観測ガイド

2021年の一番初めに発見されたレナード彗星が年末ごろに見ごろを迎えます。12月初旬から12月までは6.0等を越え、肉眼で観測できる可能性があります。

参考資料として、彗星の命名に関する解説を参考資料として以下に置きました。

彗星の名前のつけ方は?



見やすい時間帯

12月13日までは明け方の東の空に見え、12月13日の11時47分に太陽を西から東に追い越した後、12月14日からは夕方の西の空に見えるようになります。ただし、13日から15日は太陽に近く、空が明るいため、観測には適していません。空が十分暗いうちに肉眼で観測できるのは、12月04日から12月12日まで、もしくは12月16日から12月31日までです。暗夜の時間帯は観測する場所によって違うので、事前にアプリなどで調べておくことをお勧めします。
 

見える位置・方角

2021年12月12日に地球から約 0.233AU(3490 万 km)と地球に近いところを通過するため、非常に移動量が大きく、見る日によって星空に対する彗星の位置が大きく変わります。12月04日から12月12日までは「うしかい座」から「へび座」を通って「へびつかい座」に位置しています(図 1)。12月16日から12月31日までは「いて座」から「けんびきょう座」を通ってみなみの「うお座」へと移動します(図 2)。
 

図 1 : 「12月上旬の明け方レナード」薄明開始になる太陽高度 -18 度の時の位置.
Image Credit: K. Moriyama
 

図 2 : 「12月下旬の夕方レナード」薄暮開始になる太陽高度 -18 度の時の位置.
Image Credit: K. Moriyama

図からもわかるように、12月上旬の明け方、東の空に見える彗星の方が高度が高く観測しやすいと言えます。
 

彗星の見え方

彗星はほとんどの場合、淡くボゥッと広がって見えます。彗星の光度は通常、全光度と言って、彗星の核・コマ・尾などすべてを含んだ光度であらわされるため、同じ等級の恒星と比べるとずいぶん暗く感じます。数等級暗く見えるというつもりで観測しましょう。
 

図 3 : 「彗星の構造模式図」.
Image Credit: NAOJ
 

彗星は動きが違う

星は地球の自転によって毎日正確に東から昇って南の空を通って西の空へと移動していきます。しかし、彗星は恒星とは違い、惑星などと同じように独自の軌道を持っています。そのため、恒星を点状に止めて撮影すると彗星が動いてボヤっとした形に写ります。できれば彗星の移動に合わせて追尾できる機材を準備して彗星を撮影してみましょう。恒星は線上に流れて写りますが、彗星の淡い部分や、構造がよく分かるようになります(図 4)。
 

図 4 : 例. 46P Dec. 10, 2018 21:15 - 21:44
画像をクリックすると、GIF アニメイション(73 MB)が表示されます。スクリプトで制御しているため、ファイルの規模(縦横幅)がお使いのブラウザサイズに合わせて表示されます。フルサイズで観る場合は、以下をクリックしてください(別窓表示)。
46P Dec. 10, 2018 21:15 - 21:44 を全画面で観る
Image Credit: K. Moriyama
 

景色と一緒に

明るい彗星は望遠鏡を使わなくてもカメラのレンズでも十分写ります。地上の景色と一緒に撮影することで情景ある彗星の写真が撮れます。風景と一緒に撮影する場合、目が向くのは地上の風景です。写る範囲が広いこともあり、多少の地球の自転による星の動きは気にならなくなるので、三脚をしっかりと固定して撮影にチャレンジしてみてください。
 

図 5 : C/2020 F3 NEOWISE. Jul. 16, 2020 21(h):15:12. EF50mm F1.8→F2.0 6s露出 EOS6D(HKIR) ISO2000
Image Credit: K. Moriyama
 

試し撮りをしてみよう

彗星を見つけるときに思っていたより暗いことが良くあります。「位置が分からない」、「このあたりにいるはずなのに…」ということがままあります。そんなときもカメラで撮影すると、意外と目では見えていなくとも写っていることがあります。探す手助けにもなりますので、カメラを一機持っておくとよいでしょう。
 

観察に当たっての注意

・肉眼で観察できる頃は観察できる時間が少ないので、暗闇に目をしっかり馴らしておこう。

・12月上旬から中旬にかけては東の方角の見晴らしの良い場所、12月中旬以降は南西の方角の見晴らしの良い場所が観測に向いています。

・接近するまでは非常に暗いため、基本的に眼視よりも写真観測がメイン。

・彗星の軌道は観測される数が増えるほどどんどんより精度が上がるため、なるべく最新のデータをもとに計算された位置情報で撮影・観測に挑もう。

・彗星の詳細な構造が良く見えるようになるので、彗星追尾ができることが望ましい。

・基本的に何枚か撮影して、画像処理をすることでよりたくさんの情報が引き出せるので、可能ならできるだけたくさん撮影しよう。
 

天体との接近


図 6 : 2021年11月25日、AM 04:00 の NGC4631・NGC4656 との接近予測図. 四角は 1,000 mm + 35 mm フルサイズ画角.
Image Credit: K. Moriyama
 


図 7 : 2021年12月03日、AM 05:00 の M3 との接近予測図. 四角は 800 mm + 35 mm フルサイズ画角.
Image Credit: K. Moriyama
 


