ヒューストンからセッション速報 - Session Report
月・惑星科学会議 - LPSC : February 20, 2019. Latest
2013 44th Session Report
LPSC 2013 - March 19 - 23
Vol, 01 ~ Vol, 15
Vol, 01. 2013/03/19 AM 01:13 日本時間
今日は LPSC の第一日で、私は午前中の前半は、Waterway Ballroom 1 で持たれた、太陽系での惑星分化の特別セッションに参加しました。
ここでは、特に分化した隕石の残留磁気研究と小惑星の研究から、太陽系で物質分化がいつどこでどのように起こったかというのがテーマです。
最初の Bill Bottke は、Vesta のような分化した天体が主ベルト小惑星帯に少ないのは、より内側でできたものが、惑星移動につれて外側へ放り出されたのではないか、という発想を発表していました。最近、Walsh らが Grand Track というモデルを出したそうで、ガス円盤内で木星が内側に移動したとか言うモデルとか。私は勉強不足ですが。
MIT のグループも、Allende のような CV コンドライト中の金属やマグネタイトに残留磁気を見つけて、CV の母天体は分化していて、CK も CV の熱変成したものだから、CV, CK の順にダイナモのコアに近いところにあった、と考えているようです。この前、MIT で Ben Weiss と Vesta に関してもそういう話をしていましたが、隕石の古磁気学は面白いですね。
あとは、スミソニアンの Tim McCoy が氷を考えた小惑星進化の話を面白おかしくし、Andy Rivkin も同様に面白い話を M 型小惑星とかいろんな方面でし、私が出る前の最後は Tom Burbine が V 型小惑星を SDSS サーベイから統計的に調べた話をしました。隕石中にも酸素同位体がおかしな HED もあるし、Vesta からかなり遠い Magnya などの V 型小惑星もありますから、分化した玄武岩質の小惑星が Vesta 以外にもあったことは確かでしょう。
これから、月のセッションに行きます。
Vol, 02. 2013/03/19 AM 06:42 日本時間
午前中の最後は、月のセッションにちょっとだけ出て、ブラウン大の隣の部屋にいる大学院生の Dan Morirarty が M3 データで SPA 盆地の鉱物組成を解釈している発表を聞きました。その後、お昼は日本からのかぐやチームを主とするグループでアジア系のレストランに行き、山本聡さんと横田康弘さんとテーブルを共にして食べました。そこで、かぐやの SP データはやはりすごいよね、というような話題から、ここに書けないような話もいっぱいしました:)
午後は、1時半から全体会で、いろんな授賞式の後、Masursky Lecture というセミナーがあり、Elkins-Tanton さんの地球の水をどうやって作るかという話でしたが、正直言って、あまり革新的な内容とは思えませんでした。昨日の夜遅かったんで眠かったのもあるんですが。。。
その後は、火星の MSL キュリオスィティーローバーによる組成分析結果を覗いたのですが、とっても混んでいて、発表も面白くなさそうだったし、人口圧に弱い私は退散して、最後の部屋 Montgomery Ballroom の、From Dust to Planets というセッションに行きました。ここは、部屋を小さめに取ったせいで、かなり混んでましたが、よい席を見つけて聞けました。やっぱり私は Safronov の太陽系生成論を卒業研究で読んだのもきっかけして太陽系星雲から小天体、固体惑星の形成に一番興味がありますね。
このセッションは、軌道計算だけでなく、隕石などからわかっている組成などを考慮していて、なかなかこの分野も進んだものだと感心しました。
ちょうど私が入った後に、Weidenschilling によるユレイライト母天体を念頭において、微惑星を 100 m とかの小さいものにして計算した結果が紹介され、その後で面白かったのは UCLA の EdYoung が、惑星形成計算で酸素同位体比の違いを説明しようという試みで、氷ができ始める Snowline を 4 AU くらいに置くと、火星のあたりに火星の大きさや酸素同位体比を再現する結果が出るというものです。それが 2 AU とかに近くなるとだめなようです。
本当は今日は5時半から NASA Night があるのですが、寝不足なんで、食品を買って早めのシャトルでホテルに帰ろうかと画策しています。誰かに捕まらなければですが。
Vol, 03. 2013/03/19 AM 09:43 日本時間
結局、やはり気になるので、NASA Night に最初の 30 分間だけ、質疑応答が始まる前まで参加しました。
やはり、オバマ政権の一律予算カットの影響は色濃く、NASA の局長さえ、ワシントンから出張して来ずにテレビ会議でプリゼンをしたくらいでした。
経済が向上してきた今、政府の赤字を減らそうというのは理解できますが、NASA の内部で R&A (Research and Analysis) の予算まで一律カットしようというのはばかげたことだと思います。今後5年間の予算の使い方の図を見ると、OSIRIS-REx がかなりの部分を占めていて、それは打ち上げが2015年にあるからなんですが、はやぶさ 2 と同じようなことを、はやぶさ 2 よりも魅力的とは思えない対象天体に向けてなぜやるのか?人類の科学的知見を進めるというよりも、アメリカおよび NASA の見栄のためでは?
