突は大規模なカタストロフィック破壊のような高いエネルギーによるものではなく,衝突エネルギーの小さい小規模破壊(クレータリング破壊)が効果的であることが示された.その定量的な議論のためには,衝突で生じた破片の総質量と衝突エネルギーの関係が重要であり,室内実験で定量的に明らかにする必要性について語られた.一方,原始惑星同士の衝突によって生じた衝突破片はデブリ円盤の供給源と考えられており,その衝突破片の供給持続時間を明らかにすることで,太陽系外惑星で観測されているデブリ円盤を説明できる可能性がある.今回は,原始惑星同士の衝突によって発生した破片の進化を数値計算で解き,その面密度,寿命,明るさの時間変化とデブリ円盤の観測結果との整合性を議論した研究が紹介された(玄田).
(3)クレーター形成過程の実験的研究
クレーター形成過程には様々な物理素過程が絡んでおり,その過程を明らかにすべく室内実験が盛んに行われている.今回も,その一端が紹介された(保井,門野,鈴木).保井は石膏の高速度衝突実験を行い,クレーター内部構造の時間進化をフラッシュ X 線を用いて初めてその場観察することに成功した.その際,クレーター孔の成長の様子や弾丸の破壊によるピット成長を明らかにした.門野氏は砂のクレーター形成実験によるエジェクタ噴出の際の粒子の運動やそのパターンの詳細な観察を行い,粉体運動の数値計算との比較から定性的なレイの特徴を明らかにした.鈴木氏は,強度の異なる焼結雪標的を用いたクレーター形成実験を行い,雪粒子の噴出速度を放出位置毎に詳細に調べてスケーリング則を求めた.また,均質な玄武岩を用いたクレーター形成実験を行い,先行研究のクレータースケーリング則と比較した結果が紹介された(高木).さらに,三次元計測用顕微鏡を用いてより精度の高いクレーター体積の計測を行うことで,従来のスケーリング則が岩石種類で異なることを示した.スケーリング則は保井,鈴木氏も議論しているが,いずれも Holssaple らによって提案されたスケーリング則とは異なる結果が示された.今後さらに研究が進むにつれて,新たなクレータースケーリング則が確立するかもしれない.
(4)月面のクレーターに関する研究
実際の天体表層に存在するクレーター特有の構造については,その形状や周囲のエジェクタ堆積物の観測結果から様々な成因が考えられている.今回は,月面に存在するクレーターの特徴的な構造について 2 件の発表があった.一つは,中央丘をもつクレーターにおいて観測されている衝突メルトから,中央丘クレーターの形成過程を議論するというものである(栗山).栗山氏は,SELENE および LROC データの解析から得た衝突メルトの組成や地形の特徴と,メルトの推定粘性率から求めたメルト固化時間を用いて,中央丘の形成時間を推定した.衝突メルトを持つ中央丘クレーターは他にも存在することから,今後他のクレーターを解析することでより確かな議論が出来るかもしれない.もう一つは,クレーターの光条消失と宇宙風化(鉄の還元)の関係を調べた研究である(本田).本田氏は,月面の FeO 量が海と高地で異なることに着目し,SELENE データを用いた光条クレーターのクレーター年代決定から,従来月面上では同じと言われていた光条消失時間が FeO 量の多い海の方がかなり短いことを求めた.
(5)粉体層,流体層の衝突現象素過程の実験的,理論的研究
天体の表層は,レゴリス等の砂(月,小惑星)や液体の海(地球)で覆われている.このような様々な天体表層上で起こる衝突現象の物理素過程を明らかにすることも重要である.小惑星は小天体の衝突によって放出されたエジェクタが再び集積し,その表面がレゴリスやボルダーで覆われる.このエジェクタ再集積に伴う小惑星表層への粒子貫入過程を理解するため,弾丸の抵抗則に関する理論的,実験的研究が紹介された(和田,岡本,中村).和田氏は粉体層への天体衝突を想定した数値計算,岡本氏は砂及びビーズ層への低速度衝突実験を行い,粒子速度に依存する慣性抵抗及び粘性抵抗を求めた.中村氏は,様々な粒径の砂及びビーズ層への衝突実験から粒子速度に依存しない抵抗力を求め,砂がビーズより抵抗力が大きくなることを明らかにした.また,エジェクタ再集積の際のエジェクタの振舞いを明らかにするため,砂及びビーズ層への低速度斜め衝突実験を行い,衝突角度と弾丸の反発係数を系統的に調べた研究が紹介された(木内).さらに,液体層への弾丸衝突時に発生するクラウンパターン形成の基礎を解明するため,水及び粘性体への固体弾丸衝突実験を行い,エジェクタのひだ本数と衝突条件(粘性率など)の関係を調べた研究が紹介された(桂木).桂木氏によると,実験結果は従来提案されている流体力学のパラメータを用いたスケーリング則で説明できるということであった.
