ヒューストンからセッション速報 - Session Report
月・惑星科学会議 - LPSC : February 20, 2019. Latest
2016 47th Session Report
LPSC 2016 - March 21 - 26
Vol, 01 ~ Vol, 14
Vol, 01. 2016/03/21 PM 12:42 日本時間
廣井@ヒューストンです。
今日3月20日(日)は、第47回月惑星科学会議(Lunar and Planetary Science Conference、LPSC)の現地登録が始まった日です。
今朝9時台の飛行機でボストンを発ち、今回は United のマイルを使って直行便で Houston Intercontinental Airport(IAH)にお昼過ぎに到着しました。
毎回使っている SuperShuttle は、今年は何とオンラインチェックイン機能が出来て、Web サイトでターミナルの場所などを入れると、乗客番号と車両番号をくれて、チェックインカウンターのそばで待つように指示がありました。
でも、結局カウンターに人がいるので、特に何も便利になったわけではなく、荷物を受け取る場所ですぐに列に並べるというくらいでした。てっきり、シャトルに直接乗りに行けるかと思ってしまいました。
とにかく、割と車は空いていて、ハーバード大からのポスドクと一緒になって歓談して、いつもより早くホテルに着きました。いつもの超格安(6 泊で $300)の Hotel Super 8 です。普通は三時からチェックインですが、フロントのインド人の青年は二時なのに入れてくれました。
そして部屋に行ったら、格安の部屋では昨年までなかった、冷蔵庫と電子レンジがあるではないですか!!このホテルでこういう扱いを受けたのは初めてでした。
ところがところが、シャトルの時間を調べようと思って LPSC のウェブサイトに行ったら、何と Super 8 がいつもの Blue Route から抜けているのです!
そんなー、知らされてないよー、と思って、ホテルのフロントに電話したら、確かにいろんな国からこの学会のために宿泊しているけれど、ここはシャトルバスのルートには入ってないようだよ、と言われました。私は、去年までずっと入っていたのにおかしいなあ、と返しました。
それでパニックった私は、極地研の私の炭素質コンドライト分光サーベイの共同研究者たちと、はや2でお世話になっている吉川先生にメールを出して、誰か車で参加していて助けてくれる人はいませんか、と尋ねました。
LPSC の受付やレセプションは六時とかくらいからですから、その返事が来るまで、近くのショッピングコーナーとスーパーに買い物に行くことにしました。去年見出した、Big Lots という店では、今回欲しかった、日本で売っているような濡れティッシュを $1 で、忘れてきたヘアブラシを $1.50 で、そして、これも自宅に忘れてきた日焼け止めを $2 で買いました。
そして、向かい側のスーパーに行って、朝食には出ない、バナナ・ブルーベリー・ギリシャヨーグルト、そして全粒粉のクロワッサンを買ってきました。
ホテルの部屋に戻ってメールをチェックしたら、極地研の三澤さんや海田君からメールがあり、レンタルカーで空港近くのホテルから参加する予定であるということで、私が準備していると、彼らと一緒に来ている東大の新原君から携帯に電話があり、幸運にも私を拾いに来てくれるということでした。
それで、ホテルのフロントに異動して待っていると、何と宇宙研にいた荒井さんがチェックインしている途中で、そこには、Blue Route の時刻表があり、ホテルのフロント係の人は、最初の行の時間の 5 分前にここに来ると説明しているではないですか!
何か奇跡でも起こったようで、これは単なる間違いで、私の問い合わせで、ホテルから LPSC に報告が行ったのか、LPSC が気を変えたのか、どうかわかりませんが、とにかく、一人でも行動はできるようになりました。
会場に着くと、東大の三河内君とその4人の学生さんたちが来ていたので、かなり昔話を長くして、その後、はや2チームの北里君や平田さんと、神戸大から千葉工大に移った岡本君と久しぶりに再会して、いろいろ話しました。荒井さんも到着しました。
その後は、彼ら Hayabusa2 仲間と車でスーパーによって食材を買ってから Super 8 に戻りました。
と、書いていたら、もう11時近いですね。ボストンは明日は雪が降りそうで、次女の学校は休みになったそうです。こちらも華氏 50 度台という、ヒューストンにしてはとても寒いです。明日からハードスケジュールなので、とにかく早く寝ます。
Vol, 02. 2016/03/22 AM 01:10 日本時間
廣井@LPSC コンピューター室です。
セッション初日の今日、月曜日は、午前中の前半をずっと、Ceres Unveiled という特別セッションで過ごしました。
一番前に座ると、中村良介さんが走ってきて、今から登録してくるのでカバン見ててね、ということで、すぐに戻ってきて、一緒に真正面で座って発表を聞きました。
最初は、Dawn ミッションの PI である Chris Russel の概観の発表でした。一番低予算の Discovery ミッションでありながら、Dawn は Vesta にランデブーしてマッピングをし、今は Ceres のマッピングをしているわけですが、Low Altitude Mapping Orbit(LAMO)は 320 ㎞ の上空で、いろんなことがわかってきており、過去には表面に厚い氷層があったのではないかと考えているようです。
次の Tom Prettyman は、GRaND というガンマ線測定の結果の報告ですが、これがすごいと思いました。宇宙放射線によって水素原子から励起される中性子からでるガンマ線を測定しているわけですが、異なる深さからくる二種類のガンマ線が測れるようで、結果としては、一番太陽系の組成に近いとされる CI コンドライトに近く、CM コンドライトもいくらか混ざっているのではということでした。Tagish Lake を考慮しているのかちょっとわかりませんでした。
そして、赤道域よりも、極域に行くと水素が多く、隕石の含有量を超えるので、明らかに氷が多く含まれていると分かったようです。
次は、Cristina DeSanctis による VIR の測定結果で、高高度軌道 HAMO での 400 m 解像度と、低高度軌道(LAMO)の100 m 解像度のデータを両方使っているようでした。平均スペクトルを見ると、2.72、3.05、3.1、3.3、3.5、3.95 ミクロンに吸収帯があり、アンモニア層状ケイ酸塩、鉄の少ない蛇紋石、炭酸塩などの混合で説明できるということでした。なぜ 3.3-3.4 ミクロンの有機物の吸収が見えていないのかが疑問でした。
