2018 49th Session Report

LPSC 2018 - March 19 - 23
Prologue, 01 ~ Vol, 28
 

Prologue, 01. 2018/03/13 PM 23:47 日本時間

LPSC まであと5日の今日は、3月というのにここ米国北東部は大雪で、ブラウン大学も閉鎖されて、通勤に使っているピーターパンバスもすべてキャンセルされました。

それで、井本さんから LPSC 速報の確認が来たので、ホテルのシャトルの時間を調べようと思って LPSC サイトに行ったらなんと、私のホテルが消えていました!!!

実は昨年まで Super 8 に常連のように泊まっていたのですが、シャワーのお湯が何度苦情を言っても熱くなかったので、懲りて、今年はそこから北に少し行った Extended Stay America を超破格(5 泊で $233)取ってあったのです。いつも行くスーパーの HEB にもちょっと歩きますが行けるので。ところが今年突然 ESA はなくなりました!
 

画像:テキサス州ウッドランズにある、Hotel Super 8.
 

それで LPI にメールしましたが、朝早いこともあり返事はなく、電話番号もないので、近くのホテルを探し始めましたが、やはりいいところは満員か高すぎます。今年は NASA 研究費が出るので、一泊 $100-200 の範囲でもいいのですが、寝に帰るだけのような忙しい学会ではもったいないです。

結局、仕方なく Super 8 を $348 で予約しました。LPSC シャトルサービスは、昨年も Super 8 を除いておいて、あとで復活した経緯があるので、Super 8 は大丈夫かと思いましたが、リストにはなく、地図には残っていました。

最悪の場合、高速を挟んで反対側の LaQuinta まで歩けばシャトルに乗れるはずですが、シャトルはふつう Super 8 の近くに駐車してそこから出発するので、何とかなるでしょう。この変更のおかげで、$120 余計に費用が掛かるのと、空港からの SuperShuttle も取り直す必要がありました。

これで今朝二時間以上時間を使ってしまいましたが、まあちょっとほっとしています。Super 8 に泊まる人で車持ってる人、ぜひピンチの時は助けてくださーい。
 

Prologue, 02. 2018/03/15 AM 10:15 日本時間

ホテルのシャトルサービス騒動の後日談です。

その後、LPI から電子メールで返事があり、今年は Super 8 が何かの合意書に署名しなかったので、シャトルサービスから外したとのことでした。

しかし、シャトルは例年のように Super 8 から出発してそこで終わるので、運転する担当の係に、私が Super 8 から乗車することを話しておいてくれたようです。

なので、何とか遠くまで歩かなくて済みそうです。ひょっとしたら、シャトルの運転手たちが Super 8 で朝食をただ食いしていた経緯があるので、Super 8 が拒絶したのかも。よくわかりません。

去年のようにお湯がぬるいのは勘弁してほしいですが、その心配以外は、慣れた場所で、スーパーにも歩いていけるし、一安心です。

今日は、ブラウン大学の Hannah Kaplan が博士論文審査を受け、見事博士号を取得しました。炭素質コンドライトのような始原的物質中の有機物を分光で、どう定量するかという話で、Dawn 探査機によって準惑星ケレス上のある特定の場所だけに見つかった有機物が多い場所の起源に最後言及していました。

Hannah は私の長女が Ralph の授業をとった時に TA でお世話になった学生です。今後は Boulder に行ってポスドクをするそうです。

なお、添付したのは、毎年 Jim Head の奥さんの Anne が作ってくれる、ブラウン大の研究者たちの LPSC での発表リストです。私は火曜日のポスターに回されて、何人かのブラウン大の大学院生たちもその近くにポスターを構えるようです。
” ブラウン大学研究者の発表リスト ” - PDF 120 KB
 

Prologue, 03. 2018/03/17 AM 02:50 日本時間

LPSCに行く前の最後の仕事日の今日は、ここブラウン大学で博士号をとり、はやぶさ2のONCの主研究者でもある杉田君(清司)が東大から来てくれました。朝から 4 時間ほど、ONC-T のデータを使ったリュウグウの解析と、ランデヴー前に提出すべき論文などのための隕石や宇宙風化データのことで話し合いました。そのあと、はやぶさ2にも参加してきた Ralph Milliken と話しているようです。

今気づきましたが、昨年の 48th LPSC 2017 での口頭やポスターでの発表に対して米国在住の学生にだけ与えられる Dwonik 賞ですが、大学院生部門では、ブラウン大学が制覇してしまいましたね。やはり昔からの栄光はまだ続いています。

Presentation of the 2017 GSA Stephen E. Dwornik Award

Winners Best Graduate Oral Presentation: R. Terik Daly, Brown University, “Projectile Preservation During Oblique Hypervelocity Impacts”

Honorable Mention (Graduate Oral): Kevin M. Cannon, Brown University, “Primordial Clays on Mars Formed Beneath a Steam or Supercritical Atmosphere”

Best Graduate Poster: Tess E. Caswell, Brown University, “Grain Size Evolution in Icy Satellites: New Experimental Constraints”

Honorable Mention (Graduate Poster): Hannah H. Kaplan, Brown University, “Reflectance Spectroscopy of Meteorite Insoluble Organic Matter (IOM)”

Vol, 04. 2018/03/19 AM 11:07 日本時間

今日は昼過ぎの飛行機で Houston に飛んだのは良いのですが、何と超満員で、私の Group 4 の乗客は、強制的に持ち込み荷物を改めてチェックインせられてしまいました。なので、荷物が出てくるまで時間がかかり、さらに Super Shuttle が来るのが遅く、とっても長く待たされました。

待っていると、同じブラウン大で同じ階にいる Brad Johson も同じシャトルに乗るようで、ふたりして、リアルタイムのシャトルカーの位置を見ながら、なんでぐるぐる回ってばかりで来ないのかと不思議に思っていました。

やっと来たシャトルは、気のいい南部の女性という感じで、聞き取りにくい英語でしたが、快活で、すぐ後ろで Brad と並んで乗りました。Brad は杉田君と同じく衝突のグループなので、Pete Schultz の話や、1990‐1991年ころに、東大の修士学生だった杉田君から、Pete からの返事がないので困っているというメールが来て、私が Pete の部屋に行って Fax のことを念を押しに行った話とか楽しくしました。

まあそういう話も、もうすでに四半世紀を超える昔になってしまったのですね。今回で27回目になる LPSC の参加ですが、Super 8 に着いて、今回ほどショックだったことはありません。

何と、従来のオフィスと朝食のロビーが改装中で閉鎖され、別館の一室をオフィスに使っているだけなのです。なので、当然朝食もなく、さらに $50 の敷金を入れろというのです。一体どうなってしまったのか。てっきりシャトルバスの運転手たちがロビーでたむろしていて、そこからゆっくりシャトルが来るのを待てばいいと思ったのに…

更に、日曜日の夕方の登録及びレセプションは、Super 8 から出発する必要はないのです。というか、明日からの平日も、出発点のホテルである Homewood Suites からシャトルが出発する可能性もあり、とんだ誤算だと感じました。

