絵本 - 宇宙を旅する「たんぽぽ」
Updated : July 17, 2015
作者 : 奥平恭子 (会津大学)
初版2015年10月19日公開, 第二版2016年7月29日公開 : 初版原版 : ” たんぽぽ絵本 PDF 版 ”
宇宙を旅するたんぽぽ
「たんぽぽ計画」
~日本初のアストロバイオロジー宇宙実験~
たんぽぽ計画ってなに?
「たんぽぽ」といっても、これからお話するのは、植物のタンポポ(蒲公英)ではないよ。
「たんぽぽ計画」は国際宇宙ステーション上の日本実験棟「きぼう」で行われている、JAXA(ジャクサ、宇宙航空研究開発機構)の宇宙実験のひとつなんだ。
ちょっとむずかしい言い方だけど、「有機物・微生物の宇宙曝露と宇宙塵・有機物の捕集」実験が、たんほぽ計画の正式な名前なんだよ。
「地球の微生物や星の周りにある有機物を人工的に模擬した試料を宇宙空間にさらして変化を調べる実験」と、「小惑星や彗星などから地球へ降ってくる宇宙起源の
塵や、上空へ飛び出した、微生物を含む地球起源の塵を壊さずにつかまえて、地球に持ちかえって分析する実験」の二つの実験を行うよ。
「アストロバイオロジー」ってなに?
「地球の最初の生命は、どこでどうやって生まれたの?」「地球以外の天体にも生命はいるの?」とか、とても興味をひくテーマだよね?
研究者(科学者)の人達も昔から、生命の起源(はじまり)を再現する実験や計算、地球に似た環境を持つ星の望遠鏡を使った探索、深い海底や上空、そして地球以外の天体での生命探査(生命がいるか、過去にいたか、生命が存在するのに適した環境があるか、などを調査すること)など、いろいろな方法でこれらのなぞを解こうとしてきているんだ。
このように、地球を含む全宇宙の生命について広く研究する学問は「アストロバイオロジー(アストロ=宇宙、バイオロジー=生物学)」と呼ばれていて、今もどんどん研究が進んでいるんだよ。
日本で初めてアストロバイオロジー研究を目的として、国際宇宙ステーションで行なう実験である、たんぽぽ計画をくわしく説明するね。
たんぽぽ計画では、地球から宇宙へ飛び出すかもしれない微生物を含んだ塵と、宇宙から地球へ降ってくる小惑星や彗星などの塵を、国際宇宙ステーション上でつかまえる実験を行うんだよ。これを「捕集実験」と呼ぶんだ。
国際宇宙ステーションは地球表面から 500 km ほどの高さを、約 90 分で一周するくらいはやい速度で動いているから、塵をつかまえるにはシリカエアロゲルという、すかすかの固体(低密度)である特別なガラスを使うんだよ。
たんぽぽ計画で使うエアロゲルは、密度が空気のたった10倍しかなくて(0.01 g/cc)、見た目はまるで「凍った煙」のような不思議な感じなんだ。
この物質を使うと、はやいスピードでぶつかってくる塵でもこわさないでつかまえることができるんだ。
下右図 : シリカエアロゲル
下左図 : 塵などの捕まえ方
これまでにも、たとえば、NASA(ナサ、アメリカ航空宇宙局)のスターダスト計画(1999年 - 2006 年)で似たようなシリカエアロゲルを使って、彗星(ほうき星)の塵をたくさんつかまえることに成功しているんだよ。
もう一つの実験は、真空で、高い温度と低い温度の間を行ったり来たりしながら、太陽からの紫外線やエネルギーの高い宇宙線も降り注ぐ、生命が生きていくにはとてもきびしい宇宙
環境にあえて微生物を連れて行き、そんな種がどのくらい生き残れるのかと、星の周りで発見されている有機物(生命を作っている物質)が、そんな宇宙空間でどのくらい分解してしまうのか、を調べるものだよ。こちらは「曝露実験」と呼ぶんだ。宇宙空間に試料を「曝す(さらす)」、という意味だよ。
捕集パネルは一年ごとに一ダースほど、三年間で合計三回、曝露パネルは一~三年曝露の後に毎年一枚、三年間で合計三枚、帰還カプセルに載せられて、地球にかえってくる予定なんだ。
下図 : 捕集パネルの平面図
たんぽぽ計画でわかる六つのサブテーマ
ここからは、「パンスペルミア仮説」が正しいかどうか確かめるため、たんぽぽ計画の捕集実験と曝露実験を組み合わせて研究される六つのサブテーマをくわしく説明するね。
あ、「パンスペルミア仮説」っていうのは、研究者によって違いはあるけれど、「宇宙空間には生命の種(もと)がたくさん存在する」、「地球上の最初の生命の種(もと)は宇宙からやって来たものだ」、「生命の種(もと)になる物質は、太陽系の中を移動している」という仮説のことだよ。
「たんぽぽ計画」という名前は、生命の種(もと)をくっつけた綿毛が風に乗って遠くまで飛んで行ったり、遠くからやって来る、というイメージからつけられたんだ。
下図 : たんぽぽの綿毛が風に乗って飛んでいく様子。
★ サブテーマその 1
「国際宇宙ステーションの高度(約 500 km)まで、地球の微生物は届いているのか、その可能性を調べます」
… 塵に乗って、地球から宇宙にまで飛び出した微生物はいるかな?
