ヒューストンからセッション速報 - Session Report
月・惑星科学会議 - LPSC : February 20, 2019. Latest
2015 46th Session Report
LPSC 2015 - March 16 - 21
Vol, 01 ~ Vol, 15
Vol, 01. 2015/03/16 PM 13:43 日本時間
やはりヒューストンは暖かい!まだ冬の寒さのボストンから昨晩やっとヒューストンに着いて、今は、LPSC の受付とレセプションを終えてホテルに戻ったところです。
昨日のダラスからヒューストンへの飛行機が遅れて、夕方6時に着いたかと思えば、Super Shuttle の受付に団体さんがたむろしていて、カウンターの係員たちは私の存在に気付いているのかいないのか、全く無視でした。「何分待たせるのか」と尋ねたら、1人の方は全くの不愛想で、「ちゃんと応対するから待ってろ!」という感じでしたが、もう1人は、「まだチェックインしてないのか?」と驚いた感じで、すぐに私の予約をチェックして待ち行列に入れてくれました。人が代わればこんなに違うものです。そのうえ、シャトルが来てから何とホテルまで2時間もかかりました。後で到着した客を乗せに引き返したり、行き先が分からなかったりして迷ったりしていたからです。
それで、すでに夜8時でしたが、いつもの Super 8 にチェックインして、またいつものスーパーマーケット HEB と Subway に食べるものを買いに行きました。今回は、かなり前に予約して、一泊 $50 の安い部屋を取れました。まあ、風呂と睡眠だけの用事ですから、他のホテルのような一泊 $200 は勿体ないです。隣のレストランの騒音とか、お湯の温度とか、テレビの質とか、朝食の内容とか、コンセントの数とか、小さいことにこだわれば限りないですが。。。大昔に、LPSC が NASA ジョンソン宇宙センターのそばで開かれていたときは、NASA Road 1 と I-45 の交差点にある Motel 6 を利用して、一泊 $30 以下とかでしたが、その時も、歩いて行けるところに商店街や Dollar Cinema があり、$1 で映画を見たり、買い物・食事に不自由はしませんでした。隣の Waffle House で朝食をとるのも好きでした。逆に、会場に歩いて行けるあたりの高級ホテルに泊まると、周りも安価に飲食や買い物をできる場所が少なかったりして困ります。
先週は LPSC の発表のための最後の顕微分光測定に忙しく、昨日は飛行機の中でそのデータをまとめて発表スライドを作り始め、昨晩は風呂に入ってからゆっくり睡眠をとり、今日の昼間は近くの Big Lot という店で家族にお土産を買い、また Subway で卵入り野菜全粒粉サンドイッチを買ってホテルで半分食べて残りは夕食に残し、学会会場に行く 3:30 の最初のシャトルに乗りました。私のホテルは Blue Line と呼ばれるルートにあります。一番小さい車で回る少人数のルートです。
会場に着くと、エスカレーターを上がる前で杉田君と鎌田君に会い、はやぶさ2の ONC と隕石試験の論文関係の話をちょっとして、そこにいろんな人が通りがかってきたので、別れて私は受付に行きました。名札と領収書を印刷してから、メールチェックにパソコンで WiFi を利用していると、ちょうど佐々木晶さんに会えたので、ブラウン大に来て、できればお昼のセミナーをしてくれないかという話をしていました。そうしたら、会津大の NIRS3 の PI である北里君も来たので、いやあ今回も多く日本から知っている人たちが来ているなあとうれしくなりました。はやぶさ2が無事打ちあがったので、PI たちもほっとしているのでしょう。
レセプションでは、北里君や寺園さんと会津大の学生さんたちが固まっていたので、ちょっと北里君を捕まえて、NIRS3 の論文と研究のことをいろいろ相談し、その後は同位体測定の木多さんが来たので、また久しぶりですねということで近況を歓談しました。年に一度だけここで会う人が私には本当に多いです。
北里君の学生で藤原さんという女の子が測光の研究で今回ポスターを出すというので、火曜日のポスターを見に来てくださいと言われましたが、スナックのそばで宇宙研の仲内君と話しているうちに女の子たちが来て、その一人が藤原さんでした。そうしたら、東大後輩で RESTEC の彩ちゃんが来たので、お互い紹介しているうちに、はやぶさ・かぐやでの我々東大の武田研出身者たちの活躍を若い学生さんたちに話す場になってしまいました。まあでも、LPSC は忙しいので、機会があるときに若い人たちには日本の惑星探査での科学者の健闘ぶりを知っておいてもらった方がよいでしょう。
その内に、Dawn でガンマ線をやっている山下君が私のところに来て、Lucy McFadden が私の後ろにいたけど、日本の女の子たちに囲まれて楽しそうにしているから声をかけにくくて行ってしまった、と言っていたので、ああそんな風に見えていたんだー、と今更ながら自分を客観的に見てくれている先輩・友達である Lucy に感謝しました。それで仲内君と山下君と日米の惑星ミッションのいろいろここに書けない話をして8時過ぎにシャトルに向かいました。
こうして書いているうちにすでに夜の11時半になりました。早く寝ないと、明日からは学会で毎日6時起きです。
Vol, 02. 2015/03/17 AM 01:42 日本時間
今日は初日月曜日で、Super 8 から朝7時半のシャトルバスで行きました。
朝食で、名市大の三浦均君と一緒になり、佐々木晶さんも間際にシャトルに乗ってきて、途中で小さいシャトルは超満員になりました。
今朝は Rosetta およびその着陸機 Philae が彗星 67P/Churymov‐Gerasimenko で測定した内容のセッションに出ました。
最初の Stephan Mottola は、ROLIS というカメラで撮ったタッチダウンサイト1の解析で、測光的には均一性を示し、レゴリス粒径は 1~2m のものもあり、300m 四方の領域を見ると、南北に線が見えているということでした。
次は Wright 氏で、Ptolemy という質量分析器で有機物を測定し、メタンがあり、ハレー彗星と比べて似ているけれども厳密には合わないようなグラフを示していました。
Francois Poulet は、CIVA(Comet Infrared Analyser Panorama?)といういくつものカメラで形状観測をし、アルベド(明るさ)は暗い方が 3% 程度で明るい方は 10% 程度で、明るい方はきっと水氷のためだろうということでした。また、粗い砂利状の領域と、滑らかで亀裂が見える領域とに分かれていて、後者は熱効果でできたのではないかと。あと、微小天体がミクロンサイズから ㎝ サイズに成長するモデル計算をしていました。
Ciarletti 氏 は、CONSERT という着陸機の装置と母船との 90MHz での電波の誘電率を使って密度やコアの大きさや空隙率のモデルを出していて、バルク密度が 0.47g/㏄ 程度で、次のSierks 氏の発表と合わせると、空隙率は 70-80% ということです。水氷のコアがあるのかどうかが決定的にわかっているのかどうかは明瞭でなかったですが。あと、Sierks 氏は、レゴリスサイズ分布に 2m 程度のもの一番多いというピークがあるそうです。