Super 8 に近いホテルは高速の反対側で、今日、一抹の望みをかけて La Quinta まで行ってみましたが、待ってもシャトルは来ませんでした。その帰りに HEB というスーパーで朝食を買い、Subway で夕食を買ってきましたが、夜はやはり、高速をくぐって La Quinta まで行くのは怖いです。

Super 8 にも LPSC にも裏切られた思いで、でもそんなことを考えている余裕はなく、明日の朝どうするか手を打たないといけません。誰か助けてください、という感じです。
 

Vol, 05. 2018/03/19 PM 22:15 日本時間

昨晩は非常にパニックに陥っていましたが、Blue Line のシャトルバスが2台も Super 8 の前に泊まっていたので、最初のホテルに着く7時前に捕まえようと思い、第一日の今日は、朝6時に起きて、6:40 には玄関で待っていたら、クラクションを鳴らしてドライバーが呼んでくれました。ほっとしました:)

そうしたら、中国人3人と、アメリカの引退したような研究者が1人乗ってきて、合計5人で、何と他のホテルからは誰も乗らずに、7:30 頃に会場に着きました。まるでチャーターしたようでした。

会場に着くと、今回の騒動でいろいろ対応してくれた Debbie とちょっと話し、火星隕石の研究で一緒にやった Melissa Lane とコーヒースタンドのところで久しぶりに再会して会話しました。そうそう、なんと Starbucks でなくて Marriot のブランドのコーヒーに変わってしまっていました!!!

あと、ポスター会場で自分のポスター(Anne Cote が張ってくれた)を確認し、他のを見ているうちに、千秋さんがポスターを張りに来ていたので、熱輻射で熱慣性や温度を調べるモデルの話や日本の惑星科学の人材のことなどちょっとだべりました。

昨晩は5時間くらいしか寝れず、目が疲れていますが、初日の今日、頑張らないと。添付したのは私のポスターです。
 


 

Vol, 06. 2018/03/19 PM 23:26 日本時間

今朝は最初、Cassini のまとめのセッションに行きました。

8:30 からは Spilker 氏が、土星の重力測定から、3000 ㎞ とか深いところに流れがあることや、レーダーでリングの深い構造を調べたとか、ダストが南半球に雨のように注いでいるとか、ダストは非常に細かくて、0.7 ミクロン以下のものがほとんどであるという発表でした。

次は、Cuzzi 氏で、土星の B リングの神秘を Cassini が明かしたとか、土星のコアとマントルの軌道の 2:1 共鳴によってリングにギャップができているとか。そして、黄色っぽい D リングは有機物の汚染によるもので、ケイ酸塩鉱物は 1% 以下しかなく、C6-C8 の有機物がダスト軌道の解析から、カイパーベルトから来ているという話で、ダストが 1 億年以下という若い年齢であることの考察もしていました。

9:00からは、私も昔 NASA 研究費申請の審査会で一緒した、Bonnie Buratti の発表で、フェーベは KBO(カイパーベルト天体)から捕獲された天体であることや、Iapetus のアンモニア氷の確証は得られなかったとか、エンケラドスの吹き出しは土星からの潮汐作用で押し出されているとかいう内容でした。

次は違う会場に行きます。

※ カッシーニミッションの日本語解説は、” こちら ” で読めます。
 

Vol, 07. 2018/03/20 AM 01:33 日本時間

今度は Montgomery Ballroom でされている太陽系生成を隕石や力学から探るセッションに行ってきました。

9:30 からは Budde らの内容を代理の人が発表していましたが、モリブデン 95 と 94 の異常性をグラフにするとコンドライトとエコンドライトで二つの異なる線の上に乗るのはなぜかという発表です。新しく隕石を測ってもその二つの線の傾向は変わらず、それが地球の原点からどれだけシフトしているかという値と、地球のいくつかの岩石の値から、コンドライトはせいぜい 5 % くらいしか地球に寄与していないという主張でした。かなり遅い時期に地球に集積したはずで、Grand Tack モデルでは可能ということでしたが、詳細はわかりませんでした。質問の時間に、喜多さんが鋭く問題を指摘していました。

次は Merlosh 氏が非常に素晴らしい発表をしていました。隕石中のコンドリュールとマトリックスは、元素組成・同位体組成において相補的になっているので、年齢も考慮すると、ペアで同じ場所で出来たと考えられ、ALMA のマイクロ波観測による系外惑星系のリング構造をみても、ガスとダストのリング構造が作ったのではということでした。言及されていませんでしたが、私が 20 年以上前にどこかで読んだ、Prentice 氏のガスリング仮説に近いのではと思いました。非常に大局的な話で好きです。

10 時からは、Yin 氏が、チタン・クロム・カルシウムの同位体のずれのプロットから、炭素質コンドライトとそれ以外の隕石が太陽系星雲スケールで昔に金剛があったのではという話でした。コンドライトに炭素質コンドライトの含有物があることなどからの私的です。いくつもの隕石タイプの混合である Almahata Sitta 隕石の話を出していましたが、それらは最近の衝突による混合でいいのではという反論も出ていましたが、BottkeはAllende 隕石の例はそうでないのですばらしいと言っていました。

次は、Perez さんで、Porphyritic な組織を持つ橄欖石は Bow shock という磁気圏と星雲物質の相互作用による短時間の加熱でできたのではということで、San Carlos の橄欖石で実験し、一時間当たり 1000 K 以下で 10 分以内の加熱だったと推測していました。その具体的数字についてはいろいろ突っ込みがありましたが。

10:30 からは Bryson 氏による Tagish Lake 隕石の古地磁気研究の発表で、MIT でも聞いた話ですが、有意な残留磁化がないことから、母天体は 0.3 テスラ以下の磁気を感じていて、それは太陽から 13 AU 以上の距離にあったとして、カイパーベルト天体からのものであり、Grand Tack よりも Nice モデルがよく合うという話でした。

その次は、Desch 氏が、CAI は炭素質コンドライトに多いが普通コンドライトなどには少なく、炭素質コンドライトでも、CI にはほとんどないのはなぜかというのを、コンドリュールの年齢、母天体の年齢、40‐70 万年前に木星が太陽系星雲を二つの領域に分けたという情報から、モデルで詳細に計算して解明しようとしていました。CI についてはどう説明できるかわかりませんでしたが、木星が 60 万年前には 3 AU の場所にあったという仮定でよく説明できるという話でした。Grand Tackを支持する説ではないかと思います。

ここでもう頭が飽和してきたので、出てきてこれを書きました:)
 

Vol, 08. 2018/03/20 AM 04:41 日本時間

お昼の時間は、昨晩 Subway で買った1フィートのサンドイッチの半分を持ってきたので、それをコーヒーと一緒にポスター会場の奥の丸テーブルで食べ、既に 3-4 割は張られている火曜日用のポスターをいろいろ見て回りました。やはり、職業病のように可視・近赤外スペクトルがあるとすぐ目につきますね。

シャトルバスのマネージャなどともホールで話ができて、朝早く出る限り、安心できそうです。

午後の最初は、1:30-2:30 の全体会で、いろんな学生の賞の授賞式があり、やはり Dwornick 賞の大学院生部門をブラウン大学が総なめしたのが目立ちましたね。

Masursky 講義は、今朝 Cassini のセッションでも最初に話された、Linda Spilker による Cassini の総括のような講演でした。構想から 30 年近く、そして運用 13 年という壮大なミッションでした。流れるような芸術的な話と映像に途中寝てしまいましたが、最後のビデオには目が覚める思いでした。
(JPL 日本語ニュース - ” 歴史的な惑星探査の終焉 ”)

はやぶさ2も、こんな風に歴史に残るミッションにしたいです。もちろん、Cassini や NewHorizons といった巨大ミッションをできるのが NASA の力ですね。
 

Vol, 09. 2018/03/20 AM 07:02 日本時間

2:30 からの午後の一般セッションは、エコンドライトと惑星データ整備に関する隣のセッションとを行き来していました。

2:45 からは英語のうまい日本人の飯塚君が Pb-Pb および Ar-Ar 同位体ペアを使った年代測定で、Agoult, Camel Donga, DaG 380, NWA 049 といったユークライトの熱氏の話をしていました。その前の日高さんの話も含め、ちょっとついていけませんでしたが、最近私がそういう細かい話に興味を失っているかもしれません。

次の二人はアングライトの話でした。

3:15 からの Tissot 氏は、エンスタタイトコンドライトとアングライトを混ぜたら地球の同位体組成ができるという興味深い点から始まり、非平衡で凍結された組成の二つのアングライトのグループがあり、それらは同じ母天体起源で、その大きさを見積もれるという話でした。しかし、2000 ㎞ とか非現実的ではという鋭い指摘が Tim McCoy からされました。

次は東大の三河内君のところの学生さんらしい林君の発表で、NWA 7203 の衝撃による静脈状の組織と組成から、衝突圧が 20 GPa 以下という推定をしていました。後期重爆撃期(Late Heavy Bombardment)によるものではと言ってましたが、本当かな。

ここで隣の部屋に移り、代理発表ですが、おそらく Edwards さんが、KRC という天体の表面や地下の熱計算を簡単にできるシステムの紹介をしていました。割と優れもので、使ってみたくなりましたね。

その後、またエコンドライトの部屋に戻り、RELAB にも試料を送ってきた、Sam Crossley の Brachinite の発表を聞きました。Nb/Ta と Zr/Nb のぷろっとからいくつかの三分類の始原的エコンドライトが同起源かもという話でしたが、これも鋭い突込みがされていました。

私が出る前の最後は、Carl Agee 氏の、NWA 11575 という特殊で新たに Trachyandesite と分類された隕石の話で、LL コンドライト起源かもというのと、輝石の中心から端のへゾーニングが、昔 Gordon McKay が生前に研究していた QUE 94201 に似ているという話をしていました。

今夜は 17:30 から NASA ナイトがあるのですが、どこまで参加しようかと迷っています。添付したのは、ポスター会場に置かれた小惑星のパネルで、やはり今年は Hayabusa2 と OSIRIS-REx の年だからでしょうか。
 


 

Vol, 10. 2018/03/20 AM 11:35 日本時間

結局、NASA ナイトと呼ばれる HQ(HeadQuarters)の説明会に参加することにして、長引くかもしれない質問の時間になったら出ようということで、前から三列目のいい席に座りました。

まずは、二年前からの情勢の変化の説明があり、トランプ大統領になったおかげで、月に戻ろうという機運が高まり、月の長期的研究と利用のために有人探査と、補給基地の話が出ました。

Exploration Mission-1 で Orion という衛星を飛ばし、Mission-2 では Gateway という地球大気の外に浮かぶステーションを打ち上げるようです。それが2023年ころとか。ここに Orion の説明とビデオがありますね。
https://www.nasa.gov/feature/around-the-moon-with-nasa-s-first-launch-of-sls-with-orion

この月の有人ミッションには 105 億ドルあてがわれたそうです。Gatewayはそれほど大きくないですが、人が三ヶ月住めるようになるそうです。

また、韓国の月ミッション KPLO にも参加する科学者を募集するそうです。

今後の注目すべきミッションとして、5月5日には Insight という火星の地下を地震計と熱流量計で調べるミッションが打ち上げられ、11月26日に着陸するそうです。まるで宇宙研の Lunar-A のペネトレーターのようですね。

8月には OSIRIS-REx が小惑星 Bennu を観測し始めるということで、焦ってしまいますね。何とか8月までには Hayabusa2 は最初の科学成果を論文で発表しないと。

10月には ESA の Bepi Colombo が水星に向けて打ち上げられるということです。

そして来年1月1日には、New Horizon がカイパーベルト天体である Ultima Thule にフライバイするそうです。それにしても、すごい名前を付けたものです。

そして、予算ですが、かなり増加したということです!月関係だけでなく、惑星防衛のための研究費がとても増えています。その1つのミッションとして、DART(Double Asteroid Redirection Test)というのがあり、地球に接近してくる Didymos-A とかいう 780 m の S 型小惑星の衛星に何かぶつけてその軌道変化を見るとか、それはアレシボで観測するので、日付は2022年10月5日に決まっているそうです。

JAXA の2024年の MMX に参加することも昨年に続いて発表されました。

また、Mars2020 が火星試料回収ミッションの始まりで、まず火星を回る軌道上に試料を打ち上げて、別の探査機がそれを取りに行って地球か Gateway まで運ぶという、まるで SF 的構想です。論理的にはそれがベストだと思いますが。

なので、これから小惑星・月・火星の試料を分析するための実験施設に投資するということを強調されました。惑星試料を実験室で分析するものとしては、素晴らしい時代が来たものです。

質問の時間になって、外に出ると、千葉工大の荒井さんに出くわし、Phaethon 探査の DESTINY+ ミッションの話をしていたら、Bishnu Reddy が寄ってきて、実験室を立ち上げているのでアリゾナに来て指導してくれと言われました。夏まで忙しいので、秋ならいいかなあと答えておきました。三人で写真を撮っておけばよかったです。

その後は、やっと下に降りて Blue Line のシャトルバスを待ちながら、ちょっとポスターセッション会場に行くと、おそらく Dwornik 賞とかのレセプションもかねてアイスクリームがあったので、ちょっともらって、無事 Super 8 に帰ってこれました。やれやれ。

あすはポスターセッションなので、夜遅くまで長丁場です。添付したのは、ポスターの場所を示す地図です。とても三時間では見られれない数です。
 


 

Vol, 11. 2018/03/21 AM 00:34 日本時間

さて2日目の今日火曜日は、シャトルバスがちょっと遅くなり、7:05 頃出るようになりましたが、知らなくて、とても寒くなった朝に震えながら待ちました。一応車に入れてもらえましたが、暖房もなく、ドアも開いていて寒かったです。でも、寒くなったおかげで、はやぶさ2ジャケットを着てくることができました。

シャトルバスが出る直前、若い日本人が運転手にこれは会場に行くのかとか訪ねてトラブっているので、見ると阪大の晶さんの学生さんの金丸君でした。どうやら、飛行機が遅れて、昨晩着いたようで、今日が発表なのでぎりぎりでした。バスの中で今回のホテルとシャトルサービスのいきさつを話しました。やはり Super 8 が外れたし、朝食もなくなったのを知らなかったようです。

今日の午前中は小惑星のセッションがあり、私は途中の三つは聞かなくてもいいと判断して抜けてきてこれを書いています。頭も疲れますしね:)

8:30 からの最初は Driss Takir で、千葉工大の荒井さんが PI をしている DESTINY+ ミッションの目標天体である 3200 Phaethon の 3 ミクロン吸収帯の観測結果の報告でした。基本的に何も吸収は見られたなかったということで、熱補正に関する質問など突っ込まれていましたが、私としてはもともと水がないか、太陽からの熱で脱水した炭素質コンドライトではないかと思います。Driss が 2 Pallas が CI/CM に似ているといったので、確かに 3 ミクロン帯はそうかもしれないけれど、可視領域で負の傾きを持つスペクトルは、大きな天体で細かいレゴリスがある場合に考えにくいのではないかと質問すると、答えにならない答えをしていました。

次は Patrick Taylor 氏がアレシボのレーダー観測で Phaethon の大きさが従来思われたよりやや大きめの 6 ㎞ くらいで、600 m くらいの暗い点(おそらく平たい部分)と、明るい(おそらくクレーター)が見えるということでした。ライトカーブに基づく Hanus らの形状モデルなどとも比べ、Phaethon は Bennu に似た形ではないかと結論していました。スピン軸は二通り可能性があるようです。

9:00 からは荒井さんで、DESTINY+ ミッションの概要の説明でした。イプシロンロケットを使って2022年に打ち上げ、少なくとも4年かかってフライバイするというものなので、2026年まではかかりますね。もっと早く行けると思っていましたが。四色のフィルターのカメラを別々にしてフライバイの短時間に撮像できるようにしたのは良いですね。もっとバンドが多かったらよかったですが。特に紫外とか長波長とか。その前にダストを分析してその粒度分布や有機物や射出機構などを調べるようです。

次の講演はキャンセルで、9:30 からは中国人学生らしい Zilian Jin 氏が、イトカワの二つの粒子を分析して、その D/H 比を測り、Vesta や炭素質コンドライトに重なる領域のあたいであり、cosmic ray spallation(宇宙線による核破壊)でイトカワの母天体のある深さまで水素ができたのではと結論していたように思いますが、詳しくはアブストラクトをご覧ください。
https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2018/pdf/1670.pdf

次は座長でもある Vishnu Reddy で、NASA が将来行く予定の小惑星 16 Psyche の上にどのくらい水素があるかという測定戦略のようなものです。Vesta に炭素質コンドライト的なコンタミがあるのが見つかったので、それが暗い部分を作るのを利用して、ライトカーブから見つけようというものでした。

また 10:45 からの講演を聞きに戻ります。
 

Vol, 12. 2018/03/21 AM 02:06 日本時間

小惑星セッションに戻ると、終わりかけの講演で、二重小惑星をひもで結んだ系の力学の発表がありましたが、Clark Chapman に鋭くその現実性を指摘されていました。

10:45 からは阪大の佐々木晶さんの学生の金丸君で、エロスとイトカワの形状と重力データからその内部構造を、Potential variance minimization technique という手法で解析した発表でした。イトカワの場合やはり頭が密度が高くて体は空隙率が高い Rubble Pile にした方が重力的に安定な状態が出るということで、その場合、密度は頭が 2.73、体が 1.86 になるそうです。Gaskel さんの形状モデルと、Dan Sheers さんの手法を使ったのではと思います。英語もうまく、なかなか素晴らしい発表でした。LPSC の Career Award かなんかで旅費をもらって来れたのです。ひょっとして日本人学生では初めて?

次は、Amanda Hendrix が 13 個の小惑星について紫外反射スペクトルを測定し、宇宙風化を模擬するために炭素の量を変えて層状ケイ塩と混ぜたスペクトルとの比較をしていました。いろんな人が質問に来たので、私は黙っていようとも思いましたが、次の発表者がキャンセルされたので、「層状ケイ酸塩」も宇宙風化する効果を入れないといけない」という趣旨のコメントをしました。

時間が余った間、いろんな人がいろんな質問やコメントをしていましたが、Clark Chapman が、可視・近赤外スペクトルで分類してきた枠にとらわれたらいけないというコメントをしたので、私も最後に付け加える形で、Ryugu, Bennu, Phaethon といった小さく暗い小惑星は、レゴリスがないかもしれないし、細かいレゴリスのある大小惑星での分類は適用できないかもしれないと発言してきました。

最後の Dotson さんの発表は、系外惑星を発見してきた Kepler 衛星が運用終了間近になり、太陽系の小惑星のライトカーブを多くとっているので、それを解析したり、そのための研究費を申請できますよという発表でした。ヒルダとトロヤ群なら 219 個も測定されているそうです。分光はないかもしれませんが。

終わってから、金丸君に、なかなか良かったと褒めてあげてから出てきました。
 

Vol, 13. 2018/03/21 AM 04:32 日本時間

ちょっと遅めに昼食行こうと会場を出ると、ブラウンで博士号をとった Shuai Li がいたので、また Which Wich で Super Food という豪華なベジタリアンのレタスラップを食べました。それで、OSIRIS-REx の参加科学者の選考結果の神秘のことなど、2人で愚痴に近い話をしていました。とにかく、NASA のは JAXA よりは予算がはるかに多いので、努力しがいがあるかと思いますが。

昼食後はまず衝突のセッションで、地球型惑星への後期の衝突の話を聞きに行きました。

愛所は Abramov 氏の地球や火星への衝突帯による地殻の変化のシミュレーションの話でした。主に 44.2 から 42.5 億年前の歴史をたどっていましたが、ちょっとポイントがわかりませんでした。もっと集中すべきだったのか、私の知識が足りなかったのかわかりません。

次は、Salmon 氏の地球―月系の形成時の巨大衝突の話で、Rufu という人が二つ衝突体を仮定して発表した内容に多く言及して、その問題を解決するための代案を出していたようです。私としては、一つの衝突体が二度衝突を起こした話を知っていて、それをだれか詳しく説明してほしいものですが。

次は、隣の宇宙化学のセッションに移り、私の元ボスの Carle Pieters が月の無特徴の長石のスペクトルの原因を解説していました。ところが、最後に出したそれらしいスペクトルを持つマスケリナイト試料が、のこぎりで削ったものだったので、新しい試料をもらって確認せねばという、ちょっとがっかりした最後でした。私が測定したのですが。

この辺で疲れてきたこともあり、出てきたら、NASA ジョンソン宇宙センターで隕石のキュレーターをしている Kevin Righter の日本人奥様にあって、楽しく Chat してしまいました。
 

Vol, 14. 2018/03/21 AM 08:17 日本時間

その後はいろいろ立て込んでしまい、Dawn によるケレスの探査結果のセッションにちょっと参加できただけで、今これからポスターセッションに急がないといけないです。

3:00 からの Scully さんは、Occator クレーターの Cerealia Fecula という明るい部分の成因を、衝突のために地下から揮発性物質が出てきたというシナリオでモデル計算していました。
(JPL 日本語ニュース - ” 活発な地質活動を示すケレスの高輝度エリア ”)

