NASA 氷衛星探査 - Europa Clipper「エウロパクリッパー宇宙機完成に向けて」


木星の衛星エウロパは、氷下に生命を宿す可能性を秘めているかもしれない。次期木星探査宇宙機は、この氷表面下海の世界の生命存在可能性を調査するために、衛星エウロパにおいて複数回のフライバイを行い謎を探る。

本文中、「氷表面下海洋」というのがありますが、原文では「地下海」となっています。「地」はなるべく使いたくないので、そのようにしました。「表面地質」なども「表面構成または構造」とかにしています。。。
 

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NASA エウロパクリッパーは、楕円軌道上で木星の周りを急降下し、各フライバイで月のエウロパの近くにダイビングしてデータを収集する。この画像は2020年12月に更新されたもの。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

NASA の太陽系内外惑星への今後の主力ミッションとされる Europa Clipper(エウロパクリッパー)は、打ち上げまでのロードマップにおいて重要なマイルストーンを経過し、クリティカルデザインレビュー(基本設計における最終段階)を完了した。レビュー中、専門家は宇宙機の設計を精査し、製造を完了するための準備ができていることを確認した。ミッションは現在、ハードウェアの製造とテストを完了し、宇宙機とその高度な科学機器ペイロードの組み立てとテストへと進行中だ。
 

地球海洋の二倍の大きさの氷下海洋を持つ木星衛星エウロパは、生命存在に適した条件を持つ可能性を秘めている。しかし、極寒の気温と木星の放射線が表面に直接及ぼすノンストップの衝撃は、手を出すには非常に難しいターゲットである。ミッションエンジニアと科学者は、放射線に耐えるのに十分な強度を持ちながら、衛星エウロパの環境を調査するために必要なサイエンスを収集するのに十分な感度を持つ宇宙機を設計する必要がある。

エウロパクリッパーオービターは、木星を楕円軌道で周回しながら急降下し、各回実施される衛星エウロパへの近接フライバイで詳細な観測を行う。サイエンス項目には、氷表面下海洋の測定データの蓄積、表面構造組成とマッピング、および氷の地殻から放出されている可能性がある水蒸気のプリュームの探査が含まれる。

エウロパクリッパーの開発が順調に進んでいることは、総てのロードマップを徹底して精査したことにより明らかである。クリティカルデザインレビューでは、カメラからアンテナまで総ての科学機器と、推進力、電力、航空電子工学、フライトコンピューターなどの飛行サブシステムの計画全体の詳細について、さらに深く煮詰めていった。

「我々は、プロジェクトシステムの設計が強靭な仕上がりであることを明らかにした」と、エウロパクリッパーのプロジェクトマネージャーである Jan Chodas(ジャン・チョダス)は述べている。
「個々のパーツの開発と統合を完了するための計画はまとまっており、システム全体は、衛星エウロパの生命存在に適した条件を持つ可能性を探査するために必要な科学データを取得できる設計だ」
 

Hardware in the Works

計画の詳細を詰めるなか、ミッションは機器とエンジニアリングサブシステムがどの程度うまく機能するかをテストするためのプロトタイプとエンジニアリングモデルを構築した。 次に、フライトハードウェアだが、この多くはすでに構築済みだ。個々のエンジニアリングサブシステムと機器は、過去1年半にわたって独自の設計レビューをクリアした。

エウロパクリッパーの最も印象的で特徴的な宇宙機構造が形になりつつある。地球からのコマンドを受信し、科学データを送信する直径約 10 フィート(3 m)の円盤状のハイゲインアンテナは組み立ての最終段階にある。また、エウロパクリッパーのハードウェアの中で最も目立つもの、つまり翼のように深宇宙で展開する巨大なソーラーアレイ(太陽電池パネル)も製作中だ。アレイが完全に展開された宇宙機は、バスケットボールコートの長さよりも幅が広く、100 フィート(30.5 m)にも及ぶ。アレイの面積は 960 平方フィート(90 平方 m)以上だ。

この宇宙機本体は、メリーランド州ローレルにあるジョンズホプキンス応用物理研究所(APL)で製造されている推進モジュールと合体する。推進モジュールのコア部分は、ふたつの積み重ねられたシリンダーで構成されており、これらのシリンダーは同列で約 10 フィート(3 m)の高さとなり、推進タンクと 16 個のロケットエンジンを保持して地球大気圏から離れたのちの深宇宙でエウロパクリッパーを推進していく。

巨大なシリンダー構築は、こうした宇宙機組み立てには各部署関係者の横並びの協力と努力が必要であることを具現している。これらは APL によって製造され、宇宙機の熱制御を維持するシステムの一部である熱再分配システムチューブの設置のために JPL に向けて搬出された。その後シリンダーは、推進サブシステムの設置のために、メリーランド州グリーンベルトにある NASA ゴダードスペースフライトセンターに送られた。400 箇所の溶接接続があり、それぞれが品質管理のためにゴダードにて X 線撮影が施され、これは推進サブシステムを探査機モジュールと正常に接合するための要である。

APL はまた、地球-宇宙機間通信モジュールと、40 回以上に亘る衛星エウロパへのダイビング(フライバイ)中に宇宙機本体に衝突する電子ブラストのサイズを測定するための放射線モニターを製作している。
 

