NASA 木星トロヤ群小惑星探査機 Lucy(ルーシー)「NASA Lucy(ルーシー)探査機が発見した衛星(コンタクト・バイナリ)の名前が決定」

原文 : November 29, 2023 : Satellite Discovered by NASA´s Lucy Mission Gets Name
 

NASA Lucy(ルーシー)・ミッションの最初の小惑星ディンキネシュ遭遇で発見された衛星に正式な名前がついた。2023年11月27日、国際天文学連合は、Dinkinesh(ディンキネシュ)の衛星にエチオピア語のアムハラ語で「平和」を意味する「Selam(セラム)」という名前を承認した。
 

Imahe caption :
ルーシー探査機 L´Ralph のカラーイメージャー、マルチスペクトル可視画像カメラ(MVIC)が収集したデータを使用して作成された、小惑星ディンキネシュとその衛星セラムのフォールスカラー画像。この MVIC 画像は、2023年11月01日に最接近する約 100 秒前に取得された。オレンジ、緑、紫の MVIC フィルターを赤、緑、青のチャンネルにマッピングしてこの画像を作成した。
Credit : NASA/Goddard/SwRI
 

ディンキネシュはエチオピア語で " ルーシー " と呼ばれている化石の名前だ」と、 フランスのニースにあるコート・ダジュール天文台の Raphael Marshall(ラファエル・マーシャル)は言う。
「" ルーシーの赤ちゃん " と呼ばれることもある化石にちなんで衛星の名前をつけるのが適切ではないかと考えた」
2000年にエチオピアのディキカで Zeresenay Alemseged(ゼレセネー・アレムセゲド)によって発見された「セラム」という化石は、ルーシーと同じ種の三歳の女の子のものであった。

ルーシー探査機は、2023年11月01日にディンキネシュとセラムのそばを通過した。この遭遇に至るまでの観測で、この星系で何か興味深いことが起こっていることが示唆されていたが、研究チームは、ディンキネシュが衛星を持っているだけでなく、その衛星がコンタクト・バイナリー(接触した二つの天体)であり、観測史上初のコンタクト・バイナリー(接触二重)衛星であるという発見であったことに驚いている。
 

チームはルーシーの最初の小惑星フライバイからの遭遇データのダウンリンクを完了し、その処理を続けている。ディンキネシュとの遭遇は、探査機のシステムと観測機器の飛行中テストとして今年(2023年)01月に追加されたもので、すべてのシステムが良好に動作した。この遭遇から得られたデータで改良されたツールや技術は、ミッションのメインターゲットである未踏の木星トロヤ群小惑星への準備に役立つのは間違いない。ルーシーの高解像度 L´LORRI カメラと終端追跡カメラ(T2Cam)によって撮影された画像に加えて、ルーシーの他の科学機器も、科学者がこれらの不可解な小惑星を理解するのに役立つデータを収集した。

ゴダードが提供した L´Ralph 機器の二つのコンポーネント、マルチスペクトル可視撮像カメラ(MVIC)とリニア・エタロン・イメージング・スペクトルアレイ(LEISA)は、両方とも最接近付近の様々な視点から二体の小惑星の観測に成功した。遭遇の間、二つのコンポーネントは小惑星の表面をスキャンし、チームは天体のカラー画像と空間分解スペクトルを組み立てることを可能にした。

「最終的な画像を組み立てるためには、探査機の動きを注意深く考慮しなければならないが、ルーシーの正確なポインティング情報がこれを可能にしている」と NASA ゴダード宇宙飛行センター(メリーランド州グリーンベルト)の Amy Simon(エイミー・サイモン)は語った。
「これらの画像は科学者が小惑星の組成を理解するのに役立ち、チームはディンキネシュとセラムの組成を比較し、これらの天体がどのように他の小惑星と組成的に関連しているかを理解することができる」

アリゾナ州立大学が提供したルーシー熱放射分光計(L´TES)もまた、将来のトロヤ群小惑星のターゲットとは異なり、今回の観測は機器の広い視野のほんの一部を満たしただけであったが、小惑星を確実に検出した。科学者たちは、このデータが大きな小惑星ディンキネシュの表面特性についての洞察を与えてくれることを期待している。

「L´TESは、探査機が最接近して通過するまでの約 9 分間、星系システムの温度を検出し測定することができた」とアリゾナ州立大学テンピ校の Phil Christensen(フィル・クリステンセン)は言った。
「砂、小石、巨岩のような異なる大きさの粒子は、小惑星が回転するにつれて異なる熱を持つ。L´TESの温度測定は、小惑星表面の物質の大きさと物理的性質を研究することを可能にする」

Imahe caption :
2023年11月01日にルーシー探査機に搭載された L´LORRI カメラが最接近する数分間に収集したデータを用いて作成された、小惑星ディンキネシュとその衛星セラムの一対の立体画像。この画像ペアを使って小惑星の立体構造をよりよく理解するには、スクリーンを通して無限遠を見つめるように(左目で左の画像を、右目で右の画像を見るように)目の軸をリラックスさせるか、ステレオスコープを使ってください。これらの画像はコントラストを強調するように処理されており、セラムとディンキネシュの間の見かけ上の距離は、2つの物体を同時にステレオ視しやすくするために人為的に縮められています。
Credit : NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOIRLab for the original images/Brian May/Claudia Manzoni for stereo processing of the images.
 

ルーシーは今後十年間で、6 回に分けてさらに九つの小惑星を訪問する予定である。2024年12月の地球重力アシストの後、探査機はメイン小惑星帯に戻り、2025年04月に小惑星 52246 Donaldjohanson(ドナルドジョハンソン)に遭遇する。ルーシーはメインベルトを通過し、2027年にミッションの主要ターゲットである木星トロヤ群小惑星に到達する。

サウスウエスト研究所 Katherine Kretke(キャサリン・クレトケ)記
 

コロラド州ボルダーにあるサウスウエスト研究所(SwRI)の Hal Levison が研究指揮を執る。SwRI はサンアントニオに本社を置き、科学チームとミッションの科学観測計画およびデータ処理も主導している。NASA ゴダードは、ルーシーのミッション管理、システムエンジニアリング、安全性とミッションの保証を全般的に提供する。コロラド州リトルトンのロッキード・マーチン・スペース社は、宇宙船を製造し、軌道の主要な設計を行い、飛行運用を提供している。ゴダード大学と KinetX Aerospace 社は、ルーシー探査機のナビゲーションを担当する。ルーシーは、アラバマ州ハンツビルにある NASA マーシャル宇宙飛行センターが管理する NASA ディスカバリープログラムで13番目に選出されたミッションである。



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office