Jackel 氏は、ROSINA という装置で H2O, CO2, CO の量を求めていて、H2O と CO2 は逆相関があり、H2O/CO2 という比は緯度に依存していて、CO2/CO の比とは逆相関があるようです。日の当たっている北と陰になっている南とは温度も太陽からの光子や粒子線が違うので、出てくる元素が違うのでしょうか。
Schindhelm 氏は、かなり自信なさげの発表でしたが、Alice という装置で紫外の放射スペクトルから CO2/H2O が太陽直下のコアで 4.5% 程度で、北半球は 0.5% 以下で南半球は 30% 以上という差があるということです。ただ、その測定が電子の衝突によるのが大きいとかで、組成の違いを見ているのかどうかわからないようです。
Hofstadter 氏は、MIRO というガスを測る装置で、熱慣性を測定し、氷が 2000、彗星 Stein が 650、小惑星 Lutetia が表面で 10 以下で 5㎝ の深さで 40 程度であるのに対し、この彗星 67P/C-G の 30K の温度の南極の夜においてかなり高い値を示すので、水氷の存在を示唆するのではと言ってました。
Capaccioni 氏は、VIRTIS という可視から赤外までカバーする装置で、H2O と CO2 の蒸気の Map を作っていました。
England 氏は、COSIMA(小島と聞こえます)という装置で、ダストを集めて測定をし、直径は 200 ミクロンまであり、Na, Mg, Fe が相関が高くて多く、橄欖石や硫化物があるのではと言ってましたが、私はなぜ含水鉱物を除外できるのかわかりませんでした。長石ならば Na 多いですが、含水鉱物ならばそういう揮発性のものを多く取り込んでいてもおかしくないです。
この辺で疲れて出てきてしまいました。WiFi の部屋でこれを書いてますが、隣には在米の LRO にもかかわっている佐藤君がいて、今週時間を見つけて、Hapke 先生と3人でちょっと測定の話をしようよと会話しました。
Vol, 03. 2015/03/17 AM 05:00 日本時間
お昼は極地研でお世話になっている三澤さんと、東大博物館に行った新原君と3人で隣のハンバーガーショップ「Which Wich」に行きました。専用の袋に欲しいサンドイッチとそのオプションの詳細を書いてお金を払ってから待つシステムです。毎年のように行列ができていましたが、12時半頃行って、1時10分頃には食べ終わりました。最近の極研や日本の惑星科学分野の研究費や就職状況をいろいろ前後に話しました。
1時半からは全員が1つに集まるセッションで、まず昨年 Dwornik Award を撮った我がブラウン大の Diane Wetzel が受賞を受けました。Diane はこの会場の近くの石油会社に就職したこともあり、卒業後もちゃんと今年来ました。
昨年くらいから、アメリカ市民だけでなく、アメリカで研究する外国人も受賞対象になったので、ポスターセッションの受賞者は中国人らしい名前の人でした。
また、海外からの参加者や、アメリカから海外の学会に参加する人のための Perazzo International Student Award もできていました。毎年 Dwornik Award のアメリカ市民という制限に20年くらい苦情を申してきましたが、やっと近年になって改善の兆しが出てきました。ただ、在米の人だけというのはやはりよくないです。
LPSC への旅費を支援する、LPI Career Development Award にはブラウン大の Terik Daly など13人が受賞していました。
今年の Masursky Lecture は、Lars Borg という同位体測定の科学者で、月の Mg-suite と FAN(Ferroan anorthosite)との年代に違いが見えないということで、月の起源における Magma ocean 仮説に疑問を唱えていました。
とにかく、パラダイムがシフトしたりしていくのが科学の常なので、どんどん疑問を呈していく科学者が増えていったらよいと思いますね。
今日は NASA HQ の会が5時半からあるので、それまで自分のスライドを訂正したり、雑用をしておくことにします。
Vol, 04. 2015/03/17 AM 11:38 日本時間
これからホテルに帰るところで、今日の最後の速報です。
午後は休憩していたのですが、スライドもできたし、雑用も終わったので、Chondrites I セッションの途中だけ参加しました。
3:30からの Jilly-Rehak 氏の CR コンドライトの酸素同位体の話は、いろんなCR隕石試料を比べて、分類や、結晶化温度とかを求めていましたが、次の発表者がキャンセルされたこともあり、John Wasson とか Allan Rubin とかいろんな人から多く質問などが出ていました。特に、衝突とかで小さいスケールの部分溶融ができて、それが局所的な同位体分配を起こしたりして複雑なものなんだと苦情を言っていたような気がします。Wasson は氷の存在は必要ないという、また彼特有の非典型的意見をのたまっておられました。
4:00からの Mike Zolensky の講演は、炭素質コンドライト中のメルトの話で、今一論点がはっきりしませんでしたが、まあ彼によくある発表でした。
そのあと、ちょっとメール確認などをして、私が一番楽しみにしていた 5:30 からの NASA HQ の説明会に参加しました。
いつものように NASA HQ の惑星探査部門の Jim Green が全体の予算とかの説明をしました。2015年度は10月1日からということですが、大統領の予算請求を上回る額を国会が承認してくれたそうで、みな大喜びですね。今後も少しずつ増え続けるという見通しのようです。今年は、探査衛星 Dawn が最近、準惑星 Ceres に到着しましたが、New Horizon が冥王星に7月に到着しますし、Rosetta/Philae の彗星着陸とともに、始原的な天体のブームになりそうですね。
次は David Shurr という人が Discovery が $450M 以下で、New Frontier が $850M とかの制限で、またいつか公募が始まるという話と、すでに進行中の Dawn, New Horizon, JUNO, OSIRIS-REx といったミッションの説明をしました。
一番安い Discovery でも、打ち上げロケットの費用を除いて550億円も使えるというのは、JAXA のはやぶさ・はやぶさ2がロケット込みで 200-300 億円だったことを考えると、ほぼ3倍使えているということかも。でも、日本は常勤の職員の過酷労働でやっている分もあるから、その隠れた人件費も計上すれば、結局もっと近い値になるかもしれません。
研究者が一番気にしている科研費の採択状況は、Jonathan Rall という人が説明し、合計の額は増えているのに採択率は低下していて、6倍くらいの競争率になっているようです。どうやら応募件数が増え続けているためのようです。私の Emerging Worlds のも昨年落とされましたし、厳しい世界です。
最後は、Ben Bussey という人が有人ミッションの話をし、Cis-lunar space と呼ばれる地球と月とのラグランジュ点のうち安定した L1 と L2 を用いた月・火星への有人往復飛行のためのプランを説明していました。いつか、映画 Interstellar のような世の中が来るのでしょうね。
7時半のシャトルでホテルに戻って、買い物をしてきて食事をしたらもう9時半になりました。これからシャワーを浴びて早く寝ないと。また明日は6時半起で Ceres のセッションに8時半から出て、ごごはポスターセッションが夜9時とかまであるので、恒例のハードスケジュールの始まりです。
Vol, 05. 2015/03/18 AM 02:38 日本時間
今日は LPSC の第2日目の火曜日です。
今日も私の7時半のシャトルは満員で、それ故に、運転手は最後のホテルを他のシャトルにお願いしていました。
午前中は、何といっても Dawn による準惑星ケレス観測の結果です。
最初の、PI である Chris Russel の講演は、ミッション全体の説明をし、特にイオンエンジンを本格的に使った最初の NASA ミッションだと強調していました。ハッブル望遠鏡でもとられた明るい点のことや、クレーターの様相がベスタとは違うという点に触れていました。
次の Nathues 氏は、Framing Camera の PI(主研究者)で、クレーターの特性をグラフにして、岩石と氷惑星の場合と比べ、ケレスは氷惑星により近いことを示しました。もちろん氷惑星と同じでなくて、岩石の方にややずれているわけですが。明るい点は 80㎞ のクレーターの内部にある数 ㎞ とかのもので、日の出から日の入りまで観測すると、明るさが太陽の日照に依存していることがわかり、多色スペクトルを見ると、もっとも明るいときは、550nm のバンドに放射光のようなピークが見えるということです。これは水蒸気とも解釈できるようです。
次は VIR を使った Francesca Zambon の発表で、ハッブルで RGB 画像を作った Li らの研究と比較して、VIR を RGB に換算すると、西と東で非均一性があり、私の解釈では西半球の方が水または含水鉱物が多いように見えました。
そのあと、ブラウン大の卒業生の Bethany Ehlmann が望遠鏡観測の発表をし、北側の方が温度が高いのではという結論を出していました。
ここからは、岩石や氷を使ったモデル計算の発表が多く続きます。
特に、Misha Zolotov は CI コンドライト隕石組成から始めて、中心から表面までどのような鉱物がどれだけできるかをモデルしていました。それによると、CI に多い Saponite が多くあってもよく、Dolomite などもあってもよい、とても面白く可能性の大きなモデルだと思いました。
Marc Neveu は、液体の水を保つためにどういう不純物を入れたり、熱源が必要かをモデル計算し、40K が粘土や K 長石にどれだけはいり、どれだけ流出してしまうか、そしてアンモニアがどこに入るかという計算をしていました。
Titus 氏は、氷の安定性計算をしていて、ケレス上では緯度 50 度前後に Snow Line(氷ができる境界)があり、ケレスは冷たくて氷が気化しているだけなのか、内部は暑くて、水が火山のマグマのように噴出しているのかどちらかという考察でした。VIR で検出されたような赤道域の方が温度が低いという現象も起こりうるといっていました。
Formisano 氏は、熱慣性をモデル計算し、最高温度は VIR の測定と一致して、235K 程度だということでした。
次の Carl Hibbits の発表は面白く、気球でバンド分光器をあげて、ケレスの多色画像マップを作ったというものです。3 ミクロンの含水鉱物吸収をカバーするバンドが 2.47、2.7、2.85、3.05、3.2、4、4.27、…とあるわけですが、エラーとかばらつきはあるものの、ケレスの吸収帯の形は CI コンドライトよりも CM コンドライトに近いという結果を出していました。私の経験 と Akari からの情報では、CM と氷を混ぜたようになるのが一番近いのではと思います。
最後の Davison 氏は、ケレスの内部が含水鉱物、乾燥鉱物、そして含水鉱物表面に泥のようなものが乗った場合にクレーターのでき方がどう違ってくるかというシミュレーションをしていました。
まだまだデータの解析がもちろん不十分ですし、解像度も 4㎞ しか行ってない軌道ですが、今後のデータや解析が楽しみです。
始まる前に、すぐ後ろに山本君と中村良介さんがいたので、かぐや SP による月の組成の発表の話と、Hapke のH関数の話をちょっとしました。私が22年も前に出した論文が役に立っていることはうれしく思いました。
私の横は Josh Emery が座っていて、彼が質問した内容になかなか要点をついて答えられない発表者がいるときは、私がこっそり隣でコメントしたりしていました。今回は私は質問などせず静かに聞いていました。
では今からゆっくりお昼にでも行こうかな。
Vol, 06. 2015/03/18 AM 06:30 日本時間
午後は、お昼ご飯を食べに行くのが遅れたこともあり、特に面白そうなセッションもなかったので、ポスターセッション会場に行って Dawn の Vesta のポスターなどをみていると、Hawaii の Jeff Gillis-Davis に出会いました。
最近の RELAB への科研費の状況や、日米の惑星ミッションのこと、そして Paul Lucey が如何に優れた研究者か問うような話をしばらくしました。Jeff は最近、我々と同様に炭素質コンドライトの宇宙風化の実験をしており、我々の結果とどう異なるかという会話もしました。こういう場では、本音で話せるからよいですね。ここに書けないことも多いですが:)
ポスターを見ていくうちに、ブラウン大卒の Janice Bishop をやっと見つけたので、会場で渡したいと言われていた四つの試料をやっと受け取ることができました。彼女は火星の含水鉱物の研究を専門にしています。その時に、有名な Remote Geochemical Analysis という本を編纂した Englert 博士にも会うことができました。お互いに、あえて光栄ですと言い合いました。
そのあとでは、中村良介さんがやはりポスターを見ていたので、ポストはやぶさ2ミッションのことと、鉱物の光学定数をどう求めるか、そうして日本の惑星科学の展望について長々話をしました。途中で極圏の山口君が来たので、良介さんは南極隕石の見つけ方の質問をしていました。
そのあと、コーヒーをもらって、買ってきたツナ野菜サンドイッチを食べようと机に着くと、向かいに、会津大の藤原さんがいたので、今回のポスターで発表している Hapke モデルによる測光の研究と、指導教官である北里君との昔話とかをしました。
おっと、もう4時半なので、ポスターに戻ろうかな。
Vol, 07. 2015/03/18 AM 10:57 日本時間
ハードなポスターセッションも終わりに近づいて、私はロビーに出て、極地研の山口君、宇宙研の安倍さん、藤本先生とかと、隕石やはやぶさなどの探査ミッションの話をしています。
