木星トロヤ群探査ルーシー(Lucy)・ミッション : 木星トロヤ群小惑星にルーシー探査機を送り出す


サイエンスフィクションでは、宇宙探検家は未来の宇宙機に乗り込み、筋書きの隙間を一瞬で銀河の大方を飛び越えることができる。ただし、これは実際のミッションの成功を保証するために必要である曲芸的とも言える航法を省いたものだ。
 

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ルーシーミッションの軌道設計図。詳細は原文ページを御読み頂きたい。
Image Credit : NASA
 

2021年、「荒業」とも言える航法のルーシー(Lucy)ミッションが宇宙に飛び立つ。ルーシーを目標天体に向けるためには、単に軌道図面を探査機にプログラミングしてそれに燃料代を与えただけでは全く不十分だ。ルーシーは、12 年間を掛けてそれぞれ異なる軌道にある 6 個の小惑星をターゲットとして航行を進める。

ルーシーの探査目的は、木星との共鳴環境であるラグランジュ点”L4、L5”にある複数のトロヤ群小惑星である。これらは太陽系形成初期の古くからある岩石の「集団」の中にあり、これらの小惑星を訪れ探査することは、初期の太陽系の謎を解明するための有力なデータを得られる可能性があるのだ。
ルーシーは先に2025年に小惑星メインベルトに到達し、2027年から2028年に到達する四つのトロヤ天体(L4点)を観測する前に、これら機器の「練習走行(Practice Run)」を行うだろう。2033年までに、ルーシーは木星とお互いを共鳴周回しているふたつのトロヤ群「L4点、L5点」のバイナリシステムを研究しミッションを終了する。
 

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ルーシーミッションの軌道設計図。詳細は原文ページを御読み頂きたい。
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行かなければならないところに宇宙機を投入することは、大方の場合、極めて大規模で挑戦的なプロジェクトになる。太陽系は常に動的で、惑星間空間を航行するルーシーに及ぼす重力の影響は大きい。これまでに実施されたミッションでも複数の目標天体をランデブー探査したもの(Dawn など)はあるが、ルーシーほど欲張りではなかった。

NASA ゴダード宇宙飛行センター(NASA’s Goddard Space Flight Center)のフライトダイナミクスチームリーダー、ケビンベリー(Kevin Berry)以下、軌道設計に携わる科学者やエンジニア達は、ルーシーが航行する複雑な経路を考案する立場にある。そのなかのエンジニアの一人が、ルーシーミッションの最適化技術リーダーであるジェイコブ・イングランダー(Jacob Englander)だ。
「ルーシーのようなミッションを実施するには、二つの方法が考えられる」と彼は言った。
「膨大な量の推進剤を使用して多くのターゲットに大胆な軌道を以ってダイレクトに辿り着くのか、または総ての目標天体が完璧に並ぶチャンスを探し出して航行軌道を描くのかの二つだ」
結果としてルーシー航行軌道の「高速車線変更」の大部分は、最小の燃料による微調整と複数の重力アシストによって行われることとなった。

ルーシーミッションでは、数十年程度では起きない天体の整列に探査機を投入するプログラムとなるが、これは探査機自体に搭載の機器ではプログラミングを施して成し遂げることはできない。探査機がその小惑星の目標に接近し始めたら、光学航法が次に必要なステップとなる。

光学ナビゲーションの技術リーダーであるコラリー・アダム(Coralie Adam)が「OpNav」と呼ぶのは、搭載カメラからの画像を使用して目標天体に対するルーシーの位置を決定する技法だ。これは、ルーシーのルートを調整し、ノミナルのフライバイパス上に留まらせるために、ナビゲーションチームが常時駆使する有用な測定手法である。アダムは、カリフォルニア州シミバレーで、NASA がルーシーのディープスペースナビゲーションを行うことを選択した KinetX Aerospace 社において活動する。

「私たちチームは、探査機から地球への通信リンクを使用して、探査機の位置・方向および速度についての情報を得るのよ」と、アダムは言った。
探査機搭載の航行カメラで周辺を撮像し、それらを地球に送る。そこで、アダムら光学ナビゲーターは、星の位置と目標天体の想定位置に基づいて、撮った画像がら撮像場所を決定するためにソフトウェアを使う。次に、軌道決定チームがアダムらの解析データと通信リンクから得たデータを併用して、トロヤ群からの探査機の位置がどこにあるのか、どこにあると予想されるのかを決定する。その後にチームは軌道修正操作をデザインする。
「最初の操作は小さいものだ」と、KinetX のナビゲーション技術リーダーであるデイル・スタンブリッジ(Dale Stanbridge)は言う。
「しかし、二番目の操作は、一秒あたり 898 m にもなる。非常に大きなデルタ V(ΔV)の操作となのだ」
デルタ V は、航行中の速度の変化を表す。

これらのナビゲーションコマンドは、総て含めてルーシーとの一まとめの通信手順となる。これらの指示は、ロッキードマーティンが深宇宙ネットワーク(DSN, Deep Space Network)を介して探査機に送る。
「私たちが行うべきことは、必要な時に必要な画像を取得するために機器の操作手順を考案するロッキード・マーティンとサウスウェストとの綿密な連携」と、アダムは語った。

「ルーシーの軌道修正マヌーバは、探査機とトロヤ群の軌道面との交差部分であり、総て非常に慎重かつ重要なものだ」とスタンブリッジは述べる。
「探査機の軌道面を変更するには多くのエネルギーが必要であり、燃料コストを最小限に抑えながら次の目標に到達するのに最適なタイミングで操作を実行する必要がある」

ルーシーが目標天体に向うための軌道修正マヌーバを行っている間、探査機とのコミュニケーションは時々短期間失われることがある。
「”停電時間”は、我々のいくつかの操作で最大30分になる可能性がある」と、スタンブリッジは言う。
「通信が大きく途絶える可能性は、たとえば太陽が地球と探査機の間に来たときだ。そこでは、太陽プラズマを通過することによって信号が劣化してしまう」

ただし、連絡を失うことは「悲痛」なものではない。
「通信喪失の原因となったイベントが終了したときに、探査機の追跡を再開するのに十分なほど簡単に、探査機軌道の忠実度の高い予測が得られるから」と、スタンブリッジは言った。
 

”今から数えて15年後にあるが、ルーシーミッションが終了した後にその探査機は、どのような運命を持っているのか?”
「我々はルーシーをそこに残しておこうと考えている」と、イングランダーは言った。
「我々は、ルーシーが受動的に何かに衝突するかどうかを分析したが、遠い将来を見据えてもそのようなことは考えられない」

ルーシーが太陽系の歴史についての私たちの教科書を書き換えた後、ルーシーチームは仕事を終えた探査機に数千年に渡る明確な道筋を与えることになるのだ。
 

ルーシーミッションは、コロラド州ボールダーのサウスウェスト研究所(Southwest Research Institute)の主任研究者であるハル・レヴィソン博士(Dr. Hal Levison)が率いる。メリーランド州グリーンベルトにある NASA ゴダード(NASA Goddard)がミッションを統括し、デンバーのロッキード・マーチン・スペース社(Lockheed Martin Space)が探査機の製造を担い、ミッション運用を行う。



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office