もし今回、RELAB までカットされることになれば、私は自由の身で日本に帰れますが、ブラウン大および RELAB に依存していた研究者たちは困ることになり、逆に日本やヨーロッパの研究者たちは挽回のチャンスでしょう。佐々木晶さんのところの分光計器製の機械でもよいですが、日本が更に、私が RELAB で培ったノウハウを生かして次世代の分光実験室を作らせてくれれば、極地研の隕石とも合わせて、日本がまた一段と世界の固体惑星物質リモセンの舞台に上がれることでしょう。
実際、そういう試みを始めている研究者も私の知っているうちでいるのですが、機械を作ったり、調整したり、試料を計ったりする全ての過程で必要なノウハウをわかっていない場合が多いです。私に任せてくれればよいのに、ともどかしく思うことしきりですが、少なくとも私の目の黒いうちに頑張って欲しいものです。
とにかく、きっと私が去った後にいろんな質問や非難などが出たのではないかと思うので、明日誰かを捕まえて尋ねてみようと思います。
Vol, 04. 2013/03/19 PM 11:54 日本時間
今日は2日目で、夕方はポスターがあって遅くまでかかります。昨日は長く寝たので、何とかがんばれるかと思います。
シャトルバスをホテルで待っていたら、北大の橘さんと 2 人の女性の学生たちが車に乗せてくれました。ハリーポッターに似た橘さんは、昔阪大にいたの土山さんの愛弟子で、その後、東大で永原先生と共に働き、最近北大に移りました。はやぶさ 2 では試料採集の科学チームの責任者です。
今朝はコンドライトのセッションに出て、最初の幾つかを聞いた後、今休憩です。
最初の Weisberg 氏は、エンスタタイト・コンドライトの細かい成因を説き、小惑星からではないというタイトルだったのに、結論ははっきりしていませんでした。とにかく、非常に還元的なところで衝突も関係しているはずですが、Fractional condensation というハイブリッドモデルを推奨しているようです。地球と同じ材料物質であるのかどうかが興味の的ですが、まだ判らないようです。
2 人目の Wang という中国系らしい青年の発表もその関係で、Fe 56 同位体の相対量からエンスタタイトコンドライト及び、それからできたオーブライトという隕石と地球の材料物質が同じかどうかの検討でした。
次の Juliane Gross と Alex Ruzicka の発表は、R コンドライトという隕石種のうち、母天体に水があったと思われるものの研究で、Juliane は南極隕石の MIL 11207 と LAP の 1 つは、Rumuritti のような非含水のものよりも、母天体でより深い、液体の水が高圧で反応できた場所にあったに違いないというモデルを提唱していました。Alex の方は、より多くの R コンドライトの粒介での褐色の物質が硫化物が変成したものであるという話で、ただ、それが母天体で起こったのか、地球風化によるものかの見分けが難しいようでした。
また後で同じ会場に戻ります。
Vol, 05. 2013/03/20 AM 03:57 日本時間
今、昼食から帰ってきて、一息ついています。
午前中の後半は、Paris 隕石という CM コンドライトの話が、Leroux 氏からあり、10 nm とかの硫化鉄の粒が非晶質相にあるという、宇宙風化を思わせるような部分が興味深かったです。次の Davidson さんは、日本の極地研が取ってきた、A-881595 という隕石と Watson 002 という 2 つの CK コンドライトを比較して、特に、Asuka の隕石はとっても新鮮で、CV コンドライトとの関連を説明していました。この人は、ハワイで、日本から行った長島さんに同位体測定してもらっている人だと思います。
次の、Ed Scott による普通コンドライト母天体のオニオン・シェルモデルが妥当かどうかという話は面白かったですね。H3, 4, 5, 6 という熱変成度が大きくなっていくグループわけを、金属相の冷却速度と関連付けると、そのモデルが破綻するという話です。ハワイの Goeff Taylor か誰かがそれを提唱したのを、誰かが否定したので、それを再肯定する形でした。