今日のポスターは、私の最大の興味のテーマはやはり Dawn のベスタとケレスの結果ですが、まだケレスのデータの発表は当然ながら確かなものはないようです。
1つ気になっているのは、ベスタの上にあんなに多くの CM コンドライトらしい隕石のコンタミ(混合)があるように見えるのに、ケレスの表面の反射スペクトルを解釈するのに、CM コンドライトの効果を考えていないような発表のポスターがあったことです。もちろん、そういうのには、0.7 ミクロンの吸収の検出法を教示してあげましたが。口頭発表のときには、そういう話はややありましたが、含水鉱物という意味で、CM 自体の混合という意味ではなかったと思います。
ベスタの FC や VIR のデータもかなり解析が進んで、たとえば、橄欖石の分布が自然でないから、普通コンドライトとか外から来たもののコンタミではないかとか、私が上で指摘したようなことを考えている人もいました。ただ、Olivine-Diogenite もあるので、やはりベスタ起源の橄欖石があるはずです。
Dawn 以外では、RELAB によく試料を送ってきている、Maggie McAdam の先生であり、ブラウン大卒業生の Jessica Sunshine といろいろ研究及び科研費やミッションの状況をざっくばらんに話しました。彼女を含め、RELAB と私の行く末を心配している人たちがいるのはありがたいことです。
あと、会津大の北里君の学生の藤原さんのポスターを見に行って、いろいろ質問や改良の示唆をしてあげました。4月から就職されるようですが、有機物を含む物質の測光測定の Hapke モデル計算という良い仕事をしています。
とにかく、今回の LPSC は、はやぶさ2チームをはじめとして、会議をしてもよいくらい宇宙研の人たちもきているので、はやぶさ2の HJST 会議をやってもいいくらいだと思いました。
Vol, 08. 2015/03/19 AM 02:28 日本時間
昨晩は非常に遅くまでかかったのでさすがに疲れて、今朝は1時間遅らせて8時半のシャトルで会場に向かうことになりました。そうしたら、Super 8 ホテルの朝食とシャトルで、横浜国大の癸生川さんといっしょになり、すこし、ミッションの話をしました。
有機物の H とか N とかの同位体組成は小惑星や彗星の表面物質を気化させたりして測定するようで、ランダーに質量分析器を載せてもよいらしいですね。でも、私としては試料回収がやはりやりたいので、リターンカプセルを冷凍できなくて氷とかが気化してもガスとして分析できるというのは非常に強みと思いました。あとは、Rosetta/Philae の赤外分光器のデータのことを尋ねたら、やはりもっと長波長の 10 ミクロンとかの領域までないと有機物の同定には使えないようで、私としては、トロヤ群 D 型小惑星の探査とかのために開発しませんか、とお願いしておきました。
今朝は、小天体ではないのですが、月試料からの月のマントルとかの組成・起源のセッションに参加しました。
有名で渋い声の Brad Jolliff と、若い研究者の Jennifer Rapp という人が司会をしていました。
9:30からの Shearer 氏はアポロ試料17号 74275 の橄欖岩相が月のマントル起源ではないというような発表でした。かぐやや M3 では橄欖石がいっぱい見えているので、やはりそういう岩石を回収しないといけないでしょうね。マントルがほぼ橄欖石からなると仮定して。
次は、私も知ってる Axel Wittmann で、Dhofar 1528 という月隕石は、Impact melt ながらもそのスピネルがマントル起源ではないかという発表でした。確かにそのスピネルの鉄含有量は低いですし、共存する橄欖石組成は Mg が 88% で非常にもっともらしいとは素人ながら思いました。かぐや SP データと比べられるとよいですが。
そのあとの、Stephen Elardo 氏は、最も若いマグマからできたと思われる、NWA 773, LAP???, NEA003 という隕石から、NEA は深さが 215㎞ で温度が 1330度C でできたと推定していました。
次の Valentia 氏は、月試料では珍しい花崗岩である 12013 とそれに付随するソイルの 13033 を調べて、花崗岩部分と、REE が多い部分と、REE が少ないメフィックケイ酸塩の部分の3つあると発表していました。Brad Jolliff が、推測でよいからどこから来たか言ってみろとつめたら、彼女は、アリスタルコスクレーターではないかと言っていました。
10:30になり、Jim Greenwood という何かセリの司会者のように雄弁な研究者が出てきて、アポロ15号試料 15382 のアパタイトの D/H 量と隣接するガラスの F/Cl 量をプロットして、揮発成分を含む KREEP はどこの水から揮発成分をとってきたのか、湿ったマグマはどこにあるのか、という話をしていたようです。とっても早い口調で、ついていくのが大変でした。。。
次は Clive Neal 氏が代理発表で、高 Al および高 K の玄武岩の話をしていましたが、ちょっと論点がよくわかりませんでした。すみません。
次の Stephanie Brown は、酸素分圧・温度・圧力が生成したガラスの組成にどう影響するかを発表していて、高い TiO2 量と低い酸素分圧は Fe-Mg の分配係数を下げると結論していました。聴衆の中からそれを賛美する声もありました。
Rapp 氏は、アポロ16号試料 60635 の謎ということで、通常と違って Eu 量に負の異常がある部分があるということでしたが、結論は酸素分圧の影響ではなく、孤立した小さな系での異常ではないかという当たり前に私には聞こえる話でした。
最後の Hill 氏は、とっても小さい声で、Dhofar 1983 という隕石の研究発表でしたが、すみません、いったい何が結論なのかわかりませんでした。。。
明日は私の発表が午後にあるので、会場のプロジェクターに接続するテストをしたかったのですが、別の月の会合が開かれているようで、昼食を買ってくるべきかと考えている途中です。
午後は、小天体にもちょっと参加する予定です。
Vol, 09. 2015/03/19 AM 05:56 日本時間
午後のセッションをちょっと抜けて雑用中です。
1:30 からは小天体のセッションで2つだけ講演を聞きました。Vesta の H の測定でも論文を書かれていた Thomas Prettyman 氏と、RELAB のユーザーでもある Rhianon Mayne が司会でした。
最初は MIT の Roger Fu がモデル計算で、コンドライト的小天体の揮発成分が内部からどうやって外に吹き出すことができるかというもので、隕石の浸透率とマクロな空隙の効果から、割とすっと素直にぬけられるというような結果でしたが、Allende のように複雑な過程を示すものは往復過程もあるのではと言っていましたね。
次は、George Cody 氏で、癸生川さんとも共同して、タギシュレーク隕石の大きな D/H 比を作るにはどれだけ水が必要かというような話で、50 倍とか言っていました。私の理解不足もあるかもしれませんが。