解釈として、アンモニアは冥王星とかの遠い低温領域でないとできないので、Ceres が移動したのではということでしたが、横の良介さんと私は、そういうところからの物質が降ってきてもよいのではと会話していました。なんか、皆が皆 Nice もでると GrandTrack 理論を信じ切っているような最近の雰囲気なのが気になります。
次は、Ralph Jaumann で、VIR データで、可視領域の色の分布を見て、それと明るさの変化が粒子サイズや空隙率によるのではと言ってました。結局言いたいのは、青くて明るい氷の成分が宇宙風化でなくなっていくと、赤くて暗い岩石組成のスペクトルが出てくるということではないかと思います。空隙率はそれとどう関係するのか、質問者たちも私も、ちょっと首をかしげていました。
9:30 になり、Hap McSween の出番でした。VIR の 3 ミクロン帯測定からわかった上記の鉱物組成から、Ceres が高度に水質変成をしたものが表面に見えているということを如何に説明するかという発表でした。有機物が見えないのは、グラファイト化されたからではないかと言っていましたが、Tagish Lake 隕石組成や、後から降ってくる CI や CM の影響などはどうなのかちょっと疑問でした。しかし、いつも大局的に見える McSween の考察には感心するばかりです。
次は、Marc Neveu によるコンドライト組成と彗星の水を混ぜて Ceres をどう作るかのモデル計算の話でした。コンドライト中のコンドリュールが中に沈んで、細粒のマトリックス物質が表面に残るという発想が面白かったです。
次の Marchi 氏は、Vesta には存在した大きなクレーターが、なぜCeres にないのかの考察でしたが、私が、地下に液体層があったら説明できるかの質問に対しては、モデル計算次第だということで、ちょっと物足りなかったです。
最後は Paul Schenk による岩石と氷の惑星・衛星でのクレーターと、それらの中間であるはずの Ceres の場合との比較でした。小さいクレーターは土星の氷衛星に傾向が似ているけれども、10 ㎞ 位から大きい方は傾きが外れてくるそうです。クレーターが複雑化する遷移直径は、氷惑星と同じということでした。
ちょっと疲れたし、この速報を書こうと部屋を出ると、阪大の西谷君という学生さんにあって、メタンハイドレートを研究しているのだけれど、氷関連で LPSC に来たということでした。昨日の岡本君とともに、意外な人に会えてうれしかったです。
Vol, 03. 2016/03/22 AM 05:58 日本時間
お昼は宇宙研の吉川先生とサンドイッチを食べに行って、はや2の話をいろいろしてきました。
午後は1時半から全大会で、Masursky 講義と、いろんな受賞者の発表でした。
講義は、日本でも非常に有名になった New Horizons ミッションの PI である Alan Stern 氏によるものでした。提案から 10 数年もかかり、打ち上げから 9 年以上かかって到着した冥王星での衛星も含めたフライバイの観測結果ですが、その世界的な反響はものすごかったそうです。未知の惑星という新世界を勇敢に探査していく姿に、人生で最も感動したと言ってきた観衆もいたそうです。
私はそれを聞いて、はやぶさのストーリーを思い出しました。我々は、あの感動をもう一度、とは言えませんが、はやぶさ2で世界をリードする日本の姿を日本の子供たちを含む全国民に見せたいのです。今度は科学ミッションですし、はやぶさでもあった、科学者のドラマを前面に出したいものです。
冥王星 Pluto もその衛星 Charon も基本的には 40 億年の表面年代のようですが、冥王星には表面が更新された若い部分がある、活発な天体なのです。今後、2017-20年にかけて、Centaurs や KBO 天体を調べていくということで楽しみです。
その後、2時半からは、同じ会場で、New Horizons の各分野の発表が普通の 2 倍の 30 分間のコマで続きました。私は2つだけ聞いて出てきましたが。
最初は John Spencer 氏による外観の発表で、上記のように基本的にはクレーター年代は 40 億年ですが、ハート形のところとか更新されて若いところがある。そして、ハート形の南側の Sputnik Planum という暗い場所は、小さな穴が多くあるところや、対流によってできた細胞のタイル状のところ(大きさは窒素の層の深さによるとか)、N2 に水氷が浮かんでいるようなところがあるとか。表面の更新はそこが一千万年以下の若さだということを示しているそうです。
その次は、Will Grundy(確か Icarus の Editor?)による組成の研究の発表でした。MVIC という 4 色のカメラと、LEISA という波長 1.25-2.5 ミクロンをカバーする近赤外分光器の測定結果でした。水氷、メタン、窒素という、より不揮発性なものから揮発性のものまで、分布が緯度や地形や場所による変化があるようです。上記のように、カロンは単純で、それらの混合効果が主ですが、冥王星は更新を含む二つの分布傾向があるようです。
カロンの北極に見える、より赤く暗い Mordor Mocula(指輪物語的命名)は、水氷が多く、アンモニアの 2.2 ミクロン吸収が見え、若いはずだとか。とにかく、他のアンモニアに富むスポットと同様にユニークな場所らしいです。
このあたりは専門外なので、不正確だったらすみません。興味のある方々は、アブストラクトをぜひ読んでください。
今から火星セッションに行って、ブラウン卒業生の Bethany を捕まえないと。試料を返す約束なので。。。
Vol, 04. 2016/03/22 AM 09:23 日本時間
午後は、休憩した後に、火星セッションで Bethany Ehlmann に試料を返して、ちょっとだけ惑星分化のセッションに行きました。
Jacobson 氏が A 型小惑星がマントルだったら多すぎるという問題提起をして、きっとそれらは惑星系の途中で衝突によって壊されたマントルが 100 ㎞ 程度の小惑星として残っているのではないかという話でしたが、たちまち Ed Scott とかに、壊されたのではなく、上層の玄武岩がはがされただけではと反論されていました。
その後は、5時半から NASA Night があり、惑星部門の所長の Jim Green などから現状説明がありました。
Jonathan Rall 氏からの Research and Analysis の予算の説明では、競争資金として $154M あるという話と、今年から、人種とかの情報をオプションで書いてもらうという話がありました。差別を予防するためかと思います。
そして、女性の方から、教育のための活動の奨励があり、National Science Foundation(NSF)の応募も4月1日に締め切りがあるからという話でした。