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2019年09月12日、JPL の技術者とエンジニアが協働で、ジョンズホプキンス大学応用物理研究所(APL)によって製作されたパネルにサーマルチューブを接着しているところ。 チューブは、オービターが移動するときの温度を制御する。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

JPL では、重要な電子ハードウェアを木星の強力な放射線から護るためのシールドボックスなど、フライトシステムのいくつかのエレメントの製造が現在進行中だ。さらに、フライトコンピューター、電源の切り替えと配電用ハードウェア、科学ミッションの実行に必要なフライトソフトウェア、およびミッションの飛行に必要な地上システムツールを含むアビオニクスサブシステムの構築とテストを行っている。また、エウロパクリッパーの大型飛行ハードウェアの組み立てと試験に使用される地上支援装置も建造されている。
 

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2019年12月17日に行われた、JPL エンジニアによるテスト中のエウロパクリッパーレーダー装置の一部を構成する高周波(HF)アンテナのエンジニアリングモデル。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

「チームにとっては非常にエキサイティングな時期だ。彼らの仕事を見ていると、数年後の木星を周回する運用を見ているようだ」エウロパクリッパー副プロジェクトマネージャーである Jordan Evans(ジョーダン・エバンス)は述べた。
「COVID-19 に直面しても、チームはシリンダー製作で気持ちが燃え上っている。チームの他のメンバーが自宅の仕事を余儀なくされている間も、職場での安全なプロトコルに忠実に作業をこなしている」
 

A Sophisticated Suite

これら探査機総体のアセンブリ作業が進むなか、プロジェクトリーダーはミッションサイエンスの計画を充実させていく。探査機の科学機器は、氷の地殻の深さを測定し、表面下海洋の深さとその厚さと塩分溶解度を測定、表面構造・状態のカラー画像を詳細にキャプチャし、プリュームの分析を行う。

科学者は、衛星表面の構成に特に興味を持っている。これまでに得ている証拠は、物質が氷の地殻を通して混合されており、おそらく氷表面下海洋から来ていることを示唆している。エウロパクリッパーはまた、衛星の重力場を測定する。これにより、木星が衛星を引っ張るときに衛星にどのような力が働くのか、そしてその作用が氷表面下海洋を暖める可能性があるかについて、科学者たちに知見をもたらす。

「我々は10年後、太陽系の外惑星における世界の多様性について、そして遠い過去の話ではなく今現在、どの場所で生命が存在できるかを探る時期に到達している」と、プロジェクトサイエンティストの Robert Pappalardo(ロバート・パパラルド)は述べている。

しかし、宇宙機によって深宇宙に持ち込む機器が多ければ多いほど、運用に際してそれらは相互作用し、それぞれの動作に影響を与える可能性がある。そのためにパパラルドは、「現在、電磁干渉なしにすべての機器が同時に作動することを確認しているところだ」と述べた。
 

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エウロパクリッパーに搭載されるエウロパイメージングシステム(EIS)の一部のエンジニアリングモデル(テスト用のモデル)を使って作業中の APL のエンジニア。これは広角カメラ(WAC)の検出用電子機器の設置。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

「品揃え」した総ての機器は、2021年に JPL に到着したあと、広範なチェックを受ける。2022年初頭は、組み立て、テスト、および打ち上げの操作試験の開始を予定する。すでにカウントダウンが始まっていると言える。

「一年以内に、組み込むすべてのハードウェアを一か所に集める必要がある」とプロマネのチョダスは述べている。
「これらすべての部品を組み合わせた上で、完全な飛行システムの構築を開始し、完全に統合された宇宙機のテストを実施、そして打ち上げフェーズへと向かう」

チームは2024年のローンチに向けて、エウロパクリッパーを準備する。
 

More About the Mission(ミッションの詳細)

エウロパクリッパーなどのミッションは、宇宙生物学の分野、つまり私たちにとって既知である生命が存在する可能性のある遠い氷世界の変数と条件に関する学際的な研究への貢献を促す。エウロパクリッパーは生命探査ミッションではないが、木星衛星エウロパの詳細な観測を行い、氷下に海洋がある氷衛星に、生命を維持する能力があるかどうかを調べる。エウロパの生命居住性を理解することは、科学者が地球上で生命がどのように発達したか、そして我々の惑星地球外において生命発見の可能性についての理解を向上させる。

カリフォルニア工科大学がカリフォルニア州パサデナで管理している JPL は、ワシントンにある NASA の科学ミッション局の APL と協力して、エウロパクリッパーミッションの開発を主導している。アラバマ州ハンツビルにある NASA のマーシャル宇宙飛行センターにある惑星ミッションプログラムオフィスは、エウロパクリッパーミッションのプログラム管理を実行する。

最新の画像を含む、エウロパクリッパーのハードウェアと機器の詳細については、以下を参照いただきたい。

On the Path Towards Unprecedented Science

また、TPSJ 収録の直近のエウロパクリッパー関連日本語訳ニュース解説は以下に在る。

木星衛星エウロパのプリューム噴出が氷殻に溜まった水である可能性
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office