2017年第17回宇宙科学シンポジウム講演集から抜粋して掲載します。
 

科学観測装置(2017年検討)

火星衛星探査機(MMX)の搭載予定観測装置は、ミッション目的を満たす為に必要な物という観点から募集・選定がなされた。ミッション目的から導かれる観測要求とそれを実現する機器は以下の通りである。
 


望遠カメラ “TL” : モノクロ望遠画像(画角 1.×0.8.)広角分光カメラ “WAM” : 7 色カラー広角画像( 75.×58.)

WAM は 7 台のカメラで同時撮像(立教大、JAXA他)

適応観測:全球表面地形、全球表面物質分布、サンプリング地点の精密観測、火星大気観測
観測要求:火星衛星の表面形状の把握、火星大気の光学観測、火星衛星表面の色情報の把握、火星衛星表面の分光的手段による把握、火星衛星表面の色情報の把握、火星大気の光学観測

 


近赤外分光計 NIRS5

6°×6°視野を 256×256に分け 1.0μm~3.8μmのスペクトルを全球で取得(東北大、フランスIAS他)

適応観測:水関連物質検出、含水鉱物検出、有機物検出、火星大気観測
観測要求:火星衛星表面の色情報の把握、火星衛星表面の分光的手段による把握、火星衛星土壌の物理的性質の把握、火星衛星表面の温度分布の計測、火星大気の光学観測

 


ガンマ線中性子分光計 “GNS”

宇宙線の衛星への突入で生じた中性子と、中性子と衛星物質との反応で生じたガンマ線のスペクトルを取得(NASA、早稲田大他)

適応観測:水素(→水分子)検出、全球的な元素組成(Si, Ca, Fe)観測
観測要求:火星衛星全体の元素組成の把握、火星衛星内部の水の存在の有無の把握

 


レーザ高度計 “LIDAR”

探査機から衛星表面までの距離を 0.5m の精度で計測(ISAS、千葉工大他)

適応観測:地形計測、探査機軌道の精密計測(→密度分布)、表面反射率計測
観測要求:火星衛星土壌の物理的性質の把握、火星衛星の密度分布の把握

 


イオンエネルギー質量分析器 “MSA”

Phobos や火星からの飛来荷電粒子量を計測(ISAS 他)

適応観測:Phobos 内部から蒸発・揮発する水分子の検出、火星から散逸する大気量の計測
観測要求:火星衛星内部の水の存在の有無の把握、周辺空間環境の把握

 

火星衛星表面の直接分析 : サンプリングにより実施(別発表)


火星周回ダスト観測装置 “CMDM”

Phobos 軌道上にあると考えられているダストリングの検出と計測(千葉工大他)

適応観測:探査機表面の MLI に衝突する星間ダスト(直径10μm以上)の検出、可能ならサイズ分布の導出(→周辺環境)
観測要求:周辺空間環境の把握

 

他にも観測機器搭載の可能性がある「オプション機器」

今年度(2017年)で絞り込み、FY29 で搭載可能性最終決定(見込)
 

重力偏差計 “GGM” : 火星衛星の内部構造や水の存在の有無の測定(東大他)

レーザ誘起絶縁破壊分光実験 “LIBS” : 試料採取近辺の複数地点の元素組成測定(立教大他)

DCAM5 : 分離式カメラによる独立観測(千葉工大他)

ミッションサバイバルモジュール “MSM” : 分離して Phobos 表面環境の長時間観測(神戸大他)

海外機関提案ローバ : ドイツ DLR 等が検討中
 


火星衛星探査の大目的 1 :
火星衛星の起源を明らかにし、内外太陽系接続領域における惑星形成過程と物質輸送に制約を与える。

中目的1.1 Phobos の起源が小惑星捕獲なのか巨大衝突なのかを明らかにする。

MO1.1.1 Phobos を構成する物質の表層分布を採取地点の科学的評価と地質構造把握に必要な空間分解能で分光学的に明らかにし、Phobos の起源に制約を与える。

MO1.1.2 Phobos 表面の回収試料から構成物質の主要成分を、形成時の記録を保持する衛星固有物質として同定し、その同位体比等から、その起源を強く制約する(*1)。

MO1.1.3 Phobos 内部の氷の存在に関わる分子放出率や質量分布等の情報を取得し、またPhobos 表層の密度コントラストの有無を調べ、Phobos の起源にMO1.1.1、MO1.1.2とは独立に制約を与える(*2)。
 

中目的1.2a 【Phobos が小惑星捕獲起源の場合】地球型惑星領域へ供給される始原物質の組成とその移動過程を解明し、火星表層進化の初期条件を制約する。

MO1.2a.1 太陽系始原物質の形成およびスノーライン周辺領域での始原天体形成環境に、物質科学的に制約を与えるとともに、Phobos 捕獲過程を推定することで、初期太陽系での天体移動過程と火星表層進化の初期条件に制約を与える。
 

中目的1.2b 【Phobos が小惑星捕獲起源の場合】地球型惑星領域へ供給される始原物質の組成とその移動過程を解明し、火星表層進化の初期条件を制約する。

MO1.2b.1 Phobos の衛星固有物質中に、巨大衝突で飛び散った原始火星成分(火星起源成分)と衝突天体起源成分を特定し、その特徴を明らかにするとともに、巨大衝突規模と年代を推定し、地球型惑星領域における天体移動と惑星形成過程に制約を与える。
 

中目的1.3 Deimos の起源に新たな制約を加える。

MO1.3.1 Deimos を構成する物質の表層分布を地質構造の把握に必要な空間分解能で分光学的に明らかにして、Phobos と対比する。
 

大目的 2 :
火星衛星からの視点で、火星圏変遷の駆動メカニズムを明らかにし、火星圏進化史に新たな知見を加える。

中目的2.1 火星圏における衛星の表層進化の素過程に関する基本的描像を得る。

MO2.1.1 小惑星と比較して火星衛星に特有な表層レゴリス層の風化・進化過程(天体衝突頻度と撹拌の程度、並びに宇宙風化過程)を特定する。
 

中目的2.2 火星表層変遷史に新たな知見と制限を加える。

MO2.2.1 Phobos 表面の回収試料中に、衛星形成後に火星から飛来した物質を探し、適切な試料が存在する場合には、それから火星表層の化学状態やその変遷に制約を与える。

MO2.2.2 火星史を通じた大気散逸量に、現在の散逸大気の組成比・同位体比から制約を与える(*3)。
 

中目的2.3 火星気候の変遷に関わる火星大気物質循環のメカニズムに制約を与える。

MO2.3.1 火星大気中および大気-地表間のダストと水の輸送過程にダストストームと水蒸気・雲の全球分布の時間変化から制約を与える。
 

(*1) 衛星起源の解明には、局所的な回収試料情報を衛星全体の観測情報と対応づける必要がある。

(*2) 内部氷の存在が確認されれば、始原小惑星捕獲説が強く支持される。

(*3) 火星衛星軌道での滞在観測は、大気散逸過程の太陽風や季節変化の依存性を捉えやすい。
 

※ この解説は、第17回宇宙科学シンポジウム講演集(2017年01月)で公開されたものです。今後、進捗に併せて改編を行います。
 

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