最後は Jim Green で、いつものミッションの現状とかですが、今回は最大級の予算をもらえたということでバラ色の話でした。はや2に参加する九名の科学者たちの名前も出ました。OSIRIS-REx との交換科学者たちの名前も出ました。
でもやっぱり、科研費を取るのは難しいです。とくにアメリカでは。これから7時半のシャトルでホテルに戻ります。
Vol, 05. 2016/03/23 AM 00:32 日本時間
第2日の火曜日の今日は、ポスターセッションがある、長い一日になりそうです。
Super 8 のロビーに行くと、阪大の西谷君がいたので、一緒にシャトルにのって、日本の歴史のこととかいろいろ歓談しました。まだまだ、真実の歴史を知らされていない若者も日本には多いのですね。
今朝は、昨日に続いて、Dawn 探査機による Ceres の観測結果のセッションの前半に参加しました。
西谷君と最前列に座ると、後ろに環境研の山本君が来て、廣井さんにあいさつしないと LPSC に来た気がしないから、と気の利くことを言われました。二人をこの機会にお互いに紹介してあげました。
最初は、私の元ボスの Carle Pieters の先生だった、Tom McCord による、Ceres の Dawn 以前と以降の知識の変化の話です。比重が 2.1 とわかっていたので、岩と氷の混合とは理解していた。望遠鏡の観測で、アンモニア層状ケイ酸塩があることもわかっていた。水氷は表面で安定ではないので、含水鉱物か一時的な形でしか存在できない。
ある女の子が質問して、望遠鏡観測では鉄に富む層状ケイ酸塩と予言されていたのに、Dawn の探査ではマグネシウムに富むものと分かったのは、リモセン技術の限界なのかどうなのか、ということだったので、McCord は、データの質に依存するのだと説明していました。実際そうですね。
次は、Jian Yang Li による測光モデル計算の話で、経験的測光関数から、Hapke のモデルで、表面粗さと位相関数を出していました。まあ無難な結果かと思いましたが、私は質問して、Hiroi and Pieters (1994)でやったように、位相関数で前方散乱を表現しきれない対策として、Hapke モデルの修正をする必要はないかという指摘に対し、今回のようなより後方散乱的な(暗い)ものでは必要ないだろうと答えていました。実際は全体は暗くても、成分として入っている氷は透明なので、それが利く可能性もありますが、混合計算はしていないので、次のステップでしょうね。
隣に座っていた西谷君には、こういう計算は簡単にあなたでもできますよと言っておきました。
9時になって、私の元ボスの Carle Pieter の出番です。Vesta の時と同様に、Ceres における宇宙風化はどういう現象かという話でした。UV(440 nm)と Vis(750 nm)の比演算で議論して、Haulani, Kupalo, Occator、そして Juling といったクレーターの中やイジェクタが青く見えるところが多く、その後でしぼんだように見えるところもあるので、揮発性物質を含むものであるということで、揮発していくことが Ceres の宇宙風化だという単純な話ではありました。
次は、E. Ammannito さんという女性で、層状ケイ酸塩の分布を、2.7 ミクロン(含水)と3.1 ミクロン(含アンモニア)の波長バンドで調べていました。2.7 ミクロンバンド中心は組成に関係しているのですが、それはどこも 2.727 ミクロンで均一でした。Occator クレーターはもともとバンドの形が違うので例外のようですが。そのバンド中心はマグネシウム層状ケイ酸塩を示しているということです。バンドの深さは当然ながら分布が見られました。
次は Ester Palomba 氏で、3.4 ミクロンと、4 ミクロン当たりの炭酸塩の吸収バンドと、含水炭酸塩の倍波長バンドである 2.3 ミクロンを調べていました。3.4 と 4 ミクロンバンドには相関関係があるが、2.3 ミクロンとは見られないので、含水ではないという結論でしたが、私は 2.3 ミクロンは吸収係数がけた違いに小さいので、検出できていないのではとコメントし、私のボスの Ralph Milliken は、望遠鏡でも 2.3 ミクロンは見えたし、それは含水炭酸塩鉱物だけではないとコメントしました。まあそれが普通ですね。もっと調べてモデル計算してもらわないと。
私が出る最後の発表は T. Platz 氏によるクレーターの話で、単純から複雑クレーターに遷移する直径は、15 km くらいという話でした。
またどっかのセッションに入ろうと思いますが、妻のために注文しておいたノートパソコンが品切れで、また代わりを選んで注文せねば。昨晩は次女が内定した大学の一つから漸近などの情報を送ってくれと催促きたし、家庭持ちは忙しいです:)
Vol, 06. 2016/03/23 AM 05:29 日本時間
休憩の後は、午前の最後の一つだけ、コンドライトのセッションの、北大の圦本さんによる CAI の酸素同位体の鉱物分配の口頭発表を聞きに行きました。
Ti が少ないほど酸素 16 が多いという相関を見つけたということで、Allende 隕石の CAI では輝石とメリライトが平衡化しているということから、酸素 16 の供給源がいつ始まったかという疑問を解決したと言っていましたが、今一分野外の私にはその意義の大きさがわからず、ただ、Glen MacPherson とかこの分野の大御所たちが二、三人くらい質問攻めにしていましたから、きっと議論を呼び起こす内容だったと思います。
その後は、ちょっとポスターを見に行ってきて、お昼の、はやぶさ2合同科学チーム会議(HJST)に参加しました。
今回、NASA 側から 9 組が参加してきたこともあり、非常に多くの外人たちが来て、その紹介から始まり、はや2の現状、今後の予定などが話し合われました。やはり私の心配は2018年のリュウグウランデブー時の旅費ですが、まあ、ある程度希望的な話も出たことは出ました。でも、人材不足は否めません。4月に帰国するときも、分光・測光で頑張ってくれる人がいないかアンテナを張っておかないと。
その後は、私の木曜日の発表にも関係することで、炭素質隕石試料から 100-200 度くらいの加熱で吸着水を取った時に、3 ミクロン吸収帯の形がどれくらい変わりうるのかを、東北大の博士課程の松岡さんにメールして尋ねました。そしたら、今回来ているということで、待ち合わせて議論をすることになりました。それが2時間くらいかかって、今やっとコーヒーブレイクで抜けてきました。
午後は軌道や衝突関係のが多いので、ちょっとさぼって、これからポスターでも覗きに行ってきます。
Vol, 07. 2016/03/23 AM 09:52 日本時間
廣井@LPSC ポスターセッションの隣のロビーです。