そのあとは、また午前と同じ部屋の月のセッションに移りました。2:00から、Paul Lucey が講演し、かぐや SP データを用いて、月の小さく新鮮なクレーターを 2700 個選択し、その 1 ミクロン吸収帯の中心から、SPA と FHT の Mg 数が 73 と 78 とか出していました。地殻のメガレゴリス組成の統計を取っていることになるようです。かぐや SP データの高い S/N の強みを利用した良い研究だと思います。
そのあとは、ブラウン大卒業の Noah Petro が Sculpture Hills と Station 8 Boulder という関係のあるらしい2つの組成を考察していました。
3時からは、佐藤君が LROC の WAC という多色カメラで TiO2 量の推定値を出し、Clementine と Lucey のモデルによる値と比べていました。当然 Paul から質問とコメントが真っ先に出て、私も宇宙風化の影響について質問しました。
また4時半頃戻ろうかと思っています。
Vol, 10. 2015/03/19 AM 11:12 日本時間
ちょっと休憩した後は、また4時半から月のセッションに入りました。
Cronberger 氏は、アポロ 14160, 214 試料のREE(希土類元素)の量を測って、軽いものの含有量がばらつくという発表をしていましたが、複数の研究者から、それは急冷した結晶のいろんなところのゾーニングを測っているからだという鋭い指摘がありました。
次の Juliane Gross は、M3 で見つかったピンクスピネルの宇宙風化による変化を研究していて、やはり予想通り、短波長側は赤化・暗化しますが、2 ミクロンとかの長波長側はあまり変化しないです。その理由は、宇宙風化は短波長側に強く効きますし、スピネルの 2 ミクロンの吸収はすでにとても強いので、対して風化が寄与していないとコメントしておきました。また、本人も計画しているように、実際に斜長石に混ぜれば、風化の効果は透明鉱物の斜長石をコーティングするので、より大きく見えてくるはずです。
最後の Allan Treiman の発表は非常に面白く、スピネル斜長岩をつくる過去の2つの論文をけちょんけちょんに打ちのめすような、伝統的な相図とエンタルピーの議論をして、衝突によってしかスピネルは生成できないとしました。当然ながら、ブラウン大の Steve Pharman や Carle などからは反論が出ましたが、私は、メソシデライトの例もあり、衝突起源はなかなか良いと思いました。
Paul Lucey にしろ、Allan Treiman にしろ、アメリカにはすごい研究者たちが多くいるものです。
終わった直後、私の後ろに座っていた山本君と Paul は何やら研究の打ち合わせを始めていましたね。
私は、またロビーで、石原君の誕生日ということでたむろしていたかぐや関係の人たちと歓談し、佐藤君に、私の質問の意味と、今後必要な研究を教示し、そのあとは6時のシャトルバスを会津大の平田さんと立ち話しながら待ちました。
今日はこれからシャワーでも浴びて、明日に備えてゆっくり寝ないと。明日の午後は自分の発表もあり、夜はポスターですから。
Vol, 11. 2015/03/20 AM 02:13 日本時間
今日は LPSC の4日目の木曜日、私の発表もポスターセッションもある忙しい日です。
ホテルの朝食に行くと、阪大の岡崎さんと宇宙研の仲内君とかが一緒にいたので、Jeff Gillis-Davis に仲内君が話したがっているよとメールしたよと話したら、すでに昨日捕まえて話していたようでした。岡崎さんにはボストンに来た時の連絡先番号を知らせるようお願いし、仲内君とは健康的な食事について私のいつもの講義をしました。
8時のシャトルが10分遅れても来なくて、待っていると、宇宙研の岡田さんが寄ってきて、車で送りますよというので、ありがたく一緒させていただきました。車の中で、吉川先生や藤本先生は2日くらいですでに次の出張に出かけましたが、宇宙研とかにいると出張で忙しいですねというような話をしました。もちろん、役職にもよりますが、仕事の一環として旅費が多く出るのは良いですが、やはり海外出張とかが多いと体が持ちませんね。岡田さんにも、はやぶさ2の国際会議を LPSC の前日の土日にやればよいのにと話しておきました。
会場に着くと、ロビーで良介さんと平田君が会話していたので、仲間に入ると、極地研の山口君も寄ってきて(なぜ私が人と話しているといつも寄ってくるのだろう?)、Vesta と HED の関係の話をいろいろしました。私は Dawn ミッションの VIR のスペクトルデータの結果の論文を査読することが多いので、良介さんは、橄欖石の存在に関してあんないい加減な論文をどうして通してあげてるのということとか、2 ミクロン吸収帯や 1.25 ミクロンの肩吸収でなぜ高 Ca 輝石を考慮していないのかとか言ってました。まあ高 Ca 輝石はユークライトとして入れているし、1.25 ミクロンの肩吸収は冷却速度によって強度が変わるからといって説明してあげました。山口君とは、まあここに書けないいつもの話です;)
9時半から会場6番のコンドライト成分 II というセッションに出ました。
ハワイの中島君は、DOM 08006 という CO3.00 コンドライト中のタイプ II コンドリュールに囲まれた AOA(アメーバ形の橄欖石の集合体)の冷却速度を推定していて、AOA はタイプ II コンドリュールの前駆物質ではないかと言ってました。
次は Sasha Krot で、CH コンドライト中の CAI とかを調べ、斑状のコンドリュールは衝突による噴出でできたのではと言ってました。そうしたら、木多さんとかから鋭い質問も来て、これはすべてのコンドリュールがそうだと言っているわけではないと明確化してました。
中島君の発表のときも同様で、いろいろ異論はるけれども、こういう研究は太陽系星雲での固体物質形成の謎の解明のための1つ1つの小さな鍵を見つけているようなものですね。
10時からは、代理の Gouelle 氏が、コンドリュールの端を調べることでその前駆物質を研究するという発表でした。コンドリュールの生成には 350 万年もかかってますが、その前駆物質は 150 万年しか持続してないとかで、両者の形成はとても近かったということでした。木多さんもそういう結論になるコメントをしていました。
次は Jacket 氏がコンドリュールの衝撃波形成モデルで、これは日本では中本さんとか三浦君がずっとやってきたモデルですね。この人の今回の研究は、特に、小さい粒ほどガス中で減速されるので、大きなものにぶつかった際にどういう現象が起こるかというものです。私はそれよりも、小さい者同士が静電力で塊になるのが早いのではと思いましたが、十分に考えがまとまりませんでした。
Chaumard 氏は、タイプIコンドリュールの冷却速度を計算していて、CR コンドライトはメタルが多いのでそれを使うんだと言ってました。
1500-1700K の最高温度から毎時 1-96K とかの幅広い冷却速度のばらつきがあるということです。いったいそれは太陽系星雲における何を意味しているんだろうか?
