Space Topics 2021
JPL News (Ja) 日本語訳解説
プシケのサイエンス:初期の太陽系を知る手がかりとなるユニークな小惑星
原文 : October 04, 2021 : Science of Psyche: Unique Asteroid Holds Clues to Early Solar System
NASA Psyche 探査計画「プシケのサイエンス:初期の太陽系を知る手がかりとなるユニークな小惑星」
Imahe caption :
2021年03月に更新された、NASA Psyche 探査機を描いたイラスト。2022年08月に打ち上げられる Psyche 探査機は、火星と木星の間の主要小惑星帯に位置する同名の金属を多く含む小惑星プシケを探査する。探査機は2026年初頭に到着し、約二年の間、小惑星を周回してその組成を調べる。
Credit : NASA/JPL-Caltech/ASU
来年打ち上げ予定の NASA Psyche ミッションは、岩や氷ではなく、金属が豊富に含まれる小惑星の探査に向かう初めてのミッションだ ...
ジュール・ベルヌが「地球の中心への旅」を書いてから 150 年以上が経過したが、その SF の冒険に現実はまだ追いついていない。人類は、地球の金属核探査の道を開くことはできないが、NASA は、過ぎ去った最古の宇宙で溶融した核が凍結した残骸である可能性が窺われる巨大な小惑星を目指す。
プシケと呼ばれるこの小惑星は、火星と木星の間の主要小惑星帯の中に位置し、太陽を周回する。地球上からのレーダーや光学望遠鏡から得られたデータによると、プシケは主に金属でできていると考えられている。これは、太陽系の形成初期に他の大きな天体との衝突を繰り返しながら、外側の岩石の殻を剥ぎ取られた初期の惑星構成要素の、鉄分の多い内部の一部または全部である可能性がある。
プシケは、最も幅の広いところで約 173 マイル(280 キロ)ある大型な小惑星だが、太陽系内のどこかで金属に富む物質から形成された、まったく別の種類の金属に富む天体の残骸である可能性も捨てられない。
それを解明するために向うのが、小惑星と同じ名前の Psyche 探査機だ。2022年08月の打ち上げを予定しているこの探査機は、名前の由来となるプシケを二年間にわたって周回し、写真撮影や表面のマッピングを行い、形成初期の磁場の痕跡を探査する。また、小惑星の表面から放出される中性子やガンマ線を観測し、小惑星の元素組成を明らかにする。
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2021年08月23日、NASA JPL のエンジニアが、ガンマ線と中性子の分光器の装置を Psyche 探査機に組み込んでいるところ。
Credit : NASA/JPL-Caltech
岩石や氷ではなく、大量の金属を含む表面を持つ小惑星を探査する初めてのミッションである Psyche ミッションは、惑星形成の未解明の構成要素である金属コアの理解を深めることを目的としている。また、このミッションは、岩石質の惑星内部を直接調べる初めての機会となる可能性がある。つまり、これまでは見ることができなかった惑星内部の層状構造を見ることができるかもしれないのだ。この探査により、地球をはじめとする岩石惑星がどのようにして形成されたのか、さらなる解明が期待される。
アリゾナ州立大学の PI(主任研究員)である Lindy Elkins-Tanton(リンディ・エルキンス・タントン)は、「小惑星プシケに関しては、根本的なことは何も判っていない」と言う。
「地球上で観測収集するデータが更新されるたびに、ストーリーを作るのが難しくなっていく。実際に行ってみないと何が見えるのか判らないし、きっと驚くことになるのでしょうね」
一例として、これまでの地上観測では小惑星プシケの 90 % は金属であると考えられていたが、エルキンス・タントン率いるチームによる最近の研究では、最新の密度測定を用いて、小惑星の金属の割合は 30 % から 60 % であると推定値が下がっている。
また、プシケには鉄と酸素の化合物である酸化鉄が少ないように見えるが、これには科学者たちが困惑している。火星、水星、金星、地球にはすべて酸化鉄があるからだ。
「もし、プシケが金属と岩石の混合物であり、その岩石に酸化鉄がほとんど含まれていないというのが正しければ、プシケがどのようにして作られたのか、不思議な話になるはずだ。なぜなら、惑星の誕生に関する標準的なストーリーとは一致しないから」と、エルキンス・タントン氏は述べている。
プシケの謎(Mystery of Psyche)
プシケがどこで生まれたのか、科学者たちは今も判っていない。小惑星帯の中で生まれた可能性もあるが、地球のような内惑星と同じゾーンで生まれた可能性もある。さらに現在の木星のような巨大惑星が存在する外惑星領域で生まれた可能性もある。どちらの起源も、太陽から 2 億 8 千万マイル(4 億 5 千万キロ)離れた場所でプシケが存在しているという単純なストーリーを創り得ない。
小惑星を調べることにより、惑星の形成や 46 億年前の初期太陽系の様子を知ることができる期待が大きい。しかし、プシケは金属を含み、密度が高く、鉄の酸化物の濃度が低いという珍しい天体であるため、科学者にとって特に興味深い研究対象天体なのだ。
「小惑星がどのように進化してきたのか、これまでにない新しいストーリーが見えてきた」