今回は、ポスターセッションが始まる前に一通り興味のあるポスターを見回ったので、始まってからは、何人かのポスターを覗いたり、付随的な議論をする時間が多かったです。
隕石や火星類似物質の反射分光のポスターを見ていると、ブラウン大の女性の学生や卒業生と出くわしたので、どんな研究をどこでしているかという話になりました。ブラウン大学は、惑星地質を分光で探査し、そのために実験室で隕石や月試料や類似の地球や合成物質を測定してデータベース化する大御所です。
それで、ちょっと前に学生などと一緒にやっていた RELAB データベースの仕事はどうなったのかと尋ねられて、最近の NASA PDART プログラムで資金が出たので、Planetary Data System (PDS) に移行してしまうのかという心配でした。実際そうなのですが、インターフェースもグレードアップして、よくする予定なのです。でも、その研究費では、私の給料はほんのちょっとしか賄えないので、まだまだ不安要素は大きいです。
ポスターセッションが始まると、いつもの様に飲み物が出て、アルコール類(有料)とソーダ類(無料)はあるのですが、ジュースとかないので、私は仕方なく、水か、思い切りダイエットの甘くないものを選んで飲みました。
そうしたら、二村君の K/T 境界の巨大衝突が恒星との遭遇で太陽系外縁天体が摂動を受けて落ちてきたというようなポスターに、矢野さんが来て議論をしていたので、面白くちょっと立ち聞きしました。あとで、矢野さんを捕まえて説明を聞いたのですが、いつもの様に話題はそれて、はや2のランデブー時にどう協力できるかとか、火星衛星試料回収ミッション(MMX)のことや、NASA ディスカバリーで LUCY というトロヤ群小惑星フライバイミッションの話になりました。
やっぱり、MEF 創立者でもある矢野さんは、多くの知識と良い視点を持っているなあと感心しました。ぜひ将来、宇宙開発の中心的な役割を持つ立場に出世してもらいたいものです。私も長生きしてその時を楽しみにしていますから。
と、脱線はともかく、日本が MMX に進むのが心配で、やっぱり小惑星の試料回収や、トロヤ群の試料回収にこだわった方がよかったのでは、危惧します。いずれにせよ、予算や人材がいろんなところに散逸してどれも競争に負けてしまうのは良くないです。
そのあと、ちょっと疲れて座っていたら、極地研の海田君が来て、4月の帰国時の出張予定を伝えておきました。今回も基礎科学科の後輩として、阪大と東北大にも一緒に来てもらうことになるかと思います。
またポスターを見ていると、NIRS3 の主研究者の北里君が来て、NIRS3 の月面データを見てほしいということになり、ポスターのところに行って議論しました。そうしたら、私のボスの Ralph が来て議論に加わり、なんとなく答えがわかったように思いました。NIRS3 チームには、やはり、Ralph や私が必要だと改めて我ながら感じました。
こうしてロビーに出てメールを書いていたら、JAXA の大嶽さんが来て、また JAXA のミッションのやり方の話になりました。まあ詳細は書きませんが、タイミングよく東大の杉田君も来て、まああいさつ程度の軽い話で頑張りましょうということになりました。
まあ、この一週間にいろんなことがあり、この LPSC でミッションに関係する研究者たちが集まって、ここからどうつなげていくかという新たな決意を迫られている時のように思います。
ポスターをあまり多く紹介できず申し訳ありませんでしたが、木曜日のポスターセッションも私や共同研究者のポスターが盛りだくさんで、忙しくなると思います。
Vol, 08. 2016/03/24 AM 00:54 日本時間
今日は水曜日で、昨晩はポスターでしたから、参加者たちは疲れ始めている時と思います。私は時差 1 時間とカフェインの取り過ぎで、朝4時に目が覚めたので、翻訳のアルバイトをして、ニュースを見てから、06 時に朝食にロビーへ行きました。
すると、天文台の野田さんがいて、あとで並木さんも来て、アメリカでの英語の話や、ミッションや LIBS(Laser Induced Breakdown Spectroscopy)の話に花が咲きました。6:55 発のシャトルバスには結局最後まで二人しか乗ってなかったです。
今朝の前半は、Merrily Measuring Moonlight という月の組成を分光で調べるセッションで、このタイトルはいつもの LPSC の遊び心でつけてありますが、Carle Pieters が PI として飛ばした、Moon Mineralogy Mapper(M3)と同じように、MMM になるように命名したのではと思います。
早く着いたので、座長たちがおり、Noah Petro と Deepak Dhinga というどちらもブラウン大の卒業生たちでした。発表者にも何人もブラウン所属がいて、やはりここは大御所だなあと思いました。
最初は環境研の山本君で、私も共著の、かぐや衛星の Spectral Profiler(SP)でガラスのマッピングをした仕事です。1.1 ミクロン当たりを中心として左右対称のお盆のようなスペクトルに注目して SP データセットを探した結果です。基本的に、176 点が見つかり、ほとんどは大きなクレーターの周りで、Pyroclastic deposit(火砕性堆積物?)と呼ばれているところでしたが、トリウム異常がある Compton-Belkovich だけは例外で、そこは Silicic volcanic domes(シリカ性火山丘?)と言われるものです。いずれにせよ、衝突によるメルトでなく、火山性のものということですね。
私は、スペクトルの専門家たちから、ガラスではないのではという疑問が出るかと思いましたが、質問者たちは逆に、他にもガラスがあるので、一部を見ているに過ぎないという、山本君も私もわかっていることを強調するだけでしたので、ちょっとほっとしました。やはり、SP の高いSNと連続分光に近いスペクトルはすごいです。
次は、Angela Stickle による、宇宙風化度がクレーターからの距離でどう変化しているかという研究でした。今一結論がはっきりしませんでしたが。。。
その次は、Lemelin さんという女性で、月の盆地と中央丘の組成の違いを説明するために、表面から 10 ㎞ 程度の地下鉱物組成を仮定して、Hydrocode によるコンピューター衝突計算と、宇宙風化も考慮した Hapke モデルを使った鉱物組成とどう合わせられるかという研究でした。基本的に、純粋な斜長岩の地殻が浅いところにあり、マフィックな純粋鉱物的な層が深いところにあるモデルで合わせられるという仕事です。マントルの組成が違っていたらどうなのかという質問には、ちょっとちぐはぐな答えをしていましたが、とにかくこの人はすごいと思いました。今後が楽しみです。