次は何度も出てきている木多紀子さんです。そうそう、木多さんのニックネームは「ガラちゃん」で、それは結婚する前は鳥越さんだったので、「鶏ガラ」ということでガラちゃんだったそうです。私はずっと前に LPSC で初めて会ったときにそれを誰かから聞いて笑ってしまいました:)
おっと、脱線してしまいましたが、いつもシャープで物知りの木多さんは、Rumuriti という R3 コンドライトの3つの岩相での Mg# を求めて、形成時の酸素分圧が3倍ものばらつきがあると結論していました。今回も、ほとんどすべての講演に質問やコメントしていて、宇宙化学における存在感大きいですねえ。
次は Oulton 氏です。なぜかこのセッションはフランス人らしき研究者が多く、フランスなまりの英語に慣れないときついですね。我々日本人もかなりいるので、きっと日本語なまりの英語に苦労しているアメリカ人もいると思いますが。私は最初の部分聞けなかったのですが、この人は、Gujba という CB コンドライトの希土類元素(REE)から、CB コンドライトの衝突のときの蒸発と凝縮の研究をしているようです。
Fedkin 氏もまた、CB コンドライトの研究で、金属相の同位体ゾーニング(含有量が場所によって次第に変化していること)から、2つの分化した CR コンドライトの衝突でできたという、私にはちょっと本当かどうか見当もつかない面白い話をしていました。でも、私のように同位体化学の素人でも、反射スペクトルから、CV と CK は似ているなあと思っていたら、同じ母天体説も出てきたし、素人の勘もばかにならないと思います。
最後は、Shrader 氏が硫化物であるペントランダイトという金属相を解析して、熱変成の温度をいろんな種類の隕石について求めていました。CM が 600-100 度Cというのは高めと思いましたが、きっと日本の隕石試料のようにかなり熱変成脱水をしたものを含めればそのような範囲になってもおかしくないのでしょう。
ということで、皆がお昼に行って静かな WiFi 室でこれを書きました。
Vol, 12. 2015/03/20 AM 07:34 日本時間
やっと私の発表のセッションも終わり、ポスターの前の休憩です。
お昼のサンドイッチは、またまた会場の隣の Which Wich という店に行って、トマトやアボカドをレタスに包んだものを買いました。店に入って注文を書いていると、急に店の1人が「Taki!」といって、ドアを閉めてくれるか、というので閉めてあげました。なんと、今回まだ3回目なのに、名前を憶えている店員がいるのですねー!
サンドイッチを注文したら、いつものように「Drink or chips?」というので、いやサンドイッチだけでいいと言ったら、無料なのにいらないのか?というので、なぜと尋ねると、ドアを閉めてくれたから無料でつけるのだということです。すごいなあと思い、あの店員は私の名前を憶えていたけどすごいですね、というと、彼は名前だけでなくいろんなことをすぐ覚える、と言っていました。
サンドイッチを待っていると、Carle が並んできたので、今回の旅費の件と、発表内容がちょっとアピールを失っているので困っていると言ったら、アブストラクトの時点でベストを尽くしたのだから大丈夫だよと言われました。
買って戻ったらすでに5分前だったので、急いで Chondrite Components III の会場に入って、1時半からの最初の発表を聞きました。
Kiren Howard はうちのグループも共同研究している炭素質コンドライトを X 線解析で鉱物組成を調べている研究者で、とっても長身で若く、私にもとても親切です。試料の反射スペクトルを測ってあげていることもありますが。
今回は、炭素質コンドライト中の鉄を多く含む非晶質物質の話で、分析と計算の結果、CO や CR コンドライト隕石のマトリックスの半分くらいを占めるもので、非晶質の Fe/Mg ケイ酸塩鉱物に違いないということでした。それで、CI コンドライト的な前駆物質が加熱されて、非晶質ケイ酸塩ができて、それからコンドリュールができたシナリオを作っていました。
そのあとは、Nittler 氏が、symplectite という私も知らない鉱物の話で、酸素16に乏しい水からできたと言っていました。よく知っている人コメントしてください:)
2時からは、IOM 分析で有名で12月にも日本に来ていた Conel Alexander 氏で、IOM が重水素に富んでいることを説明するパリモデルというのの検証の話でした。過去の仕事から違った結果が出たわけではないようですが。
ここでやっとお昼ご飯を食べに抜けることができて、ちょっとだけ隣の5番の部屋に顔を出しました。
惑星の火山現象の話のセッションで、Andrew Beck の発表の途中から聞きました。彼は、HED を中性子とガンマ線の観測から分類する新しい方法を考察していました。もちろん、Dawn によるベスタ表面の鉱物組成の解釈のためです。タイプ B のダイオジェナイトが見えているとか言っていました。あとは、橄欖石を見つけられるかどうかですね。
3時からは、Han 氏による、harzburgite という岩石でできたマントルからの岩相を見つけたという話です。私は単純に、橄欖石がほとんどを占めているダイオジェナイトが南極の Miller Range から発見されているのだけれど、マントル起源の橄欖岩とは言えないのだろうかと疑問に思いました。誰かわかる人説明してください。
ここで急いで6番の部屋の Chondrite Components III セッションに戻りました。
3:15 からの Richard Greenwood 氏の話は、CV コンドライトのアエンデ隕石とかにみられる Dark Inclusion (DI)という暗色包有物は、同位体から見て、CM コンドライトに似ているという結論でした。これにはいろいろ異議が出ていたようですが。
次は、Sanborn 氏が、アエンデから古地磁気が発見されたので、CV はより分化した CK と同じ天体でできたという説の話でした。クロームと酸素 17 の同位体データを使っていました。
次の Miller 氏は、Rコンドライトである PRE 95404 とかの酸素同位体から、R コンドライトと非平衡普通コンドライト(タイプ3とか)は似ていて、R コンドライトの硫化物コンドリュールは普通コンドライトと似た環境でできたらしいと主張していました。
最後は、昔 RELAB にも試料を送ってきていた Tasha Dunn の発表で、今回は宇宙化学的に考えた、CV と CK 隕石の母天体の関係で、クロムの量とか、磁鉄鉱が CV では低い酸化環境、CK では高い酸化環境でできたらしいことから、2つの隕石種は別の母天体から来たのではと言っていました。やはり、Allan Rubin からは異議が出ていましたが。