コロラド州ボルダーにあるサウスウエスト研究所の Psyche ミッション・サイエンティストである William F. "Bill" Bottke(ビル・ボトキ)は、述べた。
「これは、私たちが今持っていないストーリーの一部なのだ。このピースと他のすべてのピースを組み合わせることで、私たちは、太陽系がどのように形成され、初期に進化したかについてのストーリーをさらに洗練させていくことができるはずだ」
搭載観測機器(Tools of the Trade)
小惑星の形成起源を解明するために、Psyche ミッションの科学調査では、磁力計、ガンマ線・中性子スペクトロメータ、マルチスペクトルイメージャが使用される。小惑星が地球のような磁場を持たないことは科学者の間で理解されているが、もしプシケに磁場を持つ過去があったとすれば、現在に至っても小惑星の物質に記録されている可能性がある。磁力計は、6 フィート(2 メートル)のブームに取り付けられたセンサーによって、プシケの形成物質が今も磁化されているかどうかを判断する。もしそうであれば、この小惑星が初期の惑星の構成要素である「プラネテスマル」のコアの一部であると推測することができる。
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2021年06月28日、NASA JPL のエンジニアが、磁力計を Psyche 探査機に組み込んでいるところ。
Credit : NASA/JPL-Caltech
周回軌道上から観測するガンマ線・中性子スペクトロメータ装置によって、プシケの化学元素を決定することができる。宇宙線や高エネルギー粒子がプシケの表面に衝突すると、表面物質を構成する元素がそのエネルギーを吸収する。その際に放出される中性子やガンマ線を分光器で検出し、既知の元素が放出する中性子やガンマ線の性質と比較することで、プシケが何でできているかを特定することができる。
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2021年08月23日、JPL のエンジニアが、Psyche 探査機に組み込まれたガンマ線・中性子スペクトロメータ装置を検査しているところ。
Credit : NASA/JPL-Caltech
一方、マルチスペクトルイメージャは、二台のカラーカメラで構成されており、紫外線と近赤外線のフィルタを使って、人間が見ることのできる可視光を捉える。これらのフィルタで反射された光は、プシュケの表面に存在する可能性のある岩石物質の鉱物学的特徴を推定する。
Imahe caption :
2021年09月13日に撮られたこのフォトは、カリフォルニア州サンディエゴにある Malin Space Science Systems 社で組み立てとテストを行っているマルチスペクトルイメージャ。
Credit : NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS
探査機の通信システムは、科学にも役立つ。X バンド無線システムは、主に探査機にコマンドを送信したり、探査機からエンジニアリングデータやサイエンスデータを受信するために使用されるが、科学者たちは、これらの電波の微妙な変化を分析して、天体の回転、揺れ、質量、重力場を測定し、プシケの内部の組成や構造についての新たな手がかりを得ることも可能だとしている。
小惑星プシケを見る目(Eyes on Psyche)
但し、科学的な分析に到る前に、まずプシケの生の姿を撮影する。打ち上げから三年後の2025年後半には、探査機は小惑星プシケの目前に迫り、撮影チームは厳戒態勢で臨むこととなる。
「ランデブー軌道に乗る前から、地球上の望遠鏡よりもはるかに優れた画像が探査機から送られてくる。大きなクレータやクレータ内低地、さらには山脈のような特徴を捉えることができるだろう」と、Psyche ミッションの副主席研究員であり、イメージャチームのリーダーであるアリゾナ州立大学の Jim Bell(ジム・ベル:米国惑星協会理事長)は語る。
「何が見られるかは誰にもわからない。「私たちが今確信するのは、小惑星プシケの現実は、私たちが想像する以上に奇妙で美しいものになるだろうということだ」と語る。
Psyche ミッションの経緯と予定(More About the Mission)
ASU は、Psyche ミッションを主導する。NASA JPL ジェット推進研究所が、ミッションの全体的な管理、システムエンジニアリング、統合およびテスト、ミッション運用を担当。現在、JPL では組立・試験・打ち上げオペレーションと呼ばれるミッションフェーズが進行中。来年の春までには Psyche 探査機は完成し、NASA ケネディ宇宙センターに搬送できるようになる予定だ。
また JPL は、Psyche 探査機に搭載される「Deep Space Optical Communications」と呼ばれる技術実証機を提供しており、将来の NASA ミッションで使用される可能性のある高データレートのレーザー通信をテストする。
Psyche Asteroid Mission | NASA
Psyche Mission | A Mission to a Metal World(ASU)
Akira IMOTO
Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan