2017 48th Session Report

LPSC 2017 - March 21 - 25
Vol, 01 ~ Vol, 15
 

Vol, 01. 2017/03/21 AM 00:55 日本時間

昨晩の日曜日のレセプションでは、日本から来ている研究者達、特に若い博物館の新原君、千葉工大の岡本君、そして阪大の金丸君と楽しく過ごしましたが、ちょっと食べ過ぎてホテルで体重を気にしながら休みました。
 

画像 : 千葉工大の岡本さん(左)と筆者。
 

さて今日は月曜日で、LPSC 初日です。基本的に午前も午後も Ceres(ケレス)のセッションを聴くのが多いかと思いますが、長丁場は疲れるので何度も休むかと思います。

8:30からの Montgomery Ballroom では、Dawn 探査機によってわかって来たケレスの形状・組成・進化のセッションです。

最初は Raymond 氏によるクレーターの解析によって大規模な非均一性を見出す研究の発表でした。クレーターの大きさが 300 ㎞ と 800 ㎞ の間のものは形状が緩和してしまっているので、その間には液体とかの柔らかい層があるのではという推定でした。

8:45からは座長の一人の Buczkowski 氏で、底にひびが入ったクレーターをタイプ別に分類して分布を調べた研究でした。ちょっと今日の予定づくりで注意不足で、結論がよくわかりませんでした。ごめんなさい。

9:00からは Thangjam 氏で、明るい物質と暗い物質の Framing Camera(FC)による可視スペクトルの時間変化を調べたもので、明るいものは青くて時間と共に暗く赤くなり、暗いものは赤くて時間と共に明るく青くなって、両方合わせてケレスの平均スペクトルになるという自然な結果でした。明るくて青い氷の多いところと、暗くて赤い有機物とかの多いところが、宇宙風化とかで変化してそうなるのではと思いました。

9:15からはもう一人の座長の Palomba 氏が、Visual-Infrared Spectrometer(VIR)スペクトルで測定された 3-4 ミクロンの有機物吸収を示す物質の研究で、ロゼッタ探査機が調べたチュリモフ・ゲラシメンコ彗星とは大きく違う吸収帯の形で、隕石中の不溶性有機物とかと比較していました。可視領域で赤いスペクトル傾斜を示すのが有機物のせいだというのは明らかなようです。それが外来のものか内部で出来たものかを議論していて、外来より内来がもっともらしいという感じでした。

次は同じテーマで Carle Pieters が話して、赤い有機物に富む物質(Red Organic-Rich)ROR の分布を詳しく調べ、Ernutet クレーターのなかの、小さいクレーターで掘り起こされたところに ROR が多くあり、それが楕円形に伸びた領域に分布しているという事で、斜め衝突で外から来たものが起源であるようなニュアンスでしたが、決定的証拠はないという感じでした。有機物はとにかく宇宙風化で簡単に変化してしまうので、新鮮なクレータの内部や掘り起こされた物質を見ないといけないのは明らかな気がしますが、それだけでは、外来性かどうかは分からないのかもしれません。Ernutet クレーターだけしかそれほど有機物に富むところが本当にないのか、全球の分布をもっと詳しく調べる必要があるような。

そこの後は、隣の巨大衝突のセッションで Mobidelli と Bottke が話すので、そちらに浮気して行ってきました。

9:45からの Morbidelli の話には途中からしか行けませんでしたが、超満員で、非常に親鉄な元素である硫黄を調べて月のマグマオーシャンが後期重爆撃説で説明できるかを調べていたように思います。Elkins が言っているように、重爆撃期が過ぎても、月の場合は地球からの潮汐力で地殻変動のエネルギーが長く続いて行くのだという事を考慮すればよいのだという事らしいです。

そして10時からは Bill Bottke で、WISE 衛星の小惑星サーベイの結果から、内側・中心・外側の小惑星の三つのグループにおけるサイズ分布を出し、その奇妙な傾きの変化をモデルで再現できて、小惑星が火星に衝突したら、その大きさの 24 倍のクレーターができると考えると、火星のクレーター分布とぴったり合うという事でした。ところが、月の裏側の一番古い場所のクレー分布を調べると、火星のように主ベルト帯小惑星のサイズ分布と会わないので、月の場合は、太陽系初期の衝突体の分布を保存していて、火星は Borealis クレータの衝突で初期化されたので、その後の重爆撃期のサイズ分布しかないから今の小惑星帯の分布とあっているのではという考えでした。何人か反論が出ていましたが。

ということで、ちょっと休んで、ひょっとしたら火星セッションを覗いてくるかもしれません。
 

Vol, 02. 2017/03/21 AM 06:06 日本時間

午前中の残りは早めに貼ってある火曜日用のポスターを眺めて、明日に備え、ホテルからちょっと食べ物を持ってきていたので、ロビーや準備中の会場でゆっくりお昼を過ごしました。

午後の最初は 1:30 から色々な賞の授賞式とマサースキー講演でした。
いつも問題になっていた Geological Society of America(GSA)の Dwornik 賞ですが、ちょっと前から、米国市民でなくてもアメリカで学んでいる学生も応募できるようになりました。口頭講演とポスターで一人ずつの受賞者と、名誉考慮賞のようなものがあり、それら四人のうち一人はブラウン大の学生でした。一時期はブラウン大がかなり総なめしていましたが、最近は競争が激しいですね。

でも、旅費を出してくれる Career Award の方は、十数人のうちの三人ブラウン大から受かっていました。この賞は外国からの学生も応募できるようですが、日本人は受かっていなかったですね。もっと頑張って応募したらいいですが。
 

マサースキー講演は、MIT で測地学をやっている David Smith で、月・火星・彗星・小惑星とかのレーザー高度計で如何に地形が調べられてきたか、普通の光学観測ではわからない陰や夜の部分が如何に分かるかとかいう話題です。月や火星の地形を LOLA や MOLA といった衛星データで Digital Elevation Model(DEM)を作った話や、かぐやミッションの Terrain Camera の 10 m 解像度のステレオカメラと組み合わせて、現在最高の測地データができたという話をしていました。時間がなくてまとまりが今いちでしたが、私には新鮮な内容でした。

2:30 からは午後の普通のセッションが始まって、基本的に午前中の続きのような Dawn 探査機で分かったケレスの話から始まるセッションでした。

まず、Tom McCord が Dawn で分かったケレスの現在の知識から、氷はおそらく全体の 25% 程度と仮定して、熱モデルの話をし、極域に氷があったり、大きなクレーターが緩和してなくなっていることから、完全には分化していない天体であると結論していました。「完全には分化していない」ってどういう意味かという質問が出ていましたが、それは私も同感でした。氷が多かったり、熱源が足りなかったら、金属核と火成岩を持つ天体になれないわけですが、そういう意味の返答をしていました。

あと、残る疑問として、現在も活動がある兆しは本当かとか、どうして上部地殻がそんなに固くなっているのか、とかをあげていました。

次は Combe 氏による、表面に露出した水氷の分布の研究で、VIR の吸収帯で水の氷と同定した場所を調べ、Oxo クレーター等の例を出しながら、緯度が 30 度より高いところに多く、永久陰や明るい物質の流れたところや新鮮なクレーターと関連があるという結果でした。そしてガンマ線センサーの GRaND で検出したより深いところからの水素分布と整合性があるので、地下から水氷が上がってきて出来た過渡的な水氷だろうという事でした。まあ通る話だと思います。

3:00 からは Landis 氏による水氷がどこから来たかというモデル計算の話で、表面のレゴリスの粒径まで推定しいてしていましたが、0.1-1 ミクロンという数値がいったいレゴリスの大きさなのか氷のなのかちょっと注意していませんでした。

次は Villareal 氏が過渡的な外気圏の検出の話をしていて、太陽の高エネルギー陽子の検出と相関関係があるという話でしたが、だんだんちょっと疲れてきて、またまた注意力が散漫になってしまいました。昨日コーヒーを飲み過ぎて睡眠不足もたたったかもです。。。

今日は、夕方に NASA HQ からのブリーフィングがあるので、体力を貯めておかないといけないですが、ポスターの下見ももっとしたい気分です。
 

Vol, 03. 2017/03/21 AM 08:46 日本時間

セッションが全て終わったあと、5時半から NASA HQ のブリーフィングがありました。

おそらく 500 人とか入った二会場合同の場所で、NASA の惑星科学部門の所長の Jim Green 氏が近況の報告をしました。大統領による2018年度の予算はちょっと減ったものの、軍事分野の増加のために科学技術分野が全体としてかなり削られた割には、ほとんど変わらずうまく行っているという言葉から始まりました。

そして、高レベルの評価機関からも、New Horizons の冥王星フライバイミッションとかは大きく評価され、MU69 というカイパーベルト天体に2019年の1月1日に到着する延長が認可されたようです。

はやぶさ2と競合・協力している OSIRIS-REx ミッションは今地球と太陽の間のラグランジュ点にいて、地球のトロヤ群小惑星を探したはずだがまだ報告がないとか、2020年には国際的に火星ミッションとかすごいことになっているとか、小さい衛星によるミッションの機会がこれから有望であるとかの話が出ました。

そして、私は知らなかったのですが、JAXA が2024年とかに打ち上げ予定のフォボス試料回収ミッション(MMX)に中性子解析機器とかを載せて協力するそうです。

次に登場したのは、Ben Bussy で、有人飛行ミッションとの協力の話で、韓国の月ミッション KPLO との協力の話もついでなのか出てきました。その後で質問の時間がありましたが、私はまあいつもの内容と思って出てきました。

この後、ポスター会場で、展示物開始のレセプションがあるはずですが、日本からの人たちはすでにホテルや夕食に行ってしまった人たちが多いようですね。
 

画像の説明はありません。
 

Vol, 04. 2017/03/22 AM 00:55 日本時間

さて今日は第二日ですが、昨晩はホテルでお湯が熱くなかったり、間違ってカフェイン入りのコーヒーを夜飲んだりしたので、今朝は五時には目が覚めて困りました。

いつもの様に Super 8 ホテルから金丸君と一緒にシャトルバスで 30 分かかって会場に行きました。どうも今日は人が少ない感じですが、日本から NASA ジョンソン宇宙センターに行ってしまったグループとか、夜はポスターが9時まであるので、ちょっと休んでいる人たちもいるかもしれません。昨日と同じく、宇宙研の教授をされていた加藤先生も同じシャトルバスでした。

最初は火星のセッションに行きました。

8:30 から最初に話したのは、臼井さんで、火星で隕石衝突が多かった Noachian 期の水の同位体比 D/H を、火星隕石 ALH84001 中の炭酸塩の炭素同位体比から推定して、それが現在よりずっと低くて、地球の値に近かったという結果でした。モデルの詳細が理解できなかったのですが、とにかく現在までに、それが5倍とかになった原因が焦点かと思いますが、ブラウン大の Jim Head を含む二人から鋭い質問を受けてました。なかなか英語もうまくすごい発表者だなあと思いました。

次はブラウン大出身の Janice Bishop が、火星の大気モデルでは液体の水を作るだけの加熱ができない問題を考え、短期間でも 20-50 度C 程度の高温を維持すれば生成できる含水鉱物の話をしていたように思います。とにかく含水鉱物は種類も多く、私がまだ十分に明るくないので、話についていくだけで大変です。ちょっとまとまりに欠ける話でしたし...

ここで、Montogomery Ballroom に移って、水星のセッションを聞きました。

9:00 からの Burch 氏の発表の途中に入りましたが、67P/CG(チュリモフ・ゲラシメンコ)彗星が比較的表面地形から見て新鮮な彗星であるという話をモデルで説明していて、若さの順に三段階の彗星の例を挙げていました。

9:15 からは Katherine Johnson 氏で、同じく 67P 彗星の OH 基による 2.7 ミクロン吸収を抽出してその場所を突き止めるという話でしたが、二重のピークがあるものもあり、その処理の結果他の波長領域が非常にノイズが多いものになるので、私は誤差評価について質問しました。特に考慮していなかったようですが。しかし、座長やその場の聴衆には受けていたようです。

次は Ciarlet 氏が 67P の核の構造をレーダー検出器の CONSERT データから調べたもので、二つのチャネルで調べ、特徴的な距離を 0.5-5 メートルとし、平均誘電率を 1.27 と仮定し、フラクタルと球体の集合の二つのモデルで解析した結果、特に非均一性は見つからなかったようです。

次に 9:45 から、Ivanovski 氏が 67P の塵のコマを GIADA というダスト測定器のデータで解析した結果の発表でした。ROSINA という機器のガス観測のデータも使ったようですが、粒径や形状が結論としてどうなったのか今一理解できませんでした。

私が聞いた最後の発表は、Brian Keeney 氏で、67P の遠紫外(FUV)領域の分光観測(70-210 nm)から CO2、O2、CO、H2CO とかいろんな分子を検出した話でした。彗星の O2 を直接検出したのは初めてだそうです。そして、O2/H2O 比が ROSINA による質量分析からの値よりも大きな 10-60% になったのが不思議だという結論でした。時間が余ったので、いろんな示唆が出ていました。

ロビーでふと、昨日は気づかなかった、Hayabusa 2017 シンポのビラを見つけ、昨日岡田さんが話していたのは11月でも下旬とかでしたが、そこには12月の最初の週になっていました(TBD)ですが、私は11月1-15日の帰国にしてしまったので、手遅れでした。もっと早く教えてくれたらよかったのにと思いますが。。。