9:30 からは、ブログでも書いた、最近博士号を取った Dan Morarty の South Pole - Aitken(SPA)を M3 で調べた発表でした。宇宙研の大竹さんとかのインパクトメルト説と違うということを聞いていたので、今朝セッションが始まる前に大竹さんに話したら、やはり今回のアブストラクトを読んでやっと知ったそうです。
Dan の説は、M3 で輝石の Mg や Ca 組成と存在量を調べると、SPA の中心のくぼみには確かに Ca が多い輝石があるが、それより上のなだらかなところは Mg 輝石で、中心の窪みはもともとはインパクトメルトかもしれないが、後の噴出物がクレーターの底を埋めたような形跡があるので、メルトではないという説でした。
そこに大竹さんが質問をして、その後で自分の発表をされたのですが、かぐや Multiband Imager を使っているので、波長バンドは少ないですが、空間解像度は M3 の 4 倍くらいあるのが利点かもしれません。表面はインパクトメルトによる Ca 輝石で、クレーターを見て地下鉱物組成の層も推定していました。
とにかく、やさしい Dan の性格なのか、直前にいうべきことは言ったせいか、何も質問をしていませんでした。
最後は、Noah Petro で、SPA の Bhabha 領域とかの話ですが、無駄話がちょっと多くて、今一だなあと思ってしまいました。私はいつも思うのですが、LPSC で座長をさせてもらえるかどうかはかなり政治色が濃いなあと思いました。
Vol, 09. 2016/03/24 AM 05:39 日本時間
午前中はそのままメールを書いたり人と話したりとぶらぶらしていて、お昼も残ったパンやサラダをホテルの部屋から持ってきていたので、スタバでアイスコーヒーだけ買って食べてきました。一番小さいので $2.25 は高いです。
午後はまず、Chondirtes Whole Rock というセッションで、ブラウン大に最近来た Brad Johnson の CB コンドライトの話を聞きました。CB は大きな衝突で金属鉄が気化して再凝縮しないといけないので、太陽系星雲ガスがまだ残っているときに Grand Track モデルで惑星移動が起こってその攪乱によって相対速度が増した微惑星同士の衝突なら可能だという話でした。異議も出ていましたが。
次の N. Dauphas 氏の話は、半分フランス語が混ざっているような発音で、眠いのと合わせてよくわかりませんでした;)が、普通コンドライトの希土類元素の話でした。
そこから、ちょっとだけ火星の生命のセッションに行き、2:00 からの D. P. Glavin 氏の、Curiosity Rover で塩素化したものだけでなく塩素化していない有機物も見つかったという話を聞きました。さすがにかなり分野が違うので、その意義がよくわかりませんでしたが。そこに、とても年配でアクセントも強いご婦人のような研究者が粘土鉱物の組成も調べたらというコメントをしていました。
その後は、水星の分光のセッションに移りました。かなりブラウンやハワイ関係がいそうなセッションでした。
Paul Lucey のグループらしい David Trang は、MESSENGERのVIRS の 0.2-1.5 ミクロンのスペクトルデータを用いて、ナノ微小鉄・ミクロ微小鉄を宇宙風化モデルで入れただけでは 0.4 ミクロン当たりが合わず、ナノかミクロの非晶質炭素を入れたらよいという話でした。
私は、阪大の佐々木晶さんのところで岡崎さんが FeS を入れた宇宙風化実験をしていて、暗化することを知っていたので、それを指摘しましたが、FeS はないことが分かったとか、ちょっと頓珍漢な答えをしていて、他の質問者にも訂正されていたようです。炭素は外から来たのではという話もしていました。
次はブラウン大卒業の Rachel Klima で、暗い物質の分布を主成分解析(PCA)で調べていました。炭素に富むかもという話はしていましたが、内部から来ているというだけで、確証はないようでした。私は硫黄のコーティングの話をコメントしましたが、宇宙風化していない新鮮な部分ならば、当てはまらないとも言っておきました。
最後は、Rebacca Thomas というヨーロッパ的アクセントの女性で、揮発性物質が出たような穴ぼこがあいた部分があり、そういうものがない下地の物質はグラファイトとか硫化鉄ではないかと言っていましたが、今一ついていけませんでした。
水星や火星の最先端の研究からは引いていたので、ちょっと追いつかないといけないかもです。
今見返してみると、私の速報は不注意で誤植だらけになってしまいました。井本さん、すみませんが、後で訂正お願いします。
Vol, 10. 2016/03/25 AM 02:09 日本時間
今日はとうとう木曜日で、最後の超過密な1日になりそうです。
昨晩は極地研の三澤さんやその仲間たちと夕食にインド料理店に行って、かえってシャワーを浴びてから翻訳をしたりしていたので、寝るのが 12 時近くになり、それでも朝5時には目が覚めてしまって、眠いのをコーヒーで起こしている感じです。
Super 8 のロビーに行くと、天文台の並木さんにまた会って、我々が 25 年前とかにアメリカに初めて来ていた時は、LPSC でも日本人は多くなく、ハングリー精神があったよね。最近の日本の学生たちはそういう世界に出る機会があるのに利用していないという話題になりました。本当に、LPSC に来るたびに日本に半分帰った気分になりますから。
そんなわけで、今朝も 6:55 発の数人しか乗っていないシャトルに乗り、いつの間にか居眠りしてる間に学会会場に着きました。
午後は忙しくなるので、午前中はいくつかの口頭講演を聞く以外はポスター会場でめぼしいものを学ぶことにしました。
とにかくまずは Presolar grains という、太陽系星雲で揮発しなかった、我々の太陽系の前の太陽系から来た粒子、とくにSiC(シリコンカーバイド)の同位体組成を調べるセッションに行きました。
8:30 の最初の発表は、よく名前を見る Peter Hoppe 氏で、C12/C13 の値がとっても高い C1 という粒子が見つかったということで、それはHe殻が大きい超新星から来たらしいと言っていました。
次の Janos Kodoranyi 氏も、同じグループの様で、超新星からの SiC の結晶構造には 200 以上の多形があるそうで、熱力学的には不安定な 3C という型が多いのは超飽和しているからではないかということでした。そして多形と組成の間には相関がないようだということでした。
ここまでは Presolar grains を聞いていたのですが、やっぱり難しくて面白くないので、ポスターを見に行きました。
今回は、私は NASA 実験室としての RELAB 紹介・宣伝をボスの Ralph が作ったポスターと、私が RELAB・阪大・東北大の四つの分光器のデータを比較したポスターとの2つがあり、更に、学生の松岡さんとの共同研究のもあります。なので、他の人たちのポスターをセッションが始まる前に一通り見ておいて、内容を場所を予習しておかないと3時間あっても全く時間切れになると思います。
松岡さんの宇宙風化ポスターのあたりに行くと、テネシー大学の Josh Emery の学生のポスターらしい、S 型小惑星と月との宇宙風化傾向を比較研究したものがありました。これは面白いと思って、後で行こうと思いました。
それから 10 時頃になったので、Presolar grains のセッションに戻って、マークしておいた C. Floss さんの MET 00526 隕石の話を聞きにちょっと遅れていきました。この隕石は炭素質でなくて普通コンドライトなのに、Presolar grains が多いということです。熱変成をしていないタイプ3なので生き残ったのではないかということです。Semarkcona もタイプ 3 ですが、水質変成を受けているから失われたのでは、という話をしていましたが、複数の質問者たちから、それは衝撃を受けているから減ったのではという指摘がありました。また、QUE 97008 も Presolar grains が多いかもという話もしていました。
太陽系の初期の組成や重量や角運動量を考えるときに、その材料物質となった複数の恒星系の研究は大切だと思います。
次の講演は C. Snead 氏で、惑星間塵(IDP)を水質変成させて酸素同位体がどうなるかを調べていました。これは含水鉱物を持つ隕石の起源を理解するのに重要ですね。
そこでまたポスター会場に戻り、先ほどとは反対側の、私のポスターに行く途中には、小惑星の可視・近赤外反射スペクトルの研究のポスターがいくつもあり、このスポットも狙いですね。その一つである、東大博物館の宮本英昭君の学生さんらしい人のポスターで、小惑星のアルベドと型をみているものがあり、それをじっくり見入っている学生がいました。
” Do you study asteroids? ” と尋ねて自己紹介すると、私のことを知っていて、先ほどのポスターの主の Eric という博士学生でした。それで、Josh Emery のところの研究のことや宇宙風化の話に花が咲き、私が1988年に博士号を取った時は、24 色および 52 色の小惑星スペクトルしかなく、苦労した、今の学生は恵まれているという話をしました。なかなかさわやかで良さそうな学生です。
その内に 11:15 に近づいたので、5 番会場に行き、マークしておいた、Nathan Williams 氏の、月でテクトニクスが見つかったという話を聞きました。といっても、地球のような複数のプレートが移動しているというものではなく、若い皺の峰とかの分布から、ある領域に大局的な力が加わってずれているというような話だったと思います。とにかくわかりやすく面白く語っている学生でした。
こうしているうちに12時過ぎてしまいましたね。今からサンドイッチショップに行ったら長蛇の列かも。午後は、何と私が関係する三つの口頭セッション(NASA 実験室、宇宙風化、炭素質コンドライト)が並行して行われていて、晩もポスターなので、忙しくなります。
Vol, 11. 2016/03/25 AM 08:02 日本時間
さてさて、12時過ぎに会場の隣の Which Wich というサンドイッチ屋さんに行くと、案の定、外の道にまではみ出して並んでいました。おまけに寒く風が吹いているので、手をポケットに入れないといけないくらいでした。
1 m 進むのに 7 分くらいかかる列に待っていると、松岡さんが来たので、私ももう一度最後列に並んで、一緒にお昼を食べようということになりました。今年は、期間限定の Super 何とかというサンドイッチがあり、私はそれにして、松岡さんはチキンにしていたようです。
午後は01時半からなので、何とか間に合ってサンドイッチが来て、会場に戻ってテレビの横の机に着いて食べることにしました。そうしたら、松岡さんの横の席に女の子が、ここいいかと聞いてきて座って、私に、Hayabusa チームかと尋ねるので、ジャケットの背を見せて、Yes, Hayabusa2!と答えました。
その子は、UC Berkley の学生で、西泉さんがいるところですね。LPSC は 5 回目だそうです。なんか話が進んで、松岡さんが抹茶クッキー化ケーキをあげると、月の宣伝のバッジをくれていました。
そうしている間に、開始 10 分前になったので、私は 4 番会場の NASA Facilities のセッションに行きました。ボスの Ralph が RELAB の発表をするからです。NASA は実験室予算をどこに出すかということで、宣伝する機会を与えているようです。
01:30 の最初は、Justin Hagerty による RPIF(Regional Planetary Information?)ノードの話で、惑星探査のデータをアーカイブする基地のことでしょうね。
次は RELAB の番で、Ralph Milliken が Past, Present, and Future of RELAB ということでよい発表をしました。うちはもう 30 年も一貫して反射スペクトルを測定していて、私は 2 番目の技官でもう 20 年以上やってますから、一貫性はすごいものです。今日のポスターもそれに関してです。
次は、David Williams 氏が Planetary Aeolian Lab ということで、風洞実験の宣伝をしていました。
そこで私は、別室の宇宙風化のセッションに移動しました。
02:15 からは Roy Christoffersen が、宇宙風化模擬実験としてパルスレーザーをカンラン石ペレットに 1 回および 99 回当てた時の粒子の変化を解析していました。Roy は 1 回当てた時にできたナノ微小鉄の層は、蒸着でなく表面がメルトになったのではないかと考えているようです。
次は、Jeff Gillis-Davis で、やはりパルスレーザーを Ceres の模擬物質としていろんなものに当てて Dawn データに合うか調べていました。なかなか難しいと思います。
3;00 からは、私が NASA 研究費で CoI として応募している提案の PI が 1 番の部屋の分化した隕石のセッションで発表するので、顔を見に行くことにしました。Cyrena Goodrich という人で、Polymict ureilite の中に炭素質コンドライトをはじめ普通コンドライトや R コンドライトやアングライトの岩相が入っているという話で、そこから Ureilite の母天体の場所を主ベルト帯の内側だと推定しているような感じでした。わたしも、きっと S 型小惑星の中にあるかもと言おうかと思いましたが、質問者が多く、時間がありませんでした。
その後は、私も発表する、Comets and Carbonaceous 何とかというタイトルのセッションで、まず 03:15 からは私の NASA でのボスだった Faith Vilas が木星の不規則衛星の反射スペクトルから 0.7 ミクロン帯を見つける試みで、見つからなかったようです。
次は Mike Zolensky で、Jbilet Winselwan という CM コンドライトの組織から、CM は水質変成をしてから加熱変成して脱水した組織があり、それは Orgueil のような CI でもみられるそうです。
次は、Jordan Steckloff 氏が彗星の噴出がどうトルクを与えるかというモデル計算でしたが、終わる前に私はトイレに行ったりして自分の発表の準備をする必要がありました。
もどると、私の直前の人のモデル計算の話が始まっていて、私はマイクをつけてもらって待機しました。
私の話は、宇宙研のイトカワ試料のシンポや、はや2の科学サブグループの会合でも紹介したものを進化させてものです。ONC-T の 4 バンドと、NIRS3 からも 4 バンド取って、どれだけの炭素質コンドライトの種類を識別し、更に、粒子サイズ・熱変成・宇宙風化・炭素量を見積もるかという話です。
質問の時間に、矢野さんが、宇宙風化の程度を見るのに NIRS3 データが必要なんですね、といったので、Yes とこたえ、杉田君は、なぜ NIRS3 は ONC-T ほど種類識別に役立たないのかと質問してきたので、まあ波長バンドの選び方や、吸着水の問題もあると答えました。
あとで Faith Vilas が、I really liked your talk と、非常にうれしいことを言ってくれました:)
私の後は吉川先生が最後で、はや2の全体的紹介をしていました。割と盛りだくさんで長かったです。
先ほど HEB で寿司とパンとバナナを買ってきて、軽く食べたところで、もう 06:03 なので、ポスターに行かないと。
Vol, 12. 2016/03/25 PM 12:06 日本時間
やっとポスターセッションを終えてホテルに帰ってきました。
前もって下見しておいたせいか、ポスターセッションは意外と余裕でやれて、09時のシャトルに乗ってこれました。
私のポスターは、RELAB と他の大学の分光器の性能比較ですし、Ralph のポスターは RELAB 全般の照会ですから、ホットな最近の研究成果というわけではないので。
ただ、今回試料を返してあげた Bethany Ehlmann が来て、そのお礼と、その資料を使って研究論文を書いたポスドクの人の現状を教えてくれました。あとは、今回の NASA 施設の特別セッションやポスターのことを知らなかったようで、ちょっと残念がっていました。私は、今からでもアンケートに答えたらよいと勧めましたが。
そして今度は、カナダの Winnipeg 大学の Ed Cloutis のところの Paul Mann が来て、私のポスターの中村智樹君の Bruker が可視領域で素晴らしいスペクトルを出しているのを見て、いったいどうやったんだ、と尋ねてきました。彼らの機会は全く使えないデータしかその領域は出ないそうで。
なので私は、短波長は、外部からキセノンランプで強い光を入れているのだ、と教えてあげました。Paul はひどく喜んでいました。あと、自分たちは窒素をパージしているが、とてもお金がかかってしょうがない、どうやったら乾燥空気を送れるのか、と聞いてくるので、Parker-Balston とかの会社で、圧搾空気を出す Compressor と水や二酸化炭素を除くフィルターが付いた機械を買って、フィルターは一年に一回くらい取り換えると説明しました。それに対しても、とても喜んでいました。
やっぱり実験って、細かいことが意外と重要で、論文に書かないこともいっぱいあるし、1つの実験室や人間がいなくなるだけで、かなり重要なことが失われるかもと思いますね。それを理解して、NASA は RELAB の実験室サポートを再開してほしいものです。
あとは、松岡さんのポスターを覗きに行くと、日本人っぽいお客さんが来ていたりしたので、まあ安心して、Ralph のポスターは Ralph 自身もいなかったので、やっぱりねと思いましたが。あとは、小惑星関係も見に行きましたが、かなり混んでいました。私がいつも対決していた Gaffey のグループの、車いす上の豪傑女性である Sherry Fieber-Beyer さんは、いつもの様に向こうから一方的に Hi, Taki, how are you ? ってポスターの前で挨拶してきたので、ちょっと歓談しました。
最後の方で、阪大の西谷君とあって、明日の午後はどうすると尋ねたら、NASA ジョンソン宇宙センターの方に行きたいということで、二人で車を出してくれる人を探し始めました。まだ未定なので、読んでる人で会場に来ていて車がある方、ご一考ください。
そうそう、MGM 開発者の Jessica Sunshine がまたあいさつに来て、どう元気、という感じで会話をしました。
ということで、明日はまだ午前中はセッションが続きますが、午後はどうなるか、イースターの週末だからということで LPSC が午後をキャンセルしたので、ちょっとした空白になるか、冒険の半日になるかでしょう。
Vol, 13. 2016/03/26 AM 01:43 日本時間
とうとう今日は最終日、金曜日で、今年はイースターの週末にくっついたので、午前中だけです。
今朝は Super 8 で朝食を取った後、阪大の西谷君と一緒にシャトルで楽しい会話をしながら会場に着いて、第5会場である、私の専門である小惑星のセッションに行きました。
司会は 3 ミクロン吸収帯の観測でも有名な Andy Rivkin と、ポスターセッションでもあった Sherry Fieber Beyer です。
8:30の最初の講演は、Kevin Graves 氏で、Q 型小惑星が S 型の宇宙風化層を飛ばすには、風化速度の一千万年に対し、衝突更新速度は遅すぎるので、スピンによる分裂で更新するのがよいという話でした。それで、Static YORP 効果の計算だと小さい小惑星にQ型が多くなりすぎるので、それに大きさに関するスケーリングを入れた Stochastic YORP モデルだと観測に合うようになるという話でした。
次は、S. Tardivel 氏が同じ YORP のスピン効果の話をしました。2008EV5 や 2000DP107 をあげていました。
9時になって、David O'Brien 氏が、2008TC3 が Almahata Sitta としていろんな隕石種を含む Polymict ureilite があるので、ユレイライトの母天体の大きさと、そこでどうやって隕石種が混じられるかというモデルの話でした。
次は、宇宙研の岡田さんが熱慣性と、はや2の TIR や MARA などでどうやって小惑星リュウグウの熱慣性を測るかという話でした。ちなみに、イトカワの熱慣性は 600 くらいだそうです。