次の Hesse 氏も、地下マグマ活動のケイ酸でした。

その時点で出てきてしまったのですが、ロビーで見つけた北里君から、その二つ後の講演で、Raponi 氏が、クレーター壁の永久陰の部分に水氷を見つけたという発表をしていて、その論文を見せてくれました。ついでに NIRS3 の校正のことを話し合いました。
(JPL 日本語ニュース - ” 最近起こったケレスの表面変化を解明 ”)

そうしたら杉田君がまた来たので、ONC‐T のデータで07月にいかに早く論文を出すかといういろんな戦略をまた話しました。そうしたら既に 5時半になってしまったので、急いで HEB に玄米カリフォルニアロールとエビの春巻きを買いに行って、ロビーで食べたところです。

では、ポスターに行ってきます。今回はいくつか参加者の写真を撮れるように頑張ります。
 

Vol, 15. 2018/03/21 AM 11:45 日本時間

ポスターセッションでは、私も自分のポスターのところにずっといたわけではないですが、割と何人もの人が見に来てくれました。

ペンシルベニア州の女子学生が赤外分光をしているということで、炭素質コンドライトの水をどうとっているのかとか、天体上の水のこととか興味あるようでした。

SLIM ミッションにかかわっている宇宙研の大竹さんや、はやぶさ2にもかかわってきた NIRS3 チームの仲内君も興味を持ってきてくれて、詳しく説明しました。もちろん PI の北里君も来ました。
 


 

他のポスターはいろいろ見ましたが、やはり日本人の研究仲間に目が行ってしまい、同位体分析の木多さんのところに Mike Zolensky が来ていたり、荒井さんのところに極地研の三澤さんや東大の新原君が来ていたり(上画像)、宇宙研の岡田さんと環境研の荒井武彦さんが TIR の議論をしていたり、私が吉川先生のところ(下画像)に行ってだべっているうちに、お客さんが来たりしました。
 


 

やはりブラウン大学の学生たちのポスターは人気が高いのか、いつも人だかりがしていたように思います。月であれ火星であれ Vesta や Ceres であれ、鉱物や揮発性物質の画像分光は基本中の基本です。それと物質の種類と状態を結びつけるメッカであるブラウンの惑星グループは、私としては最適のところにいるのかもしれません。可視・近赤外のスペクトルのプロットがあるだけで、すぐに目が言って足が向きます:)

一方で、Hapke モデルとかの測光や分光や混合や宇宙風化のモデルも我々の得意とするところで、トランプ大統領の下、月に戻る NASA、MMX で火星の衛星に行く JAXA、そして中国・インドといった国々がそういう技能を欲することでしょう。

自分のポスターがあったのでなかなか他のポスターの内容に深入りできませんでしたが、いろいろ考えさせられました。あ、それと最後に、岡山理科大のセミナーで出会って、その後極地検に来て HED 隕石の研究で頑張っている金丸君(阪大のカナマル君とは違うカネマル君のポスターにも行って、今後の惑星科学においてどういう能力が必要とされるかを説教してしまいました:)

既に21時近かったので、急いでポスターを外し、Anne に渡して、シャトルに向かうと、ちょうど Blue Line が走り始めたところで、走って捕まえてやっと乗れました。やれやれ。
 

Vol, 16. 2018/03/22 AM 01:30 日本時間

3日目の水曜日の今日も Super 8 から最初のシャトルバスに7時ちょっと前に乗り、会場に7時半ころ着きました。今日はお昼も Hayabusa2 の国際合同科学会議があるので忙しいです。

最初は今回は特別にアポロ 17号 45周年記念ということで、10分早い 8:20 からセッションが開かれました。

最初はアポロ17号のフライトディレクターであった Gerry Griffin が 10分間の話をしました。アポロ計画は 11回の打ち上げがあり、そのうち7回が月に着陸する予定で、13号が事故ったので、6回の月着陸をしました。特にアポロ 15-17号は J ミッションと呼ばれ、地学的観点から地形と試料回収の場所を記載してきました。量もどんどん増えて、11号の時は 50ポンドだったのに、15号では 250ポンド回収しました。

次は 8:30 から、アポロ 17号で地学者として月に降り立った Jack Schmitt が講演しました。17号はローバーで多くの地点に行って試料回収しましたが、今回の講演では、North と South の Massif でレゴリスのピーク粒径が 16ミクロンと 60ミクロンでかなり違うことから、二つの年代の違う衝突起原とか言っていたような。岩石の固化年代が幅広いのも不思議な点だと指摘していました。

そして、暗い雪崩物質が見られて、それはイルメナイトに富むものであるとか。また、MIT の Ben Weiss がやっている古地磁気測定のために、方向性を保存した試料回収に苦心した話とかしていました。

合計で 2600 枚の写真が撮られたということです。この長い講演の後、Clive Neal や Jim Head といった有名人たちが質問・コメントをしていました。

9:00 からは Ronald Wells 氏が月面上でのいろんな距離と方向の写真から如何に三次元的データを復元するかという話だったと思います。将来的には、宇宙飛行士にカメラとともにレーザー距離計を使ってもらいたいと話していました。まあそれはそうでしょう。

次はL. Sunさんが、かぐやの Multiband Imager (MI)データを使って、南北 Massif などの鉱物組成をマップし、表面物質の起源を議論していました。風化度の影響とかの問題を指摘されていましたが。

9:30 からはブラウン大で博士号を去年とった Dan Moriarty が Moon Mineralogy Mapper(M3)のデータで輝石の分布と、イルメナイトで輝石の 1 ミクロン吸収帯の波長位置が影響を受けるという話をしていました。それで私は、2009年に LPSC 要旨で混合モデルを使ってそういう影響を書いたことを指摘しましたが、考えてみると、2 ミクロン帯のシフトはちゃんと強調しましたが、1 ミクロン帯はあからさまには書きませんでしたね。後で本人に訂正しておかないといけない。

その後は、別の部屋に移って、炭素質コンドライトとかのセッションに行きました。

10:00 からは横山氏が、S と R とあるうちの R の核合成過程の証拠が炭素質コンドライトの Sr, Zr, Mo といった元素の量の異常性からわかるという話でした。

次は、Vicky Hamilton が剥片などの表面を FTIR でマッピングすることによって炭素質コンドライトを分類できるという話をして、特に CM としては異常に見える Bells と Murchison の類似性を出せるとか。

私が効いた最後は、Nicol Nevill というひどく風邪を引いた若い女性が、有機物の種類の検出の話で、Murchison, Tagish Lake, QUE 99177 で調べていました。Tagish Lake と QUE は特殊で、ナノ炭素グロビュールに Murchison より二種類多い有機物があるとか。

この時点で、Which Wich にサンドイッチを買いに行ったら、宇宙研の安部正真さんと一緒になり、今年の夏は頑張ろうねという話をしました。
 

Vol, 17. 2018/03/22 AM 04:15 日本時間

お昼を買ってきた後は、アポロ 17号のセッションの最後の Ralph Milliken の発表を聞きに行きました。自分のボスが何をやっているか聞いておかないとね。