(6)衝撃波,ジェッティング,蒸気雲の物理化学的研究
衝突体が衝突した瞬間,衝突体や標的中には閃光が走り,衝撃波が伝播する.さらに衝突点付近からはジェッティングと呼ばれる高速のエジェクタが吹き出し,蒸気雲と呼ばれるガスが発生する.この閃光,衝撃波,ジェッティング,蒸気雲に関して 6 件の発表があった.電通大のグループ(柳澤,海老名,高橋)はナイロン同士の衝突実験を行い,衝突時の高速度ビデオカメラ画像,閃光強度とスペクトルデータを基に,閃光,衝撃波,ジェッティング,蒸気雲の生成条件や物理条件を調べた.柳澤氏はカメラ画像と閃光強度,スペクトルの比較から,閃光,スパイク,ジェッティングそれぞれの発生時間を求め,発生順序を推定した.海老名氏は,カメラ画像を詳細に解析し,高橋氏は測光データを基に,それぞれジェッティングの速度,質量,測光強度が残存大気圧に依存することを明らかにした.蒸気雲は天体の大気組成進化に影響するため,その組成や圧力の推定は非常に重要である.今回は,衝突圧力(エントロピー)の高低によってどのような組成をもった蒸気雲・初期大気が発生し得るのかについての数値計算(桑原),室内実験から惑星大気の散逸量を決めるエネルギー変換率を衝突圧力とエントロピーの関係から調べた研究(黒澤)が紹介された.また,原始惑星系円盤ガスと微惑星との相対速度によって発生する衝撃波による微惑星の氷蒸発に着目し,衝撃波速度と上昇温度の関係を数値計算によって求め,微惑星蒸発が起こる太陽系内の領域,および蒸発による惑星形成過程への影響について議論した結果が紹介された(田中).
(7)小惑星に関する研究及び小惑星探査
はやぶさ初号機の試料カプセルが地球に帰還して 2 年が経ち,小惑星イトカワについて様々なことが明らかになりつつある.一方で,はやぶさ 2 号機(はやぶさ 2)の開発も着々と進行中である.本研究会では,はやぶさ初号機の撮影画像を用いた岩塊に関する研究が 2 件(平田,青木),はやぶさ2 に関する報告が 2 件(荒川,杉田)あった.イトカワ表面には特徴的なアルベドをもった黒い岩塊(black boulder)が発見されている.平田氏はその起源は衝撃暗化であると推測し,衝撃暗化を引き起こした衝突規模を見積もった.実際に,その規模に相当する衝撃変成度合を受けたと考えられる証拠がイトカワサンプルに見つかり,衝撃暗化の可能性が高いことが報告された.また,イトカワ表面に一部貫入しているように見られる岩塊があり,その岩塊の安定度は小惑星表層の砂粒径や形状と関係があると考えられる.そこで青木氏は,砂に金属円柱を埋め込んで一定速度で引っ張った際の倒れた傾斜角度と砂の厚みの関係を調べ,安定度が砂の安息角に依存することを報告した.はやぶさ 2 は2014年に打ち上げ,2018年に探査候補小惑星 1999 JU3(C 型小惑星)へ到着,調査する予定である.イトカワとは異なるタイプの 1999 JU3 を調べるために様々な観測機器,さらには新たな機器も搭載される予定である.今回は,その一部として,1999 JU3 に衝突体を衝突させ内部物性を調べる小型衝突装置 SCI(荒川),1999 JU3 の表面組成を調べ,水の有無を検証するための可視カメラ ONC(杉田)について報告があった.
2 - 3. ポスター発表
図 3. ポスターセッションの様子.
1 日目と 2 日目の夕方には,ポスターセッションの時間が設けられた.2 日目は懇親会も兼ねて行われ,お酒や食べ物を手にしながらポスターの前で活発に議論する様子が随所に見られた(図 3).ポスター会場はそれほど広くなく発表数も 10 件と多くなかったため,発表者をすぐに見つけて研究成果を聞きやすい環境にあり,討論時間も大いにあるためにじっくりと議論する事が出来たのではないだろうか.このような雰囲気は,多くの質問が出来て自分の理解が進むため,衝突研究会の様な小規模の研究会の利点の 1 つだと思う.
3. 最後に
今年の研究会も発表中での質問が活発に交わされ,例年の事ながら設定時間を大幅にオーバーして 3 日間の日程が終了した.今年は昨年以上に参加者,発表者も増え,大学や研究室間の壁を越えた交流が盛んに行われた.また,学部生,修士学生といった若い人の存在が多く見られた.それだけ,惑星科学における「衝突」というものに興味を持って研究する学生が増えつつあるということであろう.
衝突研究会は来年度も開催予定である.世話人代表が諸田智克さんから鈴木絢子さんに交代することから,また別の新たな視点から組まれた衝突研究会を期待したい.次回もまた,幅広い分野から講師をお招きし,盛んな議論を巻き起こすような研究会になることを楽しみにしたい.そして,本研究会に興味を持っているがまだ参加したことがないという方,大歓迎!来年には是非とも参加して頂き,活発な議論に加わって頂きたい.
謝辞
この研究会を開催するにあたり,ご尽力された世話人の方々,低温科学研究所の方々に感謝申しあげます.また大変面白い,勉強になる話題を提供して下さった講演者の方にも,感謝致します.最後に,本報告を執筆する機会を与えて下さった世話人代表の諸田智克さん,本報告書執筆にあたり多くのアドバイスやご指摘をして下さった和田浩二さんに感謝致します.どうも有難うございました.
” HTML 編集 - ウェブ編集室 ”
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