オシリス-レックスミッション : ベンヌ周回という新たな記録に到る過程と今後の戦略


2018年12月31日、NASA OSIRIS-REx 探査機は、小惑星ベンヌ(Bennu)を周回し、これによりベンヌは、これまでに惑星探査機が周回した最小の天体となった。
 

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ベンヌ周回に臨むオシリスレックス探査機を描いたアーティストコンセプト。
Image Credit : Heather Roper/University of Arizona
 

12月31日午後14時43分(EST)、地球上の多くの人が新年を迎える準備をしているとき、7000 万マイル(1 億 1000 万 km)も遠くに位置する OSIRIS-REx 探査機は、スラスタを一回08秒間燃やすことによって周回軌道に入り、我々の地球から送り届けた探査機がランデブーしたなかで小惑星ベンヌを最小の天体とする宇宙探査記録を打ち立てたのだ。

「チームは、軌道投入制御を確実に実行することによって、我々がこれまで継続して行ってきた長い一連のミッションを次段階へと進ませた」と、アリゾナ大学 OSIRIS-REx PI (主任研究員)のダンテ・ローレッタ(Dante Lauretta)は述べた。
「ナビゲーションキャンペーンが終了し、ミッションの科学的マッピングとサンプリング地点選択のフェーズを楽しみにしている」
 

ベンヌの重力は非常に小さく、ベンヌ表面からの太陽熱放射や熱圧力などの力は、ベンヌの太陽周回軌道や探査機にとって非常に重要であり、そこでの重力は地球や火星の周りを周回している場合よりはるかに支配的な力となる。

カタツムリのような「のろまな速度」でベンヌをランデブーする OSIRIS-REx の初期軌道は、人類の惑星探査にとって飛躍的な進歩を示す。地球から向けた宇宙機がそのような小さな天体(オービターを安定した軌道で維持させるのに十分な重力をほとんど持っていないもの)に極端に接近して周回したミッションはかつてない。

探査機は、ベンヌ中心から約 1 マイル(1.75 キロメートル)の高度で一周する。ロゼッタ探査機が 67P / Churyumov-Gerasimenko 彗星の中心から約 4 マイル(7 キロメートル)の軌道を周回したのがこれまでで最も近い軌道だった。ベンヌは地球の 500 万分の 1 の重力でしかなく、探査機を安定的な軌道に固定するためには最適な高度を設定しなければいけない。探査機は2019年02月中旬まで一周 62 時間の余裕をもってベンヌを周回する予定だ。
 

OSIRIS-REx 探査機がベンヌに近づき観測を重ねることによって小惑星に関して求められる物理的な詳細がより鮮明になり、次の主要なフォーカスが定まって行く。宇宙探査機によるこの原始的な残骸の瓦礫の山への「ツアー」はますます詳細を積もらせ、今後の探査焦点が絞られるようになる。

「我々の軌道設計は、到着前にはわからなかった質量や重力場など、ベンヌの物理的特性に大きく依存している」と、NASA ゴダード宇宙飛行センターを拠点とする OSIRIS-REx のフライトダイナミクスシステムマネージャであるマイク・モロー?(Mike Moreau)は述べた。

「ベンヌに到達するまでは、探査機を安全にベンヌの低軌道に乗せるため、コンピューターシミュレーションによって多種多様な可能なシナリオを検討しなければならなかった。ミッションチームが小惑星ベンヌについての詳細を得たことで、我々は最終的な軌道設計に集中するための新しい情報を取り入れることが出来る」とモローは語る。

これらのシミュレーションは重要な役割を果たしてきた。OSIRIS-REx ミッションは、ベンヌの特性と探査機の軌道がどのように影響し合うかを正確に予測した複雑なコンピュータプログラムに基づいて設計されてきた。

この十分な準備により、チームは安全に「車」をベンヌまで走らせることができ、12月の到達のあと、いくつかの疑問の回答を得て「安息」を得たのだ。形成初期の水がベンヌの形成岩中に保存されているという兆候が見られ、予備調査では天体の極や赤道を飛行し、大きなボルダー(岩塊)の存在にも驚かされた。
 

12月16日にベンヌの南極をフライバイして予備調査を完了した後、探査機は安全な 31 マイル(50 キロメートル)の高度に移動し、フライトチームに軌道再編成の準備をする機会を与えた。その後、ロッキードマーチンのエンジニアは、探査機を軌道に乗せるまでの10日間のうちに三度のスラスタ噴射を行うことの備えとして、探査機をベンヌの北極上約 9 マイル(15 キロメートル)の位置に戻るようプログラムした。

探査機は、可能な限り最も安定した軌道上にあるが、”ベンヌの重力による引っ張りは非常に緩いため、オービターを安全に保つために時々調整が必要になる”と、KinetX Aerospace のダニエル・ウィッベン(Daniel Wibben)は述べている。

「ベンヌの重力は非常に小さく、ベンヌ表面からの太陽熱放射や熱圧力などの力は、ベンヌの太陽周回軌道や探査機にとって非常に重要であり、そこでの重力は地球や火星の周りを周回している場合よりはるかに支配的な力となる。つまり探査機が軌道から押し出される可能性があるのだ」とウィッベンは述べた。

OSIRIS-REx ナビゲーションチームは、「トリム」マヌーバにより、探査機を任意の方向にわずかに押して軌道を修正し、これらの小さな力に対抗する。もし探査機がベンヌに対して漂流、あるいは他の問題によってセーフモードに強制移行することになれば、衝突を避けるために小惑星から「離岸」するようプログラムされている。

「それは単純な論理だ。何かがうまくいかなければ、常に太陽に向かって燃焼する」と、KinetX の光学ナビゲーションエンジニアのコラリー・アダム(Coralie Adam)は述べた。
「探査機が漂流しても軌道に戻すことはできるが、それは起こりそうもないね」

ナビゲーション、オペレーション両チームは、最初の軌道フェーズに集中している。彼らの主な目的は、搭載されたカメラによって撮られたそれの周りの星形成の写真に基づいて探査機の位置を特定するナビゲーションからの移行にある。深宇宙には GPS がなく、地球の望遠鏡から探査機を見つけることはできないので、ナビゲーターはこのような方法を使う。
※ はやぶさミッションで使うスタートラッカと同様なもの

これ以降、ミッションチームは探査機を追跡するためにベンヌの表面上をランドマークとして頼ることになる。このことは最終的に、岩石や大きな岩塊のないサンプリングサイトの確定に到るだろう」とアダムは語る。

「直近のサブミッションフェーズで、ベンヌの全球イメージングとマッピングのキャンペーンを実施した後、科学チームはベンヌの地形の 3D モデルを作成した。私たちはこれを小惑星ランデブー探査に活用する」と彼女は言った。

この軌道フェーズのもう一つの重要な目的は、ベンヌの質量と重力をより深く探ることにある、とアダムは話す。後のミッションに影響を与える可能性や、特に2020年のサンプリングミッションの際の表面上の短いタッチダウンをより安全に実施するためにも重要だ。ベンヌについては、探査機を表面から極めて近い高度でないと形状認識は難しく、ベンヌの重力による、このフェーズにおける軌跡が受ける影響も詳しく観察する。

「軌道フェーズ A では、ベンヌの重力場、熱特性、形状方位等、さらにスピン速度の詳細なモデルの再構築を目指す」と、ウィッベンは言う。
「これにより、2019年内に実施予定の困難なランデブー活動のための軌道が、より良く設計されることになる」
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office