Ralph は、M3 による月の表面の 3 ミクロン帯のスペクトルから、Hapke のモデルで水の量をより正確に導き、その結果、極地方だけでなく、正軌道域でも暗い火砕流だまりに水が多い部分が見られるということです。これは、ブラウン大の Alberto Saal がそういう場所でできたガラス玉から水を見つけたことと合致します。

ここで午前中のセッションは終わり、急いで Hayabusa2 の合同科学チーム会議(HJST)に向かいました。会議の内容は書けませんが、40名くらいの会場が超満員になり、この夏のリュウグウ到着に向けて希望を持っていける会合でした。

午後からは、宇宙風化のセッションに参加しました。

1:30 からの最初は、Grumpe 氏が Mie 散乱を考慮して微小鉄の効果を計算していましたが、実際の月のソイルのように、ホストの鉱物の表面に非晶質の層ができて、その中に鉄粒子ができているというモデルではないようで、私と同じブラウン大の Yazhou もそれに近い質問をしていました。

次の Wang 氏は静電気によって表面のダストが輸送される効果を発表していました。静電気は太陽光の紫外線でも起こるようで、宇宙風化に効くと言っていますね。

Bruce Hapke がその実験について質問していましたが、元気そうでなくてちょっと心配でした。
 

Vol, 18. 2018/03/22 AM 05:48 日本時間

結局その後もずっと宇宙風化セッションにいることになり、今やっと一休みで出てきました。

2:15 からの土山さんの講演では、小惑星上でのレゴリス粒子が衝突とかの摩擦によって同形状が変化していくかという研究ですが、イトカワの場合、重力の小ささやラブるパイル構造とかで、摩擦による粒子形状の変化は起こらず、母天体でできたレゴリス粒子の形が保存されているのではということでした。

座長から、熱疲労による破壊はどうかという質問が出ましたが、ちょっと通じていないようでした。私はそれも効くのではと思いますが。近地球では太陽光の加熱は大きいので。北里君もこの前ブラウン大でのセミナーでそういう話をしていましたし。

次は、Daly 氏で、Atomic probe analysis という超微小領域の分析をして、イトカワ粒子の古い表面と新しく割れたような表面の深さ方向に何ができているかを調べていて、古い粒子には水や水酸基があるのを見つけました。これは宇宙風化において太陽風が水素を埋め込んでできたことを証明するのではないかと思います。

次は東大の巽さんの発表で、はやぶさ初号機の AMICA データを主成分解析(PCA)して、第1主成分(PC1)が宇宙風化度を表していると解釈し、それを時間スケールとして、古い衝突地形と新しいものを区別し、主ベルト帯にいた時間と近地球軌道にいた時間の長さや衝突規模の違いを調べていました。その結果、主ベルト帯に 300 から 3300万年、近地球に 100 から 2500万年ということで、宇宙線放射年代ともよく合うという結果でした。

私は PC1 は粒子サイズ効果も効くので、結果は同じでも気を付けないといけないというコメントをしましたが、的確に対応していましたね。大したものです。

私が抜ける前の最後は、Jeff Gillis-Davis で、マーチソン隕石をレーザーや電子などで宇宙風化模擬実験にかけた時の赤外反射スペクトルの変化などを調べたものです。我々のグループの実験では、3 ミクロン帯は弱くなるものの、形はあまり変わらないという結果ですが、Jeff の実験では、両方の処理を同時にすると、有機物の C-H が抜けたものがまた反応して OH か H2O ができてしまうという結果でした。

小惑星表面ではそういう環境ではないと思うので、どこまで信用できるか知りませんが、基本的には私は太陽風と光の効果を考慮していないのは片手落ちだと思いました。

ちょっと休んでから、最後の 4:30 からの山本君の講演を聞きに戻ろうと思います。
 

Vol, 19. 2018/03/22 AM 05:48 日本時間

あの後は、ロビーで東大の後輩たちと話したり、ブラウン大の Yazhou と Bruce Hapke* 先生が議論しているのをちょっと聞いていたりして、ゆっくり宇宙風化のセッションに戻りました。

4:30 からの最後の講演は環境研の山本君で、かぐやの Spectral Profiler(SP)で測定した特徴のない高地の反射スペクトルが D 型小惑星のスペクトルとよく似ているので、火星の衛星のフォボスとデイモスも長石が宇宙風化したものである可能性があるという話でした。Tagish Lake が普通の D 型小惑星ほど赤化していないということも話していました。

私はすぐさま、いくつかの指摘をしました。まず、Tagish Lake は粒子サイズによって明るさやスペクトル傾きが大きく違い、2001年に Scienceに発表した時の 125 ミクロン以下の粉でなく、25 ミクロン以下にすればずっと赤くなったスペクトルになることです。しかし、フォボスやデイモスは高度に宇宙風化しているはずであり、Tagish Lake は我々の実験では宇宙風化で青化するので、やはり Tagish Lake ではないはず。

一方、長石でなくても、脱水した炭素質コンドライト(一部の CI/CM/CR や CV や CO や CK)やセッションの初めの方で Cyrene Goodrich が示したようなレゴリスが多いユレイライトならば、極度に宇宙風化すれば D 型スペクトルになりうること。

あと、フォボスの反射スペクトルの 1ミクロン付近にかすかな吸収帯が見えているようなので、それがカギではないかと言っておきました。

そのあとは、シャトルバスで Super 8 にもどり、一緒になった環境研の荒井さんと HEB まで夕食を買いにいってから部屋に戻り、こうして速報を書いています。

さて今夜は明日のポスターのどれを見るか決めておかないと。

* Bruce Hapke 氏は、Mariner 10、Viking、Apollo のミッションに参加しました。彼は、米国天文学会の惑星科学部門の前会長であり、現在、ピッツバーグ大学の名誉教授です。
 

Vol, 20. 2018/03/22 PM 23:48 日本時間

今朝も Houston にしてはとても寒い朝で、手袋が必要かと思うほどでした。07時ころの最初のシャトルには、いつもの環境研の荒井さんと阪大の金丸君も乗ってきました。

今朝の最初の二つは、月の水の話を聞きに行きました。

8:30 の最初の講演は、ブラウン大で博士をとって今ハワイ大にいる Shuai Li が、地球の磁場の尾に月が入る際に、一時的に H の埋め込みが減ることによる OH 吸収帯の減少を調べていました。高緯度域で特にそれが顕著に見えていますね。こういう季節ごとに上下する一時的な OH 以外に、ガラスに固定されて残って、更にいずれ水になるものもあり、極域の、特に陰の部分に水があるのは理解できます。

次は、Tucker 氏が単純な H と O の結合モデルで、温度依存のせいで、月の緯度に依存して Shuai と Ralph Milliken が論文にしたような分布ができるという計算結果を発表していました。

私は、何年か前に、H原子や分子が高緯度に移動していくモデル計算を発表していた人がいたし、H と O の結合しやすさは鉱物種に依存するだろうし、レゴリスがあるかとか粒度によって散乱断面積が変わって H の取り込み量も変わるだろうから、そういう効果はどのくらい聞くのかという質問をしましたが、やはり今回は簡単な全体的傾向の計算だという答えでした。おそらく、どの要素も高緯度にHがたまる方向に向きやすいとは思いますが。