この後はまた彗星のセッションに出てから、お昼はポスターのところで名大の加藤君と待ち合わせて月の分光解析のポスターの質問をする予定です。
 

Vol, 05. 2017/03/22 AM 03:08 日本時間

前回の速報を書いてから、トイレに行こうとしていると、東大で後輩の小松睦美さん(TPSJ アドバイザーカウンシルに参加くださってます)から声をかけられて、お話があるから後で時間とってくださいという事だったので、午後の3時前か、ポスターセッションの前ならいいですよと答えて、私は彗星のセッションに戻りました。

会場に入ると、11時からの Zambrano-Marin 氏の発表の途中で、レーダー観測によるアルベドの値などから、彗星の近表面特性、つまり密度や空隙率がわかるという話をしていました。そして組成にも依存するという事ですね。

11:15 からは、DiSanti 氏が、iSHELL という機器をハワイのマウナケア山の IRTF という赤外望遠鏡施設につけて、1.1-5.3 ミクロンの波長帯で画像とスペクトルも撮れるという話でした。3.3-3.6 ミクロンの有機物吸収帯や、2.9-3.0 ミクロンの回転スペクトル領域をカバーしているようです。45P 彗星のデータの例の結果は、木星族彗星(JFC)の中では平均的とはいえ、CO は少なくて、CH4 が多いのが不思議だという事でした。どちらも揮発性なので、揮発による影響ではないはずだという事です。

最後は、Lisse 氏がユニークな発表をしていて、恒星の周りのダストリングの観測です。Near-IR Disk Survey(NIRDS)という近赤外ダスト調査というのがあり、0.8-5 ミクロンの波長帯で、カイパーベルトのようなものを見つける試みです。普通は低温のダストリングが 10-20 ミクロンといった長波長からその熱輻射を立ち上げてくるのですが、HR4796A という系では、短波長の 2 ミクロン辺りから何か出ているので、中心星に近い高温のダストがあり、ガスもあるが、反射スペクトルが 5 ミクロン辺りまで上がりきった赤いものなので、水氷はないという結果らしいです。

その後、ロビーで、京大の土山さんと東北大の中村智樹君が話していたので、了解を取って写真を撮らせてもらいました。二人ともちゃんと仕事してますよ:)
 

画像:京都大学土山明氏(左)と東北大学中村智樹氏。
 

12時からは45分くらい、名大の加藤君のポスターのところで、彼が二村君のモデルを使って、かぐや SP データから月のマグマの分布を調べている研究に対していろいろ質問させてもらいました。いい研究してるのは、指導教官の諸田君が優秀なこともあるのかもしれませんね。
 

Vol, 06. 2017/03/22 AM 07:25 日本時間

さて、午後はこの速報を書いてる時に岡本君にあったので、座長として写真撮ってあげようかという話をして、Montgomery Ballroom で 1:30 からセッションが始まる前に、Jay Melosh 氏と座長席に座ってもらって写真を撮らせてもらいました。
 

画像:Jay Melosh 氏(左)と岡本君。
 

それで、お昼の前に約束したように早大の小松さんを探して、ポスターセッション会場に行くと、お昼にロビーで見たように荒井朋子さんや Tom Burbine と一緒にいたので、奥のテーブルで打ち合わせをしました。

やはり炭素質コンドライトの分光測定でいろいろ困難があり、私としてもアドバイスをしながら自分の責任をいろいろ感じることが多々あります。中村智樹君や他の学生たちが今は探査を念頭にした隕石の研究をしてはいるものの、まだまだアメリカのレベルではないし、資金面も苦しいです。優秀な学生をとれるような場所で施設も整えて誰かが教育しないといけないです。

その後は、予定していた通り、3時から月のセッションに行きました。宇宙風化の発表が始まるのでこのように後半から出ることにしました。

最初は Josh Cahill 氏が Lyman Alpha Mapping Project(LAMP)で遠紫外 58-197 nm のスペクトルを Reiner Gamma や South Pole Aitken の南のスワールとかで測定した研究でした。UV では宇宙風化でスペクトルが青く明るくなるのは良く知られている通りですが、今回何が新しかったのか、ちょっとポイントをミスってしまいました。

次の発表はキャンセルで、3:30 からは Wu 氏が Chang'E3 のローバーの VNIS 分光計の成果を発表していました。他のミッションと違い、白い標準板を持っているのはすごいですが、結果の解釈がちょっとおかしいようで、私がコメントしましたが、わかってもらえたかどうか。中国の国威掲揚のためだけにならないといいですが。

3:45 からは Kaluna 氏が実験で作った宇宙風化と自然のものとの比較を発表していました。カンラン石、月の高地模擬物質、そしてアポロ16号試料を用いて、宇宙風化の速度を正確に見積もろうという試みだったと思いますが、YAG レーザーを 40 分当てた結果のアルベドやスペクトルの傾き、そして主成分解析(PCA)の結果の解釈がいまいちよくポイントがつかめませんでした。

4:00 からは Burgess 氏が、月のイルメナイト(チタン鉄鉱)中の He 埋め込み量の研究でした。収差を補正した STEM という電子顕微鏡で調べたもので、アポロ17号試料 71501 のイルメナイトには小胞や血管ができていて、結晶面 001 にそって何かできているという事でした。クロム鉄鉱でも非晶質部分ができているが、小胞はできていないという結果でした。

4:15 からは宇宙風化を何十年もやっている NASA JSC の Roy Christofersen 氏で、微小隕石衝突を実際に再現すべく、3MV 静電ダスト加速器を使って、0.1-10 ミクロンの金属球をカンラン石に当てて実験していました。速度は普通の銃は秒速 6 ㎞ が限界ですが、これはもっと出るそうです。昨年、Sarah Noble がカンラン石にミクロクレーターを作ってナノ微小鉄を見つけましたが、今回は見つからず、私は鉄の玉からの蒸気が混ざったからではないかと思って質問しましたが、誰もまだわからないようです。

最後は Laura Corley 氏の発表で、Kaluna 氏と同様に、力学的衝突とレーザーによる模擬衝突の比較でした。最初に、佐々木晶さんの学生だった山田さんの論文(Yamada et al. 1999)をちゃんと最初に紹介してくれて、晶さんの2001年の Nature 論文も紹介し、なかなかバイアスのかからない気持ち良いスタートでした。NASA Ames Vertical Gun Range(AVGR)を使って Pyrex の小球を当てた実験と、山田さんと同じレーザー実験との比較ですが、やはりエネルギーが小さいこともあり、衝突では反射スペクトルの赤化は起こりませんでした。月のような Agglutinate ガラスはできたのは良かったですが。

近くにいた環境研の山本君と感想を分かち合いながら最後出て来ました。さて、今日は最後6時から9時までポスターセッションです。
 

Vol, 07. 2017/03/22 AM 09:51 日本時間

お昼は、隣の Which Wich で Superfood とか名付けられた強力な菜食ラップを食べて、6時過ぎにポスター会場に行きました。

阪大の金丸君のところには早速、平田・松本氏といった、はやぶさ2関係の日本人研究者たちが来ていましたが、近くのポスターのインド人の研究者など、割と賑わっていました。