でも、H コンドライト全てを 1 つの層状母天体に帰するのは無理があって、いろんな大きさのいろんな熱変成度の天体から来てると考えるほうが現実的と思います。でも、オッカムのかみそりという原則があって、同じように妥当な仮説があれば、より単純なものが真実に近いと思う人がいるようです。
最後は、日本からポスドクで来ている中藤さんの PCA 02012 という熱変成をした CM コンドライトの発表でした。B-7904 のように、含水鉱物がない、900 - 950 ℃ に加熱された歴史を持つということです。私も昔そういう隕石の反射スペクトルをとって研究していました(1993年のサイエンス論文)。PCA はアメリカのものですが、日本の極地研の隕石にはそういうのがとっても多いのです。
お昼には、環境研の横田康弘さんと、かぐやデータをつかったポスターの最終版の議論をしました。明後日がポスターセッションなのに、まだ直して明日印刷しに行くそうです。がんばってますね。
Vol, 06. 2013/03/20 AM 06:40 日本時間
午後は、E / PO (Education and Public Outreach)のセッションにちょっとだけ出て、はやぶさ 2 に対抗して NASA が2015年に打ち上げる小惑星試料回収衛星 OSIRIS-REx ミッションへの一般参加を如何に広めるかということで、Citizen scientists といって、自分の望遠鏡で関連した小惑星のライトカーブを測るキャンペーンなどの話をしていました。
これは、MEF でもやってきた PO と似ていますし、別の Lightcurve という ML で宮坂さんが先導を切って高校生などにライトカーブの測定を薦めたり、新潟の ACM でも佐々木晶さんがそこで発表した高校のグループのことや、小惑星に名前をつける話をしていましたね。日本もなかなかすごいと思います。
そのあとは、ちょっとメールのチェックや翻訳のアルバイトをしてから、廊下で Jessican Sunshine と Olivier Barnuine と会って、長く立ち話をしてしまいました。そこに、Mark Sykes という NASA HQ の委員会関係の人が混じって、いろんな話をしました。特に予算のことですが。ブラウン惑星人の日々の方にその話は書くと思います。
Vol, 07. 2013/03/20 PM 00:07 日本時間
やっと第 2 日目もポスターセッションで終わりました。
実は、6時に始まったときに Dawn 探査機による Vesta の分光の結果とかを見に行ったのですが、発表者が誰もいなく、大した新しい成果も認められなかったので、ロビーに出て、メールチェックしようとしたら、WiFi が何故かつながりません。それで、日本人のかわいい女の子がネットをしているようだったので、たずねようと声をかけようとしたら、名札にNakatoとあるので、ああ、中藤さんだったと思い、名前を呼んだら私を覚えてくれていました。
発表のときに見せた PCA 隕石の可視・近赤外反射スペクトルのどこに地球風化の兆しが見えるかとか、いろいろコメントをしてあげました。
アメリカに来てまだ短いのに、なかなかうまい英語で発表していましたね、と事実を言ってほめてあげました。
それで、またテーブルに戻ると、宇宙研の矢田達さんが歩いてきたので、捕まえて、イトカワ粒子の宇宙風化とかの話になりました。そうしたら、極地研の三澤さんも加わってきて、ポスター会場で出されたスナックを食べながら、いろんな話をしました。
極地研の隕石部門と宇宙研、同じような目的を持ちながらも協力し切れていないような 2 つの場所。アメリカから来てその間を行き来している私。この LPSC の会場で皆が国内の壁を越えてざっくばらんに分かり合えるとよいのですが。世界に出て、客観的に観ないと判らない、日本国内のバカバカしい問題が多くあると思います。科学のためでなく、自分のため、自分の研究室の為に科学をしているような。
とにかく、6時過ぎから8時半ころまで話が弾んでしまったので、もう一度ポスターを見に行きましたが、やはり私が見たいポスターの発表者たちは居なく、その代わり、カナダの Ed Cloutis のところのポスドクたちと、特に、日系 2 世の Izawa さんと話が弾みました。
と、読んでる皆さんは、「廣井は何しにポスター会場に行ったの?」と思われてしまうかもしれませんね?
まあ、疲れてスキップしようと思っていたので、それよりはましだと思いますが、いろんな情報を得られて非常に有益だったし、日本やカナダからのめったに会えない人たちと交流することは大切です。
明日は8時半からの月のセッションにしっかり参加したいので、今夜はぐっすり寝ないと。
Vol, 08. 2013/03/21 AM 02:42 日本時間
今日第 3 日目の午前中は本当に濃密でした。
月のリモセンを中心としたセッションでしたが、どれも目が離せないものでした。
まず、ブラウン大でいつも RELAB の顕微 FT - IR を使っている Diane Wetzel という女性大学院生が、月の火山性ガラスの組成と似たものを合成して、水の量の推定の仕方、特に吸収係数がどうなるかを発表していました。地球のガラスよりも小さくなるのが面白いです。
次は、Jesse Arnold というまた女性で、環境研の山本聡さんが見つけたカンラン石に富む月の場所に本当に何 % カンラン石が含まれているかの検証を、DIVINER という熱赤外放射スペクトルの Christiansen Feature (CF)というピークの波長で見分けるという試みでした。基本的に、あとのハワイ大の PaulLucey も宇宙風化を考慮したモデルで同様なことを行い、カンラン石の鉄含有量が 10 %(Fo90)ならば、その体積含有率は平均 30 %、最高 50 % 程度であろうということでした。その前に、またブラウン大の Kerri Donaldson Hanna が新しい ALEC という真空チェンバーで月の環境を実現して熱赤外放射スペクトルを測定した結果を見せてました。
ブラウン大からハワイ大に移った Peter Isaacson は、私と一緒に月隕石の各岩相の反射スペクトルを測定して、それをカーブフィットして、月の Moon MineralogyMapper (M3)によるデータと比較して、各隕石がどこから来たのかという推定をしていました。ハワイ大の Paul Lucey とかの協力で、かなりマッピングの腕が上がったなあと思いました。
千葉工大の荒井朋子さんは、座長の 1 人なのですが、自分の発表では、3 つの月隕石の同様なスペクトル測定から、それらの成因を探る発表でした。それも、私と一緒に水沢の佐々木晶さんのところで測ったものです。
次は、Larry Taylor とブラウン大の私のボスの Carle Pieters と大学院生の Tab Prissel が Pink-spinel と呼んでいる、FeO が 5 % 以下の Mg - spinel の話をして、次に山本聡さんが Pink - spinel よりも Fe が多めのスピネルのことを話しました。これは、最近の、かぐや会議で Carle がかなり異議を唱えた内容を改良したもので、論理的にはほぼ問題なかったと思いますが、あとで、Jessica Sunshine が自分の仕事を引用していない、と共著者の私に文句を言ってきました。私も Jess の2010年の LPSC アブストラクトをよく読んでなかったので、ちょっと反省しましたが、山本聡さんはそれなりに新しい内容なので、きちんと引用すればよかったというだけです。自分が初めて見つけたみたいに聞こえたのでしょう。
ということで、もうお昼ご飯の時間がなくなりそうです。。。
Vol, 09. 2013/03/21 AM 11:02 日本時間
今日の午後はなかなか忙しく、今やっと夕食と入浴を終えて、ホテルで書いています。
午前中の報告を WiFi の部屋で書いていたときに、隣に環境研の横田康弘さんがいたので、昨日の続きの話で、明日のポスターの準備できているのか、と尋ねたら、まだこれから仕上げて印刷に行くとのこと。そして、早く論文を書こうよね、という話をしました。
それで、急いで昼食に行こうとしたら、反対側になんと矢野創さんがいたので、挨拶して、ここに速報を書いてますよ、っていったら、ちゃんと読んでくれてました。いつものクールな面立ちでした:)
お昼は、いつもの近くの高級スーパーマーケットで、今日はラッキーで、私の好きな玄米のカリフォルニアロールがあったので、$ 6.50 くらいで買って、そこの 2 階で食べて、急いで、午後の Vesta のセッションに向かいました。
これは、「HED 母天体としてのベスタ」という題目で、小惑星(4)Vesta から来ていると考えられている、Howardite, Eucrite, Diogenite (HED) 隕石という玄武岩質の隕石グループとをテーマにしたものです。
最初の Bonnie Bratti さんは、測光補正で有名な熟練女性科学者で、今回の Dawn 探査衛星によるベスタの観測や地上観測、そして小さいけれど Vesta と同じような反射スペクトルを持つ Vestoids の地上観測、そして HED 隕石の RELAB でのスペクトル測定(ほとんど私が測ったもの)とを使って、Vesta での宇宙風化はどういうものかという考察をしました。私は基本的に暗い物質が混ざったなどという現象は化学的変化がないので宇宙風化と呼びたくないので、それをコメントし、私のアドバイザーだった Faith Vilas の昔の観測を引用して、Vestoids の一部は 507 nm のスピン禁制吸収帯がないので、それを見たら月型かS型の宇宙風化がわかるのではないか、と言っておきました。
その後は、HED 隕石の年代測定の話が 2 つ続き、次に、東大地球惑星の三河内研の佐竹さんが Xanes で隕石のFeの酸化還元度を測定した結果を報告しました。かなり Delaney さんとかの質問に苦しめられていましたが、私は後で、わからないならわからないとか、後でお話しましょうとか言って切り抜ければよいですよ、とアドバイスしておきました。
その後は、Dawn ミッションでガンマ線および中性子線を測った GRaND という機器による解析結果を 2 人の人たちが出していました。Vesta の南極の大きなクレーターの部分が機器や解析によってやや結果が違うのが不思議でしたが。
あと、我々分光仲間(隣に山本聡さん、後ろに中村良介さんが来てました)には注目の的の、Vesta の上でカンラン石を見つけたという、DeSanctis さんの発表です。相変わらずの、すっごいイタリアなまりの英語で、北半球のあるクレーターの縁の所に、カンラン石に富む場所見つけたということです。なかなかスペクトルが出てこずじれったかったですが、出てきたスペクトルを見ると、なるほど、輝石に 50 % くらいカンラン石が混じったようなスペクトルでした。そしたらやはり、低 Ca 輝石にカンラン石が 50 % 以上混ざっているに違いない、と言っていました。後ろから良介さんが、高 Ca 輝石が混ざっているのでは?と尋ねてきたので、2 ミクロン吸収帯が浅くなっているので、きっとカンラン石でよいと思うよ、と答えておきました。
他にもいろいろありましたが、とにかく、Vesta と HED 尽くしの、私にとっては楽しいセッションでした。ただ、私もこのセッションに入るべきだったかもしれないのに、金曜日の午前中の宇宙風化のほうに入ってしまったので、ちょっと残念でした。金曜日までいったい何人残っているだろうか?
その後は、はやぶさ 2 の ONC(多色カメラ)の PI である、東大後輩の杉田精司さんと、1 時間くらい、1999 JU3 の組成に関する論文の打ち合わせをして、6時のシャトルで戻ってきました。シャトルを待っているときに、CalTech のポスドクと話が弾み、そこにロンドン博物館にいる火星の分光学者 Joe Michalski もちょっと入ってきて立ち話をしました。
明日はまた、夕方ポスターセッションがある、長い一日です。
Vol, 10. 2013/03/22 AM 01:41 日本時間
今日は4日目で、昨日からテキサスとしてはめっきり涼しくなったヒューストンですが、天気はとってもよいです。
今朝は、Journey to the Center of an Asteroid という、隕石が母天体内部でどうできたかと言う話の発表でした。
3 人目の、Bosenberg 氏は、南極隕石の QUE94-97-99 の一連のオーブライトと言われている隕石群は実は原始的エコンドライトと考えるのが正しいとか、オーブライトはエンスタタイト・エコンドライトでなく普通コンドライトからできたと考えられて、実際にコンドリュールが入っているオーブライトがあるとかいう話をしましたが、スミソニアンの Tim McCoy が質問に立ち上がって、それに反論していました。
私の専門分野外なので詳細はわかりませんが、元素やそれらの同位体の分布によって隕石の故郷やそこでの生成過程がたどれると言うのは、この自然界が我々に科学をしなさいと言っているようなものだと思います。
次は首都大学東京の日高さんの発表で、原始的エコンドライトを多く調べて、その母天体での部分溶融過程を調べていました。なかなか英語も上達していて、質問してきた Tim McCoy もよい仕事だとほめていましたが、やはり重要なポイントを指摘していて、本人もきっと参考になったと思います。Tim は学生のころから NASA の隕石の分類をしたりして、本当によく隕石を見てきているなあと感じました。
何年も前、天文学者の Bobby Bus が新しい小惑星を幾つか見つけて、その名前をつけるのに、Tim McCoy に尋ねて隕石学者たちの名前にしようと言うことになり、その中に、4887 Takihiroi も入れてもらって、かなりユニークに私とわかる名前をつけてくれたのでした。この世から自由になったら、いつか行って見たい天体です。
最も興味深かったのは、酸素同位体測定の精度を上げた結果を発表していた Greenwood 氏で、HED 隕石と Vesta およびそれ以外の母天体との関係を調べていました。私の、今は存在しない Pallasite 隕石母天体と Vesta から来ていない Eucrite とを関連付ける仕事はしているのか、と言う質問や、私も考えていた、炭素質コンドライトが Vesta に混じっているので、同位体比も変わった岩石もできてもよいのでは、という質問も出ていました。私はこの手の話が好きです。
その後は、私は早めに切り上げて、この部屋の画面のプロジェクションが左にちょっとずれているので直してほしいとサイドお願いに行き、メールをチェックしていたら、横田さんが来て、昨日頼んでおいたプロットを作ってくれたようで、ポスターに別個に貼り付けますと言うことでした。月の表面の宇宙風化度が緯度とよい相関があると言う図で、太陽風の貢献度が高いことを物語っています。
さて、今日も玄米カリフォルニアロールがあるかどうか楽しみに食事に行こうと思います。
Vol, 11. 2013/03/22 AM 07:02 日本時間
今日の午後のセッションは、正直言って眠かったです。最近カフェインの採り過ぎなので、デカフェコーヒーを飲んでたら、やっぱり全然効きませんね。眠くて。
お昼のカリフォルニアロールは白米のしかなかったので、店員さんに尋ねたら、玄米のは売り切れたとのこと。学会は明日までやるのかと言われて、そうだと言ったら、明日は用意しておいて上げると言われました。とにかく、今日は全粒パンでできた野菜のサンドイッチとヨーグルトにして、会場に戻って、メールと、杉田さんとの論文を印刷させてもらってから、月試料の研究のセッションに入りました。
前述のように眠くて、半分も頭に入りませんでしたが、2 年前に極地研から LPI にポスドクとして行った新原さんが堂々とアポロ 16 号試料の多重衝突起源の部分についての研究発表をしていましたね。英語の発音はまだ努力が必要でしょうが、なかなか大したものです。
一番判りやすかったのは、西泉さんと宇宙放射線年代を測定・研究している Caffee 氏の発表で、隕石が放射性核種を受ける過程と、測定で何が判るかを丁寧に説明した後で、幾つかの月隕石の結果から、月を一緒に飛び出したペアを見出していました。非常に判り易く、面白い研究です。西泉さんは私よりもずっと長くアメリカにいる研究者です。
月試料のセッションから出てきたら、後輩の小松睦美さんにあ会って、MEF の私のブラウン惑星人の日々で、娘たちの写真を見ましたよ、と言われました。可愛いですねえ、と言われて、本当なんだけれど(笑←井本注.親はみんな一緒だな☆)、親からは客観的に評価できないですねえ、と言わざるを得ませんでした。それで、学校のことや進学のことを話していると、Jessica Sunshine が来て、山本聡はどこにいるのか、と聞くので、月試料と衝突のセッションを行き来しているはずだ、と答えました。あとは、私のボスの Carle が今の RELAB の危機をどうしようとしているのか、新任の Ralph Milliken はどうする気なのか、と言う話題に花が咲きました。黒い花ですが。。。
まあ、RELAB が NASA から切られても、私は何処かで生きていけるでしょう。私が居なくなったブラウンならば、日本の皆さん、固体惑星物質分光学で太刀打ちできますよ(笑。。。
Vol, 12. 2013/03/22 PM 01:51 日本時間
ポスターセッションを終えて、ホテルで寝る前にまた書いています。
やっぱり、午後に出したメールは寝ぼけていて、番号を間違えていましたね。(9)でなく(11)でした。
ポスターの前に、WiFi の部屋で、いつも美しい阪大の薮田ひかるさんに会って、5月13日にセミナーに行くかもという話をして、やっと薮田さんが寺田健太郎さんのとこにいることを理解しました。てっきり中嶋さんとこかと思っていました。
ポスターセッションの前は、中村良介さんと、山本聡さんの発表の反応についてと、今後のかぐやデータを使った研究のことなどを話しました。日本の研究者も、ちゃんと自前のデータがあって、教育されれば、アメリカに負けないじゃない、というのが私の見解ですが、まだまだ人口が少ないのも問題です。
ポスターでは、まず小天体のリモセンのコーナーで、車椅子上の豪傑女性研究者である Fieber-Beyer さんにいつものように、Taki! と声をかけられて、ポスターの説明をありがたく聞きました。われわれを迫害してきた Mike Gaffey の弟子で、その手法を用いているのですが、まあ憎めない気のよい女性です。今回初めて、どうして歩けないのか尋ねると、17歳とかで車の事故で背骨を傷めたとか。御気の毒です。私の妻も、今回ヒューストンに来る直前に YMCA の Treadmill で転んで背骨の下部を打ち、救急車で運ばれて入院していました。神経に異常はないものの、激痛で痛み止めを飲み続け、かがむことができません。ゆっくり歩くことや、10 ポンド以下のものを持つことはできます。
そばにいた、インド人の Reddy 氏や新人の女性もいましたが、基本的に先生である Gaffey のプロットで解析している、いつもながらの発表でしたが、新しい天体や観測があれば、発表はできるわけです。
小天体のリモセンの次は、やはり宇宙風化です。今回、佐々木晶さんや私がやっているナノ秒レベルのパルスのレーザーで宇宙風化を模擬する実験を 2 つのグループがやっていて、どちらもナノ微小鉄を生成しています。そして、もう1つのグループがあり、そこは加熱だけで同じことをしているという、昔 NASA ジョンソン宇宙センターの Carl Allen がやったような実験です。火勢隕石も衝撃による瞬間加熱と冷却でナノ微小鉄ができるので、不思議はないかもしれませんが。ただ、反射スペクトル測定の標準試料であるスペクトラロン自身の吸収が波長 2.1 ミクロンくらいから始まるのを補正していないポスターが2つあったので、その点を助言しておきました。
それと、ブラウン出身の Sarah Noble の月試料の風化微粒子の分布のポスターがあって、それら 4 つは本当に宇宙風化の研究の隆盛を見るようでした。Sarah はブラウン大の学生だったときに、私がその試料を測ってあげ、MGMというモデルで分析するためのソフトも作ってあげた子です。手作りのクッキーをよく持ってきてくれました。
あとは、月のほうに行き、かぐや仲間の中村良介さん、山本聡さん、大竹真紀子さんのポスターをさらっと見てから、ブラウン大の学生でオリエンタール盆地の Jim Head との研究で一躍脚光を浴びた Will Vaughan にポスターのところでおめでとう、といって別れた後、かぐや Terrain Camera(TC)の PI である春山純一さんに会って、ちょっと世間話、というか M3 とかぐやの板ばさみになってる私の話をしていたら、中村良介さんが Will を紹介してくれというので、連れて行ってこいつが中村良介だよ、といったら意気投合して良介さんのポスターに向かっていきました。Jim Head のところと、かぐやチームの発見が一致するとはすごいものです。M3 の PI である Carle はちょっと複雑な気持ちかも。。。
