The Planetary Society of Japan

The Planetary Report

Archive 1996

 

探査機マーズ・グローバル・サーベイヤーの探査

探査機マーズ・オブザーバーの失踪は、惑星探査にとって大打撃であった。しかし、遠からず克服できる打撃であると思われる。重厚長大の探査機の時代はまもなく終わり、「より速く、より良く、より安く」の方針のもとに、惑星探査の新たな途を見出す探査機が現われた。探査機マーズ・グローバル・サーベイヤーによるミッションもその計画の一つである。
筆者は地形学者で、マーズ・グローバル・サーベイヤー・オービター(周回機)の撮像主任である。中心テーマは、地球や他の惑星の寒冷・乾燥地域を形成する地質過程についてである。筆者は、マーズ・サーベイヤー98ミッションの撮像を委嘱された。[ 1996年01月/02月 ]

Michael Malin

 

マーズ・グローバル・サーベイヤーは、惑星間軌道から火星周回軌道に移行する時に、エアローブレーキング(空気制動)と呼ばれる技術を使う。この技術で飛行する間、探査機は空気の抵抗をブレーキとして使って火星大気の上層部に突入する。この突入軌道は正確に決めなければならない。低すぎると、探査機は熱で損傷するか破壊され、高すぎると、火星の重力に捕らえられる速度まで減速である。
 

1996年11月、火星探査機マーズ・グローバル・サーベイヤーはデルタ7925型ロケットに搭載され、フロリダのケープ・カナベラルから打ち上げられる予定である。10ヵ月の飛行した後、一周48時間の火星を周回する楕円軌道に入る。約6ヵ月後、火星大気の抵抗を利用して軌道を縮めながらゆっくりと火星大気の中に入って行く。1998年の半ば、グローバル・サーベイヤーは、火星の 400km 上空を周回しながら、2年間にわたる火星の地形図を作る作業を開始する。

この火星探査機は、熱放射分光器、カメラ、磁気計、中性子反射計、レーザー高度測定計および無線発信機が搭載されており、失敗に終わったマーズ・オブザーバーで予定されていた7つの探査の中の5つを行なう。6番目の計画として、搭載されたフランス製の無線受信機を使い、ロシアが打上げるマーズ96とマーズ・パスファインダーから送られるデータ送信の中継を行なう。
 

熱放射分光器
熱放射分光器(TES)は、最も利用度の広い測定機器である。火星表面空の熱量と大気を様々な波長で測定して、様々な高度の大気の気温と圧力、大気層と大気の広がりの中に存在する塵の濃度を測定する。これ等の機器による測定結果は、火星の気象地図を作製する基礎データとなる。

TESは昼間と夜間の気温を比較(昼間の浜辺の砂は非常に熱く、夜間は冷たくなるのと同じ原理)して、地表の塵粒子から岩床地域を形成する物質の粒子のサイズも測定する。この測定により、地表の粒子か、風か、あるいはおそらく水か、または他の作用のどれで運ばれたのかわかる。しかし、TESの最も重要な役割は、火星の岩石や砂や塵の形成物質とその構成比率を明らかにすることである。

TESはハワイで見られる火成岩とセント・ヘレンズ山(アメリカのワシントン州)の噴火による火成岩とを区別でき、干上がった湖やかつての水域の跡と思われる所に残った鉱物や、火星の大気が今よりも濃く湿り気があったとされる時代にできた鉱物を探す。
 

カメラ
グローバル・サーベイヤーに搭載された3台のカメラは、数千枚もの火星の写真を撮る。2台の低分解能・広角カメラは、直径 500m の地形を認識する能力があり、地表の明るい部分であれば何処でも毎日撮影できる。

火星地図は、探査機が火星を周回するごとに低分解能で撮影した画像を合成して作られる。この地図で塵や氷雲、砂や塵の移動が原因で発生する地表の明るさの変化を観測する。従って、火星は気象衛星から見た地球と同じように写る。このように撮影された画像を合成して作られる地図により、長期に亘火星の気象と季節の変化がわかる。

狭角カメラは、直径 3m 位の巨石まで見分けることができる探知器のようなものである。もっとも、何が見えるのかそれはほとんどわからないが。このカメラは、海岸や氷河の痕跡、峡谷の壁面から湧出する水の影響の跡、気候の変化を示す極地域の堆積層を調査し画像を撮る。

火星に到着した2機のバイキング・ランダーやパスファインダーとミニ・ローバーについても同様の事を行なう。すべて首尾良くいけば、地上と軌道から撮られた画像を合わせた火星の合成画像ができる。
 

磁力計と電子反射機
これ等の機器を使った観測は、ミッションの初期段階、即ち、探査機の楕円軌道周回時点で行われる。これは火星内部の過程で生ずる磁場の探査や、火星固有の磁場と太陽風(太陽から吹き出る荷電粒子の流れ)の影響で生ずる磁場の相関係の観測には理想的な段階だからである。

探査機がほぼ円軌道の周回に入る最終段階以降は、磁力計は地質や地質物理学上の影響による磁場の変化を調べ、電子反射計は磁気を帯びた岩石の構造を調べる。この低軌道周回で得られたデーターを分析することにより、クレーター、火山および峡谷などの表面地形の形成の要因がわかるであろう。
 

マーズ・グローバル・サーベイヤーの科学観測機器.Mars Orbiter Camera (MOC), Thermal Emission Spectrometer (TES), Mars Orbiter Laser Altimeter (MOLA), Magnetometer / Electron Reflectometer (MAG/ER), etc...
 

レーザー高度計
火星の表面と探査機との間の高度を正確に測定するレーザー高度計で、火星の地形について非常に多くのことが迅速にわかるはずである。軌道からの測定で、クレーターの深さ、火山の高さ、断層の亀裂や水で削られてできた峡谷の勾配などがわかる。

火星全体の形は今まではほとんど立体画像で推定されていたが、軌道からの測定で得られた多くのデータ(画像)を使って、火星を「グリッド」(grid:格子状に区切る)することにより形は更に明確になる。グローバル・サーベイヤー・ミッションが始まってから1年以内に、火星の新しいデジタル地図を作成する計画がある。地形と重力を合わせて使えば、例えば、火星の地殻の厚さや強度、タルシス高原にある巨大な火山がその高さを維持できる理由など火星内部の探査が可能になる。
 

電波科学
火星の重力を正確に知ることは探査機の航行に重要なことなので、このミッションの初期段階に於いては重要度の高い作業である。重力の測定には深宇宙ネットワーク(DSN)追跡システムが使われ、火星固有の様々な性質により惹起される探査機の無線信号の変化をモニターする。火星を周回する探査機の微妙な動きで生ずる周波数の変動は、火星の地表下の質量分布によって生ずる重力の変化と相関関係する可能性がある。

様々な地域の重力地図を統合して、火星の核の大きさ、地殻の厚さ、活火山の下で見られるような地表に近い地殻の異常な現象が存在するかどうか調べることができる。この方法により、通年で 25% もの大気が凍結している南北の極冠の季節毎の拡張や収縮を正確に測定できるかもしれない。

また、このミッションの初期段階に開始されて2年間続けられているのが、掩蔽(えんぺい)観測である。探査機は火星の裏側を飛行しながら、その無線信号で火星大気の気圧、気温、密度を測定する。この掩蔽測定で、大気の熱さや冷たさの度合いやこの惑星の形が明らかにされる。
 

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