月世界へ! オリオン宇宙船を乗せた SLS ファーストフライト
SLS アルテミス I の詳細


Artemis I(以前の Exploration Mission-1)は、NASA の深宇宙探査システム(NASA’s deep space exploration systems:オリオン宇宙船、スペースローンチシステム(SLS)ロケット、ケネディ宇宙センター地上システム)の第一回目の統合試験飛行になります。より複雑化する一連のミッション環境における最初のアルテミス I は、無人オリオン宇宙船の飛行試験であり、人間の深宇宙探査の基盤構築に貢献し、人類の存在を月以遠に拡大するという我々の取り組みと能力を実証します。

オリオン宇宙船は世界で最強と言われるロケットで打ち上げられ、有人飛行のために打ち上げられたどの宇宙船よりも遠くまで飛行します。約三週間のミッションで、地球から 280,000 マイル、月を遠く超えて数千マイルを移動します。オリオン搭乗の宇宙飛行士は、宇宙ステーションにドッキングしないミッションのどれよりも長く宇宙にとどまり、かつてないほど速く熱く、「我が家」に還ります。

「これは人類未踏を実践し、未知の知識を獲得するミッションだ」と、ワシントン NASA 本部の Artemis I ミッションマネージャーである Mike Sarafin は述べています。
「それは人々が次のオリオンの飛行でたどる道を切り開き、そのミッションの準備のために既成概念の枠を超えるものとなる」
 



Leaving Earth(地球離脱のとき)


画像:オリオン宇宙船の地球離脱。
Image Credit : NASA
 

オリオン宇宙船(以下、オリオン)を地球軌道を遠く超えた深宇宙に運ぶ SLS は、フロリダの NASA ケネディ宇宙センターにある近年アップグレードされたローンチコンプレックス 39B から地球を離れる。SLS ロケットは、搭乗員や搭載物を地球軌道から遠く月にまで送り届けるミッションを可能にする設計となっており、地球離脱には 880 万ポンドの推力を発生し、600 万ポンド近くの重さのビークルを軌道に乗せる。5 基のセグメントブースターと 4 基の RS-25 エンジンの組み合わせで推進し、ロケットは 90 秒以内に地球大気圏最外縁に到達する。ブースター、サービスモジュールパネル、打ち上げ中止システムを投棄した後、停止したコアステージエンジンを宇宙船から分離していく。

宇宙船が地球の暫定軌道に到達後、太陽電池パネル展開を実施する。Interim Cryogenic Propulsion Stage (中間極低温推進ステージ、ICPS)は、オリオンを地球軌道から月へと向かわせる大きな推進力を発揮していく。そこからオリオンは、打ち上げ後約二時間程度で ICPS から分離される。続いて ICPS は、CubeSats 13 機の放出を行い、それらは様々な実験や技術デモンストレーションを実施する。
 

On to the Moon(月に向けて)

オリオンが地球軌道から月へ向かうための推進機構は、欧州宇宙機関 ESA が製作・供給するサービスモジュールが担う。このサービスモジュールは、宇宙船の主要な推進システムであり、姿勢制御、上部のクルーモジュールへの電力供給と温度管理、空気と水を供給する(ESA の ATV(Automated Transfer Vehicle)の技術を基に開発された)。オリオンはヴァンアレン帯を通過し、全地球測位システム(GPS)衛星コンステレーション軌道を超えて航行していく。この辺りから、ヒューストンのミッションコントロールとの通信を NASA のトラッキングおよびデータ中継衛星システムから深宇宙ネットワーク(Deep Space Network)切り替えて通信する。ここからオリオンは、深宇宙環境でナビゲート、通信、およびオペレートするための独自に定めた設計を実証していくことになる。


画像:Artemis I(アルテミス I )の軌道。文字が見易いフルサイズ画像は以下から。
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Image Credit : NASA
 

月への往路には数日かかり、その間エンジニアは宇宙船のシステム評価、必要に応じてその軌道修正を行う。オリオンは月面から約 62 マイル(100 km)上空をフライバイし、月の重力を利用して月から約 40,000 マイル(70,000 km)の軌道* まで達する。

* 地球から見た月の裏側から外へ離れる方向に 70,000 km 余り。つまり、地球からおよそ 450,000 km の位置。

ミッションコントローラーがオリオンのパフォーマンスを高い確度で評価するために約六日間その軌道でデータを収集を続ける。この期間中、オリオンは月が地球周回する方向から逆行する方向へ移動飛行している。
 

Return and Reentry(地球帰還と再突入)

地球への帰還運用でオリオンは、月面上空約 60 マイルの接近フライバイを敢行する。宇宙船を地球に返すための接近フライバイであり、月の重力アシストを受けて最適なタイミングでサービスモジュールエンジンを吹かし、地球帰還に必要な軌道調整を試みる。この操作によって最終的に得られた地球帰還軌道に乗ったオリオンは、25,000 mph(11 km /秒)で地球の大気圏に突入することになる。これによりオリオンは、華氏約 5,000 度(摂氏 2,760 度)の高温にさらされる。これは、オリオンが2014年当時に想定した飛行試験よりも突入速度は速く、生成温度も高くなる。

打ち上げから地球帰還までの約三週間で飛行距離は 130 万マイルを超えている。オリオンミッションの最終的な能力試験は、カリフォルニア州バハ沖の回収船の視界内に正確に着陸したときに終わりを迎える。

スプラッシュダウン(着水)後、米国海軍のダイバーと NASA の Exploration Ground Systems(探査地上システム)の運用チームが待機した回収船から小型ボートで接近する間、オリオンは一定期間電力を供給されたままになっている。ダイバーは、宇宙船本体に危険がないか簡易検査し、テンディング・牽引ラインを接続する。次にカプセルを回収船のウェルデッキに接続して牽引し、オリオン宇宙船を「我が家」に持ち帰る。
 

Future Missions(将来ミッション)

この「SLS ファーストフライト」となる探査ミッションによって NASA は、宇宙飛行士が月面ミッションと火星ミッションなどの地球圏外の深宇宙探査に向かう際に必要となる地球・月軌道上の中継システムを構築して有人探査の次のステップに進むことができる。二回目の飛行では、飛行士を乗せたオリオンが今回とは別の軌道を飛行し、オリオンミッションの重要なシステムを試験する。SLS ロケットは、26 MT(metric tons:メートルトン、26 トンに相当。26 tonne で良いのにね)余りの月輸送構成から、少なくとも45 MT を送ることができる最終構成に進化している。オリオン宇宙船、SLS ロケット、ケネディ宇宙センター地上システムが一体となることで、深宇宙で最も困難となる飛行士とカーゴ(貨物)ミッションニーズを満たすことができる。


画像:Artemis I(アルテミス I )月面上将来ミッション想像図。大きな画像は以下から。
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Image Credit : NASA
 

オリオンに搭乗する飛行士による将来の探査ミッションは、月-地球系軌道のゲートウェイに集まって開始されるだろう。NASA とそのパートナーは、地球への依存度を下げながら、月へのミッションと併せて深宇宙運用・探査にこのゲートウェイを活用することになる。

月周回軌道を利用して、有人探査を今まで以上の広範囲な太陽系に広げるために必要な経験と技術を積み重ねることが本計画の主目的である。

NASA Release. Mar. 09, 2018 : Around the Moon with NASA’s First Launch of SLS with Orion
 

加筆有り



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office