NASA 木星トロヤ群小惑星探査機 Lucy Mission「NASA 探査機 Lucy(ルーシー)が地球接近に備える」

原文 : October 14, 2022 : NASA’s Lucy Spacecraft Prepares to Swing by Earth
 

2022年10月16日午前07時04分(EDT)、木星トロヤ群小惑星へ向かう NASA Lucy(ルーシー)探査機は、地球の大気圏をかすめるくらいの高度 220 マイル(350 キロメートル)をフライバイする。打ち上げ一周年のこの日に地球からの重力アシストを得て、未踏の小惑星群に向かうために必要な軌道上のエネルギーを得ることができる。

トロヤ群小惑星は、木星と同じ距離で太陽を周回する軌道にあり、木星の前方または後方に位置している。ルーシーは現在、十二年にわたる航海の一年目である。今回の重力アシストにより、ルーシーは二年間の新しい軌道に乗り、その後、二度目の重力アシストを受けるために地球に戻ってくる。この二回目の重力アシストによってルーシーは、小惑星 52246 Donaldjohanson(ドナルド・ジョハンソン)への軌道を得て、そのまま小惑星メインベルトを横断してトロヤ群に突入する。
このトロヤ群フライバイでルーシーは、六つの小惑星を観測する。3548 Eurybates(エウリバテス)とその衛星 Queta(ケータ)、15094 Polymele(ポリメレ)と最近見つかったその衛星、11351 Leucus(レウクス)、21900 Orus(オルス)だ。その後、2030年に三回目の地球重力アシストを行い、トロヤ群小惑星 617 Patroclus(パトロクルス)Menoetius(メノイティオス)連星とのランデブーに向けて、探査機を再設定する予定となっている。
 

Imahe caption :
木星トロヤ群小惑星のひとつをフライバイする探査機ルーシーの想像図。
Credit : Southwest Research Institute
 

今回の地球初重力アシストでは、ルーシーは太陽の方向から地球に接近するように見えるため、イベント前の数日間、地球上からはルーシーを観測することが出来ないが、ルーシー本体は、地球と月の半球面全体の画像を撮影することができる。ミッションの科学者たちは、これらの画像を使用して機器の校正を行うつもりだ。

ルーシーの地球スイングバイは、国際宇宙ステーションの 380 km よりも低空軌道で実施されるため、地球を周回する衛星やデブリがたくさんある領域を通過することになる。NASA は、探査機の安全性を確保するために、潜在的な危険性を予測し、必要に応じて衝突を回避するための「小技」を実行する手順を開発した。

「ルーシーチームは二種類のマヌーバを用意している」と、カリフォルニア州シミバレーにある KinetX Aerospace 社の副ナビゲーションチーフである Coralie Adam(コラリー・アダム)は言う。
「もしルーシーが衛星や破片と衝突する危険を察知した場合、地球最接近の 12 時間前に、2 秒もしくは 4 秒のどちらかの最接近時刻を変更させる。これは小さな修正だが、壊滅的な衝突を避けるには十分なものとなる。

このような低高度の地球フライバイのため、チームはこのフライバイを設計する際に、大気抵抗の影響を考慮する必要があった。ルーシーの大きな太陽電池アレイは、大気の影響を多く受ける。

NASA ゴダード宇宙飛行センターのルーシー・プロジェクトマネージャーである Rich Burns(リッチ・バーンズ)は、「当初の計画では、もっと近い軌道でフライバイする予定だった」と語る。
「しかし、太陽電池アレイの一つを外した状態で実行しなければならないことが明らかになり、我々は、宇宙船の太陽電池アレイへの大気抵抗による損失を減らすために、燃料を少量使って少し高めの高度でフライバイすることを選択した」
 

EDT 午前06時55分頃、ルーシーは Western Australia(西オーストラリア州)の地上にいる観測者に初めて姿を現す。ルーシーの上方通過は速く、数分間は肉眼ではっきりと見えるが、午前07時02分には地球の影に入り、その雄姿は人々の前から消え去る。その後、暗闇の太平洋上空を通過し、午前07時26分に地球の影から出ていく。

ルーシーはその後、急速に地球周辺から離れて行き、月近傍を通過して惑星間空間に出る前に幾つかの校正画像を撮影する。

「ルーシーが撮影するであろう最後の数枚の月の画像に、私は特に興奮している」と、SwRI の副プロジェクトサイエンティスト代理の John Spencer(ジョン・スペンサー)は述べた。
「トロヤ群小惑星の衝突の歴史を理解するためにクレーターを数えることは、ルーシーが行う科学の鍵であり、これは他の宇宙ミッションによる過去の月観測と比較することによって、ルーシーのクレーター検出能力を校正する最初の機会になるだろう」

コロラド州ボルダーにあるサウスウエスト研究所(SwRI)の Hal Levison が研究指揮を執る。SwRI はサンアントニオに本社を置き、科学チームとミッションの科学観測計画およびデータ処理も主導している。NASA ゴダードは、ルーシーのミッション管理、システムエンジニアリング、安全性とミッションの保証を全般的に提供する。コロラド州リトルトンのロッキード・マーチン・スペース社は、宇宙船を製造し、軌道の主要な設計を行い、飛行運用を提供している。ゴダード大学と KinetX Aerospace 社は、ルーシー探査機のナビゲーションを担当する。ルーシーは、アラバマ州ハンツビルにある NASA マーシャル宇宙飛行センターが管理する NASA ディスカバリープログラムで13番目に選出されたミッションである。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office