その後は、衝突セッションの会場に移り、9:00 から、杉浦君が、イトカワの形をまず紹介し、微惑星の衝突の速度や角度によっていかなる小惑星ができるかを計算していました。SPED (Smooth Particle Elastic Dynamics)という輪ゴム的な運動を許すモデルのようです。イトカワのようなものだけでなく、平たかったり、長かったり、半球だったり、いろんな形の小惑星ができるのが面白いです。
 


 

Vol, 21. 2018/03/23 AM 01:54 日本時間

そのあと 15 分は休んで、9:30 からまた衝突セッションに戻りました。

とってもハンサムでスーパーマンをやった時の Christofer Leeve のような学生の Manske 氏が、iSALE というコードで巨大衝突のシミュレーションの話をし、天体の温度とか近くの暑さとかいろいろ変えて、部分溶融の場合や完全溶融の場合でどう結果の層構造が変わるかを示していました。

その次は、Sarah Stewart さんが、月形成の巨大衝突において、マグマオーシャンを作る困難さを話していたように思います。基本的には、地球の自転のせいで深さ方向の金剛が効果的に起こらず、難しいという結果だと思います。

次の Philip Carter 氏は、巨大衝突における重力ポテンシャルエネルギーの重要性を強調していたようで、内部エネルギーに大きく貢献するということです。

その後は、名古屋大学の加藤君とスペクトルモデルの議論をポスター会場でして、最後の発表に戻ってきました。

最後は、日本の MMX ミッションにも関係するフォボスとデイモスの成因のモデル計算を Canup さんがしたものです。過去 45 億年とかに、フォボスとデイモスはシンクロ軌道と呼ばれる距離から内側と外側に移動したと考えられ、それをもとに、従来考えられてきたよりずっと大きな 2000 ㎞ くらいの衝突体が火星にぶつかったとすると、両方を巨大衝突で再現できるという話です。その結果、フォボスには 77 % くらいの火星物質が混ざっているということです。

その講演の最後に、D 型スペクトルはミクロン以下の小さな粒子で再現できるという他の人の仕事を引用していたので、私は後で捕まえて、宇宙風化はやはり必要だという点を強調しておきました。その引用論文を読まないといけないですが。宇宙風化を考慮はしているようなので。

Vol, 22. 2018/03/23 AM 04:12 日本時間

衝突のセッションを出たら、極地研の三澤さんと新原君がいたので、話しているうちにお昼に行こうということで、今回初めてレストランに行って食べました。杉田研から今 Goddard に来ている長君ご夫婦と菊池君も一緒で六人で Olive Garden というイタリアレストランに行きました。ちょっと食べすぎたかなあと思いましたが、他で節約しているので良いでしょう。

会場に帰ってきてトイレに行ってからコーヒーをもらいに行くと、Bruce Hapke 先生とすれ違ったので、メールで送った写真を使っていいですかと尋ねたら快諾してくださったので、ここに添付します。ブラウン大でもうすぐ博士号を取ろうとしている Yazhou と Hapke 先生が難しい話をしている場面です。


 

今日の午後の後半にはフォボスとデイモスの話がいくつかあるので、聞きに行こうと思います。
 

Vol, 23. 2018/03/23 AM 07:09 日本時間

午後後半の 3:45 からはフォボスとデイモスのセッションがあり、4人の発表だけの小さなセッションでした。

最初は東大博物館の Hirdy 宮本君(英昭)で、フォボス・デイモスの模擬レゴリスとして、D 型小惑星起源と思われる Tagish Lake と、巨大衝突期限を考慮して火星に似た物質で組成や組織を比較したものでした。

私は、宇宙風化を考慮すると Tagish Lake はそこでは D 型スペクトルを示さなくなるので、ちょっとその考えから離れたほうが良いのではとコメントしました。彼もそう思っていたようですが。

次の 4:00 からは、Joshua Bandfield 氏が赤外分光計の THEMIS でフォボスを測定した結果を紹介し、赤外領域では始原的物質のスペクトルを示していないという結論を出し、山本君の発表した宇宙風化した長石かもと言っていた人がいたがどう思うかという質問を誰かが したら、それはあり得ないだろうという答えでした。普通 IR 領域は宇宙風化では大きく変化しないので、もっともらしいかと思います。

次は東大の兵頭さんが、巨大衝突でフォボスとデイモスを作ったらどうなるかという計算で、前のセッションでもあったように、火星の物質が半分とかかなり混ざり、粒子サイズが 0.1 ミクロンから分布している可能性があるので、それなら吸収帯が消えて見えなくて問題ないはずだと言っていました。確かにそうでしょうが、暗くて赤化しているスペクトルを出すには宇宙風化が必要なので、粒子サイズだけではだめでしょう。とっても明るくなってしまいますし。

最後は、一緒に昼食にも行った菊池君で、フォボスの Stickney クレーターの周りの二つのより青い射出物の位置が非対称的である原因の説明をし、Stickney の年齢は 0.33 から 2.8 億年と推定していました。

JAXA の MMX ミッションに NASA も機器を載せると宣言したことを受け、今後このような研究がきっと進んでいくことでしょうね。

さて、今日は後ポスターセッションを残すのみです。また HEB に夕食を買いに行こうかな。
 

Vol, 24. 2018/03/23 AM 10:01 日本時間

午後のセッションの後、一昨日と同じようにスーパー HEB に夕食を買いに行くと、駐車場で環境研の山本君ら一行と会いました。それで、フォボス・デイモスのセッションでの THEMIS による赤外スペクトルで、長石はあり得ないと言っていたことを話してちょっと議論しました。実験室データで調べておいたらと助言しました。

中に入って、玄米寿司を探してどれにしようか考えているうちに、宇宙研の大竹真紀子さんらが同じように右の方から買いに来ていてあいさつしました。やっぱり日本人の好みは似通っているのかも。写真は一昨日のものですが、今日も似たようなものです。


 

今日はとっても天気が良くて暖かく、HEB への途中に公園のようなところがあり、日陰にベンチがあったので、すしはそこで食べてからポスター会場に向かいました。あと、今年から学会中にロビーで出るコーヒーがスタバではなくマリオットホテルのブランドになり、味は今一だと思いますが、豆乳が加わりました。

ポスターセッションでは、日系人の Mke Izawa が紫外光で炭素質コンドライトの反射スペクトルを測定していて、モデル計算も含め、興味深い結果を出していました。現在は岡山大学の研究所にいて、2021年までしばらくいるそうです。Ed Cloutis のところで訓練されたのか、なかなかの優れ者です.