★ サブテーマその 2
「地球にいる微生物を宇宙空間に曝して、どのくらい生きられるかを調べます」
… 地球にいる微生物は、宇宙空間で生きていけるのかな?
★ サブテーマその 3
「地球大気に入る前に宇宙塵をつかまえて、その中の有機物を分析します」
… 地球に毎日降り注いでいる宇宙塵の中には、どんな有機物があるのかな?それが地球の生命の種(もと)になった可能性はあるのかな?
★ サブテーマその 4
「星の周りで見つかる有機物が、宇宙空間でどのくらい変わってしまったり分解してしまうか、を調べます」
… 宇宙空間のようなきびしい環境で、どんな風に変わってしまうんだろう?変わらないんだろう?
★ サブテーマその 5
宇宙塵の捕集実験をとおして、0.01 g/cc の超低密度エアロゲルが宇宙で使えることを証明します
… たんぽぽのために開発されたエアロゲル装置、無事に塵がとれているかな?将来は他の天体でも使えるかな?地上では何度も実験を行ったから、きっと大丈夫かな?
★ サブテーマその 6
宇宙ゴミ(スペースデブリ)の密度の測定を行います
… 国際宇宙ステーションの周りには、人間が出した宇宙ゴミが、どのくらいただよっているのかな?
たんぽぽの綿毛は今どこに?―――これまでと、これからのお話
たんぽぽ計画は今どこまで進んでいるのか、気になったかな?じゃあ最後に、たんぽぽ計画が、どのように始まって、今どうなっているのか、そしてどのような予定なのかをかんたんにお話しするね。
「たんぽぽ」は2007年から研究者たちが計画をねって、地上でできる模擬実験や分析を何度もくりかえして、装置が開発されてきたんだ。
そして2015 年4月15日(日本時間)に、スペースX 社の商用補給船「ドラゴン6号機」の中に積まれて、アメリカからファルコン9ロケットで打ち上げられたんだ。
国際宇宙ステーションに到着したたんぽぽの実験装置は、05月26日に日本実験棟「きぼう」の曝露部(船外プラットフォーム)に、地上からロボットアームをあやつって「簡易曝露実験装置(ExHAM)」に取りつけられたんだ。
今は一年目の実験の真っ最中だよ。
今、地球で実験の無事を見守っている研究チームのみんなは、まずは約一年後に地球に戻って来る予定の最初の試料を、どうやれば効率よく分析できて、少しでも早く科学的な成果が出せるか、計画を立てながら、本番作業のリハーサルをしているところなんだ。
地球に帰ってくる試料はまず神奈川県相模原市の JAXA 宇宙科学研究所に届いて、いろんな記録や分析をしたあとに、日本全国 26 箇所の大学や研究機関にサブテーマに応じた試料を配られる。
全日本チームが一丸となって、いろんな角度から研究を進めていくよ。
みんなで★たんぽぽ計画★を応援してね!
図 : スペース X ドラゴン6号機打ち上げの様子
「たんぽぽ計画」ホームページ
” 東京薬科大学極限環境生物学研究室 ”
簡易曝露実験装置(ExHAM)について詳しく知りたい人はこちらへ
” 宇宙ステーションきぼう ”
宇宙を旅するたんぽぽ
「たんぽぽ計画」
~日本初のアストロバイオロジー宇宙実験~
著者: 奥平恭子
監修: 山岸明彦、矢野創、横堀伸一、橋本博文
発行: 2015 年7 月24 日(第一版)
製作: たんぽぽプロジェクトチーム