スペースシャトル RS-25 エンジンが、SLS アルテミス月探査の打ち上げで再登板


スペースフライトの歴史のひとつである RS-25 を搭載したロケットエンジンが、二度目の活躍の場を創ろうとしている。まずは月探査ミッションであるアルテミスミッションとして、月に再び人類を立たせる。
 

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画像にあるのは、カリフォルニア州ロサンゼルスにある AerojetRocketdyne(エアロジェット・ロケットダイン社)の戦略的製造センターにおいて新たに整備された生産ラインから 5 番目に完成したノズル N6007(NASA の資金協力により、まず 6 基の製造を受注・製造開始)である。このノズルはハットバンド溶接を完了したばかりで、このあと熱処理炉に入る(後方左に見える濃いグレイの構造物)。熱処理によってノズルは強化され、SLS フライトの過酷な環境に耐えることができる。このノズル N6007 は、Artemis VI でフライトする予定の 4 基のうちのひとつだ。発射中、700,000 ガロンを超える液体推進剤が華氏 6,000 度を超える温度でノズルから噴出される。冷却管を保持するエンジンの最も外側の部分の新しく設計された RS-25 ノズルジャケットは、4 枚からなる大きなコーンを溶接して接合されている。元の設計では 37 個のパーツを溶接する必要があったが、ロケットダイン社は、以前はシャトルミッションで飛行した 16 個の現存する RS-25 エンジンを新しい制御システムへとアップグレードし、Artemis I での SLS ファーストフライトで使用する 4 基を、過去を凌ぐ高い出力レベルでテストした。今後、ノズル N6007 と同様に同社は、将来のフライト用に改良された低コストバージョンの RS-25 を製造し NASA に供給する。
Image Credit : Aerojet Rocketdyne
 

スペースシャトルのメインエンジンとして知られる RS-25 は 30 年以上に亘って 135 のミッションを宇宙に送り出した実績を持つ。国際宇宙ステーションの建造とハッブル宇宙望遠鏡の配備に用意された RS-25 エンジンは、2011年のシャトルプログラムが終わった後も 16 基が保管されていた。

アメリカにおける次の大型ロケットである NASA スペースローンチシステム(SLS)に推力を与えるエンジンの選定において RS-25 は、開発、予算、機能についてスペースシャトルプログラムの経験などからコストダウンに貢献することは明らかだった。

「RS-25 は、これまでに製造されたロケットエンジンの中で最も信頼性が高く、効率的で高性能のエンジンのひとつだ。時代をはるかに超えた設計、エンジニアリング、パフォーマンスを持つことは明らかだ」アラバマ州ハンツビルにある NASA マーシャル宇宙飛行センターの SLS Liquid Engines Office(SLS LEO:リキッドエンジンオフィス)のマネージャーである Johnny Heflin(ジョニー・ヘフリン)は言った。
「このエンジンが SLS 稼働のための汎用性に富むことは、1970年代に最初にそれをデザインした技術者および 30 年以上に亘る道のりにおいて継続的に改良を重ねてきた素晴らしい人々の証と言えるものだ」

しかし、RS-25 エンジンによって新たにメガロケットを飛ばさせることは、「プラグアンドプレイ」のような容易な問題ではなかった。 エンジニアは、RS-25 をより要求の厳しいSLS 環境でフライトを可能にさせるため、いくつかの設計上の改善を行った。
 

Engineers Adapt the RS-25 for the SLS Rocket(RS-25 を SLS ロケットに適合させる)

2015年に NASA と AerojetRocketdyne(ロケットダイン社)が SLS に使用できるヘリテージ(過去に実績を持つ)エンジンの適応審査を始めたとき、彼らが再設計した最初の部品のひとつは、既に廃止されていたフライトコントローラーであった。RS-25 は、エンジンの動作をアクティブに制御し、エンジンと宇宙船の間のコマンドおよびデータプロトコルを管理する役割が必要であり、エンジンの頭脳としての最新の SLS アルゴリズムを処理できるスーパーコンピューターが必要であった。

エンジンの制御システムの変更だけでは、この強力なロケットエンジンを構築・操作するには十分ではなかった。SLS におけるアーキテクチャは、前身のスペースシャトルでのそれとは異なり、エンジニアは RS-25 エンジンを今回の新たな役割に適合させることとなった。