また、ミッションのコーナーでは、吉川先生が矢野さんと真剣そうに話していたので、水を差して写真を撮らせてもらいました。どちらも速報に送るのを了解済みです。
 

画像:ポスター会場で真剣そうに話されていたという矢野創さん(左)と吉川真さん。TPSJ の将来でも語り合ってくださっていたのでしょうか。。。
 

私は、やはり小惑星の分光に興味があるので、宇宙風化の温度依存性を研究している先ほどの口頭セッションでも発表したハワイ大の女の子や、赤外の Christiansen Feature(CF)の宇宙風化による影響を調べているポスターに行って話をしました。

あとは、ブラウン大の仲間で 3 ミクロン帯の有機物の研究をしている Hannah のポスターや、修正ガウス関数(MGM)の粒子サイズ依存性を研究している女の子と話しました。この子は、Jessica Sunshine の1990年の論文の結論を逆に思っていたようです。昔、今は会津大の北里君が学部生の時にしたと同じ間違いだったと思います。

また、初期の小惑星観測で有名な Lucy McFadden や、ブラウン大卒業生の Bethany Ehlmann などと会って、本当に同窓会のようです。

ただそうしているうちに、テネシー大の学生に資料を手渡す約束を忘れてしまい、電話で明日の隕石母天体のセッションに約束を取り直しました。うっかりした失敗でした。とにかく LPSC は忙しくて、いつも帰った後に大きな脱力感があります。

そんなわけで、ポスターは一通り注目のものは見たり議論してきたので、ちょっとロビーで休んでいます。これで第二日目のご報告は終わりと思います。
 

Vol, 08. 2017/03/23 AM 03:48 日本時間

さて、水曜日の今日は LPSC 第3日です。

昨日はポスターセッションがあったので、皆疲れて帰ったと思いますが、私も寝不足ながら、今朝の隕石母天体のセッションが8時半からあるので見逃せません。

今日はずっとそのセッションにいたので、ガンガン聞いた冷房のおかげで寒気がしてきたくらいです。あと、昨日ポスターセッションで試料を渡し損ねた Mike Lucas とも個々のセッションで会うことにしてあるので、いないといけません。

このセッションは分化した隕石の母天体がテーマなので、基本的にコンドライト隕石の話は出ませんが、材料物質としての炭素質コンドライトや、大きなスケールの話として一部ではそれも出てきます。

セッションの座長はスミソニアンの Tim McCoy とカナダのアルベルタ大学の Ed Cloutis です。隕石と分光の専門家たちという感じですね。

まず最初に 8:30 から、Kiefer 氏によって、隕石母天体で如何に分化過程を起こすか、つまり、鉄を沈ませてコアを作り、上部にケイ酸塩のマントルや近くを作るかという話でした。520 ㎞ の小惑星ベスタの例での話ですが、そこから来たと考えられる HED 隕石中の金属鉄の大きさを考えると、50 ミクロン以下とかの小さな鉄粒なので、それにストークスの法則を適用して、移動速度は年間数ミクロンとかでほとんど動かないという話でした。それと、融点が低い鉄が先に溶けて液体になるので、重たいために下に沈んでしまい、1500 度C とかになってやっと溶融したケイ酸塩と硫化金属の層が上に出来て、熱源になる 26Al がケイ酸塩から出てきて液相にはいり、そのマグマ大洋のなかで金属粒が成長しながら雨のように沈降していくというシナリオです。それが、適度に親鉄な元素がユークライトにある事実に整合的と言っていました。

次は Marc Hesse 氏による、Percolation(浸出?)の時間スケールの発表で、金属鉄が溶けてからケイ酸塩とかの隙間をどう沈降していけるかという話でした。NWA 2993 というロドラナイト隕石の例を出し、傾斜角が 15 度くらいで落ち始め、半径が 50 km の母天体の場合、500 万年くらいで金属核ができるという結論でした。まあそれにはいろんな過程が含まれているし、聴衆からも鋭い指摘もありました。

9:00 からは座長の一人である Tim McCoy が、South Byon、ILD 83500、Babb's Mill といった三つのパラサイトと、Milton というパラサイトとの関係を調べ、これは外から内側に向かって結晶成長した新しいタイプの母天体の核形成を示唆しているのではという発表をしました。パラサイトというのは、石鉄で、金属鉄と主にカンラン石と少量の輝石を持つ隕石ですが、100 ミクロンという小さなクロム鉄鉱中の酸素同位体 17 の余剰値が -3.6 から 3.7 ということで異常であることと、IVB というグループの鉄隕石と関連があり、71% の鉄を参加させる必要があることから、内部からの結晶化では難しいという論理だったと思います。私は素人なので、確かな詳細はアブストラクトを読まれることをお勧めします。

9:15 からは Boesenberg 氏で、Zinder というパラサイトは輝石を含み、Ir 量が多く、Ni-Ge のグラフで他のパラサイトと違い、IIIF 鉄隕石と関係があり、結論として、この隕石は初めてのマントル試料であり、McCoy 氏と同様に下向きに結晶化したのではという発表でした。

9:30 からは Nicole Lunning 氏で、CV 炭素質コンドライトである Allende を IW+1 というやや酸化的環境で溶融させ、天体の大きさや深さの違いに応じて圧力を三種類に変えた時にどのような生成物ができるかを調べていました。結果として、高圧にしていくと、カンラン石が Mg に富むようになり、クロム鉄鉱やスピネルが Al に富むようになるそうです。

9:45 からは Santos 氏が NWA 8535 というアングライト隕石の話をしました。アングライトは東大の三河内君も長く研究している隕石種で、45 億年という古い年代と、IW+1 から 2 という酸化的な生成環境で、衝撃を受けておらず、アルカリ元素とかが乏しく、SiO2 も低いという隕石です。この NWA 8535 はアングライトとしては初めて見つかったカンラン岩で、揮発性物質や衝撃などの動的過程があったような兆しがあると言っていました。

さて、10:00 になり、Zoe(ウムラウト付きの e) Hodges 氏による、酸素同位体 17 が異常な Ibitira や PCA 82502 などの隕石の起源の話でした。そこでは、Vesta の表面に混ざってくるコンドライトとかが入っていないと考えられる HED 隕石 EET 87503 を用いて Fe/Mn の値の違いが有意であるかどうかを調べ、それが有意だと結論し、ひょっとしたら母天体の非均一性を表しているのかと言っていました。私は、単にベスタ以外の母天体で出来たと考えればいいのではと思いましたが。。。

10:15 からは Adam Sarafian 氏が地球の水の起源の話をしました。よく知られているように、重水素 D と普通の水素の比である D/H は炭素質コンドライトが一番地球の水に近いわけですが、太陽系星雲や水星の水素を混ぜればできるのではという推測もできるという推測に対し、D/H 比と 15N/14N のそのような混合は、微量にとどめないと大きくずれるというような話でした。そして、ベスタにおける水の量とかを見積もっていました。