そのあとポスターの間の通路のところで、ブラウン大の惑星地質で Jack Mustard について博士をとった火星鉱物学者である Bethany Ehlmann と出くわしたので、挨拶したら、面白い質問をしてきました。

RELAB で双方向反射スペクトルと FT-IR の反射スペクトルをどうつなげているのかということや、炭素質コンドライトがなぜあんなに暗いのかです。いろいろ詳細な内容があるのですが、丁寧に説明しました。Bethany は学生も多く取り、実験室で多くの機械を立ち上げているので、今後が楽しみです。

それと、書き忘れましたが、昼間にポスターを下見している間、Carle Pieters の指導で博士号をとった Deepak Dhinga が話しかけていて、今はインドの研究所で雇われることになったそうな。水酸基と水を 3 ミクロン帯でどう分けて定量するかという質問されたので、丁寧に私のポスターの結果も含めて説明しておきました。

それと、NIRS3 チーム(はやぶさ2)である仲内君が Driss Takir のところで炭素質コンドライトから吸着水を飛ばして測定した 3 ミクロン帯の結果のポスターを見に行って議論していると、Driss が通りかかったので、皆で、なぜ 2.95 ミクロンあたりの吸収が消えないのか議論しました。この夏のリュウグウの観測に向けて非常に重要な点です。

多くの関心のあるポスターは既に下見もしていたので、あまり多くのポスターを見ることはできませんでしたが、いろんな人を捕まえて話せる時間でもあり、まあまあ充実した時間を過ごしています。そこそこ疲れてきたので、こうして椅子に座って速報を書いて、あと適当に見回ってからシャトルで帰ろうかと思います。
 

Vol, 25. 2018/03/23 AM 11:26 日本時間

あれからまた仲内君のポスターに戻って色々話していると、ブラウン大で博士号を取ったばかりの Hannah が来たので、写真にあるように炭素質コンドライトから吸着水をとる前と取った後とで吸収強度と H の量との関係がどう変わるかという話に花が咲きました。Hannah は博士論文で有機物をリモセンで定量する研究を初めてして、OSIRIS-REx 関係でポスドクが決まっているので、競争相手でもありますが、お互い科学のレベルの高めあいをできたらいいですね。どうせ NIRS3 では直接有機物は測定できませんし。

そして、宇宙研の岩田さんや大竹さんも聞きに来ていましたね。

そうしたら、小惑星仲間の Tom Burbine もやってきたので、彼のポスターの、近地球の V 型小惑星をどう定量するかという話をしていて、そのあとどういうきっかけだったか、荒井さんと一緒に写真撮りましょうということになりました。


 

ONC の PI である東大の杉田君も一所懸命ポスターで説明をしていました。

既に 8:30 になっていたので、ポスターセッションは21時までですが、急いでシャトルバスを捕まえてホテル Super 8 に戻ってきました。明日はチェックアウトして帰る日なので忙しいですし。
 

Vol, 26. 2018/03/23 PM 23:30 日本時間

金曜日の今日は LPSC の最終日で、午前中だけです。私はお昼頃に Super Shuttle で空港に向かう必要があるので、荷物を引きずっての参加です。

今朝も阪大の金丸君と一緒だったので、学振に通れば毎年来れるような研究費をもらえるよねというような話をしました。昨年と今年二年連続参加なので、その記録を続けていけるような。

最初の 8:30 からのGal Sarid 氏は、小さな小惑星の内部でも水氷が存在しうるという計算結果を示していました。細かいレゴリスがあれば確かに熱遮蔽効果があるのですが、Bennu や Ryugu で本当にそうかどうかわかると楽しみです。

次の Maximilian Hamm 氏は、Delbo ら(2014)とかが提唱してきた熱疲労による小惑星表面の岩石の破壊を研究し、その効果は太陽直下と極域の中間くらいで最大で、自転軸の傾きや軌道扁平率が高いと季節効果が大きいので変わってくるとか。いったん岩石が割れてくると、熱歓声が下がるので、熱疲労効果は一層加速されていくので、そのような Runaway 効果でどんどんレゴリスができていくようです。

Bennu は自転軸が割と立っていますが、Ryubu は傾きが大きそうで、軌道扁平率も大きいので、南半球により細かい粒子が大きいのではと予言していました。はやぶさ2が本当にそういうものを発見できれば面白いですね。

次の Dove さんは、微重力下でのレゴリス粒子の分布を、無重力飛行機(Hermes)のなかで色で区別したいろんな粒度のビーズの層に振動を加えたりして混合変化を見ていました。ちょっと結論はまだはっきりしませんが。

次は、J.-B. Vincent 氏で、彗星の表面が氷の揮発とかで表面地形がマクロ及びミクロにどう変化するかの研究でした。
 

Vol, 27. 2018/03/24 AM 00:31 日本時間

セッション会場に戻ってからは Rosetta による彗星 67P チュリモフーゲラシメンコの測定結果の発表を二つ聞きました。

A. Bardyn さんは、COSIMA という二次イオン質量分析計で有機物の量などを見積もった発表でした。元素の量しか分からないところから有機物の量を見積もるのは難しいと思うのですが、C, H, N と一部の O を組み合わせて、有機物が 45 % で鉱物が 55 % と見積もっていました。

有機物 45 % ってちょっと多すぎないかと思いますが、案の定、測定や校正にいろんな質問や問題指摘がありました。細かい粒子だけ見ていることもあるでしょうが、やはり多いような。

次は J. A. Paquette 氏が同じく COSIMA による重水素の相対量(D/H)の測定結果の話でした。その結果、誤差を考慮しても二種類の D/H 値を持つ物質が見つかったということでした。それに対し、太陽からの距離とか時間変化とかではないのかという質問が出ていましたが、そうではないという返答でした。

とにかく、地球の水の平均 D/H 値に比べこの彗星は 3 倍くらい大きいので、やはり炭素質コンドライトのように地球の値を含むあたりに分布している物質から地球の水が来たのではないでしょうか。

この時点で、お昼ご飯とかも買っておかないといけないので、セッションへの参加は終わりになるかと思います。

途中の休憩で、ロビーにいた Cyrene Goodrich と話すことができて、ユレイライトのレーザー風化実験での私の質問のこと、特に粒度依存性のことを説明することができました。これまで Almahata Sitta 隕石とかで共同研究してきましたが、面と向かって話せたのは今回初めてで、よかったです。
 

Vol, 28. 2018/03/24 AM 11:35 日本時間

お昼はまた Which Wich で買い、Super Shuttle が時間より早く来たので、12 時前にホテルを出て空港に向かい、無事にまだ肌寒いボストンの自宅に戻りました。

最後のお昼前には、写真のようにまた杉田君が ONC コアチームと打ち合わせしていました。なぜ NIRS3 チームや統合科学チームはやらないのでしょうかね。


 

とにかく、はやぶさ2の盛り上がりもあり、今回はその期待とともに、水面下で緊迫感が漂う LPSC でした。その一方、いまだに私のアイディアや貢献を無視して共著にも入れずに発表や論文を出す人たちがいます。私としては論文を増やすよりも、真理の探究、そして日本の探査ミッションへの貢献を最優先します。時間は逆戻りしませんから、時の時にやるべきことをやっておかないと、だれが何と言おうと歴史の真実は変えようがなく、いつか人々の知るところとなります。

来年は、はやぶさ2と OSIRIS-REx の結果で大きく盛り上がる LPSC となるでしょう。はやぶさ初号機のイトカワへのランデヴー後の2006年の LPSC では口頭発表を取れなかったので、2019年の LPSC では何とか頑張りたいものです。

ホテルも、Super 8 ではなかなか時間の融通が利かないので、高めでももっと近めのホテルを考慮すべきかもしれません。
 

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