その後は、私がデータを測ってあげた Leah Cheeck の混合物のスペクトルを MGM 分解したポスターのところに大竹さんが来ているところに参加して、その隣でも、イタリアの方からの女学生が同様なスペクトルの成果を発表していました。MGM もやったらよいねと助言したら、もう始めようとしているわ、といってました。
とにかく、ポスターが多くて、とてもとても見たいポスターをすべて回るのは難しいです。
その後、8時くらいのシャトルで早めに帰ろうかと思ったのですが、東大柏キャンパスの杉田精司さんとまた論文の話になったので、結局8時半のに乗って、夕食を買いに行って食べ、シャワーを浴びて、メールをチェックして、家族に Google Talk で電話して、今の時間になってしまいました。もう12時近いですね。明日の朝の8時半からのセッションで発表なので、早く寝ないと。
Vol, 13. 2013/03/23 AM 02:36 日本時間
やっと午前中のセッションを終えて、WiFiの部屋で昨晩の中華料理の焼き飯の残りを食べながら、これを書いています。
Surface Interactions on Asterois, Regolith, and Space Weathering というタイトルのセッションで、私の研究テーマにぴったりではありますが、Dawn の会場ほどははじめは人は少なく、でも、Dawn のイタリアの研究者も来ていました。
私のすぐ後ろには Clark Chapman が座っていて、右斜め前には NASA ジョンソン宇宙センターでもお世話になった炭素質コンドライトやダストの大家である Mike Zolensky、あとは、James Franagan とか Paul Abell とか他の小惑星研究者も、Allan Ruben のような他の有名な隕石学者などが集まり、やはりリモセンだけでなく、はやぶさが持ち帰ったイトカワの粒子や、アポロの月試料、天体表面のレゴリスが入った隕石などがあるのが強いことだと思いました。
Mike Zolensky が小惑星 Eros に見られた Pond が炭素質コンドライトなどの中にも見られるという話や、宇宙研の矢田達さんがイトカワ粒子の小さいものをチェンバーの A と B とで統計的に比べたときに、鉱物分布にやや違いがあるという話や、Buseman 氏がコンソーティアムを組んでイトカワ粒子を解析する話がありました。はやぶさが大きな塊の試料を持ってこれなかったのは残念でしたが、細かい粒子でもいろんなことができるのだとわかります。特に、宇宙風化においては、その後の松本さんと土山さんの話で、いろんな形態・段階があるのがわかります。
リモセン関係では、ハワイ大学で Paul Lucey とともに Clementine 衛星データのたった 3 バンドを使って Fe や Ti の量を見積もるアルゴリズムを開発したあの Dave Blewett が、今度はHED(実際は Howardite)と炭素質隕石(Murchison CM)との混合でどのように Vesta 上の風化傾向が変わるかを Hapke のモデルで計算していました。これはまったく今回の私の実験における発想と同じで、その同時性に驚きました。そこには 3 人くらい質問が出ていて、私も言いたいことがありましたが、次の自分の発表で答えを与えられるので、黙っていました。
次は私の番で、炭素質コンドライトにレーザーを当てて、反射スペクトルがどう変わるかの考察の後、Howardite に 1 % だけ Murchison 隕石を混ぜたものが如何に風化が遅くなるかということを示しました。質問は、Clark Chapman が炭素質コンドライトは Vesta のすべての面にあるわけではないのに、明るいところはどうなるのか、というのが出たので、私は、レゴリスとして、下のほうに混じっていても、風化過程の Gardening で混ざるし、炭素質コンドライト粒子が大きければ、数 % 程度の混合ではあまり暗くならないと返答しておきました。誰もほめてくれませんでしたが、私としては、Dave の発表の後に不満だった聴衆をかなり満足させることができたと思っています。
その後は、私も共著の、Lindsay Keller による FeS の宇宙風化における役割の話で、とてもよくできていました。月には S が少ないですが、小惑星では無視できません。一方で、次の Roy Christofersen はショックや宇宙風化でできる Agglutinate ガラスの重要性を説きました。