10:30 からは Shannon Boyle 氏が、NWA 10657 と DaG 999 といった隕石中の Ca に富む斜長石岩相を 115 調べ、それらが未分類のユークライトである NWA 7325 のに似ているとか、酸素同位体のことも含め、新しい母天体を示唆していました。

10:45 からは、Cyrena Goodrich が、私も協力している Almahata Sitta 隕石の新しい 65 の試料の研究発表をしました。特に #202 という石は未分類 C2 コンドライトで、酸素同位体は CR の範囲で CM に近い値で、CI や CK とは明らかに違うこと、そして #91A という石は C1-C2 の角礫岩で、CI に似ているが、ユレイライト的な岩相も見つかったこと、そして #38 という石は異常な鉄に乏しい輝石(エンスタタイト)の隕石であるという発表でした。

11:00 になり、Max Collinet 氏が、ユレイライト母天体の発表をしました。ユレイライトは始原的隕石でないけれども炭素を含み、IW-3 までの還元的環境と 1150-1200 度C 程度の温度で生成されたという過去の研究があり、今夏の発表は、CM コンドライトを溶かしてユレイライトの生成を再現してみようという試みでした。できた輝石中の Ca 量(Wo 値)が足りない傾向があり、Mg や Si を増やしてやったりして合うようになるという発表でした。結論としては、炭素質コンドライトで最も多い CM よりも CaO が多く Al2O3 が少ない原料物質が必要という事でしたが、聴衆からいろいろ突っ込まれていました。

11:15 からは、Brendt Hyde 氏が、NWA 7680 および 6962 という二つの隕石が、アカプロコアイトやロドラナイトよりもカンラン石中のCa量が多く異常な原始的エコンドライトであり、熱変成をした炭素質コンドライトに関係あるかもという発表をしました。炭素質コンドライト母天体の内部とか、酸化鉄が多いブラチナイト母天体から来たかもというこの結論に対し、木多紀子さん他の専門家たちからかなり批判を受けていました。

11:30 になり、総研大の Yasutake 氏が Y 983119 という異常なロドラナイトの発表をしました。この種の隕石としては初めて輝石がカンラン石よりも多い隕石で、ロドラナイト母天体で堆積岩としてできたのではと言っていましたが、Tim McCoy からはそれにしては鉄が多すぎるという指摘がありました。

最後は 11:45 から、Richard Greenwood 氏の発表で、隕石の母天体はいくつあるのかという大きなテーマでした。過去に Tom Burbine が 100 個くらいとか、Hutchison が 120 こくらいという発表をしていましたが、それらをより極めて、130 個くらいという結論でした。ただ、同じ組成の母天体が多くあってもいいので、聴衆からも多くの意見が出ていました。

このセッションは時間どおりきっちり進んで素晴らしかったです。その後、Mike Lucas に無事試料を返し、今後の研究の話をし、東北大の中村智樹君のところの学生胆たちもいたので、ちょっと会話し、この速報を書いてるうちに何と 1:45 になってしまいました。もう今日は疲れてたので、ボーとして居ようかなあ:)
 

画像:Tim McCoy 氏座長による隕石母天体のセッションのプログラム。
 

Vol, 09. 2017/03/23 AM 09:47 日本時間

午前中頑張りすぎて、そして速報を書き終えたらすでに PM 2時近かったので、ロビーでコーヒーを調達していると、東大鉱物武田研の後輩たち、三河内君・荒井さん・小松さんと、木多紀子さんが集まっていろんな会話をしていたので、そこに仲間入りしてしまいました。
 

画像:コーヒーブレイク中の千葉工大荒井朋子さんたち。
 

先ほどのセッションでは三河内君が何十年もやっているアングライトの話が出たから速報に名前を出しておいたよと言っておきました。何しろ隕石の数が少ないので研究がなかなか進まないのはしょうがないですね。

それと、木多さんがコメントしていた CM コンドライトの加熱実験の話にも言及し、まあいろいろ説明はできるけれども、母天体の組成と数と場所などの定量的な知識から系統的なストーリーができるべきだという事を私は話しました。もちろん、私がやれるというわけではないですが。

コンドリュールとコンドライト母天体がどこでどのようにできたのか、そして今どこにあるのか、そういうことが最近の Nice model や Grand Tac 理論のような大きなスケールの太陽系星雲から現在までの歴史の流れの中で位置づけられないといけないですね。

その後、いろんな会場のプログラムを見ましたが、特にどうしても聞くべき口頭発表が見当たらなかったので、明日のポスターで既に貼ってあるものを観に行こうと思いました。

その前に、プログラムで見当をつけておかないとあまりに広い会場なので、奥の丸テーブルに座ってノートパソコンで PDF ファイルをスキャンして 25 個程度を選びました。そしたら、同じテーブルに吉川先生が居られたので、MMX が知らないところでどんどん話が進んでしまっているようだけどという会話をしました。岩田さんのポスターを見ても、NIRS3 の次に当たるような近赤外分光器は ESA の Omega を載せるようですし、うーん、日本は国産技術で分光器くらいは開発して欲しいのになあ、と落胆するような気持でした。

明日のポスターは小惑星探査に関するものも多くあり、非常に楽しみです。またきつい一日になるとは思いますが。。。

今日は本当は Hidden Figures という NASA の宇宙開発で陰で活躍した女性たちの話の映画に先着 150 名とかが招待される催しがあるのですが、足がないのであきらめておとなしくホテルに帰り、スーパーに食料を買いに行って、夕食を食べ、シャワーを浴びて、これを書いています。今日はゆっくり休まねば。
 

Vol, 10. 2017/03/24 AM 01:50 日本時間

第四日の今日は木曜日で、またポスターセッションがある長い一日です。昨晩は、11時半頃に寝たのですが、やはり5時半頃目が覚めてしまい、また寝不足です。

さて午前中の最初のセッションは衝突のところに行きました。
8:30 からはブラウン大の Pete Schultz の学生の Terik Daly による発表で、小さいクレーターにおける斜め衝突において、ぶつかって来た Projectile が残るかどうかを実験で調べたものです。以前にも出てきた、NASA Ames センターの AVGR という衝突施設を使って、Projectile と Target と角度と速度という四つを変えながら研究したものです。結果としては、ぶつかって来た元の方向(Downrange)のクレタ―の壁に、溶けていない Projectile が残るというものでした。もちろん、Target との混合もありますが。それが毎秒 6.7 キロメートルという高速衝突でも見られます。角度は水平から 30 度や 45 度とかでやっていたようです。それを活用すれば、彗星の塵をラケットで集めたスターダスト計画でも、塵を斜めの低い角度で当たらせて集めるようにすれば、溶けない塵試料が少量でも獲得できていたのではという事です。