お昼が遅かったので、ポスターセッションを終えてから夕食は食べることにして、あと数時間頑張ります。
なんかこうして速報を書いてると、あまりサボっていられないし、自分もしっかり聞いて勉強しないといけないので、まあ自分のためにやっているとも言えますね。
セッションを抜けてお昼を食べに行くときに、小松睦さんと出くわして、ああ挨拶してなかったね、とはじまり、いろいろ最近の状況、特に一緒に入っているはやぶさ2チームの活動の状況とか話しました。とても気立ての良いお嬢さんです。
Vol, 13. 2015/03/20 PM 13:23 日本時間
会場からもどって、食事とシャワーを済まして一服したところです。
私自身の発表のことを前回書き忘れましたが、てっきりリン酸塩鉱物が4つの CM コンドライトの表面に出ていると思ってアブストラクトを書いたのに、そのあとでよく調べると、ちょっと波長がずれているし、共同研究者から、それは地球風化と思うというようなコメントをもらい、顕微分光が画像的広がりを持てないという現在の RELAB の欠陥もあり、非常に乗り気がしませんでした。更に、リモートセンシングや小惑星のセッションでなくてコンドライトの成分を鉱物・化学・同位体的に調べる人たちがほとんどなので、孤立するのではないかと。
まあ結果としてはある程度人もいたし、良い質問も出たのですが、とにかく、過去の火星・月・HED 隕石の分光サーベイも紹介し、はやぶさ2搭載機器との関係も示したおかげかもしれません。
ポスターセッションは、あらかじめ見たいものを 18 個選んでおいたので、かなりスムーズに早く見回ることができました。
顕微画像分光は JPL の装置とかいろいろ良いものがあり、やはりお金をかけてよいものを作ったり購入しないといけないなあと思いました。やはりパイロットがよくても、いつまでもゼロ戦のままではいつか B29 に負けます。
はやぶさ2のポスターでは、NIRS3 は北里君、ONC は杉田君、DCAM は小川君が発表していました。James Granahan が立ち寄ったので、小川君に紹介してあげました。MUSES-C や SELENE の時代からの人々とまた継続して一緒にやれるのはうれしいことです。
RELAB でいろいろ測定をしてあげても会ったことなかった人とか、そういう研究者の学生とかもいて、名前と伝えると、やっと会えて光栄ですと言ってくれた糸もいました。
NASA ジョンソン宇宙センター時代に NRS ポスドク研究員のアドバイザーをしてくれた Faith Vilas が声をかけてきて、家族のことや最近の調子を聞いてくれました。やはり、はやぶさ2に参加する科学者の NASA からの公募には多く応募しているらしく、競争はなかなか厳しいなあと思いました。もし受からなかったら、何とか資金源を探して会議とかに参加しないといけなくなります。母の老健のための毎月3万円の支払いもありますし、経済的に一層厳しくなりそうです。
ああ、また話がずれてしまいましたが、まあいつものことですね:)
とにかく、はやぶさ2とオシリス-レックスが炭素質コンドライト的な小惑星に行って試料を回収してくるという影響は明らかに出ていて、分光や宇宙風化実験の対象としても炭素質コンドライトが注目されています。
阪大の岡崎さんの FeS を用いた宇宙風化実験には、ハワイの Jeff Gillis-Davis のところの女の子や、いろんな人たちが来ていました。土山さんなども来てくれたので、3人ではやぶさの回想や、今後の惑星ミッションに携わる研究者をどうしたら要請できるかとかという話に花が咲きました。そうしたら久しぶりに佐々木晶さんがあらわれて、土山さんにポスターのことを詳細に説明し始めました。
私は、今回は割と運が良くなくて、ポスターのところに発表者がいなかったり、とても混雑していたりして、ちゃんと議論できたのは多くなかったですが、ロビーに出て休んでいたら、小松さんが日本に帰りますのでまた日本で会いましょうと挨拶してきたり、小川君が最近の身の上を教えてくれたりしました。とにかくポスター会場の騒音は大きく、コンピューターの入った私のカバンの重さと加わって、かなり体力的にきついです。600 個以上のポスターが2日分あるのですから、LPSC は規模がダントツです。
帰りの9時のシャトルバスを待っていたら、千秋さんとあったので、DCAM の話や、1999JU3 と隕石との関係を見つけるのに 0.7 ミクロン吸収の有無がいかに重要かとか、レゴリスはどういう挙動をするのかとか、かなり面白い話をホテルまでずっとできました。
なんかポスター会場の外で会話した方が多かったような向きもありましたが、それが学会というものかもしれませんね。せっかく研究者たちが実体でこんなにたくさん集まっているのですから。
今年は、私が探査や隕石がらみで知っている日本の研究者たちがほとんど来ているような気がしました。
と書いているうちに、もう11時22分です。あすも6時半おきなので、早く寝ないといけません。最終日の明日は、小天体の宇宙風化や月の巨大衝突の話など盛り沢山です。
Vol, 14. 2015/03/21 AM 04:03 日本時間
今日は LPSC も最終日の金曜日です。
朝7時のシャトルに乗ろうと急いでホテルの玄関に行くと、昨晩も一緒だった千秋さんも待っていて、車の中で、日本とアメリカ、そして世界の宗教観やいろんな違いを話しました。
途中で同じ千葉工大の黒沢君も乗ってきました。
会場に着いてからも時間があったので、ロビーで今後の研究や、探査のための機器づくりや研究者の話題が盛り上がりました。
さて、午前中は8時半からの月のセッションはともかく、10:15 からは小天体の宇宙風化のセッションが裏番組で入るので大変です。
月のセッションの前半は、地球-月系の巨大衝突による形成論に関する講演が多くありました。
最初の Jacobsen 氏は、Hf-W の組成が地球と月で違うという問題に関して、衝突による Fe の気化の影響を考慮すればよいというような発表でした。彼が言う、Superreacted silicate fluid からできたという意味がはっきりとは分かりませんでした。
次男 Dauphas 氏は、月と地球のいろんな同位体の存在度を比較し、182W と Hf/W の関係は衝突してきた天体が地球と同様な同位体比を持つと仮定するとあうとか言ってました。
9時からの Wang 氏は、月の Fe の同位体が、地球と比べて重い核種が多い問題に対し、アポロ試料に1つだけある橄欖岩である 72415 という岩を調べると、逆に月の Fe の方が重い核種は少ないと分かったので、それらが月全体として混ざって地球と変わらない値になるモデルを示しました。それは、月成長の後期に斜長岩地殻や磁鉄鉱に重い Fe が集まって、アポロ試料の多くはそのような偏った部分から取っているからだという説です。