図 8 : 2021年12月18日、PM 18(h):01:30 (東京での薄暮終了時)の、金星との接近予測図. 四角は 135 mm + 35 mm フルサイズ画角.
Image Credit: K. Moriyama
 

参考資料:観測早見表

等級 日時 望遠鏡
& CCD
望遠鏡
& デジカメ
カメラレンズ
&デジカメ
望遠鏡での
眼視
双眼鏡 肉眼
1 ここまでは
明るくならない
2
3
4 12/08-12/20
5 12/04-12/08
6 11/29-12/04
7~8 11/17-11/29 ×
9~11 10/18-11/17 ×
12~14 08/19-10/18 × ×
15~19 × × × ×


現在の予測では、4等級を超えないものと見られています。日付は総て2021年となります。
 

参考資料

彗星の名前のつけ方は?

本プロジェクトのターゲットは Leonard(レナード)彗星 C/2021 A1ですが、皆さんは他にどんな彗星をご存知でしょうか?有名なのはハリー彗星 1P/Halley でしょうか。昨年2020年には NEOWISE(ニオワイズ)彗星 C/2020 F3 が話題になりました。年齢が三十歳代より上の人は Hale-Bopp(ヘール・ボップ彗星)C/1995 O1 の名を覚えているかもしれません。では、彗星の名前はどのように決められているのでしょうか?

彗星には、現在、基本的に発見者の名前が先着順に三名までつけられます。最近では発見者が個人ではなく人工衛星やプロジェクトであることも多々あります。例えば、IRAS-Araki-Alcock(IRAS・荒貴・オルコック)彗星 C/1983 H1 という彗星がありますが、これはアメリカの赤外線天文衛星 IRAS(InfraRed Astronomical Satellite)、日本のアマチュア天文家である荒貴源一氏、イギリスのアマチュア天文家であるジョージ・オルコック氏の三名が発見した彗星です。昨年話題になった NEOWISE 彗星 C/2020 F3 は NASA の広域赤外線探査衛星 WISE の後継ミッション NEOWISE(Near-Earth Objects WISE)によって発見されました。また、しばしば PANSTARRS(パンスターズ)彗星という名を耳にしますが、これは Pan-STARRS という四台の望遠鏡で全天をサーベイ観測し彗星や小惑星のような移動天体や超新星のような突発天体の検出を目的としたプログラムで発見された彗星になります(Pan-STARRS は Panoramic Survey Telescope And Rapid Response System の略)。

ただし例外もあって、その代表が先に述べたハリー彗星です。ハリーとは、この彗星の軌道を計算し、76 年周期で太陽のまわりを公転していることをつきとめた天文学者 Edmond Halley(1656 - 1742)のことです。同様の例としては、Encke(エンケ)彗星 2P/Encke や Crommelin(クロムリン)彗星 27P/Crommelin が挙げられます。また、愛称的に「○○年の大彗星」などと呼ばれる彗星もあります。が、どのくらい立派な姿を見せれば大彗星かという定義はありません。

一方、彗星には、正式に符号がつけられることになっています。発見者名だけですと、同じ人が複数の彗星を発見したときに区別ができなくなってしまうからです(実際、PANSTARRS 彗星は 30 個以上あります)。その符号とは、ここまで何の説明もなしに書いていた 1P/Halley とか C/2021 A1 のことで、ある一定のルールを踏まえて個々の彗星に付けられています。以下ではそのルールについて説明します。

先頭のアルファベットは通常、発見直後には彗星(Comet)を表す「 C/ 」がつけられます。その後、軌道が確定し、周期彗星であることが明らかになると「 P/ 」となり、さらに次の条件の一つに当てはまると、符号から発見年などの情報が除かれ通し番号が付けられます。

1)2 回目の回帰が観測された
2)遠日点に達するまで観測された(=彗星が軌道上のどこにいても観測可)
3)4 回の衝が観測された(ケンタウルス族に分類される小天体の場合のみ)

彗星が何らかの理由で消滅した、あるいは長期間観測されずに行方不明になった場合は「 D/ 」がつけられ、観測数が足りず軌道が求められなかった場合は「 X/ 」がつけられます。彗星のような細長い楕円軌道を持つものの彗星活動が認められない天体には「 A/ 」がつけられます。また近年、太陽系外から飛来してきたと考えられる天体が発見され、その場合は恒星間(Interstella)を意味する「 I/ 」がつけられます。
アルファベットに続く四桁の数字は発見年(西暦)です。

発見年の後ろには半角スペースが入り、その後ろには発見された月を表すアルファベットがつけられます。数字の「 1 」や小文字の「 l 」(エル)と間違えやすい「 I 」とアルファベット最後の「 Z 」を除いた 24 個の A~Y が使われ、01月前半が A、01月後半が B、02月前半が C、…となります。次にくる数字は、その期間内の何番目に発見されたかを示しています。つまり、Leonard(レナード)彗星の場合、C/2021 A1 ですから、2021年01月上旬の 1 番目に発見された彗星、となるわけです(というか2021年になって最初に発見された記念すべき彗星ですね)。

なお、日本人が発見した彗星の一覧は国立天文台のウェブサイトで見ることができます。興味がある人は覗いてみてください。
https://www.nao.ac.jp/new-info/comet.html
 

さらに加筆、編集中!