次に 8:45 からは Robert Herrik 氏の発表でしたが、月・火星・水星の非常に斜めな衝突クレーターを比較した研究で、Projectile の進行方向(Downrange)には溶融層があるとか、三つの天体では大体似ているが、涙滴の形のクレータは火星にしかないというような話でした。ただ、あまりまとまりも深い解析もないなあと感じてしまいました。MessierとMessier A のペアのクレーターの斜め衝突の向きがちょっとずれているのが不思議だと言っていましたが、Pete Schultz がそれは以前にちゃんと解析して何の問題もないと鋭い指摘をしていました。

そのあと、次に聞きたい発表まで 45 分くらいあったので、ポスターの下見に行きました。スロット #19 に貼ってある博物館の新原君のポスターは、アポロ16号の衝突溶融物質の元素組成を主成分解析(PCA)し、九つの元素のデータがあれば分類には十分だという結果でした。ちょっと離れたところに新原君がいたので、これがリモセンで出来たらいいよね、という話をしていました。

#53 には Landsman 氏の小惑星 (16)Psyche の赤外放射スペクトルの解析があり、細粒のケイ酸塩があるらしいという事でした。まあ隕鉄にはケイ酸塩包有物がありますから、驚くことではないですね。ただ宇宙風化を受けているとは思いますが。赤外だから影響は小さいか。

#65 には Mike Izawa のポスターがあり、200 nm までの紫外反射スペクトルを HED 隕石について測定していて、とても高品質のスペクトルなので驚きました。そうしたら、本人が声をかけてきて、何と今はカナダの Ed Cloutis のところでなく、三朝に五年間の研究職で日本に行っているとのことでした。結婚して子供もいるし、職があってよかったですね。日系三世だから、そういう運命だったのか。奥さんはギリシャ人のようですが。いつか私も三朝の研究所行ってみたいです。地震で大変だったようですが。

さて、Mike と話しているうちに時間になったので、今度は水星のセッションに行き、9:45 からの NoamIzenberg の発表を聞きました。MESSENGER 探査機に乗った機器のデータをつなげたり公開するという話でした。MUV で 210-300 nm という紫外領域、そして VIRS で 300-1450 nm という近紫外から近赤外を測定してあり、輝線スペクトルのための 121 nm と 130 nm の測定があるので、それらをつなげてまとめるという事です。惑星データシステムの最新版 PDS4 で利用できるようになるそうです。

15 分空いて、同じ部屋で次のセッションがあるので、ちょっとロビーに行くと、東北大の松岡萌さんにあったので、Mike Izawa のポスターの話をしました。紫外は、200 nm くらいまでなら、阪大の佐々木晶さんのところで測定できるので、今後はそれもやるべきかもしれません。

10:15 からは Stein Jacobsen 氏が、月の生成に関して K 同位体は普通のマントルを飛ばしただけの衝突でなく、何かより高エネルギーの現象が必要だという話をしていました。その詳細がよくわかりませんでしたが、Pb の放射性同位体や、Sr, Nd, Pb のことや、揮発性元素の Progressive enrichment とかが、ケイ酸塩鉱物の全体組成が堆積したと考えただけではだめで、地球にぶつかって来た衝突体がある特別な組成を持っていたと考えたらよいとか言っていたように思います。

次の Thorsten Kleine 氏の発表も同じようなテーマで、地球と月の同位体組成の類似性の解釈の話でした。Hf182 が W182 に放射崩壊するのを利用して、月の KREEP(カリウム(K), 希土類元素(REE),リン(P)、ウラン(U), トリウム(Th) 等の特殊な微量元素のこと。不適合元素ともいう。)試料を調べた研究で、W の含有量が巨大衝突で均一化するのは難しくて、後の大きな衝突が必要だと言っていたと思います。

今日はこれから、お昼の時間に、はやぶさ2国際合同科学会議があるので、軽くお昼を済ませて参加です。写真は会場の外景です。
 

画像:はやぶさ2国際合同科学会議が行われる会場付近。
 

Vol, 11. 2017/03/24 AM 07:44 日本時間

さて、はやぶさ2科学会議は、予想していた通り、小さな部屋で座りきれるかどうかわからないような 40 人くらいの人数の日本・韓国・欧米の科学者が参加して、1時間20分くらいかかりました。もちろん詳細は公開できませんが、国内外の科学者たちがどんどん真剣さと関心を増してきているのがわかります。

その後はすぐに第五会場に行こうとロビーのコーヒーを収穫していると、カナダの Allan Hildebrandt が挨拶してきて、私は、「NHK のチームが Tagish Lake 隕石のことで取材に行ったでしょう。あなたは日本で有名になるよ。」という話や、D 型小惑星の多様性の話をちょっとしました。

その後急いで、地球型惑星のセッションを聞きに行きました。1:30 からは Laura Schaefer 氏による、マグマ大洋における酸素三価イオンの量の推移を圧力毎に追って、特に核とマントル境界の圧力 120 GPa での状態を調べたようですが、私も素人で、何が論点なのかわかりませんでした。すみません。

次は Steve Desch 氏が、地球の重水素と普通の水素の比 D/H の問題を指摘し、地球ができた直ぐでまだ溶岩があった時に、D/H 比が低い太陽系星雲(Solar nebula)のガスと相互作用したらうまく説明できるのではという話をしていました。

2:00 からの Hakim 氏は、系外惑星のうちで中心星が C を多く持つもの、特に火星くらいの大きさの Kepler-102b に触れて、炭素が多くても核―マントル境界での鉱物組成はあまり変わらないかもしれないが、酸素分圧が変わり、グラファイトが安定して存在するという結果でした。

この辺でとにかくガンガン効いている冷房で耐えられなくなり、体を温めにロビーに出てきました。

ポスターの下見に行くと、ブラウン大で測光をやっている中国の訪問学生がいたので、測定の話をしていたら、Chang'E3 の発表をした Wu 氏が割り込んできたので、私が質問した、スペクトル傾きの定義の説明をしました。用語の使い方の問題だけなので、わかってくれたと思いますが。

学生の話が長引いたので、月のセッションの二番目の発表に急いでいきました。

3:30 からは有名なハワイ大の Jeff Taylor が月の粒粒の各礫岩 67955, 79215, 67955 といった試料のグループの発表をし、地殻とマントルの混合物質だろうかというような話をしました。

次は座長のひとりの Rachel Klima でしたが、彼女は博士論文で合成の輝石の組成と吸収帯の関係を修正ガウス関数(MGM)分解でやったので輝石が好きで、今回も低 Ca 輝石がカンラン石が多い場所に近く出ている場所の話をしましたが、今一論点がつかめませんでした。

次はやはりハワイ大でモデル手腕で知られた Paul Lucey で、やはりいつもさすがで、かぐや Multiband Imager(MI)の巣バンドスペクトルデータと、既知の鉱物スペクトルにHapkeの風化も入れたモデルスペクトルを、鉄含有量が似ている者同士で対応を取り、9 万個以上のスペクトルの主要鉱物量を決めてマップにしていました。その結果を DEVINER の赤外輻射による長石の検出も加味して、やはりカンラン石が多いところには斜長石もあり、橄欖岩でなく Troctolite 的であるという事でした。裏側の高地の輝石が斜方輝石であるという事を含めて考えると、カンラン石と長石は機械的に混ざったのではと結論していたように思います。