スペースシャトルは本体に 3 基の RS-25 を備えていたが、打ち上げ上昇中はメイン固体ロケットブースターからは遠く離されて設置され、安全な飛行となっていた。しかし SLS 設計では、4 基のエンジンは当然ロケットのコアステージ基底部にあり、2 基の固体ロケットブースターのすぐ隣にある。このシナリオでは、RS-25 エンジンノズルは特にブースター燃料が燃焼する初期の 2 分間のフライト中に極端に加熱されてしまう。

「これらの RS-25 エンジンノズルは、上昇中にふたつの巨大なヒートランプとも言える固体ロケットブースターから出る極端な熱風にさらされている」と、エンジンシステムのチームリーダーである PhilipBenefield(フィリップ・ベネフィールド)は述べている。

結局この問題については、エンジンノズルに断熱材を追加することで対処することとなった。ベネフィールドが重要な改善点のひとつとして、これを説明している。

もうひとつの改良点は、ロケットのコアステージ基底部にある 4 基の RS-25 エンジンに対して設置される液体酸素タンクの据え付け場所だった。212 フィート長のコアステージ最上部に高密度の液体酸素推進剤を注入したタンクは、RS-25 入口で著しく高圧となる。

「これらの噴出ノズル出口は、シャトルに構成された際の倍ほどの圧力となる」とベネフィールドは述べている。
「関連するパーツが、こうした負荷を処理できるかどうかを評価し、運用上の安全基準に準拠していることを証明する必要があった。結果として最小限のアップグレードで、エンジンは認証要件を満たした。エンジンの高度な設計と信頼性を真に示すことができている」

現在、保有していたスペースシャトル用のメインエンジン RS-25 16 基は、すべての受け入れ試験が完了している。初期から四期までのアルテミスミッションをカバーするために新しく復活した RS-25 は、その運用推力レベルの 109% で稼働し、これはシャトルプログラムの終了時点から見て 5% の増加となる。
 

The RS-25 Sees a Bright Future(明るい未来を見据える RS-25)

スペースシャトルプログラムが終了するころには、エアロジェット・ロケットダイン社は既にエンジンを生産してはいなかった。

2015年、NASA はロケットダイン社に資金協力して 6 基の新しいエンジンの生産を再開させ、18 基のエンジンを追加注文する契約変更を行った。新しい RS-25 は、111% の推力稼働レベルを生成し、3D 印刷、熱間静水圧ボンディング、5 軸フライス盤、デジタル X 線などの高度な製造方法を組み込むことによって、エンジンの製造コストをシャトル時代からは 30% の削減を実現した。

「RS-25 をより強力にするだけの問題ではなかった。我々は何か素晴らしいものを取り入れて、それをもっと素晴らしいものにしようなどとは考えていなかった。構築コストを大幅に削減しながら、従来から持つ信頼できる注目すべき側面を改良したかったのだ」とヘフリン(前出、Johnny Heflin:ジョニー・ヘフリン)はコメントした。

製造の改善に加えてロケットダイン社は最近、37 個の別々の部品で構成されていた以前の設計とは対照的に、四つの大きな金属コーンから組み立てられるエンジンノズルジャケットへと再設計した。

「このひとつの製造変更により、ノズル製造コストが 20% 以上削減される。製造コストを削減し、同じ高性能エンジンをより短時間で構築することで、将来への継続基盤を築いている」とヘフリンは語った。

ミシシッピ州ベイセントルイス近くの NASA ステニススペースセンターでの最近のグリーンランテスト中にアルテミス I コアステージの 4 基の RS-25 エンジンは、すべて 8 分間以上の完全な燃焼を完了し、160 万ポンドを超える推力を発生させた。次回、4 基のエンジンが燃焼するのは、NASA ロケットが月への再デビューを果たすときだ。
 

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NASA ステニス宇宙センターにあるロケットダイン施設の RS-25 アセンブリデッキの上層階から見えるメインエンジン 2054 と 2057。これらのエンジンは、有人飛行が予定されている Artemis III で使用される「ヘリテージフライトセット」だ。
Image Credit : Aerojet Rocketdyne
 

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この画像は、アセンブリデッキ全体を写したもので、メインエンジン 2054 と 2057 の全体が見える。
Image Credit : Aerojet Rocketdyne
 

NASA SLS の詳細については、次のウェブサイトをご覧いただきたい。

A Explores with Space Launch System

コアステージ・グリーンランテスト・シリーズの詳細については、以下のウェブサイトにある。

SLS Core Stage Green Run Testing
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office