次の Canup 氏は、Protolunar disk(衝突でできた、月になる前の円盤)からの揮発成分の損失のモデルで、ロッシュ限界の外で月が形成した後も、ロッシュの中にあるメルトやガスが月に落ち続けるが、月がある程度離れて行ってしまうとそれが止まってしまうというものです。
9:30 からは、Petaev 氏が、BSE(Bulks Silicate Earth)というおそらくケイ酸塩の組成から作った地球の成分のモデルで Protolunar disk の相関係を調べたようです。そうすると数 Bar の圧力の気化円盤から、Na, K, Cu の測定量を合わせられるということです。
ここで、ちょっとトイレ休憩をして、メールをチェックし、会場6番の小天体の宇宙風化に移動しました。
10:15 からは、Brian Ogliore 氏が、イトカワ粒子のナノ微小鉄を調べて、それをモデルで反射スペクトルと合わせるのに、大きめの鉄粒子も考慮したらよいということでしたが、私の2006年の Nature 論文の鉄含有量の値を過信しているようなので、あれは LL コンドライトの粉から求めたもので、イトカワの表面に岩肌や砂利が見えているので、鉄含有量の値をそのまま信じる必要はないとコメントしておきました。
次は、Eve Berger 氏で、イトカワ粒子の Solar flare の軌跡の測定と、アポロ 64455 試料からの校正計算で、太陽風への暴露年代を求めていました。イトカワ粒子はある方向から動かなかったようで、1~10万年ということらしいです。
そこで、急いで月の会場に戻り、10:45 からの山本君の発表に来ました。
かぐや SP スペクトルから特徴のない(Featureless=FL)ものを集め、それが純粋な斜長岩(Purest Anorthosite = PAN)から飛来したものという推測でした。もちろん、それを大きな話に結び付けていて、劣化した月の原始地殻であると言っていますが。
ここで小天体の宇宙風化セッションに戻りました。
11時からの Faith Vilas の発表は、小惑星の反射スペクトルの紫外領域の立ち上がりを見て、宇宙風化の初期段階を見積もれるというものでした。0.32-0.36 ミクロンと 0.44-0.52 ミクロンの範囲の2つの傾きを使っていたと思います。
次は NASA 時代に一緒の部屋で仕事していた Lindsay Keller で、マーチソン隕石に水素イオンを当てた実験で、我々が水沢や東北大でやってきた、レーザーを当てた研究結果と同様に、構造水を示す 3 ミクロン吸収帯がその形を変えずに浅くなっていくのがわかりました。
次はポスター会場でも会話した、ハワイの Jeff Gillis-Davis で、とマーチソン隕石に YAG レーザーをあてた結果です。我々の実験と違い、ペレットにせずに粉のまま実験をしています。結論としては、前回のアエンデ隕石の場合は赤化し、今度のマーチソン隕石の場合は青化するという我々の実験とほぼ同じ結果です。
東北大の松岡さんのマーチソン隕石に関する論文が Icarus にちょうど通った後だったので、ほっとしました。
最後は、Jeff の指導による Heather Kaluna の発表で、含水鉱物にレーザーを当てたら、よくわからない結果になったということで、私は、やはりマーチソンなどの CM コンドライト隕石とは違って、含水鉱物も何十倍も大きいし、共存する炭素鉱物がないしということで、水を失いにくくて風化しにくいのではとコメントしました。
終わった後で、杉田君が寄ってきて、イトカワの AMICA データで昨年古賀さんがやった仕事の論文のことなどを議論し、佐々木晶さんもやってきて、もうお昼時間が無くなりかけて、さらにこれを書いていたら、2時過ぎてしまい、2:15 から次のセッションで聞きたいものがあるので困りました。。。
Vol, 15. 2015/03/21 AM 10:16 日本時間
これが最後のご報告になると思います。
さて、前回の報告を書いているうちに2時過ぎてしまったので、月・火星の衝突のセッションはあきらめて、いつもの隣のサンドイッチショップの Which Wich でトマト・アボカドのレタスまきを買ってきて、ゆっくりお昼ご飯を食べました。
それで、3時過ぎから月の衝突のセッションに行きました。
3:15 の Morse 氏は、オリエンタル盆地のメルトやイジェクタの分布を詳細に調べていましたが、ブラウン大の Jim Head がその南東の暗めのところは地底溶岩流ではないかと、学生に教えるようにコメントしていました。
次の Josh Cahill もオリエンタル盆地で、熱外中性子の測定から水素がある特定の分布をしていることを説明するのに、宇宙風化度や明るさ、そして Mini-RF の S バンドフィルターを使って考察していました。
次からは後期重爆撃期(LHB)の考察の講演が続きました。
Boehnke 氏は、Ar 同位体からの衝突の記録は、その活性度が温度によって変わるので、その効果を校正すれば、39億年での衝突のピークは薄まるというような話でした。当然かなり異論が出ていましたが。
次の Herbert Frey 氏は、LHB よりも初期の重爆撃期(EHB)の方が大きかったという話でした。
次の Tiester 氏は、アポロ試料の Pb 同位体による考察をしていましたが、今一要点がよくわかりませんでした。その次の Amy Fegan さんの講演も、アポロ試料中の外来岩相の隕石種の同定から、それら隕石母天体の衝突記録を考察していたのだと思いますが、私は WiFi 室が閉まる前に明日の飛行機のチェックインと搭乗券の印刷をする必要があるので、途中で出てきてしまいました。
シャトルを待っていると、鎌田君も違うシャトルを待っていたので、ちょっと立ち話して、去年、岡村さんと一緒にやったあかり衛星の小惑星スペクトルの主成分解析の話や、新しい仕事の話などして、各々別のシャトルに乗りました。
私のホテル行きのブルーラインのシャトルに乗ると、すぐ後ろに黒田君が乗っていて、泊まっているホテルがいかにひどいかとか、また楽しく食べ物の話や、日本の大学での研究者たちの話をしました。
彼らのような国際学会や留学の経験のある若い研究者たちが、日本の惑星科学と探査を発展させていってくれると願いたいです。でも私もまだまだ、はやぶさ2とともに頑張りますし、負けていられないと思っています。
ホテルに戻って、小雨の中を食品を買いに行き、食事を終えてこれを書いています。明日は4時に起きてまた Super Shuttle に乗らないといけないので、早く寝ることにします。
今回は、ちょっと休んでいた時間も多々ありましたが、やはり LPSC は充実した時間を持てる学会です。きっと帰りの飛行機ではぐっすり寝れるでしょう。。。
この5日間、ウェブで読んで頂きありがとうございました。また、深夜にも関わらずタイムリーに更新を続けてくださったMEFの担当者さま、お疲れ様でした。また来年もやりましょう。