次の Jeff Gillis-Davis は、われわれと同様に、レーザーを当てて Allende 隕石を粉のまま風化させて、S 型小惑星のようなスペクトルの変化を得ていました。粉のままやったのは確かにすごいことです。Murchison のように含水鉱物を含むものでやったらいっそう面白いですが。
最後に Andy Rivkin がその得意の地上望遠鏡による 3 ミクロンの水の観測で、Eros や Ganymed といった近地球の小惑星が含水鉱物を持っているかもという話でした。わたしは、Vesta で見つかったように、炭素質コンドライトの混合はありうると思っています。
午後も同じ部屋で小惑星のセッションがあるので、ずっと入り浸りだと思います。とにかく自分の発表が終わってほっとします。今回はあまり緊張はしませんでしたし、意外と多くの人が聴きに来ていてよかったです。
Vol, 14. 2013/03/23 AM 06:12 日本時間
午後は、まだ終わってませんが、Faith Vilas と Tasha Dunn の司会による小天体のリモセンです。
Tasha Dunn は、以前 RELAB に試料を送ってき私がそれらの測定をしましたが、今回は、それら普通コンドライトのタイプをを小惑星のスペクトルから見分けるパラメーターを自分で改良して、400 個の近地球小惑星スペクトルに適用したら、LL が半分以上だったという結果でした。確かに、私の研究でも、隕石に少ないはずの LL が近地球に多く、Eros も Itokawa も LL でしたね。
次の Scott Murchie は以前ブラウン大にいた人ですが、Phobos と Deimos の空隙率と Groove (溝)を調べて、空隙率が大きい、Rubble Pile らしいものの上には溝構造が見られないという発表をしていました。きっと Shaking によって崩れていってしまうからではないでしょうか?その次に、Fraeman という女性は、Photos の赤と青の部分の特徴づけをしていました。赤く暗いほうに 0.65 - 0.7 ミクロンの吸収が見えていて、CM コンドライトではという考えもありますね。色の違いも宇宙風化に関係あるかもしれません。
Capaccioni という人は Lutetia を Rosetta で測定した結果でしたが、エンスタタイト・コンドライトらしいという以外は特に新しくなかったような。
そして、杉田精司さんは、はやぶさ 2 の目標天体である 1999 JU3 の分光測定の結果の解釈を発表していました。今のところ CM コンドライトではないかというのが一番可能性がありますね。
Mike Shepard は、Arecibo のレーダー観測で M 型小惑星のうち、3 ミクロン帯吸収の原因を探るべく、レーダーアルベドとの関係を調べていましたが、はっきりしたことはわからず、やっぱり炭素質コンドライトの汚染と考えるのが一番無難かも。Vesta のように。
Walsh氏は、とっても話がうまく、わかりやすい内容で、WISE を使って、近地球小惑星をもたらす 2 つの族(495)Eulaliaと(142)Polana の関係を考察していました。こういう研究は、1999 JU3 がどの母天体から来たかを探るのにも重要です。
さてそろそろセッションに戻らないと
Vol, 15. 2013/03/23 AM 06:50 日本時間
小天体のセッションに戻ったら、なんと最後から 2 つ目の発表の人が来なくて、みなで雑談していました。
私は、やはり小惑星仲間の James Granahan としゃべりながら、さらに Tasha Dunn の別刷りをもらって、そこに Ed Cloutis や James も来たので、もうそろそろ Gaffey Plot から卒業して、MGM 分解で小惑星スペクトルを解析して、隕石と比べるべきだという話をしました。
そして、杉田精司さんと Faith Vilas がミッションのことを話していたので、ちょっと参加して、1999 JU3 に 0.7 ミクロン帯が見えたのは、その時だけの幸運な衝突現象か何かあったのでは、と話しました。
やっと時間が来て、座長の Faith が木星の氷衛星の分光の話をして終わりましが、0.43 と 0.7 ミクロンの両方の吸収帯がはっきり見えているものや、ものすごく右上がりのスペクトルを持つものなど、なかなか面白いなあと触手を動かされるデータを見せてくれていました。
これで LPSC の公式行事は終わりのはずです。
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