この辺でとても眠くて、自分の専門でありながら、ちょっと注意力に欠けていたと思います。次の Noah Petro の話などは、ブラウン大で最近博士号を取った Dan Moriarty が見つけた SPACA という SPA(South Pole Aitken)盆地の Mg が多い場所にある低 Ca 輝石が多い異常な組成の部分の説明以外は、何がポイントかわかりませんでした。というか、Rachel と Noah は座長をしているのに、その発表の質は平均以下だと思いました。

4:30 からは平林君という人が SPA にブーゲー異常性があるというのを、空隙が多い 8 km くらいの層があるというモデルで説明していましたが、やはりなかなかついていけませんでした。

最後はこれまた有名な Jolliff 氏が、MoonRise という SPA 試料回収ミッションに関連して何故試料を SPA から持ってくる必要があるかを説明していました。SPA 盆地の年代を測ることで、巨大衝突の歴史や、月の内部組成や熱史、また 42 から 35.6 億年前にあったかもしれないと言われるダイナモ(磁場を作るコアでの液体荷電金属の流れ)の証拠などを試料から見いだせるかもという話でした。900 g 以上の、ふるいにかけて取った岩片を多く持ってくるそうです。面白そうです。

という事で、既に 5:45 になってしまいましたが、今から急いで食べ物を買ってきて、ポスターセッションに行かねば。
 

画像:廣井さんお気に入りの「Which Wich?」。
 

Vol, 12. 2017/03/24 PM 13:31 日本時間

さて、会場の隣の Which Wich でツナと野菜のレタス巻きを買って半分食べ、ポスター会場に行きました。会場ではちょっとしたスナックは出ますが、飲み物はアルコール類ばかりで私は飲まないし、水しかないという状況ですね。

今回は、会場に大きな月球儀が置いてありましたが、他はいつもと同じ感じでしたね。とにかくポスターが多すぎて、他の時間に下見しない限り見切れないし、特に今日のように自分のポスターがあったら無理ですね。
 

画像 : 会場内に設置している月球義。
 

自分のポスターは放っておいて他のを観に行ってもよかったのですが、割と近くに見たいポスターもあったので、自分のを覗きながらあちこちしているうちに、割と何人も見に来ました。炭素質コンドライトの種類を、はやぶさ2搭載の多色カメラ OCT-T と近赤外分光計 NIRS3 のデータからどう見分けるかというのを主成分解析しだけですが。
 

画像 : ポスター会場の様子。
 

極地研や宇宙研のシンポに出ていない日本人研究者や、北大の橘君の学生さんや、イタリア IAS の研究者や、中国人の学生や、そして、Ed Cloutis のところの新しい技官らしい人も来ました。

斜め向かいでは、東北大の松岡さんがポスターを構えていたので、またちょっとおせっかい指導をして、その隣の炭素質コンドライトの分光らしいポスターが気になっていたのですが、発表者が来て、やはり Ed Cloutis の学生らしく、私のことをよく知っていました。それで、スペクトルの傾斜とか、吸収帯強度の定義の仕方が普通ではないので、変えてみたらという話をしました。「お会いできて非常にうれしい」と言って握手を求めるので、何か偉大な科学者になったような気分になりましたね:)ブラウン大ではまるで技官のように学生にさえ試料を測ってあげても共著にならないような扱いを受けてますが。。。

NASA JSC でお世話になった、はやぶさ仲間でもある Mike Zolensky や Faith Vilas もこちらに来て、Mike とはポスターの前で写真を撮ってもらいました。この前、NHK のコズミックフロントで Mike と一緒の写真があるか尋ねられて、なんとヒューストン時代に取ったものが一つもなかったのです。近くにいつもいると、その時の貴重さを忘れがちなものです。

だんだん終わりの9時に近づいてきたので、私は自分のポスターを外して、ブラウン大の Jim Head の奥様の Anne Cote がポスターを集めてくれている中央出口あたりに行ってお願いし、9時発のシャトルバスに急ぎました。

前から二番目の左に座っていたら、外で誰かと会話していた宇宙研の矢野さんが乗ってきて、横に座ってもらっていろいろ楽しく会話しました。内容はあまり書けないようなものですが、基本的に、はやぶさ時代の宇宙研を懐かしがるというか。半沢直樹みたいな人が必要だよねえというような雰囲気です。

ホテル Super 8 に戻って来たのですが、フロントから電話があり、熱いお湯がちゃんと出る部屋が開いたから、移れるかというので、じゃあという事で、隣のビルの三階の部屋に移りました。散々苦労して荷物をかたずけて移動したのですが、何とシャワーを浴び始めたら、風呂場のお湯は暑くならないし、バスタブのそこのふたもない。顔を洗ったりする流しの方のお湯は集めなのに、全く騙されました。ベッドが小さくなっただけ損でした。おまけに隣がうるさいし、以前は喫煙室であったらしいようなにおいがする!やっぱり人が言うことを鵜?みにしてはいけないです。。。

更に、翻訳のバイトが入ってしまったので、忙しくなりそうです。50 ページという長大なものだし。貧乏科学者は楽でないです。明日は午前中だけのセッションだし、帰りのシャトルバスは 12:00 と 12:30 しかないので、おとなしく帰ってホテルで翻訳のバイトをするか、誰かに誘ってもらってお昼に行くか、とにかく、ヒューストンで環境にやさしく生きるのは難しいです。
 

Vol, 13. 2017/03/25 AM 01:19 日本時間

今日はとうとう最終日の金曜日で、セッションは午前中で終わりです。

ところで、昨日私が出したポスターは以下のリンクで見られます。
” http://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2017/eposter/1086.pdf ”

最近はこういう E-Poster が流行っていて、便利になりました。これは、はやぶさ2のランデブーの時に大いに役立つと自負しています:)
 

今朝はいつもの様に 7:30 のシャトルで金丸君と一緒に来ましたが、水曜日の映画があった日はシャトルに乗り遅れて大変だったそうです。映画を半分見れたそうですが。そういえば一緒に今回写真撮ってないよね、ということで、宇宙研の岡田達明さんを捕まえて取ってもらいました。
 

画像 : 筆者と金丸君。
 

さて、今朝は最初に一番端の部屋で小天体のセッションがあったので、前半はずっとそこにいました。座長はいつも常連と思えるような Andy Rivkin と Faith Vilas でした。

8:30 からは OSIRIS-REx(O-REx)のプロジェクト主研究者である Dante Lauretta がミッションの概要を話しました。小惑星 101955 ベンヌには2018年8月から2021年3月までランデブーしている予定のようです。