続いて、J. Arnold という女性の方が、Oxford Thermal Emission of Regolith Model(DTERM)というモデルを使って、測定と比較するという発表をしました。空隙率が赤外スペクトルに以下に影響するか、とくに、CF, TF, RF などの特徴の変化です。
その次の、Carey Legett 氏は、ナノ微小粒子の話で、エアロジェルと岩塩を使って測定していました。私は試料の不純物や測定データの補正に突っ込みを入れさせてもらいました。
10時になって、Jay McMahon 氏が、Kaula's Rule という重力の高次項の計算式の話をして、OSIRIS-REx で何を狙っているかの照会をしました。
次は Patrick Taylor が Arecibo と Goldstone のレーダー観測の話でしたが、プロジェクターに画像が出てこず、自分のパソコンをつないで復活するまで時間がかかり、それでも良くやっていました。1998WT24とか、観測史上最少 2 m の 2015 TC25 とかを紹介していました。衛星のある小惑星も二つ紹介していました。
10:30 になって、Sebastien Charnoz が Photos と Deimos を巨大衝突で作るという話で、日本がやろうとしている火星衛星試料回収ミッションには非常に重要な話でした。それによると、Phobos も Deimos も火星と、衝突してくる天体の物質が混ざった形でできるようです。
次はJ. Galache 氏で、NEO を早く見つける地球防衛のために、4 m の望遠鏡をあてがうべきだという話でした。
私が出る前の最後は、Andy Rivkin で、L バンドの 3 ミクロン帯から、Driss Takir がやったように四つのタイプがあり、CM コンドライトに近いはずの Ch や Cgh はすべて Pallas 型で、他はどのような分布があるかを紹介していました。Themis と 67P の 3 ミクロン帯が似ているという話もしていました。
Vol, 14. 2016/03/26 PM 23:59 日本時間
廣井@ヒューストンインターコンチネンタル空港です。
今年は復活祭の影響で、金曜日の午後は突然空いてしまった感じなので、午後は外国からの参加者たちはまちまちに時間を過ごすことになりました。
お世話になった阪大の佐々木晶さんの学生さんである西谷君が NASA ジョンソン宇宙センターの訪問者用施設である、Space Center Houston(SCH)に行きたいということで、いろんなグループに声をかけたのですが、皆都合があるようで、金曜日の朝、誰かを捕まえようということで、朝は Super 8 から同じシャトルバスで会場に向かいました。
そうしたら、ちょうど会場ロビーで宇宙研の岡田さんが座ってパソコンを打っていたので、今日の午後はどうするのですか、と尋ねると、NASA の Paul Abell と昼食とかあるかもしれないけれど、毎年やってるし、約束じゃないしということだったので、だったら、ということで、ちゃっかりお願いしてしまいました。
もしタクシーで行ったら、何と片道 $136 とかかかるようなのです。それで、ホテルの受付近くに行って、SCH の割引クーポン付きのチラシがないか探したら、案の定、$5 引きのがありました! ところが、何と平日は五時で閉まってしまうというではないですか。なので、岡田さんに頼んで、セッションが 11:45 に終わったら、直行して向こうでお昼も食べましょうということになりました。
それで、前回書いたように、小惑星のセッションが終わってから速報を急いで書き、明日の搭乗券を印刷して、会場ロビーに戻り、西谷君と、岡田さんが会場から出てくるのを待ちました。ちょっと、宇宙研のキュレーションの橋爪さんに挨拶して、三人で駐車ビルへの渡り廊下に向かいました。
そうしたら、先ほど座長をしていた Andy Rivkin が誰かと歩いていたので、追いついて、あなたはいつも愉快でよい座長だが、LPSC のお気に入りのあなたと違って私にはほとんど座長の位置が回ってこないよ。2011年のはやぶさ特別セッション以外は。というと、自分が決めているんじゃないけど、というので、あなたならきっと影響力あるよ、と冗談半分に言っておきました。
誰が口頭発表を得るとか、座長をやるとか、どう考えてもバイアスがかかっていると思います。私は1991年以降、1998年に次女が生まれた年を覗いて、今年2016年まで 25 回参加していますが、上記のように、2011年の時以外は座長をさせてもらっていません。いつから座長を希望するようになったかわかりませんが、おそらく 15 回は、あの欄にチェックマークを入れていると思います。私の英語がだめなのか、顔が悪いのか、口が悪いのか、頭が悪いのか、いろいろあるとは思いますが、今後の動向を注視する必要があります。
そんなことで、無事に SCH に向かい、かなり渋滞して時間がかかりましたが、近くの懐かしい Motel 6 の横の Waffle House で昼食を取り、二時ちょっとすぎに到着して入場券を買いました。標準の入場料が大人 $25 で、$5 割引クーポンがあったので、一人 $20、三人で $60 くらいで済みました。
私が1991年に初めて NRC 研究員として NASA ジョンソン宇宙センター(JSC)に足を踏み入れた時は、SCH はなく、職員と同じゲートからはいって、バッジをもらい、歩いて回ったものです。私が三年間 JSC にいた間に Disney の介入によって SPH はできて、完全に変わりましたが、Tram にのって構内のツアーは依然としてあります。
それが目玉なので、ゲートに行くと、何と一時間待ちで、二つのコースのどれも各一時間かかるということでした。本当は朝七時から来ていればよかったのでしょうが、とにかくブルールートに並んで待ちました。まだ二十三歳の西谷君にとってはとにかくすべてが初めてで刺激的だったのではと思います。このコースは、あの有名な Mission Control と Saturn V ロケットを見られるルートです。
途中で、私も三年間働いた、惑星科学者たちが働く Building 31 が見えて、それを説明してあげました。Saturn V ロケットも、使われなかった本物で、記念写真を撮り、SCH 内に戻ってからは、スペースシャトルの Mockup や展示をいろいろ見て、お土産を買って帰ることにしました。
そして、西谷君は買った NASA の T シャツを着て、岡田さんの好意で空港まで送ってもらいました。
この一週間、ヒューストンは寒く、疲れるようなハードスケジュールでしたが、多くの刺激があり、最後も、西谷君を通して 25-30 年前の自分を見るようで、また皆と最後に別れる、もの悲しさも毎年の様でした。
また来年もよい体験ができるよう、この一年研究・教育・ミッションに頑張りたいと思います。