次は Hergenrother 氏が、O-REx が太陽と地球のラグランジュ点 L4 でトロヤ群小惑星(木星のでなくて地球の)を探した結果を発表しました。計算では、300 m 以上のものは数百個あってもいいそうですが、結論としては見つからず、あまり大々的に探せなかった理由もあり、仕方がないかと思いました。

9:00 からは Patrick Taylor 氏が、5143 Heracles のライトカーブとレーダー観測からそれが二重小惑星であることを見つけた発表でした。ただ、スペクトルは Q 型で普通コンドライトで出来ているはずなのに、比重が1暗いというのはおかしいという指摘を、Allan Hildebrandt がしていました。もっともなことです。

次は David Polishook というイスラエルの研究者で、私が MIT にセミナーに行ったときに訪問中であった人ですが、小惑星の早い自転による分離の研究発表をしていました。傾斜角の影響で、比較的遅い自転でも分離が起こるという話だったと思いますが、ちょっと英語のなまりと構成のために十分に理解できませんでした。

9:30 からは Faith Vilas が紫外観測で C 型小惑星群の、特に 0.7 ミクロン吸収帯を持つ Ch と紫外スペクトルとの関係を調べたもので、特に相関はないという結果でした。宇宙風化で出来るナノ微小鉄のことを話していたので、私は質問・コメントとして、炭素質コンドライトの宇宙風化の最初の過程は脱水だと思うので、含水鉱物の赤いスペクトルが壊れて青くなる効果が最初で、紫外もおそらく影響されていると話しました。Paul Lucey も Hapke の宇宙風化モデルのことでコメント指定ましたが、ちょっと的を得ていないようでした。

次は Any Rivkin で、大きな主ベルト帯小惑星のうちの 3 ミクロン吸収帯の Tair による三つの分類(ケレス、パラス、テミス型)と他の特性との比較を発表し、パラス型は 0.7 ミクロン吸収と相関があり、CM コンドライトに整合的である、ケレス型は、吸収中心が 3.05 と 3.12 ミクロンの二か所にクラスターしてグループが分かれているかも、そして、パラスのハッブル望遠鏡か何かによる高分解の画像を見せて、明るいところは風化した場所、暗いところは新鮮な場所といって宇宙風化のことを話しました。それで、私はコメントして、私や松岡さんの CM やタギシュレークとかの実験と整合的で、レーザーを使った宇宙風化実験では 3 ミクロン帯は形を変えずに浅くなり、可視―近赤外スペクトルは青くなると言いました。

10:00 になり、Giebner という女の子がベスタの Marcia クレータの地殻構造を Dawn の Framing Camera(FC)で調べたものでした。

次は Allison McGraw という学部生の女の子の発表で、Gaffey の元学生の Vishnu Reddy の学生のようです。Gaffey ら(1993)のバンド中心と吸収面積比(BAR)のプロットを使って、L コンドライトは Gefion 族から来ているかという疑問に対する回答をしていて、H コンドライト的な小惑星が含まれているので、L コンドライトが来ている証拠はないとし、Pierre Vernazza が書いた論文の H と L の混合というのには整合的としていました。

私は最初にコメントして、Gaffey のあのプロットが基づく Cloutis et al (1986) は一番細かい粒子を度外視した結果の検量線だし、Ueda et al (2001) が LPSC アブストラクトで、粒径と宇宙風化をいれたら、S(IV) という普通コンドライトに対応する領域は違う方向にずれて、たまたま相殺してそこにあるだけかもしれず、だから細かいレゴリスがあったり、宇宙風化した S 型小惑星では、S(IV) の領域はおそらく広がるのだと言っておきました。何度指摘しても皆は理解しないようですが。

ロビーに出たら、新原君と日本からの学生さんたちが歓談していました。私と金丸君は車がないので、今日の午後はどうしようかと、困っていますが...
 

画像 : ロビーにて。
 

Vol, 14. 2017/03/25 AM 02:19 日本時間

速報を書いていたら、次の宇宙風化の発表に遅れてしまい、更にロビーで Wu さんに私の炭素質コンドライトのスペクトルに関して質問を受けたので、Jeff Gillis-Davis の CV にレーザーを当てた発表の最後しか聞けませんでした。
でも、厚かましくコメントさせてもらい、Allende は水を含まない特別な CV なので、他の CV とは区別して考えるべきではと言っておきました。

最後は Thompson 氏の発表で、我々と同じくマーチソンにレーザーを当ててできたものと、そこからの蒸気がガラススライドに堆積したものの解析です。ナノ微小鉱物が見つかり、トロイライト・マグネタイトといった硫化鉄、そしてペントランダイトといった鉄・硫黄・ニッケル鉱物が見つかったという事です。図を見たら、ガラススライドに最初に S と Fe が堆積し、その後は Fe で、イトカワ粒子や普通コンドライトのレーザー実験と整合的だと分かりました。その質問をしていた人がいましたが、発表者がちゃんと答えていなかったので、私が質問者に説明しました。

これで LPSC の全日程は終了です。さて、今からどうするか問題ですが。
 

Vol, 15. 2017/03/25 AM 10:48 日本時間

会場では、金丸君は千葉工大のグループと昼食に行けたようで、私は速報を書いてから、12時半の最終シャトルでホテルに帰ることにし、同様に Super 8 に泊まられている環境研の荒井さんと一緒になりました。はやぶさ2の TIR を世話しておられた方です。

今日は雷が鳴るというし、お昼買いに行くの大丈夫かなあと思いながらも、結局、HEB というスーパーに行って、帰りに Subway でサンドイッチを買って、ゆっくり2時くらいに帰ってきても大丈夫でした。

Super 8 の駐車場に着くと、ちょうど車で帰ってこられた宇宙研の岩田さんと春山さんがいたので、四人で今回の LPSC を振り返った話題に花が咲きました。

上の階に行く私と春山さんは、階段の踊り場の近くでさらに立ち話をし、かぐや・はやぶさといった初期ミッションが始まった当時のことを振り返りながら、研究者の人材は改善したのだろうかというような話をしました。なかなか、少数精鋭でやってきたころから増えてきたとはいえ、本当に欧米並みのレベルの研究者は何人日本にいるのでしょうか?

あと、今回の LPSC では、審査員の資質が問われます。大した内容でないのに口頭発表を得られ、座長までしている人が目立ちましたし、良い研究なのにポスターに回されているものもありました。1999年の私と佐々木晶さんの LPSC アブストラクト拒絶事件は強烈ですが、そこまでいかなくても、「天下の NASA よ何をしてるの?」と問わざるを得ません。もちろん、審査員は大学の研究者も多いですから、NASA 研究費をもらっている人たちを含むアメリカの惑星科学研究集団の資質です。

来年からは、公正で高レベルで誇れる LPSC に戻ってほしいものです。

明日は5時前の早朝に Super Shuttle が来て空港に向かいます。
今回、 LPSC 速報掲載のウェブサイトを閲覧くださり本当にありがとうございました。来年も同じように情報発信出来たらと思います。
 

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